最強以外ありえない   作:てんぞー

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誘因体質

 気づけばもう年末になっている。外は寒くなり、雪が降る回数も増えて、車で外に出かけるのが難しくなってきている。こういう時こそ飛行できるモンスターが活躍するというものだ。

 

「はあ……今日こそ揃えば良いなあ」

 

「お兄ちゃん疲れた顔してる。休んだら?」

 

「今日休んだ結果アタリをミスった場合が怖いからね……」

 

 チビを腕に抱きながら溜息を吐く。この小さな毛むくじゃらが癒しだぁ……そう思っていると30cm程の大きさを持つ、青く、長い尾羽を持つ鳥がやってきて肩に止まる。嘴で軽く頬を突いた後、心地よい歌声がその喉から溢れだす。

 

「あ゛ぁ゛、癒されるぅ……」

 

「♪」

 

 人の言葉は話せないが苦しみや痛みに寄り添い、それを歌で癒してくれる鳥型のモンスター、シンギング・バードだ。直訳して歌う鳥。小型鳥モンスターx2に歌唱系スキルを合計で2枠搭載する事で合体する時に派生するモンスターで、高い歌唱適性を持つモンスターだ。

 

 モンスターにはそれぞれ適性が存在する。適性の低いスキルは継承し辛いし、継承してもコストが増えたり威力が下がったりする。その影響で運用しながら継承させるならなるべく相性の良いモンスターを使い、継承させていきたい。

 

「エデちゃんは優しい子だね、お兄ちゃんとは違って」

 

「最後の部分必要だったか? まあ、それはともかく今日もダンジョン探索に行くか」

 

 今朝はまだ久遠が来てない。最近はちょっと回数が減ってるなあ、と思っているが漸く飽きたのか? それだったら幸いだ、こんな異常転生者の傍にいても良い事なんて何もない。俺とは関わらずにいた方が遥かに幸せな人生を送れると思う。

 

 だからブーツを履いて、コートを着込んで、マフラーを首に巻いて準備完了。

 

 今日も全速力でダンジョンをマインドクラッシュしながら走り抜ける準備完了。

 

 肩に新しい仲間を止まらせたまま、チビを腕に抱いて家の外に出る。久遠抜きだとダンジョン攻略がちょっと面倒なんだよなあ、野良の修羅をまたけしかけるかなあ、でもレイド報酬って協会で相場対策で売買が禁止されて使わないゴミばかり増えるんだよなあ。

 

 そんな事を考えながら家を出ると、そこには予想外の姿があった。

 

「―――やあ、尊くん。久しぶりだね」

 

「おはようミコト。今日も朝から精が出るな」

 

「あ、修三さんお久しぶりです。久遠も来てたんだ」

 

「私が貴様に構わなかったら誰がお前の面倒を見るというんだ? 貴様なぞ放置してみろ、一瞬で孤独死するぞ。貴様には常に繋ぎとめる誰かが必要だ、それを私が担ってやっているのだ、見捨てる訳がないだろう」

 

 得意げな久遠の様子にここ数週間見せていた浮かない顔がすっかりと消えて、すっきりとした表情が見える。

 

 言い方は上から目線だが、実際は寄り添うと言っている。

 

 久遠の行動には言葉にはない愛情の様なものを感じる。

 

 それが俺には不相応だと感じているし、久遠をどことなく苦手だと感じる一因にもなっている。

 

 しかし、こうやって夜月パパが出動するのは久しぶりに見る。偶に久遠がやらかしていないかを確認する為に来ることはあるが、こうやって本人が出勤してくるパターンは珍しい。大体はミストドラゴンと久遠しか来ない。

 

 それに今日はフルパーティーで来ている。

 

 Bランク、Aランクの試合は3対3の勝負になる。その為にそれまでは2対2だった試合に一気に戦略性が生まれ、戦闘に投入されるロールにバランスが求められるようになる。また戦術がはっきりと形を成すのもここからだ。

 

 この世界においてBランクからはプロの世界だと言われるのもここら辺が理由になる。

 

『……』

 

 3メートルの巨体を誇る、巨大な戦斧を握る中身のない黒い騎士鎧。ベルセルクアーマー。

 

「あらあら、これが久遠ちゃんの良い人? ふふ、可愛らしいわね」

 

 背から巨大な4枚翅を生やした金髪、ドレスを纏った婦人。妖精女王ティターニア。

 

「がお」

 

 結構中身が可愛らしい事が発覚しているミストドラゴン。

 

 Aランクでもトップを張るパーティーがこの場に勢ぞろいしていた。庭先のダンジョンも全て処理されたのか、跡形もなくゲートが消え去っていた。朝からダンジョンに潜ろうかと思っていたのにそんなぁ、と思う反面パパさんが出勤する程だったのか? という疑問もある。

 

「ダンジョンで仲間集めしている所悪いけど今日は比較的に難易度が高そうだったから先に処理しておいたよ……ハイエナ達も今日はレイドなしだと悟ってもう帰って行ったよ」

 

「マナー良いなアイツら……」

 

 サムズアップ浮かべながら報酬を押し付けて来る人達を思い出す。滅茶苦茶ありがたいけど売れないし、使わない合体素材が多くて使いどころに困るのも事実なんだよね。一部スキルカードとかは有用なんだけど。

 

 流石に文句を言いすぎか。事実上管理の手伝いをして貰ってるんだし。

 

「じゃあ今日は都市の方へダンジョン探しに行かなきゃいけないのか……」

 

「お兄ちゃんあの人たちと同じことやってる」

 

 それが真のマスターに相応しき行動というものだ。厳選沼……厳選こそがモンスターマスターとしての真のコンテンツだよ!!

 

「ミコト、少し待って欲しい。探しているモンスターの問題に関しては解決する方法がある」

 

「え? マジ?」

 

 久遠の言葉に勢いよく振り返り、久遠の方を見る。その眼の色は到底偽っているようには思えない。ここしばらく久遠が何か悩むような素振りをしているのは感じていたが……これに関する事だったのだろうか? だとしたら俺の為に相当悩ませてしまった様だ。

 

「ふふ、気に病んではダメよ? 女の子が男を支えようというのだから胸を張って支えてあげないと」

 

「ティターニア」

 

「あら、余計な口を挟んでしまったわ」

 

 指で口の前にばってんを作るとミストドラゴンの後ろに隠れてしまった。それを見て溜息を吐いた修三が腕を組みさて、と言葉を置いた。

 

「今日僕がここに来たのは……そうだね、凄く悩む所があったんだ。剛三さんに頼まれて君たち一家に関わるようになって、君が確かに剛三さんの言う通り、僕らには見えていないものが見えている人間だと解った」

 

 それでも、と言葉を区切る。

 

「それでも……この判断をするのはそう簡単な事ではなかった」

 

 修三の言葉に俺も少しだけ無言を保ってから、言葉を返す。

 

「……確かに久遠は特徴的な女の子だけど普通過ぎると思ってた。あのクソジジイがこのごたごたに普通の女の子を巻き込むとは思えない……」

 

 俺の言葉に修三が頷いた。

 

「とても賢い子だね、君は。得体の知れなさを根底に感じる……普通の子じゃない、ってね。でもそんな君だからこそ久遠も惹かれるものがあったのかもしれない。親としては複雑な気持ちだけど……子を信じるのも親の役目だとは思うから」

 

「とか言いながらずっと説得したけどな!」

 

「久遠?」

 

 お口をばってんにして久遠が黙る。その様子に小さく笑い声を零す。

 

「それで修三さん、今日は何をしに来たんですか? ただダンジョンの処理に来た訳じゃないんですよね?」

 

「そうだね、ここだと開けすぎてるから……外からも見えないし、あの厩舎の中が丁度良いかな」

 

 そう言って視線はアンナの置き土産の厩舎へと向けられた。モンスター向けに作られた厩舎は巨体でも入るように大きく出来ており、複数のモンスターを分けて管理するスペースもある大変お高い厩舎だったりする。

 

 これをぽん、と支払えるアンナの財力が窺える。

 

 まあ、そもそもアンナは社長令嬢だし。これぐらいの金は余裕で出せるのかもしれない。

 

 厩舎の外に修三のモンスター達は置いて、残りで厩舎の中に入る。広々とした空間は外の寒さから遮られており、冬でも暖かく過ごせそうになっている。適当なスペースに入ると修三が念入りに窓を閉めて外から見えないようにした。

 

 恐らく外に置いたモンスター達も、見ている者がいないか警戒する為なのかもしれない。

 

 ここまでする秘密が、久遠にはある。

 

「……良し、これなら外から見えないな。尊くん、これからする事は絶対に秘密で、他所に漏らしてはダメだよ? 君の場合は言わなくても解ってると思うけど」

 

「流石に言いふらすような子供じゃないですよ」

 

「……うん、ツッコミは入れないよ?」

 

 からすばみことしょうがく6ねんせい! 子供のフリは結構ストレスが溜まるという事だけは追記しておく。

 

「久遠、良いんだね?」

 

「うむ……日々憔悴して行くミコトを見ていて私も力になりたいからな。それにミコトは信じられる。私を絶対に裏切らないと確信できる」

 

「……」

 

 久遠の信頼の視線にこの少女が一体何を隠しているのか、増々興味と恐怖心が混ざり合って襲い掛かって来る。どんな秘密を抱えているのか、原作知識を駆使しても簡単にそれを特定する事は出来ない。だから俺には待つ事しかできない。

 

「ミコト、探しているモンスターはウルフパップなんだな? どういう場所に出て来るのか、もっと詳細で語る事は出来るか?」

 

「もっと詳細に? そうだな……」

 

 久遠に聞かれて腕を組みながらうーん、と答える。

 

「森林系のダンジョンだと出現率高いかな。土よりも風属性濃いめ、闇属性が混じってると抽選率アップ。モンスターの種族は獣系メインのタイプだと更に倍ドン! って感じかな。レア環境だけど霧が出ているとほぼ確定演出で出現率が大幅アップって感じ」

 

 森林系は植物モンスターや皆大好きアルラウネとか出て来るのだが、アレは土属性寄りのダンジョンの時に良く出る。逆に風属性に寄らせると植物系の抽選率が低くなって獣系が増えて来る。ウルフパップが闇混じりのタイプなので闇混じりで抽選率アップ。

 

 だがそれよりもレア環境だ。ランダム系のダンジョンには一定確率で特殊環境が発生しやすい。森林系だと花粉で植物系レアモンスターが、霧だと獣系レアモンスターなどが出現しやすくなる。無論、後からミストドラゴンとかが霧でダンジョンを満たしてもダメだ。

 

「森、霧、風と闇か……少し待て」

 

 そう言うと久遠は目を閉じ、少し集中するように黙り込んだ。邪魔してはならないと静かに久遠を見守る。少しだけ心配そうにしている修三の姿を見てから数分間、久遠の姿を見守り続ける。

 

「―――見つけた」

 

 そう言って久遠が何もない空間へと向かって手を伸ばした。ゆっくりと、なぞるように何もない場所を撫でると―――空間に亀裂が入り、ダンジョンゲートが開いた。そうやって己の能力を証明した久遠は俺へと向き直り、どや顔を浮かべた。

 

「さあ、中に入って確かめ―――」

 

大丈夫か!? 何もないか!? 心をかき乱されるようなことはなかった!? 大丈夫か久遠!?

 

「な」

 

 何よりも先に久遠の肩を掴んだ。その顔を見て、瞳を覗き込み、頭が、心の中が濁ってないのかを確かめる。頬に手を添えて久遠が逃げられないように顔を覗き込んで顔色は普通、瞳の様子も普通、少しだけ頬を赤くしているのは恥ずかしがっているから―――精神汚染の兆候なし。

 

「な、なな、なっ、ミコト、私は大丈夫だからそうも急に迫られると心の準備というものが」

 

「……良かった、何ともないんだな」

 

 久遠の心が無事なようで、良かった。悪影響や後遺症の様なものを一切感じない。いきなり久遠がダンジョンを呼びだした時は原作の内容を思い出して最悪の状況を想定してしまったが、その心配は不要だったようだ。

 

 そもそもタイミング的に()()はまだ目覚めてすらいない。その事を少し考えれば心配する必要もなかった。

 

「大丈夫だよ、尊くん。久遠に特に危険はないから。僕もあまり彼女にこの力を使わせるのは好きじゃないから……君がそういう風に反応してくれるのは嬉しいよ」

 

「え? あ、すみません……」

 

「いやいや、尊くんも意外と素直だと思っただけだよ」

 

「んんん」

 

 喉を鳴らして気恥ずかしさから久遠から離れる。こほん、と咳払いして誤魔化す為に話題を変える。

 

「それで……これは一体何なんですか?」

 

「尊くん、君は世界各地にダンジョン活性地域があるのを知っているよね? 地球上に幾つかダンジョンが異様に湧きやすい土地があるんだ。そこでは日常的に場所を選ばずにダンジョンが発生し、生活を脅かしている」

 

「そのせいで駆間市みたいに修羅の里みたいなのが出来上がるんですよね」

 

「うん、人間って適応しちゃうから恐ろしいよね」

 

 脳裏に浮かび上がる通りすがりの修羅(モブ)共。駆間市は今日も地獄だ。

 

「ダンジョン活性地域の根本的な対応方法はない。湧いてきたダンジョンを片っ端から潰す以外の手段が存在しない。だけどそういうダンジョンの中には当然AランクやBランク、普通のマスターでは対応できない様な高レベルを要求してくるダンジョンもある。そういうのが都市部に出てきたら大混乱だよね?」

 

「そうですね、少なくとも6世代型モンスターは暴れるだけで都市1つ吹き飛ばすだけのパワーありますからね。対応できるマスターが出てきたとしても、街中にA相当のダンジョンが出てきたらその時点で避難開始レベルの大事件ですね」

 

 少なくとも東京でA相当のダンジョンが出たら大事件になるし、都市を放棄するレベルの出来事になるだろう。でもそういう事にはならない。

 

 少なくとも今の時期は。

 

「だから僕みたいな高ランクのマスターが活性地域には少なくとも数名いる。そして特に実力の高い者にはある密命を請け負っている」

 

 視線が久遠に向けられる。

 

「誘因体質だと言われた」

 

「誘因体質」

 

 うむ、と久遠が頷いた。

 

「私はそこにいるだけでダンジョンを引き寄せるらしい。かなり集中するし疲れるし、何時でもできる訳ではないが、こうやって周辺に存在するダンジョンを選んで引っ張って来る事も出来る。ここにあるのはお前の求めているダンジョンに一番近いものを引っ張って来た訳だ」

 

 ふ、と笑う。

 

「中に入ってみろ、本当に出てくるかどうかは別として……お前の求める環境に近い筈だ」

 

「……」

 

 ダンジョンゲートを見てから久遠へと視線を戻す。

 

「本当に、大丈夫なんだな……?」

 

「あぁ、問題はない。とはいえこれは超必みたいなものだからな。使うとゲージが空っぽになってしばらく使えなくなる」

 

「ここ数か月でこの家の近くに高レベルのダンジョンやレイドが出現するようになったのは久遠が入りびたるようになったのが原因だろうね……気を付けてたつもりだったんだけど、申し訳ない」

 

「あ、いえ、普段から世話になってるのはこっちなので」

 

 納得した。

 

 久遠が都市部から離れて暮らしてるのは体質を隠す為だ。そして修三が普段はAランク相当の高難易度ダンジョンを都市から離れた所で1人で処理し続けているのだ。こんな芸当が出来るなら強くもなるだろう。

 

 という事は、ジジイはこれを知っていて彼女を俺に結び付けたのか。

 

 強くなるためか。利用しろと言っているのか。

 

 それとも守れるものなら守ってみろ、と挑発してるのか。

 

「ミコト」

 

「久遠」

 

 久遠が両手で俺の頬を挟み込み、ぐっと顔を寄せて来る。

 

「瞳が淀んでいるぞ。何を考えているかは知らんが、落ち着け……私はお前のその気遣いがとても嬉しい」

 

 嬉しそうに微笑む。

 

「お前に話して良かった」

 

「久遠はね、これを見せたら君に怖がられるんじゃないかって―――痛い痛い」

 

 無言で親の脛を蹴り始める久遠の様子に何時も通りの彼女を感じながらも、胸に抱いた不安はそう簡単には消えない。

 

 久遠の能力は原作で、目撃している。

 

 原作にあるほのぼの要素とは別に、DLC後半はだいぶシリアスな内容だ。メインではモンスターを使った犯罪組織が出て来るが、DLCで敵になるのは終末思想を持つ宗教組織だ。

 

 ―――その中に出て来る連中が、似たような力でテロを引き起こしていた。

 

 この力が使えるのは久遠だけではない。他にも同じような誘因体質がいるとは言っている。ゲーム本編で出てきたのが久遠自身とは限らない。いや、問題は別の所にある。

 

「ここまで詳細に選別して引っ張ってこられるのは流石に月1程度だが……これなら多少は楽になるだろう?」

 

 向けられてくる信頼に、そこまで信頼を向けられるようなことはしたっけ、と疑う部分もある。恐らく大半は絶対強者であったジジイの強さに対する信頼、そしてその後継者候補として指名された立場への信頼かもしれない。

 

 だがそれはそれとして……信頼を守れないようであれば、本当に人間未満になってしまう。

 

「ミコト?」

 

「あぁ、いや、これからは厳選が楽になるんだなぁ、ってちょっと感動してただけ」

 

 信頼を裏切る人間にだけは、なりたくない。

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