最強以外ありえない   作:てんぞー

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心臓マッサージ!!!

 楽しい休日が終わって翌日が来る。

 

 そして今日は楽しい楽しいピクニックの日だ。

 

「―――モンスター達には先に図書館に移動して貰った。デカいし時間かかるし。朝飯食ったら先に移動して貰った。今はもう図書館で待機しているよ」

 

「朝から見ないと思ったら手が早いな」

 

「やるならちゃんとしっかりと、ね」

 

 場所は再び会議室になる。

 

 参戦メンバーだけではなく見送りに日本チーム関係者全員が集まっていた。その先頭で注目を集めているのはまだ中学2年生の俺だ。普段は頼る側だからこうやって頼られるのはちょっと気持ちが良い。じゃ、と言葉を置く。

 

「これから図書館のゲートを開く。これを抜ければ俺が普段使っている図書館の裏口へと入る事が出来る。これを経由して館長が作ってくれた道を通って直接暗黒樹海の入り口へと入る。暗黒樹海は生存に関して色々とギミックがあるけど気にしなくて良い。そっちは俺で対処する」

 

 オーケイ? と聞くと全員遺書を取り出してサムズアップしてくる。覚悟決まり過ぎだろ。遺書はファッションアイテムちゃうねんぞ。

 

「じゃ、準備も良いみたいだし開けるよ」

 

 懐から一枚の栞を取り出す。それを適当な本に挟めば、それをキーに図書館のゲートが目の前に呼び出される。空間の歪みが形成される光景に周囲からおぉ、という声が上がる。

 

「マジでダンジョンゲートを呼び出しやがった」

 

「こうやって生成されるのかぁ」

 

「便利そうでいいなぁ」

 

「アメリカの市街でダンジョン開いてるの国家級テロで流石に面白いな」

 

「どういう技術が使われてるのか気になりますね。この小さな栞に一体どれだけの機能が詰め込まれてるのか……」

 

「こっちこっち」

 

 栞を仕舞いつつゲートを抜ければ見慣れた図書館の裏口に到着する。抜けた先で待っていた従僕がゲートから出て来た俺達を迎えてくれる。

 

「鴉羽様ー、ウェルカムウェルカムですぅ。アメリカはどうでしたぁ? 楽しかったですかぁ? 折角の旅行なのに暗黒樹海に行きたいとかマゾですねぇ、鴉羽様はぁ」

 

「ちょっとライン超えてねぇかそれ?」

 

「そうですかぁ? あ、この先に広間を作ったのでそこに皆いますよ。レッツゴーゴー!」

 

 今日の従僕ちゃんは軽いキャラしてるなぁ……振り返ると続々とゲートを抜けて図書館に入って来る。その姿を確認し、先導するように先に進む。といっても一本道で悩むような事もない。ささっと裏口からの通路を真っすぐ抜ければ大型のモンスターが入れるような広間がある。

 

 そこには事前に移動させておいたモンスター達と従僕たちの姿、そして館長の姿があった。

 

 いえーい、と近づいて挨拶するとノリ良く館長もいえーい、と返してくる。

 

 そのままハイタッチ。

 

「館長、いきなり頼んですみませんね」

 

「いやいや、私としてもこの手のダンジョンが発見、攻略される事には大きな意義を感じているから大歓迎さ。こういう事で力を借りたいのなら何時でも言って欲しいよ、直ぐに助けになるから」

 

「ありがとうございます」

 

 館長に改めて感謝を告げるとのそのそと他のメンバーも広間にやって来る。モンスター達が入る程のスペース、そして図書館の姿に初めてやって来る組は感嘆と共に周囲を見渡している。現状ヨーロッパ、特にイギリスが中心となって図書館の入場券を独占している。

 

 その為、映像は手に入っても中に入る事は出来ないのが現状だ。その中、イギリスが広げたルールをガン無視して裏口から侵入しているのはまあまあ無法と言っても差し支えないだろう。悪いな、こっちは館長とはマブなのよ。

 

「このような格好で申し訳ありません、この度は日本チームに図書館の利用をさせていただきありがとうございます」

 

「いえいえ、お気になさらず。私は本質的には人類の味方ですから。尊くんをよろしくお願いします。彼は……希望ですから」

 

 仮面の視線が此方に向けられ、それにサムズアップで応える。安心してくれ、未来ちゃんさえ完成すれば女神は絶対にボコして殺すから。未来ちゃんさえ完成すればな! 完成しない場合はとりあえず来世に移行する準備だけしておいてください。

 

「マースーターっ!」

 

 声を弾ませながら何かが……というか明らかにフラメアの声が来る。走り寄ってくるフラメアが腕を広げて近寄ってくるのを受け止めようとしたら、横から腕を掴まれて横にグイッと動かされた。

 

「ぐぁっ」

 

 そのまま空振ったフラメアが床に転がった。

 

「尊、一々付き合う必要はないぞ」

 

「久遠?」

 

 横を見れば久遠の姿があった。修三さんの方を見れば修三さんも困惑した表情を浮かべている。

 

「久遠? どうしてこっちにいるんだい?」

 

「そうですそうです。貴方の出番ではありませんよ!」

 

「お静かに」

 

 従僕に口を塞がれフラメアが連行される。久遠がそれを勝ち誇った表情で見送ってから頷いた。

 

「うむ、尊が行くのだろう? また前のように無理をされたら堪らないからな。私が見張ることにした」

 

「久遠、これは遠足でも遊びでもないんだよ?」

 

 修三さんの言葉に久遠は解っていると言ってから俺を見た。

 

「守ってくれるのだろう? それに……」

 

 久遠が薬指の指輪を弄る。

 

「ダンジョンに潜って違う時間を過ごしたら……私だけ早く帰る事になってしまうだろう……? もっと一緒に居たいぞ」

 

 ……そう言われると俺はホント、何も言えなくなる。でも暗黒樹海みたいな危険な場所に久遠は連れて行けない。久遠の気持ちは良く解るのだが、それでも危険な場所には連れて行きたくない。

 

 と、そこでパン、と館長が手を叩く。

 

「彼女は図書館で一時的に預かりましょう。時間の流れを調整すれば暗黒樹海の方と時差は無くせるからね。それに渡した指輪と状態の経過観察もしたいしね。それで、どうかな?」

 

「む」

 

 館長の提案に久遠はむっとした顔を浮かべたが、それから修三さんと俺を見た。

 

「久遠」

 

「あまり、母さんを心配させちゃだめだよ?」

 

「むぅ……解った……」

 

 フラメア、渾身のガッツポーズ。俺も久遠が来ないと分って安堵の息が溢れる。館長に改めて頭を下げる修三さん、いやいやと手を振って微笑む館長。大人ができてるなぁ。

 

「久遠、どうしてまた……」

 

「寂しいというだけだ。忘れるな、私は貴様の無事を待っているからな」

 

 手をぎゅっ、と握ってから離れると秒で従僕たちに囲まれた。

 

「ねーねー久遠ちゃん! 普段は牧場暮らしなのよね!?」

 

「私達館内シフトだから外には出られないのよ! もっと貴方のことを教えて!」

 

「どうして尊くんと婚約することにしたの? していいと思ったの? ねえねえ、教えて!」

 

「あ、まて、尊、助け、ぬわっ」

 

 凄い勢いで囲まれるとそのまま連れ去られてしまった。あの様子を見るに寂しい思いをすることはないだろう。修三さんと顔を見合わせ、それから小さく笑い声を零す。久遠の心配はいらなそうだ。

 

「主」

 

「あぁ、シェイナ。待たせたね」

 

「いえ」

 

 必要最低限の言葉のみを口にするとシェイナは腕に抱えた2匹の獣を見せた。白と黒の獣だ。

 

「バトルの時はボクは死なないって話じゃなかったっすか?」

 

(わたくし)なんて邪神以来便利に扱われて困ったものですよ。別に私、契約してる貴方個人の所有物でもないのに」

 

 シェイナには牧場から日向ぼっこしてたマガちゃんと死体になってたララを連れてきてもらった。マガツキュウビはウチの違法最高戦力だし、ララは今回も探索必須パーツだ。

 

 皆ちゃんと見て見ぬふりしてくれる。なんて悪い大人ばかりなんだ。あと何だかんだ言いながら手伝ってくれるマガちゃんのこと好きだよ。今回はほぼ出番なしなので本当に大人達の安心を買う為に連れて行くだけである。

 

 だから小狐モードのマガツキュウビを頭に乗せて、ララを両腕で抱える。

 

 鴉羽尊、ダンジョン最強フォルム完成である。

 

 周りを見れば他のみんなも準備は終わってる。館長の案内で暗黒樹海直行ゲート前にまで来てから足を止める。通る前に足を止める。

 

「フラメア、頼む」

 

「はい、お任せください」

 

 フラメアが杖を振るうと全員に魔法の膜が張られる。それを指さしながら説明する。

 

「暗黒樹海には探索において幾らか編成制限とでもいうべきものがあって、特定の能力を持ったモンスターがいないとまともに探索することが出来ないんだ」

 

「ほー、で、これは?」

 

「酸素調節」

 

 つんつんとする。

 

「暗黒樹海はその構造上大量の酸素を木々が放出していて、酸素が濃すぎるんだ。お陰で強い風の力を持つモンスターがいないと酸素の濃度が調整できずに……」

 

「でーきーずーにー?」

 

「酸素中毒で死にます」

 

 ゲームでの仕様です。対策無しで突っ込むと探索時間に制限があって、制限内に脱出しないと死亡してゲームオーバーになるのだ。だが風属性のモンスターがいると酸素の調節が出来て、探索時間の制限が解除されるのだ。

 

「他にも探索関連の編成制限はあるが、属性関連は全部フラメアで突破できる」

 

 この娘は賢者の石を素材として投入してる影響で習得できる属性魔法に一切の制限を受けず、あらゆる属性への干渉が可能になる。

 

 つまり、図書館攻略済みなら楽になるよ、という開発の誘導でもある。

 

「事前情報抜きだと本当に死人が出るやつだな」

 

「入って直ぐにボス戦が始まるから、その準備をして。初戦は……」

 

 仮面が勝ち誇った面でチョキを見せてる。どうやら3人でじゃんけんして決めたらしい。順番決めてるなら言うことはなにもない。

 

「それじゃあ先行して入るから、直ぐに追ってきてね」

 

 振り返り、暗黒樹海のゲートに入ろうとしたところで。

 

「ちょっと待ったー!」

 

 従僕の1人が声を張って止めてきた。振り返って従僕に囲まれた久遠が見えた。その肩には従僕の1人の手が置かれており、拳を握って応援していた。

 

「これでいいのか? 本当に?」

 

「イチコロですよ、イチコロ!」

 

「やってもらって喜ばないやつは居ませんって!」

 

「やれば解りますよ、やれば」

 

「……よし、解った」

 

「久遠?」

 

 従僕達の応援を受けて久遠が頷き、それからこちらを見て、意を決した表情を浮かべた。

 

「―――行ってらっしゃい、ちゅっ」

 

 投げキッスだった。

 

 ウィンク付きの投げキッス。やってから恥ずかしそうに久遠が赤面し、従僕を掴んで顔を隠してしまう。

 

「いやぁ、良いもん貰えたじゃないか尊」

 

「はは、初々しい青春の香りだ、懐かしいねぇ」

 

「すっかりはしゃいじゃって……尊くん? 尊くん?」

 

「尊? うん!? 脈がないぞこいつ!?」

 

「し、刺激が強すぎたんだ!! 恋愛クソザコには、あまりにも……!」

 

「!!! マスター! マスターこっち見てください!! ちゅっ! ちゅっ! あ、こら、ブロックしないでください、私だって負けてないですよ!」

 

「ダンジョン行く前から死ぬな!!! 蘇生――!」

 

「あ、気付け薬ならあるわよ。はい」

 

「薬じゃなくてこれ工業用アルコール!!! なんてもん飲んでるんだお前!?」

 

「心臓マッサージ!!!」

 

「なにこれ」

 

 マガツキュウビの呟きが騒がしくなる図書館にかき消された……。

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