泣く泣く金貨を全てはたいてフェニックスの羽を購入し、東吾に手渡す。まあ、倉庫に金貨余らせてるらしいからどうせ日本に戻ったらその分返してくれるんだろうけど。それでも集めたトークンを全て消費するという辛さは誰だって解ると思う。
財布が軽く感じるこの感覚は……!
手に入れた羽を東吾が掲げる様に見る。その視線は俺から腰の叡智の書へと向かい、それから目を閉じて頭を横に振った。それは超えちゃいけないラインだと思ったのだろう。まあ、俺もどちらかというと東吾には賛成だけど。だから俺達の一瞬の視線はそれで終わり。
「いやあ、良いプレゼントを貰ったなぁ! 俺だけパワーアップして悪いなあ!」
「ほんとにな。それ1個で自転車がロケットエンジンに進化するぐらいの戦力アップするからな」
「いいなあー!」
「ずるーい! もっとソーマ寄越せ! 次はウォッカとちゃんぽんする!」
「はい、歪沢さん。お水」
修三さんにお水を渡されて無言で水をこれは酒だ、酒なんだと言いながら飲み始める狂人が現れた。とりあえず予定外の迷宮商人で戦力アップのチャンスを掴めたが、そもそもここには樹海の素材収集のために来ている。
しれっと付いて来ているシェイナにキャンプの整備を頼み、キャンプからあまり離れない事を意識しつつ雑魚戦を開始する。数戦俺抜きでやるとなると最初は初見殺しもあってやや苦戦するが、リカバリー能力が高い歴戦のマスターばかりだ、直ぐに慣れて来る。
樹海のモンスターは全て《暗黒樹海》を起点にしている。対象指定不可なのを利用して盤面のロックやハメを多様し、そこからランタゲ攻撃を連打、或いは全体を連打する事で反撃を封じながら攻撃してくる様なエネミーが多い。
フィールド破壊か、或いは全体攻撃を繰り出せばとりあえず対処できる。最初に現れた廃棄物58号みたいに絶対回避があるなら必中を、汚染タイタンの様な高耐久高耐性相手には火力を持ったランタゲ攻撃で数段を集中して叩き込む。
対象指定不可は最初は驚くかもしれないが、リカバリー手段を用意していれば対処はそこまで難しくない。少なくともPvEレベルだとそこまで苦戦する程ではない。
少なくとも東吾ならフィールドを割れるし、慣れた仮面マンなら必中付与したユニゾンアタックによる全体攻撃があるし、酒クズはメインとなるモンスターが5~8ランダム対象攻撃持ちなので、必中付与からのOC確定ランタゲ攻撃で大抵の生物を蒸発させられる。
なお、《暗黒樹海》と一番相性が良かったのは修三さんで、戦い方がダントツでえぐかった。
A交流戦はSと違って1日でトーナメントを行う予定の為、近いうちに他国の方々はこれを相手にしなきゃいけないのかぁ、と思うとちょっと同情したくなってくるぐらいには現時点で修三さんの構築の仕上がりは凄かった。
なんせ俺と相談し、根の国解禁以降俺が告死蝶貢いで、再合体済みで、スキルも図書館から持ち帰ったものを輸入済み。東吾レベルで環境最大アップデートを受けているマイ・義父なのだ。久遠の笑顔の為にも、負けさせたくないのだ!
という訳で樹海に留まって4時間ほど。
キャンプを整備して、雑魚を殲滅してそそくさと素材を集め、回収できるアイテムを回収したらキャンプサイトに設置されている転移像を起動して村へと戻る。
暗黒樹海内部と村ではそこそこの時差がある為、村に戻ると数日という時間が経過している。外の時間も良い感じに結構進んでいる為、交流戦の開幕まで後少しという時間が近づいている。村に戻ったら暗黒樹海で手に入れた素材をまずはホドロの所へと持って行く。
解禁される上位とでも呼ぶべき性能のスキル群。
その中でもひときわ輝くのはフェニックスの羽から作成できるスキルカードだ。
その素材を前に、スーパー樹海人から普通の樹海人に戻ったホドロはエナドリを片手に唸っていた。
「見事だ……聖なる炎の羽、まさかこれを目にする日が来るとは」
ホドロくんは感動していた。この村の住人の役割は監視だ。あの暗黒樹海から廃棄物たちが外に出てこないように見張るのが彼らの役割なのだ。
だから一生をここで過ごし、そして変わらない。
あと何回アレをクソボケ扱いすればいいんだ?
そういう訳で、ホドロもこのフェニックスの羽を見るのは初めてなのだろう。これほどのものを扱える事実に感動を覚えていた。
「この羽で戦争引き起こせそう」
「止めろよな。怖くなってくるから。それで、これでどんなもんが作れるんだ?」
えーとね、と言葉をおいてからホドロと一緒にちょっと話をすり合わせる。ゲーム時代に何が作れたのかは知ってるのだが、本当に作れるかどうかを確認する。
うん、出来るみたい。
じゃあ、とタブレットをサポート班の人から受け取ってデータを書き上げる。元々用意してなかったデータなので今から打ち込まないといけないのがちょい面倒だが……良し、出来た。
作れるもんのデータはこんな感じ。
《浄血炎》。キャラクターはあらゆる状態異常に対して抵抗を獲得する。
短いテキストながらシンプルにインフラ枠のスキル。バッファーやヒーラーに積んでおきたい一枚。数字的には抵抗は大体40%だが、基本的に命中率100%の世界で抵抗を獲得出来るのは運ゲーに持ち込めるという話なのでだいぶ変わってくる。抵抗アップの発動スキルと組み合わせてもいいね。
ちなみに上位のモンスターの中には特定のバステに高い耐性を持つものもいる。それと合わせて100%耐性は作れる。それと組み合わせた運用も普通にある。
次。
《再誕》。パーティ1保有制限。自身死亡時に味方全体のHPMP死亡状態を完全回復させた状態で蘇生する。1戦闘1回まで。
ボス戦におけるインフラその2。これ無しで絶対に大型ボスとは戦いたくない保険、全滅攻撃を乗り越える裏技。保有制限はあるが、これありなしだと攻略の快適さがまるで違ってくる。バカのスキル。死んだら全員復活ってなんやねん。
次。
《不死の黒い炎》。パーティ1保有制限。自身がフィールドで生存する限り敵対対象の受けるヒール効果が反転する。
バカの置物。見ての通り。置いておくだけでもう仕事はする。反転ヒールからデバフの付与を抜くだけではなく、発動メッセージがないので潜伏性もある。試しにヒールしたら死因になる酷さ。死んでくれ。なお嘘つき人形とかでライフ反転してると逆に倒す手段が消えて詰みになる。
最後。
《始原の炎》。パーティ1保有制限。敵味方全体HP100%回復。敵全体に火傷、蘇生不可を付与。現在のフィールドを破壊する。1戦闘1回まで。
《不死の黒い炎》と合わせてワンパンで全てを滅ぼすアクティブスキル。反転ヒールは全体を一瞬で壊滅させる手段が乏しい……というよりも手札が少ないが、大技枠にこれが入ってくる。
とりあえず生で! という感覚でこれを打ち込めばパフェキャン率100%の反応が返ってくる。通せば勝ちというスキルは確実に止めなくてはならない枠の為、把握している人間は絶対に打ち消しを切る。
「フェニックスの羽で作れるのはこれが全部かな」
「言っておくが、1個しか作れないからな」
ホドロの残酷な宣言に東吾が崩れ落ちた。まあ、この中から1個だけとか言われたら発狂もんだよな。しかも2個目は手に入るかどうか怪しいし。
フェニックスそのものはまあ……皆もこれで大体予想できるだろう。東吾と同じスタイルだが純粋な上位互換で、反転ヒールを常時ばら撒く害鳥だ。しかも合間に貫通や確定ダメ、反転耐性破壊まで飛んでくるのでもうほんと最悪だ。
「ぜ、全部欲しい!!!」
「見てくれよ、30過ぎた男の情けない叫び声をよ」
「全部4枚ずつ欲しい!!!!」
「私も欲しい!!!」
「情けない大人が増えた」
選べるスキルは全部優秀だし、1枚から機能し始めるスキルも多い。どれを選んでも損しない地獄のハッピーセットだ。問題は2枚目を取得するのはほぼ数年後になるということだ。
そこからマラソン込みで最強スキル編成揃えるのにどれだけ時間がかかるんだ?
ダンジョンの時差さえなければなぁ。
ホドロの前で崩れ落ちていた30代の児童は起き上がるとふぅ、と息を吐いてからじゃ、と挨拶する。
「来年の交流戦に間に合うようにするから」
「ほんとやめろ」
「俺も友達がそのまま失踪するのは嫌だよ。言っておくけど、このメンバー全員で挑んでもフェニックスには勝てないからね」
あ、そういうレベルなんだ、みたいな顔をされる。
「尊、お前の無法スキル込みでもか?」
「《メタ観測》? アレはカスとの接続ありきだからな。それに単純にスペック差がありすぎてな」
東吾を含めた今の人類のモンスターってDLC導入前の無印世代だから、インフレする前で弱いんだよね。このままだと戰うには常に最適な行動を選び続けるしかないが、それにしたって基本的なスペックで負けてて押し切られるだろう。
うん、無理かな。
「というわけで、苦しんで選んでね」
「うごぉ」
成人男性の情けない唸り声を無視して、修三さんに近づく。しばらくは東吾の苦悩タイムとホドロの無限地獄タイムだろうから、少し時間があるはずだ。今のうちに頼んでおくべきだ。俺1人の力では限界があると解ってるし。
「尊くん、どうしたんだい?」
近づいてくると用があると解ってにこやかに応対してくれる修三さん、父性で溢れまくってる。思わずパパみに溺れそうになるが、ここはぐっと堪える。
「えっと、実はお願いがありまして」
「おや、珍しい。君が頼んでくる事となると久遠の事かな」
完全に言い当てられているので素直に頷く。
「久遠と大事な話がしたいから出来たらベガスで2人きりでデートできるタイミングってないですか―――」
そこまで喋った所で、がっしりと肩を掴まれた。振り返ると眼鏡をかけた女性のサポーターの人がいた。
「それってつまり告白する、って流れよね!?」
「え、鴉羽くんが告白するの!? ベガスで!? えもえもじゃん……!」
「え、デートプランが必要なの!?」
「少年少女のデートを演出できるチャンスだって!? 乗らなきゃ、このビッグウェーブに……!」
修三さんに話かけた筈なのに暇そうな外野が一瞬で全員乗っかって来て、気づいた時には既にコントロール不能の事態に陥っていた。どうしようこれ、デートする気なのはそうなんだけど告白とかじゃなくてもっとこれからの事とか、俺の認知の話とか……俺の命の話とか。
どうして俺が人の顔が見えなくなるのか。見えなくなったのか。その原因の話とか。
そういう事を話したかったのに。一瞬で話は俺と久遠のデートをプランする話へと飛躍していた。
「まあ、ミコト様と奥方様の逢引きですか? 私も力になります。当日は大神より授かった神力でサポートさせていただきます」
「上を立てて滑り込む作戦で来ましたね? 湿気でじっとりしてませんかこの巫女? ちょっと風通し良くしません? ここを去れば空気も良くなると思うんですけど」
「どの口で人の事言ってるんすかこの魔女」
完全に俺のコントロールから離れちゃったなぁ。助けを求めて修三さんを見上げると、修三さんも諦めの表情を浮かべていた。
「言うタイミングが悪かったね」
「そっかぁ」
これ、玩具にされるの確定したな、俺……。