「所でどうやって帰るんですか? また同じルートで帰るんです?」
サポーターの1人がそう口にすると全体の動きが止まった。図書館からの入り口がある樹海の入口まではだいぶ距離がある。またあの距離を進むのか、という純粋な疑問には俺が答えた。広場の中央を指差すと、そこには空間の裂け目―――ゲート。
「素材稼ぎしながら入口目指すルートと、日本経由で直ぐにベガスに戻るルートがある」
「これ、ツッコミ入れる所ですか?」
「尊くん、初の環境での疲労もある。牧場経由で帰りたいのだけど良いかな?」
仮面の言葉にサムズアップを向ける。助かる、と告げてから撤収準備中の皆に声が飛ぶ。
「これより鴉羽ファーム経由でラスベガスへと戻る! 全員、スマホ等の電子機器の現在位置機能を切るんだ! 場合によっては日本に迷惑がかかる!」
「ほんとにな」
手慣れた手つきでスマホやノートPCからバッテリーを抜いて万が一の可能性を排除する姿はまさしくプロ。ははーん、さては君達この手の行動するの実は初めてじゃないな? ちょっと深掘りするのが怖いので見なかったフリしますね。
ララを抱え、シェイナとフラメアを連れて先にゲートを抜けようとするとゲートの横にラトゥーリアが待機していた。ゲートを抜ける前に此方に一礼する。
「また、お会いしましょうミコト様。これからは自由に会いに行けますから」
ちょっと重力を感じながらゲートを抜ければ見慣れた牧場の姿が広がっている。振り返れば巨大な大樹が牧場の一角を支配するようになっており、その前には祭壇とゲートが存在している。俺がゲートを抜けると次々と代表チームも抜けて来る。
全員、遅れなくやって来ているようだ。
「お兄ちゃーん」
「お、ラブリー」
いえーい、と兄妹でハイタッチする。
「―――」
「エデもハイタッチ!」
走り寄って来たエデもハイタッチする。顔はないけど嬉しそうなのは伝わってるよ。
「マスター!」
イーリュもやって来た。ハイタッチしたらちょっと物足りなさそうだったのでビンタしたら満足そうだった。後でシティエルフ狩り始めるか。
「わん!」
チビもやって来た。轢かれて肋骨が折れた。
ラスベガスに行って相手をしてなかったから寂しかったらしい。下敷きになった状態で顔をべちょべちょに舐められる。ごめんよ、寂しくしちゃって。でも肋骨は止めてね、肋骨は。たぶんこれ肺に刺さってるから。死ぬほど痛いから。
救出されてからラファエラにチビ諸共説教されつつヒールを貰い、折れた肋骨を治したら仮面と東吾が我が家の両親に必死にぺこぺこしてから違法ルートで図書館へと帰還する。どうしてだろう、樹海ルートで図書館に戻るよりは簡単なはずなのにこっちのがイベントが濃かった気がする。
「図書館に戻ったからバッテリー戻して良し!」
「いやあ、快適なルートでしたね」
「あの牧場アクセスが神なのは良いけど地獄だよね」
「人の家を地獄って呼ぶの止めません? 乙なもんですよ。鐘突きされてる女神の殴打音で朝を迎えるの」
「最悪だよ」
「何があったらそんな罪深いオブジェクトが生まれるんだよ。もうちょっと上位種を敬おうよ」
「主従関係が成立する以上は俺が上でアレが下だが……?」
「ラファエラが滅茶苦茶何か言いたそうにしてるぞ」
視線を逸らして逃げる。そっすね、天使としての立場だと言いたいことありますよね。
そんな風に図書館に戻ってぐだぐだしてると館長が出て来る。や、と手を上げながら態々様子を見に来てくれたらしい。別に暇じゃないだろうに、ほんと人が良い。
「戻ってきたところを見ると暗黒樹海そのものには踏み込まなかったのかな? 判断としては正しいと思うよ。踏み込むならそれなりに準備したいだろうし」
「正直俺としてはPvPとPvEで別のモンスター育てて欲しいんですけどね。ダンジョン行くたびにスキルの付け替えって相当面倒ですよ」
「そうだねぇ、それが理想なんだよね」
俺と館長は見てるものが一緒なので出てくる考えも大体一緒だ。問題は現実はそんなに甘いものじゃないということで、修三さんがあはは、と笑う。
「それは難しいかな。モンスター1体の育成コストと時間の問題もあるし、多くのプロが中々構築の更新を行えないのはモンスター1体1体の息の合わせ方や指示の出し方、そういう習熟問題もあるんだ」
そこからの言葉を仮面が引き継ぐ。
「我々トッププロが活躍するリーグで使用しているモンスターは1年や2年ではなく、10年以上苦楽を一緒にしてきたモンスター達の合体した姿だ。そこから別のモンスターに乗り換えるというのは全く新しい呼吸や癖、考え方を受け入れて慣れる必要がある」
「特に1秒以下の反応の世界になると合わせに数年かかる場合もある。だからモンスターを更新する時は既存のモンスターをそのまま使用するケースが多いんだ」
東吾が腕を組みながらそうだな、と呟く。
「尊はシンクロで一瞬で適応するから新しい古いの差がないからな。だからあとから追加しても苦にもならないんだろう」
「それは考えた事がなかったな」
大前提としてデータとして知ってるから運用や大まかな好みとかは把握してるし、シンクロで考えも解るしで適応や運用に苦労したことはなかった。
だけどトッププロの世界では適応も1つの問題だと言われればそりゃそうだ。対雑魚用超火力自爆背水ワンキルモンスターとか用意してると死ぬ程探索が楽になるのに。
そろそろ牧場に余裕も出てきたし、雑魚散らし用の格上殺しワンパンモンスターを作っても良いかもしれない。
元々樹海の探索はあんまり考慮してなかった……というか難易度高すぎてプランに入れてなくてSになってからゆっくりやるか、みたいな考えだったんだよね。
少なくとも図書館や根の国をやってた頃はマジでここの攻略は考えてなかった。だけどホドロくんの過労死が確定した今、対雑魚用の子を育成してもいいかもしれない。
それはそれとして。
「館長、久遠は?」
「あぁ、彼女なら……」
「おまたせしました!」
「婚約者いっちょぉ!」
「自信作です」
騒がしい従僕たちの声に視線を向ければ奥の方から従僕達が久遠の手を引いて現れる。そうやって手を引かれる久遠の姿は前見たときと違う格好をしていた。
髪をアップに纏め、薄く化粧をし、服装は従僕達が着ているロングスカートタイプのメイド服に。普段の快活さとは違い、清楚さを感じさせる装いになっていた。
「戻ったかミコト」
「久遠、その格好」
「あぁ」
俺の前まで進み出てくるとクルッと背中まで見せつけるように一回転してみせる。それからどこか挑発的な笑みを浮かべる。
「感想は?」
「普段とは全然印象が違って見えるよ。久遠、大人しい感じの服も全然似合うんだからもっと着れば良いのに」
「貴様が喜ぶならそれもいいかもしれないな。それとも……こういうのが趣味か?」
男の子でメイド服が嫌いな方が珍しいと思う。視界の端で猿ぐつわを噛まされたフラメアが必死に藻掻いてるのが見えるが、なんか数人がかりで抑え込まれてる。何してんの?
「イイ……」
「見てるだけで若返るな……」
「アンタらそんな歳取ってないでしょ。何老け込んでるのよ」
「すいません、椿さん。図書館内で工業用アルコール取り出して飲もうとするの止めてくれませんか?」
工業用アルコールが禁止されて酒クズが秒で禁断症状を発症して床に転がり、痙攣しながら泡を吹き始めるのをマネージャー以外誰も気にしない。
久遠も合流したし、これで全員揃った。ラスベガス行きのゲートへと戻り、そこから再びホテルへと戻る。ホテルに残った組と合流し確認すれば現実時間で3日経過していた。
まあ、入口付近ならそんなもんか。
暗黒樹海に踏み入ったら余裕で一週間は飛びそうだ。こうなると探索するチャンスは1度のみ……撤退したのは本当にいい判断だった。
「さて、合流したところで情報交換しつつ必要素材を纏めよう。スポンサーもいるから金額に関しては今回は心配しなくていい。それよりも何がなんでもいいから勝て、と言われてる」
「まあ、何年もアメリカにデカい顔されてるからな」
「今年、これだけ有利な条件を揃えた上で負けるなら一生勝てないですよ」
「そろそろトロフィーを日本に持ち帰りたいです。総理も陛下も楽しみにしていられるので……!」
絞り出す声に割と切実さが滲んでた。大人の事情が俺達子供には関係ないから端の方で久遠のメイド服姿を見てキャッキャッする。写真撮って灯に自慢したろ。
「在庫、余ってますね。素材需要は今はそこまで……って感じですから。仲介屋通して数押さえますか?」
「いや、露骨に動くと尊くんを使ったことがバレる。特にイギリス辺りはアンテナを凄い立ててこっちを警戒してるだろう。事実上の救国の英雄だしな」
知らん。何も聞こえない。久遠がかわいい。それが全てだ。
「必要な素材をリストアップ、複数の仲介屋からダミー通して購入しましょう。足跡を消せばバレずに揃えられるはずです」
「素材の一部はオークション出品ですね」
「となると明日はオークションだな」
大人は大変だなぁ。え? ミニスカメイド服も貰ってきた? でも変に露出増えるの良くないと思うよ……。
「という訳だ。オークションに参加するぞ尊くん!」
「え」
え? マジで?