いやあ、両親は強かったっすね……。
マジで強かったっすね。
その話は聞いてないから日本に戻って来いとか言われる寸前でしたよ。まあ、親としては当然の話だし、今回は世界の危機でもなんでもなくただの交流戦だからそういう言葉が出てくるんだけど。ここで暗黒樹海解禁できるなら是非しておきたいんだよね……。
何はともあれ、何とか説得に成功して、暗黒樹海は時差ボケ修正と事前準備の為に翌日行く事になった。じゃあ、それまでの間何をするのか? という話をすると―――。
「ここだ。ラスベガスでも有数のマスター用の装備品店だ」
「はえー」
「デカいなぁ」
東吾の案内で装備品の更新に来ていた。
俺がダンジョン探索に使っている装備の大半は根の国の時に購入したものなのだが、サイズ的にキツイのは確かで、図書館の時はまだ何とかなったが今では結構サイズがキツイ。そう、成長期なのだ。俺の背丈も伸びて来た。だから装備の更新は必須だった。
そういう訳で東吾が黒いカードを財布から取り出してきらーん、と見せる。
「ここで1つ、お前の装備を最新のものに更新する。ダンジョンに突っ込むうえで装備の性能は大前提だからな。図書館とは違って動きづらい樹海の中を行くんだろう? ならなるべく質の良い物を用意するべきだ。金は俺が出すからなるべく良い物を選んで来い」
こういう時、やっぱ東吾って別世界の住人だよな……ってのを感じる。そんな俺の気付きをよそに、久遠は店内へと入ると迷わず近くの上着を眺め始めた。その様子を眺めながら東吾がぽんぽん、と肩を叩く。
「買い物デート、頑張れ」
「うるせっ」
少し遅れて修三さんと美代さんもやってきて夜月一家が揃う。その間にも久遠は次から次へと見ている商品を変えて、棚から棚へと移動している。最高級クラスの品揃えだけあって店内に人の姿はなく、今の利用者は俺達だけらしい。それでも東吾と修三さんの顔を見て利用者を一瞬で把握し、邪魔にならないように頭を下げてから店内の邪魔にならない所に立つ。
プロだぁ。
助けが必要そうなら直ぐに助けに入れる所にスタンバイしてるし、困ったら質問すれば良い。東吾と修三さん達も近くのベンチに座って、あまり干渉する気はなさそうだ。
「ミコト、こっちに来い。面白いものがたくさんあるぞ」
「今行く」
久遠に呼ばれたので近づくと下着が売られているコーナーだった。しかも普通に女物。流石に俺の顔もちょっとすっぱいものになる。
「見ろミコト、下着1つ取ってもモンスターの素材を使っているらしい。しかも防弾性能付きだ」
「防弾性能下着!? え、なにそれ……?」
流石に面白かった。女性用下着を見る機会なんて……なんて……いや、洗濯機まわす時に割と見るな。そう思うとなんだか急に冷静になって来る。性能もそうだが、使用している素材もAランクやSランクのモンスターばかりで馬鹿みたいな値段になっている。
「“霊布を使った下着だから常に透けていて着心地もほぼ履いていないに等しいです”って一体どういう評価なんだよ」
「展示品を燃やす為のライターが置いてあるが本当に燃えないのだな……」
透けてる下着を燃やすのって一体どういうシチュエーションなんだよ。透けてる時点でもう何もかも終わりだろ。というか下着コーナーなんかに食らいついてないでもっと別のコーナーを見るべきなんじゃないか?
何時までも変な下着を見ている久遠を引っ張って、シャツやズボン、上着等のダンジョン探索でメインとなる装備品のコーナーに移動する。やっぱり値札を確認するとお値段の桁が違う。ショーケース内の装備なんて当然のように億単位のお値段が付いてる。誰が買うんだよこんなの。
「このシャツ、クリスタルフラワーを繊維化させてから糸にしたものを布にして作ってる……凄い手間がかかってるなあ」
「だからこんなにもキラキラしているのか。誰が着るのだこんなもの……?」
クリスタルフラワーと言えばA級のダンジョンに生えている植物で、売却可能な素材アイテムだったっけ。ゲームだと売却用アイテムだったけど、リアルになると色んな使い方を考えるなぁ……。
こうやって色んな装備を眺めているだけで楽しい。ゲームと現実の違いを感じられて楽しい。人間の持つ自由な創造性がここには並んでいる。面白いものから変なものまで本当に色々と並んでいる。
吊り下げられているインナーの1つを手に取る。指で触れる肌触りが良く、伸びるのに破れたり変形して元に戻らない気配もない。元の形状に戻る力が強いのか? と思ったらPOPには着用者の体に合わせてサイズが自動調整されます、とか書かれている。
マジで謎の技術が使われている。謎の技術というより素材の特性と性質を利用してこういうものを作っているのだろう。そりゃあ現代社会がダンジョンやその素材に社会を依存させる訳だ。こんなファンタジー染みた服や装備を作れるのだから、依存するに決まっている。
地上のどの物質よりも夢がある。
彼方の世界にはなかった工業概念とファンタジー物質が妙な化学反応を見せている……。
「うん、このインナーとか良いのではないか? 成長に合わせてサイズを変えられるし、体を鍛えれば鍛えるだけラインが出て来るのも」
「最後の部分は単純なフェチズムじゃない?」
「良いではないか、どうせいつも横にいて貴様を見てるのは私なんだから。私好みの恰好をすれば」
それを言われると俺は何も言い返せなくなるから止めて欲しい。絶対に勝てない。久遠が手に取った黒インナーをすごすごと手に持つとスタッフが残像と共に現れ、丁寧に回収し、残像と共に消えていった。
プロ怖ぁ。
「後はシャツに上着、ズボンに靴と小物か。凄いな、この店、全部揃ってる」
「マスター向けの探索装備はフルセットが基本なんだ。普段着で突っ込んでミスト無双するのはあまり一般的じゃないですねぇ」
「アレはミストがいて格下相手だから出来る事だねぇ」
座っている修三さんから声が飛んでくる。ミストドラゴンはああ見えて防御面も非常に優秀なモンスターで、《ミストヴェール》による耐久には驚かされるものがある。
「フルセットが基本なら下着も用意するべきなのか」
「そこは一般的ではないですねぇ……」
ちなみにゲーム本編にも装備品の類はあったが、ダンジョン内での採取や採掘活動を補助する為の装備で、メインのコンテンツではなかった。ここまでこの技術が発展してるのは本当にリアルならではという話だ。考えてみればファンタジー素材って利用方法いっぱいありそうだしな。
見てない所でもっと色々と利用されてるのかも。
「動きやすさを重視したいが、ポケットが多い方が探索する時に便利だな……これとかどうだ? カーゴパンツとかポケットが大きくて良さそうだが」
「ちょっとデカくて走る時とかジャンプする時とか不安ない? ファッション性よりも実用性重視したいな……やっぱスキニー系のジーンズで良いんじゃないかな」
「貴様はそうやって何でもかんでも無難な択を選ぼうとする。着慣れたものばかり選んでいては発展性はないぞ。もう少し冒険する事を選べ」
「尻に敷かれてるなあ……何時もあんな感じなんです?」
「ウチの娘に引っ張られているのが合うみたいで何時もあんな感じで」
「へえ、尊がねぇ」
嫌な会話が聞こえてくるなあ。弱み握られてる気がする。アイツ、次回の遠征用にちまちま情報収集と対策してないか?
「体温の自動調節機能付きか……これは良いな。うむ、良いな」
引っ張って来たシャツを俺に重ねる様に確認すると満足げに頷く。流石女の子だけあって何らかのセンスはあるらしく、飾られている衣服を次々と引っ張ってくると俺に重ねる様に合わせて確認し、良いか悪いかをチェックしてから戻したり店員に渡したりしている。
中学2年生の男にそこら辺のセンスを期待してはならない。
俺はもはやマネキンになって久遠に連れられている状態だった。
それでも楽しく思えるのは相手が久遠なのと、俺自身この見た事のないアイテムの面白さに惹かれているからだろう。代金が東吾持ちだからか一切遠慮しない久遠の買いっぷりに俺はちょっとだけ後ろめたさを感じつつも、東吾の方を見れば大丈夫だから気にするなと手を振られる。
東吾持ちというよりはチーム、ひいてはスポンサーの金なのかもしれないな、これは。
「ミコト、手袋はどっちが良い? 指が出てる方か? 出てない方か?」
「出てる方が細かい事に指が届くと思うけど」
「ご安心ください、此方のグローブでしたら着用したまままるで素手の様な感覚でテープやビニールを剥がすような精密作業も行えます。薄く、手を保護しながらも一切着用感を感じさせない事を自慢とする商品でございます」
「お、おう」
流ちょうな日本語で説明するとすぅ……と溶ける様に消えた。アンタ本当に人間? アパレル業界って何時から化け物が店員する様になったの?
「なら指を保護する方で良いな。モンスターに触れたり素材に触れるのだからしっかりと指を保護しなければな。ジャケットかコートか……体温調節機能があるなら別にどっちでも良いなら見た目の良い方が―――」
「色は無難に黒で」
「黒は論外だが暗めの色の方が良いな。明るい色を選ぶには貴様の顔がな」
顔が暗くて悪かったな。
久遠に腕を掴まれて引っ張り回されている間にどんどん買うべきものが決まり、店員もホクホク顔で対応してくれる。最終的にレジで会計する時にはちょっと目視したくない金額を払う事になったが、東吾は一切表情を変える事なくカードを切ってたのでやっぱSランカーは別世界の住人なんだなぁ、と思ってしまった。
大満足という様子を見せた久遠は店から出ると振り返る。
「さ、私が選んだんだ。次は貴様が私の服を選ばなくてはな」
「中々ドギツイ事をおっしゃる」
言外に止めて欲しいと告げると、久遠がふーん、と呟き一歩踏み込んで、俺の顔を覗き込んでくる。
「なんだ、私を貴様色に染めるチャンスだぞ? 逃すのか?」
殺し文句を飛ばしてくる久遠に背を向け、修三さんと美代さんに掴みかかる。
「貴方達の娘凄く強いんですけど!! 一体どこでああいう言葉覚えて来るんですか!? ねえ! ちょっと強すぎませんかオタクの娘さん!!」
「ははは、ほら、久遠が待ってるよ」
「久遠のお洋服、選んであげてね」
「女をあまり待たせるなよ色男」
東吾ォ!
楽しみにする様な表情を浮かべる久遠に近づき、心の中で助けて館長と祈っているとなんか見覚えのある姿が通りを歩いているのが見えた。金髪イケメン風の英国人―――アーサーだ。
「あ、アーサー!」
「あれ? まさか……ミコト?」
此方に気づいたアーサーは嬉しそうに手を振る此方に手を振り返し、それから俺がラスベガスにいる事実に行き着き、直ぐ後ろでにやにや笑っている東吾を見た。
そして崩れ落ちた。
「は―――っはっはっは! 悪いなアーサー! この尊は日本チーム用なんだ」
アイツ、楽しそうだな……。