「見て見て。罠で死に続けてる間に蘇生してるからララが生と死の狭間を彷徨ってどっちにも戻れなくなってる。ダンジョンギミックのバグだぁ」
「命を弄ぶのは止めなさい……!」
消滅と蘇生中を繰り返し行き来する事で半分生きて半分死んでる状態にあったララは罠が終了した事で無事死にたどり着いてから生き返った。蘇ったララは数歩歩くと通りすがりの殺人鬼とエンカウントする。
「こんにちわ、私はここら辺を縄張りにする殺人鬼です。死んでくれますか?」
「いっすよ」
平和的解決によりララは殺され、通り魔は去っていった。何アレ……という目線で皆アレを見てるが、偶にダンジョンに現れるダンジョン専門の通り魔です。ランダムイベントで通り魔とか殺人鬼がダンジョンにポップする奴。DLCダンジョンでも出現するんだアレ……。
元々はダンジョン内にはマスターを専門にする犯罪者が居るって話から発展したイベントだった気がするんだけど、こういうダンジョンにまで出現するとなんかもう、話が違ってくるな。
俺達は通り魔の事を忘れ、ララを蘇生したら再び樹海探索を続行する。道中のアイテムを回収しつつ、特定のルートを通って行く。
暗黒樹海の草花の多くは吸光能力を持っている。ほんの僅かな光でさえ飲み込んで闇を維持する為の性質だ。この暗黒樹海という名のどでかいゴミ箱は神様が生み出した失敗作の数々を隠す為のものであり、同時にこの先へと進めないようにする為の警備員でもある。
まあ、上手くリサイクルしたな、とは思う。
さて、この吸光植物だが幾つかは変異しているものがある。これが道標になる。と言っても見た目だけでは解らない。ダンジョン内に闇を発するホタルが存在している。コイツを捕獲してから吸光植物に近づければ変異しているものか否か解る。
変異してない物はホタルに反応を示さない。
だが変異しているものはホタルの発する闇を吸収し、逆に溜め込んだ光を放つ。そうするとかつて、ここを歩んだ者の足跡が浮かび上がるようになる。これを追えば正しいルートで奥へと向かう事が出来るという訳だ。
ゲーム内でもやったギミックだ。ホタルの位置も、ルートもしっかりと覚えている。
サクッと回収して、指先に乗せた闇ホタルを正解の吸光植物へと近づけ、ルートを出したら進む。これを繰り返しながら奥へと進んで行くのだが、進めば進むほどホタルの回収が面倒になってくる。他のギミックを解除しなきゃ回収できない、行き止まりに行かなきゃ見つからないみたいな事が増えて来る。
なのでメタ知識でここら辺は突破する。神が用意したギミックに素直に付き合う必要はどこにもないのだ。
サクッと最短ルートを進む。道中、道から逸れない範囲でアイテムを回収する。この外でなら法外な値段がつけられるアンブロシアもこの15分の間にこんなに集まる。
「はい、アンブロ3個」
「うーん、取れる数がおかしい。これ、相応にレアなアイテムの筈なんだけど」
「外だと1%の抽選枠だけど、ここだと一般抽選枠だから結構出るよ。そもそも暗黒樹海含めたダンジョンのボスって専用編成推奨だから、ランクマに使う汎用編成で攻略する前提じゃないからね。その為にアンブロは多めに湧いて来るよ」
「事情が解らなければ無茶言うなの一言なんだよなぁ」
「尊くん、それは君が取っておきなさい」
「俺達にはほぼ無用だし、必要なら経済回すからな」
ありがたいお言葉を受けてアンブロシアを獲得する。既にちょい余り気味なんだよな……。その代わりに道中で拾った完全回復アイテムのソーマを酒クズに出荷する。
HPMPバステ解除蘇生効果のある最強の回復アイテムなのだが、酒だ。神々の霊薬とさえ謳われる神酒で飲むともう2度と外界の酒なんて飲むことが出来なくなるとさえ言われるほどの劇物。
それを酒クズが飲んだ。
数秒後、強い零とちゃんぽんし始めた。
「キマるわぁー」
人間を廃人にすると言われてる酒を飲んであまつさえチューハイとカクテルし始めた化け物を見て震える。
「本当に人間これ?」
「俺たちも割と怪しんでる。というか人間に飲ませるな」
人間向けじゃない酒を飲んでも平気なのはもう凄いを通り越して怖いの領域にはいるんだよね。
そんなイベントをこなしながら進んでいるとやがて大樹の根が作った大きなポケットが見えてくる。そこは樹海の闇の届かない場所であり、じんわりとした灯りを放つ場所だった。
闇に住まう者にとってこの光は毒だ。彼らはここに近づけない。
「あそこがチェックポイントだよ。転移像もあるからまずは村までのワープを開放しよう」
精神を削ってくる闇の行軍の中、漸く見えた安息地帯に仮面から息が溢れる。
「ここまで大体30分というところか。良し、拠点として活用できそうか確認しよう」
早速安息地帯に近づこうとすると、そこには既に存在しないはずの人影があるのが見える。敵かと思い皆が一瞬で警戒状態に入るが、俺だけは姿を確認した瞬間にそれが敵ではないと解った。
向こう側も、俺たちが近づいて来ると驚いたような表情を浮かべた。
「これはこれは! この様な秘境でまさかの巡り合いですねぇ! これもまさに商神フェルマナのお導きでしょう」
「皆、大丈夫。迷宮商人だよ」
安息地帯は大樹の根の下に出来たポケットの様な空間に作られたキャンプサイトだった。
遠い昔、誰かが立てたテントを始めとして、過ごしやすいように時間をかけて整備された空間だ。それもまた遠い昔、やや朽ちているものの、まだ利用できそうな状態になっている。
その中で巨大な鞄を背にするのは細目の男だ。
此方を見ると揉み手で頭を下げ、挨拶をしてくる。
「迷宮探索秘境探索魔境探索。どこへでも挑戦するアナタの味方、迷宮商人です」
「聞いたことがある。ダンジョンにしか出没しない商人がいると」
仮面の言葉に応えるように商人の鞄が開いた。上下左右に広がると棚やラックを展開し、そこから大量の商品を見せつけてくる。
「何者なんだ?」
「モンスター未満の人達だよ」
どういう設定だったっけなぁ、と思い出していると迷宮商人の方から答えが出てくる。
「私達は世界が終わる瀬戸際まで商売を止められなかった商人達ですよ。さりとて名声がある訳でも、力があるという訳では無い。何かになるには力不足。だからたまーに夢のように現れて消える、それだけの商売人ですよ」
「と、いう訳。おぉ……樹海の素材を揃えてるなぁ」
吊るされている商品の多くはそのエリアで手に入る素材だったりするが、掘り出し物枠にはレアなスキルカード等が置いてある。俺が警戒せずに商品を見ているのを知ると、他の皆も安心して近寄る。
「このキャンプは貴方が?」
「いえいえ、私が来た時には既にありましたよ」
「あ」
声を零したのはフラメアで、キャンプに駆け寄ると樽の上に置かれた日誌を見つける。直ぐにそれを手に取ったフラメアは早くこっちに来るようにせがんで来る。
「マスター! これ! これ!」
「うん、そうだね」
興奮しているフラメアが手にしているのは先日、フラメアと話した冒険者が実際に残した日誌そのものだ。これは彼が樹海に入ってから書いたものであり、樹海に関するヒントや所感が書き込んである。初見のプレイヤーはこれを手掛かりに樹海の探索を進めるのだ。
彼の足跡を追う形で俺達は更なる深みへと進む事が出来るようになる。
ちらり、と大人たちを見るとあっちは商人と並べている商品で盛り上がっているようだ。心配する必要はなさそう。
「マークスの日誌……! マスターはこのことを知っていたんですよね? あ、いや、やっぱり止めてください。ネタバレは厳禁です、何も言わないでください!」
「言わないよ。取らないし、落ち着いて読んで。それ、そっちの言葉で書いてあるし、図書館にさえ置いてない原本だから―――」
「解ってます、落ち着いて、傷つけないように、ちゃんと保護して読みますから」
好きな作者の新作を漸く手にしたファンの様な姿を見せるフラメアは普通の少女の様で可愛らしかった。モンスターじゃなければ、普通の少女として小説を読んだり、書いたりする日常なんか過ごしてたのかな……なんて思えてしまう程度には普通の女の子に見えた。
「しかしこうも日誌が残されているのを見ると、他にもキャンプ地があって、そこにも日誌が置いてありそうですね……うぅ、他のを回収できないのが一生の心残りになりそうです」
「そこは、まあ、次の君たちに託すしかないね。タイミング的には最終世代になるだろうけど」
「アルティティシア様ですか……」
超越の魔女。最強の魔女。賢者の石を唯一完全に使いこなせた人物。究極の魔法使い。数多の称号を手にした魔女、そのゲームにおける立ち位置は最強の魔法アタッカーだ。だがフレーバーテキストを見る限り、元はかなりの問題児で将来性なんてないとか言われてたらしい。
誰にもドラマがある。それはモンスターもそうだ。いや、特にモンスター達はそうだ。
大切そうに日誌を胸に抱きながらそうですね、とフラメアが続ける。
「私の、私達の野望は次の、そしてその次へと受け渡して行く事にしましょう。ですが……今は私の番ですからね」
「ま、もうしばらくはお前との付き合いだな」
「ですね。その日が来るまで全力でお支えします」
会話が丁度良い区切りを迎えた所でおーい、と後ろから声を掛けられる。
「尊、ちょっとこれを見てくれ」
「え、なになに」
東吾に呼ばれて商人が展示している商品を確認すると、赤い羽根が飾られていた。見覚えのあり過ぎるそれに思わずうおっ、と声が漏れた。
「フェニックスの羽じゃん!? なんでこんな所に!?」
「いえ、それが風の悪戯か樹海の中まで飛んで来まして。この樹海の中でもこの光は吸われる事無く永劫輝き続けますからねぇ、簡単に見つけられましたよ。どうです? 欲しくありませんか? なんと、たったのフェルマナ金貨50枚です」
「なんてもんを要求しやがる」
商人の要求に密かに震えているとそれで、と修三さんが聞いて来る。
「このフェルマナ金貨、というのはどういうものか解るかな?」
「あぁ、えーと、ダンジョン内で稀に拾える金貨ですよ。合体にも使えないから収集品としてしか見れないんだけど」
ウェストポーチにごそごそと手を突っ込む。なんとこれ、館長が誕生日にプレゼントしてくれたもので所謂マジックバッグとか異世界で呼ばれる、中の空間が拡張している素敵アイテムだ。これとセットになる指輪を装着する事で、ポーチの中に突っ込んだものを即座に引っ張り出せるのだ。
とても便利。
あったあった。
「これ」
ポーチから金貨を取り出すと、全員で囲んで金貨を見る。仮面が成程、と頷いた。
「見た事があるな。というか拾った事もあるし死ぬほど余ってるな」
「換金できないし使い道がないから倉庫で腐ってる奴だな。根の国でマラソンしてる時にちょくちょく集まってたけど困ってた奴だな」
酒カスが胸の谷間に突っ込むと形の歪んだ金貨が出て来た。そこ、マジックバッグになってるんですか? 流石に形が歪んでるのはアウトらしい。商人が頭を横に振った。それからこっちを見て、にこりと微笑んだ。
―――まさか。
ポーチを逆さまにして振った。
ずどどどどどど、とこれまで集めて来た金貨が全てポーチの中から放出される。それを1枚1枚カウントすれば、ジャスト50枚揃っているのが解る。俺が要求されている内容を理解した瞬間、商人は良い笑顔で告げて来る。
「今、ここで買わないと消えますよ―――私が」
「君が消えるのか……」
「まあ、迷宮商人って時間経過で消えるからね……成仏に近い形で」
フェニックスの羽、合体素材アイテム。フェニックスの要素やフェニックス本体を作成する為に必要なアイテムだ。フェニックスそのものは倒さないとロックが解除されないから合体する事は出来ない。
だが。
「これ、スキルカードに加工して貰うと強力な複合回復系スキルや回復系パッシブスキルになったりするから、東吾パワーアップブースターになるんだよな……」
正直言うと、将来設計を考えて楽園と歌姫用に俺も4個ぐらい欲しい。つまり最終的に火山島でフェニックスマラソンする必要がある。だがここでこれを購入すればマラソンを減らせる。減らせるけど今必要なのは俺じゃない……!
「……」
東吾は無言で目薬を取り出すとそれを差し、うるうるした目で此方を見つめて来る。
「尊……」
「微妙に渋めのイケボで迫って来るなコイツ」
「迫真の演技だね」
「カスの行いだけど」
「大人が子供に奢ってくれって迫ってるの、単純に絵面として最悪だよね」
東吾から逃げるように視線を商人に向けるとちらちらとフェニックスの羽に視線を向け、欲しくないの? とアピールしてくる。いや、滅茶苦茶欲しいんですけど今使うの俺じゃないんですよ。手に入れるのは俺じゃないんですよ。
俺も欲しいんだよ!!!
「うおおおお―――!!!」
苦悩の雄たけびを上げながら金貨を迷宮商人に差し出す。
「ください」
「まいどあり」
俺達の友情に乾杯。