最強以外ありえない   作:てんぞー

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その選択肢を選ぶな

 もしかして俺コミュの才能あるかもしれない。

 

 今度から話術マスター尊と呼んでほしい。みこっちゃんと呼んだ奴は全員殺す。

 

 という訳で確かな手ごたえを感じつつシェイナとのコミュを終えた。RICKさんのコミュ術は最強だ。流石駆間ナンバーワンホストだ。問題はRICKさんが定期的に女性に追われて行方不明になる事だけだ。まあ……普通にやってればそんな風にはならないよね。

 

 時間を確認すればそろそろ良い時間だし、一旦フラメアにシェイナを任せて、ララを連れてラトゥーリアの家へと向かう。1人で来いと言われていた気がするが、ララは半分生きていて半分死んでるから、ギリギリ2人目にはカウントされない。寧ろ生きてる率は0.4ぐらいだ。

 

 つまり四捨五入すれば0になる。

 

 つまりララはあるとしてカウントされないのでセーフ。

 

「ミコト様、お待ちしておりました」

 

 やはりララはあるとしてカウントされなかったらしい。無っすかみたいな顔をしてる。そうだ、お前は無だ。無なのでそのままララを連れ込んで上がる。さっきはマスター勢ぞろいだったから狭く感じたが、2人と無だとだいぶ広く感じられる。

 

「ラトゥーリアは」

 

「ラトで結構です。親しい者はそう呼びますので」

 

「あ、じゃあラトはここに1人で暮らしているの?」

 

「はい。と言っても身の回りの世話をしてくれる従者が居るので、1人で暮らしているという感じはしませんが」

 

 そう言って赤毛の巫女はリビングまで案内すると椅子を引いて座るように促してくる。ゲストなので素直に持て成される事にする。この椅子も木製……やっぱりあの大樹の枝を使ってるのだろうか? 金属製の部品を全く見ないのは本当に独特の文明を感じさせる。

 

「今お茶を用意します」

 

「いや、そこまでしなくても」

 

「いえいえ、私がそうしたいので」

 

 腕に抱かれたララがこっちを見上げて来る。罠センサーに反応ありっすよ、とか訴えて来てる。んな訳ないだろ。アレは原作攻略キャラだぞ。主人公くんちゃんがここに来たら解禁される上に恋愛も結婚も出来るキャラやぞ。

 

 まあ……なんか……主人公くんちゃん消滅したっぽいけど……。

 

 図書館での出来事を見る限り、俺が主役として舞台でスポットライトを浴びる事を選んだ時点で、主役が交代して、本来の主人公は出番を失った感じはある。俺が本来の役者の代わりにステージの中央に立った感じだ。

 

 ……じゃあ、俺がステージから降りたら本来の役者がステージに戻るのか?

 

 この物語は絶対にステージに立つ誰かを要求している。だったら代役か、本来の役者がステージに戻るのはまあありえる事だ。

 

 この考えはどこかで使えるかもしれない。覚えておこう。

 

「どうぞ、樹海で取れる花を使ったハーブティーです」

 

「これはどうも」

 

「そしてこれは樹海で取れた新鮮なお野菜です。どうぞ」

 

「なんか、このニンジン金色に輝いてるんすけど……!?」

 

 ラトゥーリアが出してきたのは金色に輝くニンジンだった。おや、珍しい声が出る。

 

「ゴールデンキャロット、樹海でしか取得できないレアアイテムだよ」

 

 所謂好感度アイテムだ。モンスターに与える事で好感度を稼げるアイテム。これは野菜が主食のタイプのモンスターの好感度が滅茶苦茶稼げる奴だ。ララがマジでコレ食えんの? みたいな表情で金色のニンジンを眺めていたが、一齧りした瞬間一瞬で目に生気を宿して食べ始めた。

 

 俺も貰ったハーブティーに口を付ける。口の中を抜けて行く花の香りが凄い……飲むだけで疲れが溶けて行くような感じがする。

 

「ハーブティー、あまり得意じゃないんだけどこれなら飲めるな」

 

「そうですか? それは良かったです」

 

 微笑みながら対面側に座ったラトゥーリアも同じようにハーブティーに口を付ける。リラックスした空気が辺りを漂う。大神―――創造神からのメッセージがあるという話だったか? この空気なら大したメッセージでもなさそうだ。少しだけ心のガードを下げる事にする。

 

「ミコト様、改めて村へようこそ。私はこの日が来ることを生まれたその日から知り、お待ちしておりました」

 

 やっぱ心のガード上げるか。ジャブでバチクソ重いパンチ入ったし。

 

 今の発言そこそこグラビティ感じるな、と思いつつもその考えを絶対に顔に出さない。ここ、RICKさんに教えて貰ったところだ。微妙に、ラトゥーリアからは熱視線というか……館長とか図書館のスタッフたちとは別の感じの視線を感じるんだよな。

 

 なんだろう、これ?

 

「大神からのお告げ……お伝えしてもよろしいでしょうか?」

 

 ハーブティーを飲みながらも本題に入ろうとする。俺もさっさと創造神のクソボケのメッセージに関しては気になる部分がある。結局本編でプレイヤーと向き合う事は一切なかったキャラクターが態々声を残すぐらいだ。何か重要な意味があるに違いない。

 

 ラトゥーリアは神妙な表情を作り、それからこほん、と咳払いする。

 

「一字一句、そのままお伝えします」

 

 ラトゥーリアの言葉に頷く。ちょっとだけ緊張してきた。すぅ、と息を吸い込むとラトゥーリアは目を閉じ、意識を集中させる。数秒後目を開いた彼女の雰囲気は一変していた。

 

「……!」

 

 まるであの女に対峙したような圧力を感じる。いや、アレ程強くはない。だがこの質は確かに神威だ。

 

「鴉羽尊」

 

 放つ声はラトゥーリアのままだが、声の質は生命を慈しむものになっていた。

 

「立ち上がった君の勇気に敬意を。対峙することを選んだ君の怒りに謝意を。苦難を選んだ君の意志に憐憫を。これは事前に彼女に刻み込んだメッセージで、私は既に死んでいる」

 

「文句を言うだけ無駄ってこと?」

 

「そのとおり。ただし、君の言いたいことを事前に見ているから、ある程度の受け答えは出来る。そのためにラトゥーリアには絶対に間違えられない忘れられないように君の事を記憶と意識に刻む必要があったけどね」

 

「あぁ、うん。お前ら親子だわ」

 

 厳かな雰囲気に敬う姿勢を作ろうとしたが、そんな気は失せた。ラトゥーリアが妙に近いと思ってたけど、コイツが原因じゃねぇか。お前ら神に人権意識ないんか?

 

「尊。君には伝えなければいけない言葉がある。私が主義主張を曲げてここで声を届けようと思ったのはその為であり、またこれが私と君が話す最初で最後の機会になるだろう」

 

「俺の疑問に答えるつもりは?」

 

「ないかな」

 

 血を濃く感じさせるぜこの創造神! 気分を落ち着けるためにハーブティーを飲む。ラトゥーリアがハーブティーを淹れたのはもしかしてこの為なのかもしれない。

 

「尊、良く聞くんだ」

 

 テーブルに肘をついた状態で創造神の声に耳を傾ける。

 

その選択肢を選ぶな

 

「……はい?」

 

 なんのこっちゃ。

 

 マジで意味が解らなかった。選択肢とはなんのことだ? しかも選ぶなと言われている。

 

「君は疑問に思っているだろう、なんの事だろうと。だがいずれ気付く。君の前には2つの選択肢が用意されていることに」

 

「……」

 

「その時まではまだ後数年はある。だけど釘を刺す意味でも君に告げる。その選択肢は止めておきなさい。それは君を幸せにしない」

 

「……マジで何のことだ」

 

 覚えがなさすぎる。だけど言っている意味は伝わってくる。

 

「つまり、俺が自分を不幸にする選択肢を将来的には選びかねないからそれを潰す為だけに言葉を残したのか……?」

 

 その言葉に表情はぴくりとも動かなかった。実際にはラトゥーリアの体を通して録音されたメッセージを放出しているだけなので、リアルタイムじゃないから表情が変わるわけじゃない。それでも考察は当たっていたようで神の声は続く。

 

「時に、選ぶべきではないトゥルーエンドもあるというだけの話だよ。尊、君は幸せになっていいし、なるべきなんだ。その時が来たら迷わず自分が幸せになれる道を選びなさい」

 

 そう告げるとラトゥーリアが纏ってた神威は消えた。録音されたメッセージはこれで全てだったらしい。力が抜けるように俯いて息を整えるラトゥーリアを前に、俺は今の会話で小さな閃きの火花を得ていた。

 

「トゥルー……ハッピーエンド……?」

 

 ―――つまり、俺が個人の幸福を手放せば、全てを解決出来る手段がある……?

 

 トゥルーエンドとはまず間違いなくループしているアリア=マリスをどうにかする結末だろう。というかそれ以外考えられない。だが、それはつまり。

 

「奴のループを解除する方法がある?」

 

 手で口を押さえ、思考に没頭する。過去に対してあの女という負債を残さずに済む方法がある。今はない? という事は他のダンジョンか、未来の構築で答えが出てくる?

 

 俺を不幸にする? トゥルーエンド?

 

 ある? あの女をどうにかする手段が?

 

 ……一考の余地はある。

 

「だめっすよマスター」

 

 ニンジンを食べてたララが思考を遮った。

 

「だめっすよ。それ、良くない顔してるっす」

 

「良くないって」

 

「今の顔を見たら、久遠の姉御が悲しむっすよ」

 

「それは……良くないな」

 

「良くないっす」

 

 ララにありがとうの気持ちを込めてわしゃわしゃと優しく撫でる。危ない、思考が良くない方向に流れるところだった。自分を幸せに出来ない人間が、他人を幸せに出来る筈がない。

 

 創造神に言われた事は忘れよう。

 

 一番大事なのは久遠を幸せにする事なのだから。

 

 此方が少しだけ先程の言葉に引き摺られている間に、ラトゥーリアもなんとか息を整えたらしい。少しだけ冷めたハーブティーを口にして喉を潤す。

 

「お疲れ様でした。大神のお言葉が力になれば良いのですが」

 

「まあ……ちょっと難しいところかな。ほら、俺って少しひねくれてるし」

 

「まあ、そんな事はないと思いますよ? ミコト様はどちらかというととても素直で素敵な方だと思います」

 

 それに俺はどう答えろっていうんだよ。下手に答えてなんか変なリアクションを引き出すのも嫌だし、ハーブティーを飲んで誤魔化そうとするが、見透かされてる気がする。

 

『帰ったぞー!』

 

『勝ったぞ! 死ぬかと思った』

 

「あ」

 

「お、帰ってきた」

 

 仮面と東吾の声が外から聞こえてくる。どうやら勝ってきたらしい。無事に帰ってこれたようで、俺も一安心の息が出る。そんな俺の様子を見てたラトゥーリアがくすり、と笑う。

 

「さ、他の皆さまを迎えに行きましょうか。大神と言葉を交わしたことで村の広場にミコト様の家へ通じる門が出来たはずですし」

 

「メッセ聞かなきゃショトカ通さない仕様だったんかあのクソボケ」

 

 短かった休憩時間もこれで終わりだ。東吾達が終わったのなら、他の試煉も終わってる頃合いだろう。ラトゥーリアの後を追う様に彼女の家を出る。

 

 が、どうしても頭の片隅に残ってしまう。

 

 ―――トゥルーエンド。

 

 あるんだな、そんなもんが。

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