1戦目、3-0で勝利。ロクな反撃を出来ずに初見殺しが刺さった。対象を取れない効果は対処方法が解っていないとそのまま負けに繋がる凶悪な効果だ。これによってワンサイドゲームが成立した。だが相手も決して愚かではない。見たものは記憶される。
故に2戦目、対策が始まる。
イタリア代表。事前の調査によるとフルアタのアグロだった構築に、1体デバッファー枠のモンスターへと入れ替えられている。間違いなく1試合目の結果を見て《パーフェクトキャンセラー》を入れる枠を確保している。
「まあ、来るのが解っているから対処も簡単なんだけどね」
初手、《ロジックジャマー》で妨害耐性を付与して《暗黒樹海》を展開する。対象指定多めの妨害は樹海が成立した時点で役立たずになるので後は丁寧に磨り潰して終了。デバッファーが死ねば事実上タンクもヒーラーもいないアタッカー2体だけなので苦労する事はなかった。此方も3-0で勝利。
そして3戦目、ドイツ代表相手。
全体攻撃とランタゲ攻撃を積んできた。
これまでの試合を通して何が通らなかったのか、何が通ったのか、何をされたのかを把握されてきた。それを通して《暗黒樹海》展開中は全体とランタゲしか通らない事が把握されてしまった。とはいえ、戦術に関しては此方の方が理解度が上なので何も問題ない。
相手が全体とランタゲをメインにしたアグロ構築を押し出すのであれば、こっちはそれを逆手に取る。《暗黒樹海》ではなく《根の国》へと攻撃手段をシフトし、タナトスナイトのデバフ枠を打ち消し系多めに積み替える。その上でミストのスキルを単体攻撃寄りに調整する。
DLC未導入の無印世代の全体攻撃は威力がそこまで高くなく、ノーバフで受けた所ダメージは大体HPに対して3割から4割ぐらいになる。バフ込み耐える前提ならタンク抜きでも凡そ2割ぐらいまで軽減できる。対して単体攻撃は火力が高く、バフ込みであれば即死ラインを狙える。
《根の国》での即死を狙うなら火力の7割ラインを超えれば良いだけなので、開幕にバフでバーストした火力を叩き込めば解決する。1ターン目に相手のアタッカーを1人落とせば、後はタナトスナイトで足止めしつつティターニアで支援し、《全能者の采配》でバフってミストで1人ずつ殴り殺す。
修三さん元来のスタイルに戻って冷静に対処して勝利。対応の仕方は事前に見えてたものなので大して苦労する相手じゃなかった。今回も3-0で勝利。単純に《暗黒樹海》で来ると思わせて梯子を外して《根の国》で殴るだけなので凄い楽だった。
そう、《暗黒樹海》で来ると思わせて日本には《根の国》もある。別に《暗黒樹海》だけで殴る必要はないのだ。7割ダメージから即死するのだから相手が単体攻撃捨てて全体に圧力かけるように動くならこっちは1体ずつ丁寧に殺す方へシフトすれば良い。
PvPの対戦ゲームのメタゲームは研究と対策が全てだ。
対戦シミュレーションもTCGも変わらない。
強い札に対してはメタが存在する。そしてメタを起点にゲームが回る。そうしないとゲーム性が保証されないからだ。そしてメタが回るという事はメタに対するメタが存在するという事だ。今、他国が決勝までの道のりで対策した事は全て《暗黒樹海》登場初期に試された事であり、対策済みのメタだ。
そして当然、ここから更にメタや戦術は複雑化し、研究が進んで行く。その果てまでを経験したのが俺であり、そして知識を共有した修三さんだ。
つまり、今、この交流戦という範囲で行える対策は全て経験済みであり、そして対処できる範囲のものでしかないのだ。
そしてA決勝。
対戦相手は予定調和のように、アメリカだった。
「決勝は当然のようにアメリカか」
「まあ、一番強い国だしな」
関係者席のスクリーン前に日本チームは集まっていた。その視線の先にはこれから決勝戦を迎える修三と尊の姿が映っている。フィールドの反対側にはアメリカ勢の姿も見える。現時点で修三・尊ペアが勝つ事に対して疑問を誰も抱いていなかった。
それだけ2人のレベルは高く、戦術は完成されていた。現時点で可能なカウンター手段を尊は事前に全て予想し、それに対応するプランも構築していた。そして修三もそれに適応していた。既に強さだけを見るならAじゃなくて下位のS相手にハメ殺しができるだけの強さがあった。
その強さをAランク範囲内で止めるのは至難の業だ。だから勝利に関しては誰も疑っていなかった。だがスクリーンを眺める日本チームの懸念は別の所にあった。
「これ、Aを捨てて情報を取りに行ってるな」
コーヒーを飲みながら映像を分析する東吾の言葉に仮面が頷いた。
「A範囲では対処するのを諦めてどうやって攻略するのか調べてるな。たぶんだが裏で情報共有してるな。使い捨てにするほど彼らも弱くはない筈なんだがな……」
「そりゃあ大国と世界最強ってプライドがあるんだから、Aぐらい捨てるでしょ。1番大事なのは世界最強の称号なんだから、その前の汚れは多少被るでしょ」
椿の言葉に視線が集まり、椿が手を広げる。
「あ、つまらないからネタバレはするつもりはないから」
あっけらかんと言う椿に対して誰もツッコミを入れず、視線はスクリーンへと戻される。大人が話している間も久遠の視線は一度も父と婚約者から逸れる事はなかった。世界という舞台に立った2人の雄姿を焼き付ける様に。
「さて……どう来ると思う?」
試合の準備が進み、アメリカと日本で握手を交わすとフィールド中央から離れ、距離を空ける。試合開始前の最後の時間になる。
「尊が言うには最終的に環境は最遅フィールド展開と上書き、破壊による場のコントロールが基本になるって言ってたな」
「《暗黒樹海》を含めて発覚した新しいフィールドスキルはどれも凶悪だからな。既存のフィールドは僅かな恩恵がある程度だったが、今発覚しているフィールドスキルはシナジーを組むことで封殺へと持ち込む事が出来るレベルでハイスペックだ」
「上手く運用出来れば強みになる……今みたいにな」
アメリカ対日本、A決勝開始。
ダンジョン内の出来事は全てがドローンカメラを通して中継されている他、ダンジョン特性による時差を利用し、ダンジョン内の時間を遅くしている。その影響でスクリーンに映る映像は全てゆっくりと流れる様になっており、高速で展開される試合が全て目視できる速度まで落ちている。
アメリカが並べるのは3体の高速戦が得意なモンスター、対する日本はこれまでと変わらないメンツ。
試合が始まり、何もなかった平原が上書きされる。先にフィールドを展開してきたのはアメリカ側で、地形が深い谷を抱える山脈へと変化する。その後から樹海が降臨し、暗黒の領域が生み出される。
だがそれが維持されるのも僅かな間の事。次の瞬間には空間に亀裂が走り、フィールドが破壊される。
「やはりフィールド破壊で来たか」
珍しいスキルであり、環境での採用率が少ないスキルでもあった。だがそれを持ち出して来たという事は、1回戦で試合を見た後に急遽アメリカが調達してきたという事なのだろうと東吾は判断した。
実際、アメリカは《暗黒樹海》を見てFuckと叫んで調達していた。
初手、フィールド合戦からの破壊、空間が割れる残滓をまき散らす中でミストドラゴンが前に出る。展開される霧が全体を守護するように広がり、攻撃を通さないように味方を守る。それに反応してアメリカ側が凄まじいオーラを放ってくる。
「《無限覚醒》を切ったか」
「お得意のアグロで1ターン目に終わらせるつもりだな。樹海の再展開を許さないつもりだ」
追加行動と高火力コンボで一気に戦線を崩して戦いを終わらせる。消費MPの都合を考えればここを攻めきれなかった場合、敗北する可能性が高くなる。
故に、相手がフィールド破壊スキルを使うのを見てから《ワープスター》が入る。
速度順が逆転し、鈍足調整が施された日本チームが最速になる。再び《暗黒樹海》が展開される。それを想定してアメリカ側も全体攻撃を積んできている。増えた行動回数で全体攻撃を連打して、それでごり押す。
樹海の闇の中に閃光の様な攻撃の軌跡が描かれる。まるで雨のように砲撃が放たれ、地形を変えながら全てを消し飛ばさんと放たれる。
だがそれに対応するのはタナトスナイトで、《無詠唱》と《暴走詠唱》と組み合わせて詠唱スタックを確保すると《クイックスペル》で即時魔法発動、《ダブルスペル》で魔法を2度発動。全体の攻撃力を低下させる。
更に追撃してタナトスナイトからMP破壊攻撃。HPではなくMPへのダメージが開始する。ティターニアも無詠唱暴走コンボで上級妖精を召喚し、MPへと攻撃させる。攻撃力を下限まで落としつつMPを半分以上一気に削る。
ミストドラゴンの展開した防護と合わせ、《無限覚醒》による攻撃が半分通った所でガス欠になる。
「エグいなぁ」
「アグロ型は序盤でリソースを切る分、ガス欠しやすくなる。覚醒切って行動回数を増やしたらMPロスを誘発させて相手のリソースを自分から枯らさせる、か」
デバフの即時解除である程度火力は取り戻せるものの、失ったMPは簡単に戻せない。通常攻撃は《暗黒樹海》の再展開に伴い、死亡してる。つまりどう足掻いても防御以外の手段が取れなくなり、追加された行動回数が無駄に終わり、派手な攻撃は急にその勢いを落として終わった。
「―――事前にミコトが予測した通りになったな」
スクリーンの中、勢いが死んだアメリカのモンスターが少しずつ、樹海の闇に飲まれて行くように討ち取られて行く。焦らず、ゆっくりと確実に、MPというリソースを潰してもう二度と連続行動や連続攻撃が行えないように退路を断って処理する。
やがて、スクリーンの映像が正しい時間の流れを取り戻し、その内側で立っているのは日本側のモンスターだけだった。
3-0。
Aランク交流戦、日本が全試合完封勝利を収めた。
世界最強のAランカー、ここに決まる。