最強以外ありえない   作:てんぞー

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まずは1勝頼むぞ

 セレモニー鑑賞から控室で。

 

 プロの試合に参加するのは初めてなので良い経験になると言われつつも内容を詰める。

 

 C帯まで限度だったこれまでと違い、BやA帯は戦闘規模が異なって来る。戦闘領域もダンジョンを展開し、その内部で行うのでこれまでは使用できなかった大規模な破壊攻撃を行う事が出来る。場合によってはモンスターがマスターを庇う必要すら出る。

 

 それにフィールドが広いという事は戦闘中に戦場の分断があり得る戦略になって来る。

 

 わざと遠くへと相手を飛ばして2対2と1対1の2つの戦場に状況を分ける事で相手の状況判断力や処理能力に負荷を与える事も戦術の1つになって来る。どちらもゲームにはなかった要素の為、戦闘前にそういうシチュエーションになっても対処できるように戦術の詰めを行っておく。

 

 無論、前日にミーティング含めてレクチャーは受けてるし、内容も詰めてる。だがそれはそれとして出来る奴はチェックをぬかりなくするというだけの話だ。なにせ1ミスが敗北どころか死に繋がる可能性のあるゲームなのだ。

 

 初めての事なのでしっかりと復習している時に、その人は出た。

 

「―――よ、調子はどうよ」

 

 軽いノックと共に控室の扉を開けたのはスーツ姿の初老の男だった。物々しいボディガードを引き連れた男の姿を見て、修三さんが驚きの表情を浮かべた。

 

「総理、来ていらしたんですね」

 

「おう、大統領にファックファック言われちゃあ俺も現地観戦しなきゃならねぇからな。ま、これも外交上の付き合いって奴だ」

 

 あの大統領、他国のトップ相手にファックで会話通すんだ……。ちょっと尊敬するかも。

 

 既に顔見知りなのか、修三さんと総理は和やかに言葉を交わすと、此方へと視線を向けてへぇ、と声を零した。

 

「そんで、これが秘密兵器って奴か。よろしくな、坊主」

 

「よろしくお願いします……」

 

 流石に普段と同じ態度で接する訳にもいかないからちょっとだけ丁寧に対応すると、がっはっはっはと総理が声を上げて笑う。

 

「なんだその元気のない姿は。方々で色々とやらかしてるんだろ? もっとふてぶてしくしてて良いんだよ。それよりも日本の勝利を頼んだぞ? 今年は勝つつもりで色々と話を通したんだからな。勝てなきゃ辞任だな! 俺の進退もかかってるからよろしく頼むぜ!」

 

「うす」

 

 もしかしてプレッシャーかけに来た? 中学2年生に国の進退預けるのはどうかと思いますよ……?

 

 心の中でこの総理の滅茶苦茶さに戦慄していると総理は真面目顔を浮かべ、俺の肩に両手を置いた。

 

「改めてありがとう。これまで俺自身からこの言葉を贈る事は出来なかった。だけどこの場で改めてお前さんに感謝させてほしい。例の東京の件、お前さんが派手に暴れたおかげでどうにかなったらしいな。俺の国を助けてくれてありがとう。そして情けない、俺達大人が済まない」

 

「いや、それは、俺が勝手にやった事だし、そもそも俺も相当滅茶苦茶な手段を取ったんで」

 

「それでもだ。子供ってのは何も考えずに好き勝手やって遊んで、成長する時間なんだ。なのに国の安全や未来を、そして倒すべき敵をお前に委ねてしまった。そりゃあ俺達の失態なんだ」

 

 こそっと修三さんが耳打ちしてくる。

 

「先日聞いたんだけど、歪沢さんは君とパペッターが対峙する未来を見た上で放置してたらしいよ。問題なく解決できるから、って上に報告した上で見逃すって判断したって」

 

 俺はそこまでそれを責めようとは思わない。実際、アレに対処できる人間が世界にいたのか? という話をするとなるとだいぶ怪しくなってくる。今の人類のレベルは相当低い。低い、というか環境初期に近い。それでパペッタークラスのモンスターを相手にするのは不可能だろう。

 

「偶々俺がいて、偶々俺が対処できた。それだけの話だと思うんですよね、これ。大人とか子供とかじゃなくて。対処できる奴が対処できたって話で」

 

「それじゃあ良くねぇんだよ。国の未来を担うのが若者で、それを守るのが大人なんだからよ……いや、この話の続きは今は止めておこう。試合の前にする話じゃねえな」

 

 この総理、良い人だな。悩んだり悔んだりする姿が演技ではなく、心の底から溢れるものだと解る。善人だ、それも未来を憂う事の出来る本当の。だから俺もこの話や考えをするのはここまでにして、ぐっと拳を握って構える。

 

「まあ、任せてください。日本チーム超強化したんで。今年、間違いなくどの国よりも日本が強いんで」

 

「おう! 期待してるぜ! それじゃあ夜月、まずは1勝頼むぞ」

 

「お任せください」

 

 修三さんは総理にそう答えると何よりも、と言葉を続けた。

 

「今日は初めて娘に生で試合を見せる事になりますからね―――えぇ、負けられませんよ」

 

「お、おう……珍しく凄い気合入ってるな」

 

 俺も久遠の前だし相当気合入っているのだが、修三さんは静かに見えてそれ以上に気合が入っていた。実際、駆間では戦う事がなかった修三さんが娘と妻の前で、代表として、マスターとして戦う事になるのはこれが随分と久しぶり……いや、久遠の前だと初めてなのかもしれない。

 

 父として立派な姿を見せるいいチャンスだろう。

 

「ま、様子を見に来たがこれ以上は邪魔になりそうだな。“日本”は応援してるって話なだけだ。じゃあな、俺はまた大統領の相手でもしてくるわ」

 

 そう言ってボディガード達を引き連れて控室を出て行く総理は再びファック……ファックと発音を練習していた。もしかして総理もファックで返答してるんですか? そっかぁ、これが外交かぁ……。俺、ちょっと政治家とは距離置こうかな……。

 

 ちょっとした驚きのゲストもあったが、それが終われば戦いの時間がやって来る。

 

 控室にまで届くほどの声量がラスベガスを震わせている。

 

 出番。それが来ると控室を出て、モンスター達と合流し、広くつくられた通路を抜けながらスタジアム中央へと出る。東京での大会を通して経験したこの流れにもう慣れた―――と言いたかったが、バトルの聖地とも言えるこのラスベガスの迫力は東京の比じゃなかった。

 

 そもそもあれはCランクで、これはAランク。それもSを見に来る観客たちまで詰め寄っている。

 

 世界最高ランクの戦いを見る為に世界中の人々が集まっている。そこに込められたものは比べようがない。押し寄せる感情の波は、それに敏感だからこそ感じられるものであり、俺がそもそも己の心を無にする様な技術を備えていなければ溺れてしまう程の衝撃だった。

 

 通路を抜けて中央に出て来るのに合わせて舞うのは桜の花、和を意識したエフェクトと音楽に、ライティング。日本代表である事を意識させたシンプルな演出にファンファーレが飛び交う。前を歩く修三さんが、恥ずかしそうに言う。

 

「控えめにしてほしい、って言ったんだけどね」

 

「それでも派手派手ですよね」

 

「だね。頼まなければ桜の木を生やしたり和ロックを演奏しようとしてたみたいだよ」

 

 止めて良かったね。

 

 中央は広いが、そこに存在するのはダンジョンゲートだ。空間の歪み、ねじれ、切れ目……それを複合させたような、別空間への入り口。モンスター達を引き連れながらその中へと入って行けば、既に対戦相手はその中で待機していた。

 

 第1回戦。

 

 対戦相手はAランク中国代表。

 

 フィールドは障害物がなく、見晴らしの良い草原。対面する中国代表は50歳程の男、サポーターとして3人、連れてきているのが見える。ほー、複数人でもええんか、そんな感想を抱きながら相手の視線が連れてきているモンスターへと巡るのを確認する。

 

「フェイ・リーさん、対戦よろしくお願いします」

 

「夜月さん、楽しい勝負をしましょう……日本が用意した秘密兵器、是非堪能させてください」

 

 フェイと呼ばれた男の視線が此方へと向けられたので、ささっとミストの足元に隠れる。お国柄もうちょっと険悪なやり取りをするのかと思ったが、普通に和やかに握手しているのを見ると、マスター単位ではそこまで険悪って訳でもないらしい。

 

 まあ、この世界、上のマスター層が悪人だと必然的に世界大戦に発展するからね……。

 

 大人が良い人だらけなおかげでギリ世界大戦に発展してない様なもんだ。

 

 世界のあらゆる国とマスターが仲良く居られたらいいね……せめてアイツ討伐するまでは……。

 

 Aマスター同士の交流に俺は不要なのでこの戦場をミストに上って、その上から眺める。どこまでも広く、そして何もない。その代わりに辺りには何台ものドローンが浮かび、このフィールドで何があっても全てを映像に残すという執念を感じる。

 

「ふふ、どうやら中国は当て馬にされたみたいね」

 

「ティターニア」

 

 ミストの上から辺りを見渡していると、ティターニアが浮かび上がって来た。

 

「1回戦の最初の試合でアジアの国をぶつけ合って西洋有利なマッチにしつつ、何もないフィールドで此方の手が見やすいようにしてるのね。この試合で晒した手札を残りの時間で解析して対策を練るつもりよ」

 

「まあ、トーナメント表の反対側にアメリカがあったし、作為は感じるよね」

 

「そうそう。まあ、私達と王子様となら関係なく蹂躙出来るでしょうけど」

 

 視線をティターニアから、相手フィールドにいるモンスターへと向ける。両手で長方形のフレームを作ってモンスターを1体1体確認して行く。

 

 麒麟、4足歩行の黄色い幻獣。風属性メインの魔法アタッカー。詠唱を必要としない魔法ダメージタイプの攻撃を得意としている。雷がジャンルとして風属性扱いだったから風属性の魔法アタッカーなんだよね。確か速度に優れている上に火力も高い。姿からしてアグロ向けにチューニングされてるかな。

 

 応竜、翼を持つ中華竜の姿をしており3本の足を持つ。水属性アタッカーであり、攻撃に対して追加効果で風属性へのデバフ効果を持っている。つまり麒麟とシナジーを組んで戦う事の出来るモンスターだという事だ。此方も魔力タイプで魔法属性アタッカーだ。ただシナジー優先なので攻撃力はそれほどでもない。

 

 最後に霊亀、巨大な亀のモンスターで今、この場にいるモンスターで一番でかく全長100メートル以上の巨体を誇っている。役割としてはタンクで、高い防御力とダメージカット力を持っている。物理半減持ちだったのが厄介だった記憶かなぁ。

 

 シリーズシナジーで強化しつつ応竜でデバフと初動を作って、バフと追撃連携で麒麟を動かして……って流れかな。大砲役が麒麟になるからそこを停止させれば一気に動きが鈍くなりそうだ。

 

「王子様、解析は出来た?」

 

「うん、プランに変更はなし。勝率9割って所かな」

 

「そう、楽しみね」

 

 ふよふよとティターニアが去って行き、俺もミストから降りる。修三さんも後ろに下がってきて、お互いにバトルに影響のない範囲まで下がる。中国代表も下がりながら指示出しの準備をする。いや、あっちも薄くだがシンクロ状態に入るのが見えた。

 

 Aになると低レベルのシンクロ状態を構築して意識のラインを構築しつつ負荷を軽減するのか。指示を出す瞬間に強化したり情報のやり取りをする感じ? 本当に色々と考えながらやってるんだな。

 

「尊くん、準備は良いかい?」

 

「勿論です。中継とマスキは任せてください」

 

「うん、心配はしてないよ。初動に変更なしで結構だから―――思いっきりやろう」

 

 修三さんの目を見て、うん、と頷いてから安全な距離な所まで下がった。

 

 そこで俺を中心にシンクロによる意識のネットワークを構築し―――戦闘前の準備が完了する。戦闘前の準備が整った所でドローンが此方と中国代表に近づいて来る。ドローンはモニターを抱えており、そこには試合開始までのカウントダウンが表示されている。

 

 これまで自分が経験した声によるカウントダウン開始ではなく、機械的で、狂いのない正確なスタートを行う為のやり方は、未経験の世界だ。上位帯の世界を感じる度に少しずつ自分の心がワクワクで満たされるのが解る。

 

 同時に、頭に軽い痛みが走る。

 

「さて、皆にカッコいい所を見せようか」

 

「はい」

 

 モニターのカウントダウンが進む。

 

 10秒前―――空気が変わる。

 

 一瞬で肌を突き刺すような戦意と殺意が渦巻く。

 

 5秒前。

 

 モニター越しに大量の視線を感じる。観察する視線。解析する視線。値踏みする視線―――信頼の視線。会場とダンジョン内では時差が存在する。外ではここでの出来事が何倍にも引き延ばされており、それを利用して一瞬で終わりかねない試合をちゃんと隅から隅へと確認できるようにしてある。

 

 そしてその視線は今、全てがこの場にいる者達に注がれている。

 

 0秒。

 

 全てが一瞬で動き出す。

 

 試合、開始。

 

 中国A代表フェイ・リーが現れた!

 霊亀が現れた!

 麒麟が現れた!

 応竜が現れた!

 《四霊陣》による四霊の連携力が上がった!

 《仙郷》が展開された! フィールドが上書きされる!

 《ストームライダー》! 麒麟の風属性攻撃が上昇した!

 《超巨体》によりあらゆる攻撃を霊亀が阻害する!

 《追い風》を受けて敵全体の風属性攻撃力が上昇した!

 

 戦闘開始と同時に怒涛のスキル発動による火力が上昇した。フィールド展開に伴い平原の姿が岩山の存在する神秘的な秘境へと姿を変えた。セットアップによる永続バフとブーストを見据えて、それが予想の範囲内であるのを確認し、うし、と呟きが零れた。

 

「勝ったな」

 

 ―――フィールドは後出し上書きというルールがある。

 

 同時にフィールドスキルを発動させた場合、後から発動させたフィールドがその効果を破壊し、上書きする。つまり最速で発動させれば効果を先に発動させられるが、上書きされるリスクが存在する。その為、フィールドスキルを使うモンスターは後出しする為に最遅調整を施す事が求められる。

 

 つまり、《暗黒樹海》の発動役は、足が遅い必要がある。

 

「詰めます」

 

「任せたよ」

 

 尊は《全能者の憂鬱》を嘆いた! 麒麟のステータスが2段階低下した!

 ティターニアは《無詠唱》で《暴走詠唱》を唱えた!

 霊亀の《インタラプト》! 《無詠唱》を阻害した!

 ティターニアは《インタラプト》でカウンターした!

 

 麒麟のステータスが2段階低下した。Cランク帯ではともかく、Sランク帯では使用可能となったマスタースキルによる、早速1試合1回のマスタースキル使用権が消費される。《パーフェクトキャンセラー》が飛ばないのは相手の構築に純粋なデバッファーがいない影響だろう。

 

 一瞬にも満たない《インタラプト》返しから追加の打ち消しがないかの確認、相手の《インタラプト》は切られた。2枚目があるかもしれないが、持ち込めるのは応竜ぐらいだろう。ならもう警戒する必要はない。

 

 タナトスナイトは《暗黒樹海》を呼び起こした!

 天蓋を覆う原初の闇が世界を覆いつくし、あらゆる存在を隠し去る!

 深き闇の中で対象を指定出来なくなった!

 

 それは元々修三さんが持っていた仲間を告死蝶を使って再合体させて生み出した、デバッファー/アタッカーなモンスター。役割として見れば特化させてない分中途半端に見えるが、このランク帯で、そしてこの構築として見れば十分すぎる力を持っている。

 

 最遅調整を施された黒い亡霊騎士が暗黒樹海を展開し、世界が原初の闇に包まれる。仙郷を破壊するように大樹が伸び、探索の時に見た景色へと全てが塗り潰される。2枚目の《インタラプト》が飛んでこない? タイミングを失った? 或いは起点を見極めている?

 

 どちらにしろ《インタラプト》はここで2枚飛ばす方がまだ目はあった。

 

 出来なかった時点で詰みだ。

 

 互いに戦闘のセットアップが終了し、打撃戦にここからは入る。だがその瞬間、中国代表が気づく。モンスターへと指示を出そうとして、闇に紛れるモンスターに対して直接攻撃する指示が取れないという事実に。そしてそれがフィールドの効果でもあるのだと。

 

 そこからどうすれば攻撃するのか、何が出来るのか把握するまでにかかる時間は数秒。

 

 致命傷になる。

 

 ティターニアの《ダブルマジック》《サモンフェアリー》!

 《女王特権》を使って《サモンフェアリー》のレベルを上げた!

 詠唱を5消費して上級妖精が召喚された!

 《ダブルマジック》の効果で追加で5消費し更にもう1体召喚された!

 「女王の敵を排除します」

 「えぇー、めんどくさぁーい」

 ミストドラゴンは《ミストスクリーン》を展開した!

 ミストたちは魔法攻撃に強くなった! 回避力が上がった!

 タナトスナイトは《ブラッドリッパー》を振るった!

 暗黒の闇に紛れて刃が研ぎ澄まされる!

 Random Hit!

 《超巨体》が全ての攻撃を吸い込んだ!

 霊亀に6回当たった!

 霊亀は出血した!

 霊亀の出血は悪化した!

 霊亀の出血は更に悪化した!

 霊亀の出血状態は既に最悪だ! これ以上は悪化しない!

 《瀉血》により霊亀は強制的に出血ダメージを受けた!

 流される血にタナトスナイトの《ブラッドサイス》が反応する!

 麒麟にダメージ! 麒麟は出血した!

 《瀉血》により麒麟は強制的に出血ダメージを受けた!

 応竜にダメージ! 応竜は出血した!

 《瀉血》により応竜は強制的に出血ダメージを受けた!

 霊亀にダメージ! 霊亀は既に出血している!

 《瀉血》により霊亀は強制的に出血ダメージを受けた!

 「敵を討ちます!」

 召喚された上級妖精が攻撃を行った!

 麒麟にダメージ!

 応竜にダメージ!

 霊亀にダメージ!

 「適当にやりまぁーす」

 麒麟に脆弱が付与された! 次に受けるダメージが1.5倍になる!

 応竜に脆弱が付与された! 次に受けるダメージが1.5倍になる!

 霊亀に脆弱が付与された! 次に受けるダメージが1.5倍になる!

 麒麟は出血している! 出血ダメージを受けた!

 応竜は出血している! 出血ダメージを受けた!

 霊亀は出血している! 出血ダメージを受けた!

 霊亀は死亡した!

 

 ぐおーん、と嘆く声が樹海の中に響き渡る。それは一瞬だった。防御力やダメージカットを無視してダメージを与えられる出血による割合ダメージの連打、それによって一瞬でぼろぼろになった霊亀は全身の血を抜かれて、その生命活動を停止する。

 

 それは暗黒樹海というスキルが影響を及ぼす範囲を認知しようとする間に起こった、一瞬の出来事だった。全くの未知、データにない攻撃方法は防ぐ手段も対処する手段も存在しない。それに一方的に中国代表のチームは大打撃を受けた。

 

 が―――これで壊滅する程弱くはない。

 

 死亡直後、霊亀の体が光に包まれ、蘇生される。所有していた自分を対象とする蘇生スキルは発動し、デバフを解除した状態で復帰した。それでもなお、状況は中国にとっては最悪で、此方にとっては完全に予想通りになっている。

 

 暗黒樹海を使った打ち消し逃れと高火力単体スキル封じ。開幕で使った《全能者の憂鬱》によるメインアタッカーの火力潰し。高性能なスキルによる一方的な火力展開、そして相手の攻撃手段を見抜いた保険。

 

 ここから盛り返す手段はない。詰んでいる。どれだけ遅延に入っても盛り返す手段はない。

 

 試合は、霊亀が蘇ってからそうたたずに決着した。

 

 無論、日本の勝利で。

 

 まずは1勝。

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