合体。
別名、沼。
合体はこのゲームにおける最大のコンテンツであり、沼だ。
血統図にはモンスターの属性やステータスが記録され、その組み合わせによって最終的に出来上がって来るモンスターが派生する。その為強力なモンスターを生み出す為にはステータス、属性、スキル、そして特殊な組み合わせに注意しなくてはならない。
結局のところ、ゲームとして有名になるにつれて最初は混沌を極めていたこの血統図も解析されたり検証されたりで全てが明らかになった。最終的には攻略サイトを確認して最適な育成方法を実行すれば最強のモンスターを作る事も出来るようになった。
これはどんなゲームも辿るエンディングだ。そして同時に対戦という沼への新たな入口でもある。
そう、この合体や強化のシステムが誰でもできるもの、誰でも理解できるものでないと対戦という最大のコンテンツへと入る事が出来ないのだ。だが合体システムそのものは複雑にしたい……そういう葛藤が見え隠れしたのが血統図というシステムだった。
実際、DLC導入前の本編はそこまで酷い合体継承を繰り返していなければどうにでもなる難易度だった。
メインクリア後のDLCのシナリオは育成、厳選、合体関連の緩和、改善が入りそれでこれまでの数倍楽にモンスターの作成が出来るようになった。その結果、DLC、特に後期のものはこの環境前提の作成難易度になっていたりする。
だがその果てに最強のパーティーは完成する。
そして、ラスボスは後期DLCで追加されたモンスター達で攻略する事前提の難易度だ。
本当に、最悪に備えるならアイツらが必要になる。
俺の結論パが。原作が果たしてどれだけ先の事かは解らなくても、備える事だけならできる。
「必要なのは育てて、戦って、勝って、そして更に強いモンスターを作る事か」
「ミコト? どうした?」
「いや、なんでもないよ」
年も明けて新年過ぎ。近くの神社にお参りがかなり長い距離を飛行する事になるという事を除けば普通の年明けになった。いや、これは大嘘だ。都内の新年なんてテレビみておせち食べてそれで終わる。今年は夜月一家と一緒に初詣に出るという前世含めて初のイベントに遭遇した。
もしかして前世で覚えのない徳を積んでたのかもしれない。
レート上がる直前のプレイヤーを敗北させたとかそういう類の徳。
久遠の暴露からしばらく、その力を使ってなんとか、本当になんとかモンスターを揃える事に成功した。その後レベルを上げて、必要なスキルを習得させて、その上でトレーニングを施す。それが終わる頃には既に年が明けていた。ゲーム内では10分の作業が現実だと1か月もかかる。
果たしてSランクに上がるまでには何年かかるのやら。
何にせよ、準備が整ったらやる事は1つ―――合体だ。
漸く、ここまで来た。
駆間市のモンスター協会が備える合体施設、普段から人気なのもあって利用するには事前に予約する必要がある。今回は1週間前から予約して漸く利用する事が出来るようになった。シンギング・バードを作成した時の様に協会へと向かい、エレベーターに乗って更に地下へと移動する。
バトルフィールドのある階よりも更に下へ、他の人が間違っても入って来れない様な階へと。
そうやって辿り着いたフロアの奥には巨大なシリンダーの様な機械が三つ並び、機械によって制御されている。そしてそれらを管理する合体施設の主は。
「―――」
空になったエナドリの山を前に倒れていた。
「立ってください!!! 立つのです!! まだ試したいレシピが後100件あるんですよ!! 検証無くしては進歩なし!」
「んんんん、理論上この血統が最強。んふふふふ、試さなくてはならない……そう、検証! 検証です!! 検証しなくてはならないのです!!」
前に予約していた人達によって担当者が死ぬ一歩手前までデスマーチに追い込まれてた。エレベーターから降りたところで腕を組みながら死にかけている合体おじさんの姿を眺めていると、助手らしき白衣の女性がやってきた。
「やあやあ、事前に予約していた鴉羽尊くんだねぇ? 僕ぁモンスター博士の助手を務めてるQちゃんさ」
「この前と全く同じ自己紹介してましたね」
「自己紹介にカンペ使ってるぞこの女」
「おやおやぁ? そうだっけ? まあ、そういう事もあるさ! なにせ人間の顔と名前なんてモンスターの面白さと比べると覚える程の価値もないと思うからね! おーい、博士ー! 次の予約だよー! 君らも終わりだよ終わり! いったいどれだけ追加でやるのさ!」
「終わらない! 終わらせぬぞぉ! まだまだ試したいレシピが!!」
「検証結果を!!! 検証を!!」
無言でQちゃんが白衣のポケットからテーザーガンを取り出し2人を痺れさせるとエレベーターの中に放り込んで地上へと送り返した。未だに復活する気配を見せないモンスター博士に近づくと、5種類ぐらいのエナドリをミキシングしてからそれを口の中に叩き込み、無理矢理飲ませた。
「あの、もうちょっと穏便に……」
「無理する度にヒールしてたら体がヒールされるのに慣れちゃって耐性が付いちゃってねぇ!! あっはっはっは! 凄いね! ヒール耐性のつく人間って初めて見たよ!!」
「本当に人間かそれ?」
「
Qちゃんが大笑いする背後で、転がっていたモンスター博士が急に地面の上でのたうつ様に跳ね始める。白めの爺さんが地面をビチビチ跳ねまわる恐怖映像に思わず久遠と抱き合いながら震えていると、両足で着地した化け物が口からエナドリ色の息を吐いた。
「はあはあはあ……胸が……苦しい……!」
「博士! それは新たな合体への期待だよ!!」
「そうかな? そうかもしれんなあ……はあはあはあ……」
「明らかにエナドリのオーバードーズなんですけど」
明らかに息が荒くてヤバそうなモンスター博士に流石に合体頼むのは止めた方が良いのでは……と思いつつあると、その視線が俺達の足元にいる小さなモンスター達の方へと向けられた。
「ほう……ウルフパップか。それもこんなに連れて来るとは中々にやるなあ、小僧……はあはあ……レアなモンスターに純血統合体か? 中々珍しい組み合わせにモンスター自体の長所を伸ばしてるか……はあ、はあ……」
「動悸がヤバすぎるせいで言っている内容が頭に入ってこない」
一目見ただけでモンスターの名前とステータスを把握する辺り、やはりただのエナドリ決め過ぎて死亡寸前の爺さんという訳ではないらしい。その審美眼はモンスターの合体、研究に携わるエリートのものだ。
「さあ、博士! 合体の準備だよ!! 新しい可能性を模索しに行こう! レアモンの純血統合体なんて中々見られないし良いデータが取れそうだよ!」
「そうだな……はあ、はあ、うっ、胸が苦しい……!」
「それは新たなる誕生の前に向かえる試練さ!」
「成程、試練か……!」
「……」
俺達は黙った。何を言ってもきっとこの人たちには通じないんだろうなあ、というどことない確信があったからだ。だから2人の奇行はこの際頭の外へと追い出し、しゃがんで連れてきたモンスター達へと視線を向けた。
即ちチビと、久遠の協力で何とか手にする事が出来た他のウルフパップ
そう、複数。ここ1か月程ダンジョンに潜った成果でもある。
モンスターの獲得は基本的に野生のモンスターにバトルで勝つか、或いは非戦闘状態のモンスターに対して勧誘を行う事になる。久遠が目的のダンジョンを引き当てても素直に仲間になってくれるかどうか、という問題は多少あったものの、快くウルフパップ達は仲間になってくれた。
おかげで合流予定の血統もウルフパップで構築し始める事が出来た。ゲーム時代ならチートだチートと叫んでる所だろう。まあ、あっちはあっちで量産方法あったが。
そんな事があって今は足元に毛むくじゃらの群れがいた。これから何度かウルフパップxウルフパップの合体を行うが、この中で一番重要なのは最初の合体だけになる。
つまりチビの合体だ。
「チビ」
「わう」
しゃきーん、と気合の入った表情を見せるチビには気負う様子も、不安にしている事もなさそうだ。ただただ期待と興奮、そして漸く本懐を遂げられるという充実感だった。
「ありがとう、チビ。これまで一緒に居てくれて」
「わうぅうう」
「これからもずっと傍にいる? そうか、お前は自分がどうなるのか、その先が何なのか良く理解しているんだな」
「わう! わうわう! わふ」
首筋と頭を撫でてから手を離すと、自分から合体装置の方へと向かって行った。それを見届けながら溜息を吐くと、チビと合体予定のもう1匹のウルフパップが足元にやって来た。
「やって来たばかりだというのに、直ぐに合体させて悪いな」
「うわう! うわう!」
「気にしてない? ……そっか、ありがとう。短い間だったけど家が賑やかだったよ」
同じように撫でて、見送る。賢い子たちだから自分の行くべき場所が解っている。それを見送ると激しい動悸に襲われているお爺さんが機械にしがみつきながら操作している。見ていて不安しか覚えない中、近づいて来るQちゃんにアイテムを渡す。
「隠し味にお願いします」
「お、隠し味を使うんだね? ふむふむ、闇の魔晶石だね。これを使えば一気に属性を闇へと染める事が出来そうだねぇ! じゃあ早速投! 入!」
「ごめん、真面目にやってる雰囲気崩れるんでそういうノリ止めてくれません?」
人の話を聞かないQちゃんが装置にアイテムを叩き込み、合体の準備が整う。情緒もクソも感じさせない勢いで合体開始のボタンを押すとシリンダーの中に入ったアイテムと、チビと、もう1匹のウルフパップが分解されて行く。
「モンスターとは即ち情報生命体! そう! 純粋な情報が生命として形を作っている! 生命としては歪、だが同時に情報の塊だからこそ情報へと戻し、合体して補強するという事が出来る! ダンジョンはまるでデータスポットのような場所だねぇ! あっはっはっはっは! ヒュー! 今日は合体事故なしか……テンション下がるなぁ……あ、スキルの選択どうぞ」
コイツの存在法に引っかからないかなぁ、と思いつつ渡されたタブレットには想定通りのスキルの変化が行われている。そこから予定通りにスキルをピックアップし、次に継承されて生まれて来るモンスターが習得しているスキルが決定する。
それが終われば合体もいよいよクライマックスに入る。
部屋全体を光が満たし、情報が結合する。そこから最も相応しいモンスターの姿へと変貌して行く。
やがて部屋を満たした光が消え……中央の機械の中に、新たなモンスターの姿がある。
「おめでとう! ランクEのモンスター、シャドウウルフだ! いやあ、中々優秀なモンスターが出てきたじゃないか! おめでとう!!」
やかましい。
真っ黒な毛色の狼がそこにはいた。チビ、と呼べる頃の様な姿の小ささはもうない。一般的と呼べるサイズにまで成長した姿に、鋭い目つき、あのチビらしい愛くるしい姿はもうどこにもない。その姿からは種族以外にどこもチビの面影を感じさせない。
「……まあ、解ってた事さ」
別れはあるという事を。寂しさ半分、当然の事だと納得する自分が半分。思ってた以上にダメージがない事にダメージを受けていると、合体装置から飛び出してきたシャドウウルフが俺の前に行儀良く座り込んだ。
「がう!!」
「声も勇ましくなったな……もうお前の事はチビとは呼べないな、こんなでかくなって」
「がう! がうがう! がぅ」
「……そっか、まだチビで良いのか」
よしよし、と首筋を撫でると気持ち良さそうに目を細める辺りが……良く、チビに似てる。確かに姿形は変わってしまうが、それでも全てが消え去るものではない。それをこの新しいチビに触れていると、掌から伝わって感じて来る。
「ミコト……良かったな」
「ああ、そうだな……」
ちょっとだけしんみりとした空気が流れるとどさり、と音がした。
全員がそちらの方へと視線を向ければ胸を押さえたままモンスター博士が倒れてた。それにQちゃんが近づき、心臓マッサージを始めながら振り返って来る。
「じゃあ! 次の合体を始めようか!!!」
コイツ、何らかの法でしょっ引けねえか?