ちょっとだけしんみりしてしまったがフラメアとのコミュは上手く行ったと思う。この尊、RICKさんの教えを守ってちゃんと相手のコミュを行っている!
フラメアと楽しいトークタイムを挟んだら雑貨屋で軽くアイテムを見て、欲しそうにしていたバングルを購入してプレゼントしたら滅茶苦茶喜ばれたのでこれでフラメアコミュは終了する。槍投げで肉体が分解されたララを1回蘇生してから今度は問題児と向き合う事にする。
そう、シェイナだ。
ちらり、とシェイナの気配を追うと建物の影に隠れていたシェイナが現れて、近づいて来る。
「主、何か御用でしょうか」
「あぁ、ちょっとシェイナと話したいと思って」
コミュろうぜ! コミュタイムでちょっと仲良くなろう! マスターとモンスターの相互理解は大事な事だぜ! 暗にそう告げるとシェイナは成程、と頷きながらも一瞬で距離を取る。
「私は主に気にかけられる程の人物ではないので……大丈夫です。それでは陰ながらの護衛に戻りますので……失礼します」
「失礼するな」
今日こそは絶対にコミュるぞ、と覚悟を決めて逃げ出すシェイナを追いかけて走り出す。当然、シェイナは逃げ出すので全力疾走を始める。そう大きくもない樹上の村の上で俺とシェイナが走り出すと、それを見ていた村人たちがなんか遊び始めたと勘違いする。
「僕も混ざる!!」
「追いかけっこ? 得意だよ!」
レベル100の子供たち、参戦っっ!!! 高難易度ダンジョン出身の子供は最初からレベル100! だってモンスターだから! 小さい体にレベル100の暴力! 特級暴力装置が追いかけっこに参戦するとシェイナの逃亡ももっと必死なものにレベルアップする。
残念ながらシェイナの足はそんな早くないので100レベキッズと勝負した場合一瞬で決着がつく。子供たちに追いつかれ掴まれたシェイナには大人しくする以外の選択肢がなく、子供たちに捕まった状態で床に座り込み、追いついた俺を見上げる事しかできない。
「主……その……慈悲を」
「ありがとう、君達。そのお姉ちゃんには用事があるから良いかな?」
子供たちに外産のキャンディを何個か渡して感謝しつつ、シェイナが逃げられないように手を握る。こうすれば俺から逃げるには俺の手を振り払う必要があるが、シェイナにはそんな事は出来ないのでもう逃げられない。
「シェイナ、俺は正直あまり強制させるようなことは好きじゃない。だけどここ数か月、お前に時間を与えたけど役割に徹しようとするだけであまり話し合いに応じようとしてくれなかった。だけどそれでも放置してたのは、お前にも時間が必要だと思ったからだ」
「それは……」
「状況が状況だし、心の整理を付ける時間も必要だろう。だけどそれを理由にずっと逃げ回るのは良くないよ」
「……」
その為に数か月の時間、白紙の物語関連の進行をストップしていた。焦らせて何かを失敗する方が怖いから。だけどそれを理由に拒絶し始めるのなら話は別だ。マスターとして、この娘の主として彼女を導く義務が俺には存在する。だからタイミング的にも丁度良いし、改めてシェイナとコミュを取る。
実際、ゲームでのシェイナのコミュはそう難しいものではない。
会話を進めればそれだけで解決する内容だ。
彼女が物語と向き合うだけの覚悟があれば、すぐにでも解決する。
「解り、ました」
繋がれた手を見て数秒、シェイナは自分の甘えを理解し、息を吐き出してから両手で俺の手を掴んだ。
「私も……主の好意に甘えていた自覚があります。お話ししましょう」
「良し、落ち着ける所に行こう。ここは人目も多いしな」
酒場は……駄目だ、ちらっと見たら樽を5つぐらい開けた酒カスが村の戦士達を撃沈していた。何か知恵比べラウンド5とか変な言葉が聞こえてきたがあっちには混じりたくない。先ほどフラメアと過ごした場所は静かだけど、別の女と過ごした場所に連れて行くのは良くないってRICKさんが言ってた。
そう言えば近くに休めそうな広場があったな。
シェイナを連れて広場にまで移動し、ベンチに並んで座る。蘇生したララも一応連れて。良く死んでいるが死によるストレスを超越したのかコイツの毛並みは何時でもふわふわで柔らかい。落ち着ける様にララをシェイナの膝の上に乗せれば、無意識なのかララを撫でてその毛並みを堪能し始めた。
少しは落ち着けたかな。
自分、道具っすか? ボクのケアは良いんすか? みたいな顔をララが向けて来る。お前は何時も牧場で結構いいもん食わせて貰ってるだろ。繁忙期は頑張れ。うっす。もはや合体してないモンスターでは最古参のララ、言葉を伝えるのにアイコンタクトすら必要ない。
「主、私は……そうですね、どこから話し始めたら良いのでしょうか」
シェイナの口から重めの溜息が零れた。それはかつてを思う溜息だ。
「焦らなくて良いよ。別に今日全部話そうって訳じゃないし。お前が抱えているものが大きいのは解るし、吐き出すのは簡単じゃないのも解る」
「いえ、抱えるものは主、貴方の方がはるかに大きいのです。貴方は世界の命運を背負わされている。それに比べれば私の背負うもの等」
俯き、自虐するシェイナにいや、と言葉を区切る。
「それは正しくない」
背負うものの重みは、確かに違うかもしれない。
「だけどその痛みは比べる様なものじゃない。背負わされている者が違うから、重みが違うから、立場が違うから……そういう言葉で区別する様なものでも、順位を付けるものでもないんだ。痛みは痛みで、苦しみは苦しみなんだ。お前も俺も、等しく何らかの業を背負っていて、背負わされているんだ」
それを比べる事に意味なんてない。
「不幸や痛みの比べあいにはっきり言って価値はないんだ。それはただの不幸自慢でしかない。だけど不幸や苦しみは、吐き出さない限り一生棘になって突き刺さったままなんだ。別に全て一度に吐き出す必要はない。だけどお前が……少しでもそれを俺に吐き出してくれるなら、嬉しい」
それは俺の存在が力になれるという事だから。
「マスターとモンスターは主従関係だけど。その本質は主従じゃなくて、家族みたいなものだと思ってる。出会いと別れがあって、一緒に居られる時間は長くはないのかもしれない。でも俺達は同じ時を一緒に、血よりも濃い関係を築いて過ごすんだ。その絆は家族と呼んで良いものだと思う」
「……家族、ですか」
シェイナは呟き、それから顔を上げた。
整った顔立ち、美しさの中に凛々しさの見える表情は今は憂いに満ちている。綺麗な髪色、装飾の施された装備、彼女はかつて高い地位にあった人物である事はその姿から見える。
「主、かつての私は小国の王女でした」
「うん」
「小国で、そこまで裕福だったという訳ではありません。ですが父は国民を愛し、そして国民も父を、私達を愛してくれていました。国を大きくする事よりもどうすれば豊かになるのかを語っていて……私も、玉座を継ぐ時を期待し、未来に胸を馳せていました」
ですが、と苦痛と共に言葉を吐き出す。
「祖国は1か月という時間の中で滅びました。終末の中でも醜悪で、そして救いのない時間でした。愛した父は豹変し、民も狂い、全てが地獄になって滅びました。私が辿った道筋に救いなんてものは1つもなく、そして回避する方法は……恐らく、ありませんでした」
「毎日毎日国の誰かが狂って行くんです」
「最初は良く知っている肉屋の店主が」
「次は雑貨屋の娘さんが」
「何時の間にか暴力が王都で日常になって」
「壊れる崩されるものが増えて」
「父が狂って」
「弟も狂って」
「国中全てが狂って」
「最後は、炎の中に飲み込まれながら支離滅裂な言葉を口に皆が殺し合っている。死んだ、その瞬間だけに安らぎを感じた表情で死体が転がっている」
両手で顔を覆い、シェイナが俯く。
「私は、王女でした。王女としてあの悲劇に立ち向かわなきゃいけなかった……! 立ち向かわなきゃいけないのに、何1つ出来なかった。私はただの無力な娘で、私は1人、灰の中生き残されてしまった。悲劇を伝え、覚える人間として選別されたんです」
怒り、憎しみ、悲しみ、絶望、無力感。それがシェイナの抱えるものだ。王女として何1つ出来なかった絶望。生き残って何も変えられない絶望。繰り返しても変える事は出来ないであろう絶望。
彼女の拒絶は、言い換えれば自分という存在があったとしても、何も変えられない無力感から来るものだ。自分が居た所で何かが変わる訳じゃない。自分が近くに居た所で力になる筈がない。自分に意思は不要だ、どうせ変えられないから。
だから見守る。自分を見ないでほしい。自分を認知しないでほしい。自分を……自分を……少し距離を開けて、今度は絶対に守るから。
シェイナの忠誠心は自分の思考を排除する為。
彼女が後を追うのはそれ以外に自分に出来る事がないから。
対話を拒否するのは向き合うのが怖いから。
それがシェイナというキャラクターの根幹にある絶望だ。
そしてこういうリアクションは別に、不思議ではない。寧ろアーティ達の方が凄すぎたと言えるのかもしれない。自分の弱さを直視し、そして向き合った上で対峙する。それは非常に痛みと苦しみを要求するもので……2人はそれを成し遂げた。
その事実が、継承された記憶と経験が、更にシェイナを苦しめてる。
自分よりも弱く、立場もない2人が出来たのに。
自分にはそれが出来ず、逃げ回っている。
「ごめんなさい……私はまだ、その物語と向き合う覚悟が出来ていません……私はまた、直視するのが怖いのです。国が亡ぶ日々を、その瞬間を見る事が……その運命が変えられるかもしれない。そう言われても、また直視するのが怖いのです……!」
絞り出すようなシェイナの声に、彼女の抱える苦しみを感じさせる。
滅びの世界出身の者達が過去の記憶を持たずにモンスターとして振舞えるのはある意味、救いなのかもしれない。誰もが滅びを前に正気や強さを保っていられない。エグゼリアやオメガ、ラファエラやハーデス達……俺の知るモンスター達はモンスターである事を承知で、絶望と向き合って戦う事を選んだ勇者だ。
だがシェイナは違う。
彼女は大した力も持たない一国の王女で、生き延びただけの一般人だ。どれだけ才能があろうと、その本質は戦うものではない。だからこそ苦痛は、彼女にとって目を逸らすものだった。
無論、それがそのままであってはならない。
それをそのまま許せば一生前に進めなくなるし、白紙の物語は次のページへと進めない。だから俺が出来るのは痛みを吐き出すシェイナの頭を撫でて、その苦痛に寄り添う事だけなのだが―――ここに、ちょっと困った事実がある。
シェイナの物語は実は救いがない。
シェイナが悟りを得た時、彼女が出来るのは過去の時間に戻り、覚悟を持って滅びと向き合う事だけだ。その根本的な問題を解決する手段は存在しない。シェイナにはその力がないからだ。
何故なら、シェイナの国を滅ぼしたのは邪神だからだ。
邪神パペッター。
そう、東京で出オチをかましたカスである。
しかも既に死んでいる。
ゲーム内だとパペッターの登場は本編クリア後であり、これは滅亡神を討伐した後の話である。つまり、白紙の物語完結後の出現であって、攻略中に本来パペッターは死亡しない筈である。だけど今回に限っては順序が逆になって、物語を進める前に死んでいる。
そう、死んでしまっているのだ。なんで?
俯いているシェイナに見えないように白紙の物語を顕現させれば、自分! 違う結末行けます! やれます! と言わんばかりの白紙の本がキラキラしている。シェイナに見られる前に本を消す。
うん。
絶対に原作とは違う結末になるなこれ? パペッターが死亡している因果を取り込んだなコイツ? タイミング的には本来絶対にありえない事なのだが。パペッター死亡の因果が記録されたのなら、物語の結末自体大きく変わりかねない。それでどうなるかは俺でもちょっと……良く解かんないかな……。
パペッター、お前ほんとなんでこんな所で死んでるんだ?
「申し訳ありません、私は……」
「いや、焦る必要はない。まだ時間はあるんだ。ゆっくりと向き合って、1歩ずつ進もう。今日1歩目を踏み出した。カウンセリングの真似事になったけど……また、こんな風に時間を取って吐き出す時間を作ろう。お前の為ならいくらでも時間は用立てるから」
俺の言葉にシェイナは俯いていた顔を上げ、そして弱々しく微笑んだ。
「……ありがとうございます、主。貴方がマスターで良かったです」
これまでにはなかった、向き合った信頼をシェイナからは感じる。
感じるのだが……いや、ほんと、ごめん。結末はちょっと解らないかな……。