最強以外ありえない   作:てんぞー

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アイツ気持ち悪いぐらい早口でずっと呟いてるな

 俺の身柄が密かに玩具にされる中、東吾は苦悩し続けてた。

 

「図書館産の素材で単体魔法の全体化が出来るようになる……その事を考えると合体魔法ではなく《アポトーシス》を全体化させる方が単体で完結して安定する……《暗黒樹海》とコンボ運用すればパフェキャンをくぐり抜けて反転を付与できる。この点から《始原の炎》が必殺スキルとしての価値が高い。《浄血炎》はセット運用する抵抗強化スキルが欲しい。《再誕》は腐らなすぎるし保険として最強クラスだがこれ自体は火力がないから保険にしかならない……いや、腐らなさは凄いしアグロ環境下で相手の攻撃をかわしてから無償復活するのはだいぶ強い。《不死の黒い炎》が正直奇襲性能が一番高い上にパッシブスキルだからパフェキャンでもインタラでも効果そのものは止められない……その事を考えると一番パーティーコンセプトと合致する、だが前に戦った嘘つき人形みたいなライフ反転モンスターと戦う場合、解除する手段がないから一瞬で詰みが確定する。1度でも使えば性能が割れるからまず間違いなく対策されるから、交流戦以降は詰み札の可能性が高くなる……そうなるとここで勝つ為だけに取るか? という疑問が出て来る。複数枚入手できるなら話は変わってるがバリュー的に付け替え前提で運用できるものじゃない。そうなると選択肢として一番良いのは《再誕》か《始原の炎》だ。使用後は間違いなくパフェキャン吐かせられる上に必殺スキルとして機能する《始原の炎》か、これからどんな状況でも絶対に腐らない《再誕》か……反転ヒールはデバフ耐性そのものがボスにある事を考えると反転化を付与させられないパターンがボス相手にはある。そう考えると火力としての役割が《始原の炎》は持たせられない。そうなると全滅保険になる《再誕》のバリューが高まるが、大会などの対人戦想定になると間違いなく《再誕》よりも《始原の炎》が厄介になる。ダンジョン想定か対人想定、どっちに重みを置くかでこの二択になってしまう……!」

 

「アイツ気持ち悪いぐらい早口でずっと呟いてるな」

 

「お静かに」

 

 わなわなと手を震わせながら東吾が続ける。

 

「だが……だが……今回を勝つだけなら《不死の黒い炎》を選んで、交流戦終わったら外すという択もある……!」

 

 狂気の向こう側にたどり着きそうな東吾を諫める。流石にそれはスキルが勿体ないよ。こんなチャンス、中々ないし。ただ、絶対に勝ちたい1戦の為にこうする……というのは割と真面目にありな選択肢なんだよね。

 

 叡智の書が利用可能ならまず間違いなくやるだろうし。でもこういう事やってると叡智の書が目的で付き合いがある……みたいな感じになりかねないからあんまりこういう事で書を使いたくないという気持ちもあるんだよね。東吾もたぶん、同じ考えだから何も言わないんだろう。

 

 だからそのまま苦悩してくれ。俺も玩具にされるから。

 

 それからたっぷり1時間ほど東吾は苦しみに苦しみ抜いて、俺も横でラスベガス必勝デートプランみたいなものを聞かされ続けて、時間が過ぎる頃には東吾も覚悟の決まった表情をした。

 

「プロポーズと娘が生まれた時以来の苦悩だった……」

 

「死ぬほど苦しんでるなコイツ」

 

「贅沢な苦しみだよ」

 

 ホドロにスキルカードの作成を頼むと東吾は震える手でフェニックスの羽を渡す。ホドロも震える手で羽を受け取ると、エナドリを摂取し、七色のオーラを放ちながら迎え撃った。それから2、3程言葉を交わすと頷いたホドロが作業場へと向かって行く。

 

 スキルカードの作成作業はそう時間がかからない。1枚数秒程度の作業だ。それでも全霊を込める様にホドロは羽から力を抽出すると、それをスキルカードへと変換して行き、大量の触媒を消費しながらその作業を完了させる。

 

 完成されたスキルカードはホドロの前で静かに浮かんでいた。力の元となったフェニックスに似た赤い色の装飾が施されたカード。手にしたそれをホドロは東吾へと渡す。

 

「出来たぞ、望みの物だ」

 

「ありがとう……ふぅー……出来てしまったか」

 

 完成されたスキルカードを手にした東吾はそれをしばらく見つめると、俺の方に視線を向ける。

 

「ありがとう、尊。この借りは必ず返す」

 

「良いってば。東吾も強くなれば俺の行けるダンジョンも増えるし、ライバルは強い方が楽しみだし。俺がSに上がるまで強いままでいてくれたら俺はそれでいいよ」

 

 根の国以来の付き合いでしかないが、これからも楽しく友達でいようね。お互いにちょっとほっこりしてからさて、さて、と仮面が区切る。

 

「今持ってる素材は全てホドロ氏に渡して、スキルカードの作成作業に入って貰う。私達はそろそろ引き上げる。時差の関係で外の日数もだいぶ経過している筈だ。近々修三氏のA交流戦が始まる。まずはそっちに集中して貰う。尊くんで遊ぶのはその後だ」

 

「今、俺で遊ぶって言った?」

 

 手に入れたスキルカードを東吾は迷う事無く自分のエースモンスターに、ラファエラに使用する。スキルカードはラファエラの前で溶けるように消えると、背に生えた純白の翼を赤く染め上げる。力が無事にラファエラに馴染んだ所で翼の色は元に戻り、新たな力を手にした。

 

 これで暗黒樹海でやるべき事はほぼ終わった。

 

 これ以上の攻略は現時点では無理だ。樹海のボスを倒したり、本格的な探索は将来、時間がある時にやろう。

 

「撤収だ。ラスベガスに戻って交流戦Aランクの部に備える!」

 

 ぱんぱん、と手を叩く1位の言葉に合わせて撤収を開始する。まだまだ回収していないアイテムなんかも多いが、これ以上滞在すると時差の関係で本当に色々とギリギリになりかねないのでそそくさと荷物を畳み、暗黒樹海から実家へ。

 

 牧場に新しく樹海と祭壇とホドロの作業場が出来つつあるのを見てから図書館へと向かい、そこで久遠を回収してから再びラスベガスへ。

 

 後はホドロからカードを回収するだけだが、時差の事を考えれば翌日には図書館経由で回収すれば問題ないだろう。もはや暗黒樹海で稼ぐ事もしばらくはないだろう。後はもう、交流戦で戦うマスターたち次第だ。

 

 ラスベガスに到着する頃にはもう既に夜になっている。

 

 日程も交流戦の開幕は明後日となっていて、ギリギリ1日休み時間があるぐらいだ。その間に交流戦に備えて……となると本当にもうスケジュールの余裕はない形になる。

 

 Aが終わればSの方も直ぐに出番がある。

 

「さて、皆お疲れ様。とりあえずダンジョンで蓄積した疲れを落として欲しい。明日は軽いミーティングだけを挟んで休息の為の自由時間にしたいが……修三氏?」

 

 修三さんに視線が集まるも、修三さんは大丈夫、と手を振る。

 

「スキルも戦術もしっかりと詰めてあるから大丈夫だよ。下手するとこのままSでも戦えるって尊くんにも保証されちゃったからね」

 

 ダブルサムズアップで応える。俺がしっかりと監修してコンボ、キルルート、マスカンを話し合った構築な上にしっかりと最新環境にまで適応してるので、今人類で一番強いAランクであるのはまず間違いない。相手がエスパーで予知能力者でこっちの手札全部割ってマスカン合わせて来るなら話は別だが人類にそんな奴―――おるわ。

 

「ねーねー、ソーマが無限に湧き出るダンジョンってない? ねーねー、まだまだ持ってないあれ? ねーねーねー、他に酒ない? お酒」

 

「本当に、本当にウチの歪沢が申し訳ありません! 本当に……! 椿さん、相手は子供、子供ですよ! 子供に酒をたかる様な恥ずかしい姿は見せないでくださいよ、ね! ほら! あっちにビールサーバーありますよ! 好きですよね? ビールサーバーの下に寝転んで飲み続ける奴! ほら、行きましょう!」

 

「びーるさぁばぁ……」

 

 この酒クズが敵にいなくて良かったなぁ、と思う反面敵に回った所で脅威になりえるのかこいつ? みたいな疑問はある。実際に戦う所を見たら意見が変わって来るのかもしれないが、それはそれとしてもうちょっと信用できそうな姿を見せて欲しい。

 

 それ以前に人間性どうなってんだアレ?

 

 まあ、いっか。

 

 本日のマスター活動は解散。夜月一家でホテルの部屋に戻る。ここまで戻ってくると漸く1日が終わったなぁ、という感じがする。部屋では美代さんが待っていて、お帰りなさい、と俺達を迎えてくれる。

 

「その顔を見ると色々と成果があったみたいね」

 

「いやあ、僕は尊くんや皆について行くだけで精いっぱいだったよ」

 

「ふ、私の尊だからな。活躍するのは当然の事だ」

 

「こんにちわ、久遠の尊です。所有権を主張されました」

 

 ―――さて。

 

 これ以上時間をかけるともしかしなくてもあの暇そうにしている連中に俺と久遠のデートがネタにされ続けるだろうし、いっちょ、ここら辺で俺から久遠にデートに誘うべきなのではないだろうか? 面白がってるのは事実なんだけど、悪意がないし楽しそうにしてるから口を挟みづらいんだよね。

 

「あぁ、そうだ、尊」

 

「うん?」

 

 部屋に戻って修三さんと美代さんが少し離れた所で、久遠が手を取って俺の目を見る。

 

「交流戦、貴様もサポーターとして実際にフィールドに出るんだったな?」

 

「そだよ」

 

 マスタースキルを肩代わりしたり、マスター自身が戦闘不能になった場合代理で指示を出したりする為に控えで戦闘に出るマスターが必要になる。それがサポーターという立場でもある。ゲーム時代ならともかく、リアルだと流れ弾でマスターが何時の間にか蒸発してるというケースも過去にあったらしい。

 

 だから試合をするなら交代で指示を出せるマスターが必要らしい。

 

 暴れ出したモンスターを鎮圧する為にも。

 

 怖ぁ。

 

「近々父の試合だ。そこには貴様も出て来る事になる。貴様もチームの一員として戦う事になるのだろう? とすれば父の勝利には貴様の努力も含まれるという訳だ。勝ったのなら褒美の1つでも出さなければ私の器が知れるという訳だ」

 

 俺の婚約者の器がデカすぎる。前世覇王かもしれない。やはり久遠は最高だな、と心の中で頷いていると、久遠が続けた。

 

「交流戦で貴様と父がAの交流戦に勝ったら、2人きりでデートしないか? 頼めば護衛は……そうだな、少し離れた所から見守る程度にして貰って、それぐらいは出来るだろう? 貴様と私で、ラスベガスでデートだ。やる気が出るだろう?」

 

 やはり俺の婚約者は器が違う。こうも俺が言い淀んで失敗する事を一瞬で、当然のように言えてしまうのだから。でも困った。

 

 それ、言うはずなのは俺だったんですよ―――。

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