取れない!
久遠と2人だけの時間が! 取れない!!
割と大事な話をしたいのに2人になれる時間がない! そこそこ覚悟してるのに!!
おかしくない!? 流石におかしくない!? だって俺徳を積んでるよ? ここまで世界と日本の未来に貢献してる男も珍しいよ? パペッター倒して物理的に日本の未来を救ってるよ?
おかしくない!?
「ミコト? 具合が悪いのか?」
「具合というより世界が悪い」
「それはどうしょうもないな」
リムジンでホテルに戻され自由移動は消えた。今から外に出ても護衛を付けられるだろうし、久遠とラスベガスのちょっと景色の良い場所でデートしつつお話は無理か……?
いや! 何を諦めてんだ!!
ホテルの中がなんだ! ラスベガスの景色がなんだ! 2人きりになる場所を探してそこで話せばいい! ちょっとだけロマンチックな空気が欲しいなあ、とかいう乙女心は捨てろ!
このホテル内であれば誰も文句は言わないだろう。まずは屋上辺りに行こう。そこで久遠と2人きりになってお話を―――。
「お、帰ってきたか尊。1位から素材を確保しつつあるって聞いたぞ。ちょっとスキル構成の話がしたいし今から時間を取るぞ……ってどうしたんだ、その表情は」
「いや……何でもないです……」
場所は問わないとか考えたところ、東吾にエンカウントして用事をねじ込まれた。しかも内容が内容なので俺が欠席するわけにもいかず、肩を落としてとぼとぼ東吾について行くしかない。
「ミコト」
東吾について行こうとすると久遠に呼び止められる。
「頑張れ」
「おう」
久遠にサムズアップを見せてから東吾について行き、会議室へと向かう。暗黒樹海で実装されるであろうスキル、その中からコンボ運用出来るものや悪用できるもの等をリストアップし、今度は味方のモンスターを見て何が活用できそうか確認する。
それが終わればどこの更新枠にするのか。保険用の入れ替え枠は? メタ枠の入れ替えはどこにする? それを話し合う。
モンスターバトルはパワーゲームではあるが、同時にメタゲームでもある。
上位帯になればなるほどスキルは強力になり、複合効果を持つようになる。その為、メタスキル1つで戦況は大きく変わる。
現在の環境を見ると強めのスキルは出ているが、複合スキルが少ない。これは特定のスキルの組み合わせや指定された合体でのみ出現するスキルなので、事前にレシピを知らない限り作成することができない。
なので、この世界では広まっていない。
代表例で言えばエグゼリアのソルグラントだ。現環境でおそらく単体最強のモンスターと言われているのは純粋にそのバカ性能が原因なのに尽きる。
逆に言えばこのレベルの性能は最上位帯だと普通にある。これを石礫の如く投げ合うのが最上位帯のクソゲーで、今のリアル環境にはこれが欠けてる。
真面目な話、これ抜きでエンドコンテンツに挑むのは難しい。
たとえば超越の魔女。彼女のメインとなり、最強のスキルである《超越》は魔法による会心ダメージを発生可能にし、詠唱コストを踏み倒し、回数制限スキルの使用回数を+1するとかいうイカレた性能をしている。
これが真の上位帯なのだ。
それと比べると今の環境は弱すぎる。決戦に参戦? 邪神レイド? 冗談は止めてくれ。皆殺しになるに決まってる。だから環境をインフレさせるのは大事だし、必要なことだ。
だけどそれが出来るのか? という話をすると難しい。
国益、介入、立場、確執。
素直にインフレさせてくれるほど、世界は優しくない。それができる立場は……やはり、世界一の存在。
即ちグランドマスターだけだ。
「……よし、今日はこんなものか。手間を取らせたな尊」
「いや、必要な事だって解ってるしな」
ちょっと残念だけど! ちょっと残念だけど!!
日本だけでもインフレを進める為の準備を終えて、会議室から部屋に戻る。これで用事は片付けた。久遠と2人きりの時間を作るぞ! そう息巻いて部屋に戻るも、久遠の姿はなかった。
「姐御なら母親とお出かけしたっすよ。会議室に行ったらしばらくは戻らないだろうからって。パパさんは出場が近いから手続きに行ってるっすよ」
「……」
「うおっ、露骨にしょんぼりしてる」
頑張って仕事を終わらせたのに久遠がいない。なんか、今日はもう何をしても駄目って感じがする。溜息を吐いてララを持ち上げたら、そのまま自分の部屋に直行する。
それからベッドに横になり、ララを抱えたままゴロゴロする。
「ほーら、かわいいモフモフっすよー。吸っても良いっすよ」
「すぅぅぅぅぅ―――死の匂いがする」
「誰のせいだと思ってるんすか???」
ごめんごめん。
……。
最近忙しくてなんかゆっくりしてなかった。気づけばイベントからイベントの準備、そこから支度とかで全く自由な時間がない。最近、あの女神達のアクションもないし、この1件が終わったらしばらくダンジョンとか忘れて日々のランクマだけの日常を過ごすのも悪くないかもしれない。
休暇半分で来たが、思ってたよりも忙しい……まあ、半分ぐらい俺が悪いけど。
「まあ……いいや……少し寝るか」
やることもないし。久遠もいないんじゃ暇だ。少し、ゆっくりしよう。
そう思い、目を閉じた。
そして眠りは直ぐに訪れる。
パソコンの電源を落とすかのように。
その頃。
夜月久遠は母親とモールを歩いていた。高級嗜好のモール内部にある店舗はどれも一般人にはやや辛いと思える額の商品ばかり並んでいるが、メインターゲットとなるのは主に高ランクマスターと観戦に来た富裕層。
故にモールは寂れる事もなく、需要を満たし続けていた。
普段質素な辺境生活をしているからあまり認知されていない事だが、久遠はお嬢様だ。Aランクは国家級戦力。その家庭ともなれば上流層と言っても過言ではない。
そもそも生活を捨ててレイドにドハマリしたあげく社会から脱出した廃人が生息してたりする環境がおかしいのもあるが、久遠の家庭は普通に金のある家の娘だ。
ここに尊がいればモール内の店舗が飾る商品の額を見ておえー、と一般市民感覚で吐き気を覚えるだろう。
だがAランクの金銭感覚を身に付けてる久遠からすればこれは比較的に見慣れた数字だった。
「ふふ、次はどこを見ようかしら? 尊くん抜きで来ちゃったのは悪い事をしてしまったわね」
「……? 何故だ? また尊と来れば良い。その時は私が案内するしな!」
「さっすが私の娘、つよつよね! 夜月の愛は押して押して押しまくるものよ! 貴女もドンドン尊くんを攻めなさい!」
「無論! もはや奴は私抜きでは生きていけない体だ……まさしく骨抜きだな!」
モールの中央でドンと胸を叩いて自慢気にする久遠をカワイイと言いながらシャッターを切る。そんな風に久遠の姿をファインダーに捉えて撮る動きを止めて、久遠の母、夜月美代が問いかける。
「ねえ、久遠ちゃん」
「ん?」
「貴女は……尊くんが好き?」
「好き、か」
母に問われて久遠は首を傾げる。久遠は意図的にその言葉を避けている事を自覚していた。そして尊もまた、その言葉を意識して避けていた。お互いに好き、という言葉は今の関係を変えてしまう様な気もして、口に簡単に出す事は出来なかった。
同時に、そこまで自分達の感情が成熟しているのか、という疑問もあった。
久遠は間違いなく尊との時間を大切にしている。自覚して一緒に居たいと思える様な関係になっていた。だがその言葉を好き、の一言で表現するのは躊躇っていた。元々与えられた関係だったが、今ではこれが自分たちの関係とも思える様になった。
それをただの一言で表現するのは勿体ない、或いは違うのではないか、と思っている。
そんな娘の様子を見て美代は微笑んだ。
「そんな深く悩まなくても良いのよ」
ぽんぽん、と久遠の頭を撫で、それから続ける。
「久遠ちゃん、貴女が尊くんにもしも好き、って言われた時に胸の奥が熱くなるのを感じたら……きっと、それが答えよ。それだけ覚えておけば良いわ。何よりも、こういうのを切り出すのは男の子の仕事だし」
「母もそうだったのか?」
「いいえ、私は先に押し倒したわね」
何を? という言葉を久遠は飲み込んだ。その先を聞いてはならない様な気がした。だが間違いなく自分の血がこの娘には濃く流れているのを美代は察していた。好感度稼ぎすぎると危ないぞ、と心の中で尊に警告を送るが、それを口にする事はなかった。
夜月家は夜月家で、あの真摯に向き合おうと頑張る少年の事が気に入っていた。
始まりは剛三の横暴なものだったが、蓋を開けてみれば2人の相性は凄い良かった。不思議と柊剛三にはこの手の逸話が尽きない。まるで最初から引き合わせるべき人物を知っているかのようにマッチングが出来る。そしてその組み合わせは必ず優秀な子を残す。
まるでそれが目的かの様に。
事実、柊家の孫の代は全員がそれぞれ、何らかの才能を有している。
「私に解るのはこの先、尊とずっと顔を合わせる事になっても飽きる事はないという事だけだ」
「あらあら」
それが惚気だと知らずとも出て来る言葉に嬉しそうに美代が微笑み、ムーンウォークで腕を広げながら変態が2人の視界にスライドインしてくる。
「吾輩、感動しましたッッ!!!」
しかも泣いている。
大粒の涙を流しながら腕を広げてポーズを決め、距離を空けようとする親子へと向かってスライドするように移動する。その姿はまごう事なき変態であった。
「Love! それは真に尊いもの! 誰もが愛を向け合うが、真実の愛とは何なのか! 愛とは形あるものなのか! はたまた形がないからこそ愛なのか!? 千差万別、しかしそれにあえて答えを出さない事で表現するッッ!!」
んんん、と変態は唸ると後ろで爆発っぽいエフェクトが発生する。
「美しい……!」
「久遠ちゃん、帰りましょうか」
「そうだな。帰ろう」
「おぉぅ、少し待ってください。吾輩を見捨てないで。ね? ねね? ちょっとお話しよう? ね?」
親子に先回りするように割り込み、それから笑みを浮かべる中年程の男はポーズを決めながら話しかけて来る。
―――或いは、久遠も美代も、気づくべきだったかもしれない。
今、このモールで、この3人に視線を向けている者が1人もいない事実に。
「まさしく源石。素質を感じる。素晴らしい。貴女はパーフェクトな役者になれる。ステージの上に立ってみないかな? 吾輩、君の為なら1曲書き上げる事に一切の躊躇もない。おぉ、インスピレーションが溢れだす―――おっと、失礼、挨拶がまだだったね」
返答を許さぬ速さのマシンガントーク。反論を許さぬ勢い。一方的に喋って2人を止める男は礼を取って挨拶をした。
「吾輩、しがない劇作家―――ゴーストライターと呼びます」
にたり。
「どうぞ、どうぞどうぞ、よろしく! お願いしますとも!」