最強以外ありえない   作:てんぞー

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これが、アメリカだよ

 翌日。

 

 起きて今日はゆっくりダンジョンの疲れを癒すか……なんて事を考えていると、部屋に見覚えのある人物が乗り込んで来た。

 

「尊……どうやら私に殺されたいようね……いいわよ、そんなに私をキレさせたいのなら殺してやるわよ……」

 

「アレ、アンナもアメリカに来てたんだ。笑」

 

「わら、じゃないわよ。マジで1回殺すわよアンタ」

 

 ボディガードから銃を奪おうとするご乱心アンナをボディガード達が必死に宥めている。

 

 そう、アンナだ。柊アンナが来ている。何時も通りのゴスロリ服だから解りやすくて助かる。ぶんぶん金髪ツインテールを振り回しながら銃を寄越せと言っている姿は何時も通りのアンナだ。本当に何時も通りか? まあ、何時も通りって事にしておこう。

 

 とりあえずボディガードから銃を回収できなかったアンナは俺の前まで来ると小ジャンプして俺の襟首を掴むと、頭を引き下げてくる。

 

「代表チームに!! 同行するなら!!! 連絡!! しろ!! しなさい!! なんでアンタの口からじゃなくて清十郎の口からアメリカにいる事を私が知るの!?」

 

「すっかり忘れてた」

 

「何半笑いになってるのよ。笑う所じゃないわよ」

 

 いや、本当に済まない。すっかり頭から抜け落ちてた。アンナもアメリカにいるのかなぁ、ぐらいの認識だった。スーツも前のがあったし、それで良くない? みたいな気持ちは凄い強かった。反省する。ごめんなさい。

 

「謝ったからもういい?」

 

「頭の中で完結する謝罪は謝罪って言わないのよ……はぁ―――……」

 

 頭を抱えたアンナを見るのはまあまあ楽しいが、そろそろ話が進まないので謝ってアンナを正気に戻す。悪気はないんだ。完全に忘れてただけで。

 

 誠心誠意謝ると半ギレになりながら許してくれる。

 

「はあ……今回は私もスポンサーの事でアメリカに来てるの。顔を合わせる機会はあまりないと思うけど、何かあったら連絡いれてね。その時はスポンサーという立場で支援するから」

 

「というか王様と一緒にスポンサーやってるの?」

 

「そうよ。これは派閥関係ない柊家としての仕事だからね。適当なやつに任せると中抜きやら手抜きでまともに動かない場合もあるからね。私と清十郎の2人で担当してるって訳」

 

「はあ……頑張るなぁ……」

 

 特になにかするわけじゃなく、俺の所在をちゃんと把握していたかったらしい。取り敢えず変なことをしていないか確認したり、パペッター2世が発生してないか確認したら夜月夫妻に挨拶して、そのままアンナは帰って行った。

 

 どうやらキレる為だけに顔見せに来てるらしい。

 

 変なところで律儀だよなアイツ。

 

 挨拶回りを終えたアンナは現れたときのように素早く去っていった。まあ、忙しいのだろうなというのが解る。仕事の他に唐突に発生する邪神のテロにも警戒しなきゃいけないから大変そうだ。

 

 警戒してても防げるものじゃないしな。

 

 ここはSランクが沢山いるから安心、という訳でもないし。

 

 アンナが去ったところで予定のない1日が始まる。朝の10時まで何もせずソファでごろごろ過ごせるのは今だけだろう。この勿体ない時間の使い方こそ一番の贅沢ではないか? と最近は思いつつある。

 

 こういう休憩の日は暇かもしれないが、外に出るようなことをしない。

 

 プロにはしっかりと休息を取って、コンディションを整える日も要求される。特にAやSはBとは比較にならない規模の戦いをするので、しっかりと体調を整えることを要求される。

 

 それにサポーターとして出る俺もそうだ。

 

 なので久遠と肩を並べてソファでごろごろしていると、俺たちの姿を微笑ましく眺める修三さんが笑った。

 

「いやぁ、尊くんだらけてるねぇ」

 

「そう言う修三さんも今日は9時起きじゃないですか」

 

「あはは……そうだね、そこそこ緊張したり疲れたからね」

 

 一応、この人も先日の暗黒樹海探索では戦闘に参加してた。普通にモンスターが100レベあるから参加できてしまった、ともいうが。

 

「明日はオープニングセレモニーからA交流戦になるよ。尊くんはアメリカの大会は観戦したことあるかな?」

 

 試合映像だけなら、と答える。あまりセレモニーとか会場とか興味ないから試合映像しか見ないんだよね。東京の大会のときはあんなに人が集まるもんだな、と驚かされた。

 

「じゃあきっと、尊くんは驚くよ」

 

 修三さんは区切り、思い出すように呟く。

 

「アメリカが、モンスターバトルという興行にどれだけ力と熱気を注いでるのかに」

 

 修三さんの言葉に首を傾げる。言うて、セレモニーやろ? そんな派手にできるもんじゃないだろ。どこか遠くを眺めるように言う姿にオリンピックみたいなもんか? という認識を抱いた。

 

 

 

 と、その時はそう思っていた。

 

 

 

 当日を迎え、理解した。

 

 結論から言えばアメリカを舐めてた。

 

 東京で見たドームより遥かに巨大なドームは観客を収容しきれず外にまで観戦者を溢れさせ、既に外では事故が多発していた。ごった返す人混みはAランクの試合を行うとは思えない程だった。

 

 ホテルからスタジアムへと向かう短い時間の間には、悪気もなく道路に溢れかえり道を塞ぐ人達が。警察や軍隊がモンスターを連れて交通整理しているのにまるで間に合う気がしない。

 

 挙句の果てにはスキルを使って強制的に人やモンスターを動かすことで無理矢理交通を回復させている。

 

 降りてからもヤバい。

 

 スタジアムの関係者口から入ろうとするだけなのにごった返すバトルマニア達が暴動寸前のテンションで飛びかかろうとする。それを必死に傷つけない様にしながら抑え込む警察の姿には涙を禁じえない。

 

 それを抜ければスタジアム内。安心……という訳ではなく、次は現地スタッフの明らかに舐め腐った態度や言動が相手になってくる。

 

 政府からの許可も出てるので図書館経由でモンスター達を日本専用―――そう、日本専用のダンジョンが用意されているのだ。試合に使うのと同じ技術で拡張空間として利用するためのダンジョンだ。そこにホテルから連れてきたモンスター達を移動させれば、次はもうセレモニーの時間だ。

 

 オープニングからいきなりアメリカで人気のバンドが演奏を始めたと思ったら、ロック界のレジェンドが登場、夢のコラボに会場で失神者が出始める。

 

 その中で軍隊のモンスターによるパフォーマンス。

 

 MCにはハリウッドの有名なスターを。

 

 そして最後に。

 

「Fuck!!」

 

 ※アメリカにおけるこんにちわ! 皆さん元気ですか? の意。

 

「Fuck……Yeah! Fuck!」

 

 ※この様な催しを開催できた事にまずは関係者に感謝を、そして集ったあらゆる強者に感謝を……の意。

 

「FUCK!!!!」

 

 ※皆さん! 今日からこの強者の祭典を楽しみましょう! の意。

 

 大統領登場。あの人、壇に上がってからファックしか言ってないんだが? 皆もちゃんとファックで返答するの凄いね。なんで皆で盛り上がりながら中指突き上げてるのかは良く解からないけどアメリカの誇る自由の象徴とも言える光景なのは解った。

 

 大統領も国民も頭おかしいぜ。

 

 関係者席はこれらのパフォーマンスが良く見れる席が用意されてたので、他の日本チームの皆と見ていたが、熱量……いや、節々から感じる信仰の様な感情には驚くしかなかった。

 

 俺が東京で経験したものとはまるで違う。日本の大会は熱気だったが、こっちの大会はもはや狂気だ。

 

「これが、アメリカだよ」

 

 修三さんがそう言う。

 

「アメリカは今、最もモンスターバトルが栄えている国だよ。認定戦のシステムもだいぶ違うね。その根幹にあるのは力への信頼と信仰。この世界で最も実力主義を求める国なんだ」

 

「ジョージ・ワシントンが主のいないSランクモンスターと契約を交わし、共に独立戦争を戦った逸話は余りにも有名だな?」

 

 いや、知らない歴史の話ですね。仮面マンが唐突に俺の知らない歴史を語りだして軽く狂ったか? とは思わなくもないがそうか、世界融合した結果そんな歴史になってるのか……不覚にも面白そうだと思ってしまった。

 

「それ以来、アメリカにおいてモンスターとは力の象徴であり、モンスターバトルとは力ある者の象徴になっている。アメリカは自由と力の国だ。独立を勝ち取った背景からマッチョイズムが神格化されている。国民性とでもいうかな、勝ち取る事、強くある事が誇りなんだ」

 

「だからこうなる」

 

 この交流戦に招待されている国々はどれも世界ランキング上位の国家だ。つまり、ここで戦いを決めるのは個人の最強ではなく、国としての最強を決める戦いでもある。力と自由の国、アメリカ。死ぬ前はまあまあ自由という言葉が滅茶苦茶不自由になっていた気もするが。

 

「彼らは国としてバトルを愛しているんだ。だからこそ最もエンターテイメントに特化した国だとも言われている」

 

「ちなみに俺達には入場曲とか入場演出とかあるぞ」

 

「先日、演出どうする? って聞かれたけど久々過ぎてちょっと困っちゃったね」

 

「修三さんもそうなの!?」

 

 まるでプロレスみたいだ、なんて感想が出て来る。実際、“魅せる”という意味では一種のプロレスなんだろうが。アメリカはバトルをそういう方向性で進めて……それでいて現在、グランドマスターを抱えているんだから大したもんだ。

 

「さて、僕たちの出番も近いからそろそろ準備しよっか」

 

「おー」

 

 流石にここまで派手だとセレモニーを見ていても楽しいし、この空気を味わうのも悪くはないと思えたが……やはり、自分たちの心はバトルの方にある。相手は世界を舞台に戦うマスター達だ。一体、どれだけ抵抗してくれるのかが楽しみになって来る。

 

 修三さんと共に席から立ち、控室の方へと向かおうとする前に、久遠が此方を見る。

 

「勝ってこい」

 

「勿論」

 

 それ以上の激励は必要なかった。

 

 後は勝つだけだから。

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