最強以外ありえない   作:てんぞー

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止めろアーサー、それは俺にも効く

「―――ミコト、君はまだ学生で国際情勢を背負うにはまだ若すぎるんです。今から日本に帰るべきではありませんか? あんな事があった後です、ご両親も渋々という様子ではありませんか?」

 

「す、凄い! 凄い真っ当な説得をしてきてる! 恐ろしいぐらいまともで正しい! ちょっと反論できない奴だこれ!」

 

「止めろアーサー、それは俺にも効く」

 

 崩れ落ちたアーサーから投げ放たれた必殺レベルのお気持ちアタックは割と真っ当過ぎて反論が見つからない。いや、暗黒樹海攻略は今じゃないとスタートし辛いのでまあ……意義はあるのですが……それはそれとして全員平等にダメージ喰らうこの攻撃止めませんか?

 

 崩れ落ちた成人男性2人、そして一緒に崩れ落ちる俺。

 

「ちゃ、ちゃうねん……俺もあそこまで心配させるつもりはなかったんや。でもノーダメージであれを乗り切るのはちょっと不可能だったんだ……アレは仕方ない、仕方ないダメージ……え、仕方がないで許せる話ではない? それはそう」

 

「ち、違うんです。いえ、違いません。お子さんを守り切れなかったのは私の責任です……はい……おっしゃる通りです……実力不足でした、誠に申し訳ありません」

 

「It was not supposed to be like this. I……I only can just say sorry for what has happened to your son. Yes, it is my fault that your son had to face the fear」

 

「あぁ、全員トラウマと自責に囚われてる!」

 

「なんて醜い景色なんだ」

 

「うーん、1人の母親としては擁護出来ないのよねぇ、この件は」

 

「起きろ貴様ら。芋虫ごっこは自室でやれ。天下の往来で死んでるな。さっさと蘇れ」

 

 うす。

 

 久遠にケツを蹴られて1人1人立ち上がる。図書館の件は皆ダメージがデカかった。とはいえ、忘れて良い内容じゃない。覚えたまま、あの時の失敗を繰り返さない事を意識して頑張る以外の選択肢がないのだ。

 

 まあ、茶番は終わったので。

 

「アーサー、おっす」

 

「ミコト、こうして顔を合わせるのは久しぶりですね」

 

 久々の戦友の姿にハイタッチを決めて挨拶する。一緒に死線を越えた仲なのでこうやって顔を合わせられると普通に嬉しい。そういや受け取ったデータの中にイギリス代表でアーサーの名前もあったな。という事は今回は敵か。

 

「うぅ、想像できたけど今回は敵ですか。物凄い残念ですが……日本人ですからね、ミコトは。とりあえず2世代か3世代前にイギリスの血は流れていませんか? イギリスの危機を救ったのですから名誉国民ですし」

 

「呼吸するように国籍偽装しようとするの止めない? 生まれも育ちもジジイも日本人だよ!」

 

「ですよね……はあ、やるとは思っていましたけど……対策を本当にどうにかしないと」

 

 溜息を吐きながらもどこか楽しそうにしている。結局のところ、根っからのマスターであるアーサーは厳しい戦いを前にする興奮を忘れられないマスターの1人なのだ。俺がサポートにつく以上、今まで通りの戦いにならない事はもう察しているだろう。

 

「仕方がありませんか。では、私は帰りますね。ミコトがいる以上今すぐ緊急会議する必要がありますし」

 

 東吾がダブルサムズアップを向けて悪ガキのごとくアーサーを煽ってる。アーサーがちょっとピキりつつも笑い声を零す。

 

「それではまた」

 

 去って行くアーサーに手を振って別れを告げる。味方だった人が敵に回る……うんうん、それもマスターの醍醐味だよね。敵に回るとは言っても憎しみはないし、絶望もない、純粋な戦意と楽しみがお互いにあった。アーサーも図書館にあの後また潜って構築を強化してるだろうし、前回と一緒という訳ではないだろう。

 

 実際に戦うのは俺ではないけど。それでも勝負できるのは心が躍る。

 

 うん、久しぶりに戦友の顔を見れたし、楽しい外出だった―――と、締めようとしたのに久遠に腕を組まれた。

 

「さ、友人との楽しい語らいは終わったな? 今度は私の服を見るぞ」

 

「に、逃げられなかった……!」

 

 腕を組まれたままズルズルと久遠に引きずられる。助けを東吾や夜月夫妻に求めたが、東吾は邪魔しては悪いとあっさり俺を見捨ててホテルに戻ろうとするし、夫妻はニコニコしたまま見守ってるし。

 

 味方がいねぇ!

 

 

 

 牧場育ちな久遠は基本、牧場の手伝いをしている。だからか普段は頑丈で動きやすい服を優先する。良く汚れるし、結構激しく動く上にモンスターは加減が難しい。

 

 怪我もするし服だって破れる。だから頑丈で動きやすい服を着る。それに久遠自身がアクティブなので動きやすさを重視するので、あまり色気のない格好が多い。

 

 だというのにデートの時はそれっぽい服を選んだり、ガーリッシュなものを選ばせようとする。

 

 ホテルに戻った俺はそれはもう疲れからベッドに倒れ込んでしまう。駆間でもデートには行くし服屋も見て回るが、今回に限っては相当気合が入っていた。

 

「気持ちは解るけど」

 

 初めての海外旅行、自由な世界、見るものが全て新しく、新鮮だ。好きな両親と一緒に外に出られている。それだけで何もかもが楽しいのだろう。

 

 一足先にホテルに戻った俺は久遠を夫妻と一緒にしてきた。俺と一緒に遊ぶのもいいけど、正直久遠に必要なのは俺との時間じゃなくて、親子での時間だと思う。

 

 今まで楽しめなかった分、両親と時間を過ごしてほしいと思う。

 

 久遠が報われないのは、嫌だ。

 

 だから疲れた、やることがあると言ってホテルに戻った。ちょっと逃げてるみたいかもしれない。まあ、やる事があるのは事実だ。ベッドで転がりつつ中身が空っぽの手帳を取り出す。

 

「暗黒樹海、暗黒樹海、っと」

 

 ページを捲って何も書いてない手帳を眺め、内容を思い出して手帳を閉じる。

 

 今回、探索することになるのは暗黒樹海の浅い層だけだ。それでも十分な成果は出る。それ以上は数ヶ月ぐらいの時間が欲しい。

 

 アンブロシアの苗は火山島にあるから、獲得目的ならそこまで行かないと無理なのだが……人類の今の戦力でそこまで到達できるか? という疑問もある。

 

 正直ゲーム環境と比べると数世代下がるし。情報の独占と国家事情が足をだいぶ引っ張ってる。そこをなんとかしない限り人類全体のレベルアップなんてものは無理だろう。

 

 それに、時のゆりかごで眠る破壊神。

 

 アレは星を破壊するレベルの怪物だ。創造神自らが眠りにつかせたという狂気の神。アレもどこかで倒しておかないと地球がやばい。いや、そもそも海王も倒しておかないと地球がヤバい。

 

 DLCボスは全体的に設定のインフレ傾向にある。クリア後の追加シナリオだから最強が戦うに相応しい相手……という方向性で敵を肉付けした結果みたいなシナリオの都合が見える。

 

 制作の都合とはいえ、人類の脅威であることに間違いはない。

 

 今回相手する必要はないが、将来的には倒さなくてはならない。

 

 ……久遠が、健やかに生きて行ける未来の為に。

 

「中々、喋れないな」

 

 言いたい事がある。いや、言わなきゃいけないことがある。鴉羽尊という人物の起源、或いは生と死。何を見て、どうやって生まれたのか。

 

 俺がどういう存在なのか、それを説明する義務が俺にはある。

 

 久遠は知るべきなのだ、俺と灯が一体どうやって生まれ、そして何を理解してるのか、俺達兄妹の違いとは一体何なのか。これまで言う機会を逃す……というよりは口にすることを恐れていた。

 

 だがここで、久遠の自由な姿を見て思った。

 

 彼女には彼女自身を幸せにする力がある。それは今、全て俺に向けられている。だから俺も向き合う時が来ているのだろう。自分が持って生まれたものと、そのせいで失ったものを。

 

「ちょっと、怖いな」

 

 どういう反応をされるのか。そこまで考えた所で頭を横に振って考えを振り払う。

 

「……いや、気が滅入るからもうちょっと別の事を考えるか」

 

 もっと楽しい事を考えよう。

 

 例えば……そう、暗黒樹海の成果とか。アンブロシアの苗は火山島にあるから回収は今回無理だとして、火山島のボスであるフェニックスから取れる素材はかなり欲しい。自己回復系として最強系の素材になるし、出来たらウチの“楽園”にも搭載したい。

 

 後は牧場用の無限素材生成の苗があっちこっちに存在しているからそれも回収したい。アンブロシア程レアじゃないが回復アイテムの原料だったりなんだりを無限に牧場で採取できるようになるからウチの経営が楽になる筈だ。

 

 一番求められるのはスキルカードの類だからそれが一番大事だけど、探索規模と範囲から暗黒樹海は1回で全部回れないのが本当に惜しい。というか探索するとなると最低限Sランクにならないと探索出来ないというのが問題だ。

 

 となると俺が暗黒樹海の残りを探索出来るのはもしかして数年後とかになるんじゃないか?

 

 しかも探索するともれなく地上から1年ぐらい姿が消える。

 

 その間に地球滅んでもびっくりしねえからな!

 

 竜王ラグナロク! ブレスで惑星を消し飛ばすよ!

 

 海王ネプチューン! 星を海に沈められるよ!

 

 名もなき破壊神! 創造神のクソボケカスボケカスがもしもの為に用意したリセット装置だよ!

 

 邪神ネガコスモス! 肉体が反転した宇宙で出来てるよ! それってどういう事なんだよ製作者!

 

 DLCボスって演出をインフレさせてるせいで数字として見るなら対処できるよね、って話になる癖に演出を見ると戦えるかボケって奴が多すぎる。なんで演出で月を消し飛ばしたり大陸を割ってるんだよ。もうちょっと地球に優しく出来ませんか? ダンジョン内で戦ってるから平気? 本当?

 

 データの事を考えたりフレーバーの事を思い出してると自然とテンション上がって来る。やっぱ原作が好きだったんだなぁ、俺。それを再確認しつつ夜月一家の家族水入らずが上手く進むのを祈りつつ、適当に時間を潰した。

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