最強以外ありえない   作:てんぞー

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じゃ、デート系の用事があるんで帰りますね

 インタビューにイギリス代表アーサーはこう答えた。

 

「まあ、やるでしょうね。やりやがったな、とも言います。主犯には覚えがあります。日本ならまず間違いなくやります。確保? 当然の話です。ここで確保に走れなかった国はトップレースに遅れを取るでしょうね……すいません、ちょっと今から知り合いに連絡を取りますね」

 

 アメリカ代表GMブライアンはこう答えた。

 

「アメリカは俺の庭だ。その庭で、俺の街でこんな素敵なギフトが並ぶようになったんだ。だったらこれは当然俺への貢物だろう? 素敵な事じゃないか。日本人は俺の為に新しい環境を用意して、新しいモンスターまで用意してくれる。流石同盟国だよ、ははははは」

 

 欧州最強、ドイツ代表エレーナはこう答えた。

 

「罠? 見て解るだろうそんな事は。だが関係がない。ただ確保する。それだけだ」

 

 中国代表リュウはこう答えた。

 

「自分の国の長所を態々捨てて来ましたね……とても愚かな事ですが、都合が良い。マネーゲームでまさか我々に勝てるとでも?」

 

 イタリア代表、前GMマルコはこう答えた。

 

「今から楽しみで仕方がないよ。何がって? 勿論、どんな素敵な女性になるかという事さ。女性型モンスターは誰もが美人、そして素晴らしい。新しいモンスターを育てるモチベーションは何時だって尽きないさ」

 

 交流戦の為にラスベガスに集ったあらゆるマスターがその時、偵察チームの報告に合わせてオークション会場へと集まった。その目的は1つしかない。死神という次世代型の最強デバッファーモンスターの素材が本当であるかどうかを確かめ、確保する事。

 

 日本が放出するという事実が本当なら、まず間違いなく罠だった。しかし同時に、これを確保しないのはありえない事だった。忙しくするオークショニアの姿に彼らはこれが本物だと即座に理解した。理解すると同時にこれは避けて通れない戦いでもあると把握した。

 

 そして始まるオークション。

 

 本来であれば開会を告げるオークショニアの代わりに、2人の子供がステージに立った。少女が目玉たる殺生石と告死蝶が乗ったカートを運んで、少年の方がマイクを片手にステージに上がっていた。

 

「みなさーん自己紹介は必要ないよね? そんな事しなくても俺が誰であるのかを皆さんは既にご存じだろうし、こうやって前に出て来た以上これが本物である事を理解したでしょう? そういう訳で本日は皆さんに素敵な追加情報を提供します」

 

 ででどん、と一枚の紙片を少年が掲げた。

 

「ここに根の国以外で死神が固有スキルを習得するのに利用できるダンジョンをリストアップしてます。もしかしたら日本国内のダンジョンかもしれないし、もしかしたら海外のダンジョンかもしれない。もしかしたら発見済みのダンジョンかもしれないし、未発見のダンジョンかもしれない」

 

 紙片をひらひらさせると少女の方が良く見える様に動かしたカートを、ステージ裏に戻して行く。

 

「これを2位の人にプレゼントします。良かったね、これで競り合いに参加しても決して無駄にならないよ」

 

 観客席でアーサーが片手で目を覆った。戦争だ。これは戦争になる。そしてこの時点で参戦を諦めて、脱走を決意した。東吾と尊に今度頭下げて根の国に行かせて貰おう。そう決意して即座にオークションからの脱走に入った。

 

 少年が―――尊が喋る度に会場内のボルテージが上昇して行く。もはや覇気とか殺意とかそう呼ばれるものが会場内で渦巻いていた。それを見て尊がいいね、とサムズアップをする。ギラギラと欲望とこの先の展望と、競り落とすか副賞の方を狙うか、駆け引きが始まっていた。

 

 戦争を生み出した張本人はやって来たオークショニアに紙片とマイクを返し、それじゃ、と敬礼する。

 

「じゃ、デート系の用事があるんで帰りますね」

 

 少年がステージを去り、そしてオークションに凄まじい覇気だけが残された。一般客は既に各国の強豪マスターたちが放つ威圧感に窒息しかける程の息苦しさを感じてた。オークショニア本人も息苦しさを感じつつも、今日はけた違いの値段が出る事への予感に胸を高鳴らせていた。

 

「さあ! 出品者本人からの熱烈なメッセージをお聞きになりましたね? 以上、裏ボスのドロップアイテム変異殺生石と、新たなモンスターの合体素材の告死蝶が本日のラスト、目玉商品となります! 出品者の希望で1ドルからの入札になっています! ですがそれ以外にも魅力的な商品の数々が用意されています! さあ、それではオークションを開始します!」

 

 座っていたブライアンは腕を組みながら天井を見上げ、深く息を吐いた。

 

「交流戦の前に殺し合いになるかもしれないな、これは……」

 

「―――ここで勝ち取った奴は今後、他の国に対してデバッファーの枠で明確なリードを取れる。だが2位はその国に対して交渉の余地が生まれる。誰の入れ知恵か知らないけど中々えげつない事をするねぇ、あの子」

 

「マルコ」

 

「やあ、ブライアン。とりあえずエレーナちゃんだけは協力して落とさない? 既に図書館とか言うカード握ってる国に握らせたくないんだけど」

 

「副賞を取られても面倒か……」

 

 どの陣営も殺意を漲らせながらラストゲームへと向かって暗闘を始める中、唯一、マスター仮面だけが笑顔のまま邪魔される事無く、1つ1つ落札して行く。

 

「あ、それも落札でお願いします―――あ、もしもし、総理? はい、全て順調ですよ。はは、勿論、今年は勝てますよ。他の国と違ってオークションで無駄金を使いませんからね、私達は。おぉっと、欲しかった素材だ。おや? 他に落札する方がいない? おっと、これも落札出来てしまった―――はは!」

 

 1人だけ良い空気吸ってるマスター仮面へのヘイトが爆上がりするが、ある意味そんな事を気にしている場合ではなかった。ただ落札するだけでは駄目だ。副賞、用意された情報と組み合わせてモンスターは初めて意味を持つ。

 

 本来であれば巨額と時間の投資を行って初めて判明する情報が手に入る。それを同盟国が手にすれば即座に運用できる所まで行ける。

 

 だが敵対的な国に副賞を奪われた場合は……あまり、愉快な結果にならないだろう。

 

 日本への妨害? そんな事気にしている場合じゃない。

 

 気にしている場合ではないのだ。ある意味、ここから逃げ出したアーサーは最も正しく、賢かった。ここに残されたマスターたちは全員、本当に交流戦とは関係のない所で暗闘を強要される事になった。

 

 今、地獄のオークションが幕を開ける―――!

 

 

 

「いやあ、オークションは強敵でしたね」

 

 オークション会場の煮えたぎる欲望を全身で浴びたいとか言ってた狐を小脇に抱えて会場を出る。

 

「あんな舞台に立つのは初めての事だから中々緊張したな。良い思い出になった」

 

「仮面の人も総理からゴーサイン貰ったとか言ってたしね。なんか電話の向こう側で人を殴る音とかしてたけど俺、賢いから聞こえなかったフリするよ」

 

 政治の場で偉い人たちが拳使って意見を通してるとかちょっと考えたくない事実だし。でも今の総理、元マスターって話をテレビかなんかで聞いた気がする。考えてみれば過去にチャカアグロ握ってた人が将来総理になれるんだから日本って希望のある国だよな。

 

 オークション会場から脱出した所で久遠と並んで背筋を伸ばす。良い仕事をした達成感に包まれている。今回はどんどん煽れと上から言われて俺は煽った。つまり何も悪い事はしていない。最後までオークションを見れないのは残念だが、俺が残ってたらまず間違いなく変な事に巻き込まれるから先に逃げて正解だと思う。

 

 清々しい気分でオークション会場を後にしつつ、もう二度とこんな所利用してやるかと心に誓う。とりあえず、これで俺達の社会見学は終わりだ。確かな達成感と共にオークションを後にし、ラスベガスの街に繰り出す。

 

「折角2人きりになれたんだ、どっか行く?」

 

「あれ、わたくしの事は存在しない扱いにするんですか?」

 

「そうだな……確か近くには大型モールがあった筈だし行ってみるか?」

 

「抱えながら私の存在をスルーするのって結構な高等技能じゃありませんの?」

 

「じゃ、小うるさい大人はいないし、2人で行くか」

 

「もしかして私防犯グッズ扱いです? んもー、これだから若人はー」

 

 これで手元の防犯グッズを抜きにすれば邪魔ものは全ていなくなった。そう、今、状況は俺と久遠の2人だけである。後は何とか周りに人がいない状況を作れば1対1で話す事が出来る。これまで忙しかったり邪魔があったりで中々チャンスを逃していたが、今日こそは大事な事を伝えないといけない。

 

 そのチャンスをふいにしてはならない……!

 

 心の中でぐ、と拳を握ると目の前にリムジンが止まり、窓が開いた。

 

「マスター仮面さんに言われて迎えに来ました」

 

「うむ、ご苦労。……どうしたミコト、すっぱいものを食べたみたいな顔をして」

 

「いや、なんでもないです……」

 

 そうだよね。子供だけで外に放り出せないよね。迎えを寄越しておくよね。

 

 ……はあ。

 

 今日はオークションを地獄に叩き落とすだけで終わりかあ。

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