「いやあ、取り乱したな」
「いや、病院行けよ。行ってください。お願いしますから」
「先ほど心臓が止まってた筈だよな……?」
「はっはっはっは、今更この程度では死なないさ。もうこう見えて100年以上生きてるからな!」
わっはっはっはと博士と助手が並んで笑っている。この2人だけ物理法則がギャグ寄りというかなんというか……まともに相手しているだけ馬鹿を見る気がする。死にかけながらも普通に合体はミスする事もなく全部成功させているし。
プロであるのは間違いない。
お蔭で素早さ・闇に特化させたシャドウウルフと素早さ・光に特化させたセイントハウンド、そして力に特化させたダイアウルフを作成できた。ダイアウルフの方はセイントと合流させてDには1本化予定、そこからこっちの血統は力と光属性に特化させて進める予定だ。
これでサブのサブ血統の下ごしらえは進んだ。チビが担当するサブ血統の方の素材となるモンスターは引き続き用意しなくてはならない……真面目にこれは年単位でかかるプロジェクトだ。そう簡単には到達できないと理解させられる。
「しかしセイントハウンドとシャドウウルフか……もしかして合体予定かね? 相反する属性を合体させても特に意味はないから止めておくべきだとは思うがね」
「あぁ、違います。こっちは魔獣血統に、こっちは聖獣血統に伸ばしていきます。こっちは聖獣に合流させて力に徐々にシフトさせて火力を伸ばす感じで」
「純血統で染め易くする形か……となると最終的な立ち位置は神獣狙いかな?」
「いえ、Aでこの二つの血統は合流させます」
「A? Sではなく? それこそ勿体ない。今からこんなに丁寧な合体を繰り返しているのだ、Sで合流させれば間違いなく最強ランクの神獣、それも血統から狼型のが生まれて来るはずだが」
純粋に驚いた、1回心停止したせいかエナドリが抜けてだいぶまともな事が喋れるようになっている。1回死んだってなんだよ! って言いたくなるが、その話をすると俺が上位互換になってしまうので一旦忘れておく。このお爺さん、意外と話が通じる。
「そもそもチビ達はサブ血統です。本命へと合流させる為の血統ですから」
「サブ血統? 求めてるこの完成度と入れ込みようで?」
「ほほう、それは中々面白い話だねぇ! 君ぃ、中々遠い先を見据えて血統図を組んでいるね? 明確に何が出来上がるのかが解っているタイプのレシピの作り方だ。だけど君の言うレシピはちょっと見た事がないなあ……どこ情報? ねね? どこ? 教えてくれないかなぁ!」
「ウザ」
でも知識は本物なんだよなぁ。新しく生まれてきた3匹の狼が俺の足元にお行儀よくうろついてる。いや、行儀良くないな、うろついてるのは。でも癒しになるから良し。多少キチガイを見た所で直ぐにはキレないぞ。
「さあ? 思い付きでやってますので」
「えぇー、良いじゃないかー。少しぐらい教えてくれたってー。大丈夫大丈夫、守秘義務はちゃんと守るから!」
助手の事は無視して博士の方を見る。
「いや、言いたくないなら良いさ。君の真っすぐな瞳とその迷いのない血統図の組み方……昔の剛三を思い出させる」
「剛三? もしかしてジジイの事か?」
「そうだ、柊剛三の事だ」
ここで予想外の名前が出てきて驚いた。まさかあのジジイの足跡がこんな所にあるだなんて。
「ゴーゾーの事を知っているのか?」
「奴がまだ子供の頃、合体を担当したのが私だ!」
「そしてその頃も助手を務めてたのが僕さ!」
「すんません、年齢確認いっすか?」
免許証とか見ても良い? とか聞くと二人とも視線を逸らしてわはははと笑い始めた。わあ、怖い。
「あまり知られていない事だが昔、まだ剛三が若かったころ、奴はこの都市で武者修行をし、生活し、必死に働いて金を貯めて暮らしていた。マスターとして成り上がる事を選んだ奴はそれしかないから人生の全てをそれに賭けた……その為にこの都市にやって来た」
「ゴーゾーの子供の頃か……」
自分の全く知らないジジイの話が出てきた。成りあがって最強へと至った男。人格面がカスで、手の付けようのない最悪な男でもある。
思えば俺があのジジイに関して知っているのはそれぐらいの事だ。それ以上の事は知ろうとした事もなかった。
「あぁ、アイツはバトルに愛されていた。いや、バトルというよりはモンスターに、だな。知っとるか? たとえ同じレシピを描いて合体しても、モンスターから認められている者と認められていない者では出来上がって来るモンスターが違ってくる……必ずしも同じモンスターが合体で生まれてくるとは限らない」
「面白いよねぇ? 事故による揺らぎ、状況や環境による変動だってありえる話さ。でも何度合体してもまるでロックがかかっているかのようにそのモンスターを合体させられない、って人は結構多いのさ。逆に剛三くんみたいにモンスターに愛されているのかあっさりと合体できてしまう人もいる」
種族ロック、特殊合体ロック、条件合体ロック。
ゲーム本編でもあった特定のモンスターを解放するまではかかっているロックの事だ。サブイベントや友情イベント、愛情や交流を通してイベントを起こす事で様々なモンスターのロックが解禁され、合体できるようになる。ゲームシステムとして存在していたそれがこの世界にもある。
―――だがどうやら適用されない人間もいるらしい。
知れば知る程特異点みたいなジジイだ。1人だけ違う世界から迷い込んできた異物の様な感じさえする。或いは、遡ればジジイも俺みたいな存在なのかもしれない。何故自分が唯一無二だと思うのだろうか? 俺が1人目なのか2人目なのか、それは誰にも解らない事だ。
「剛三は真っすぐな奴だった。若く、勢いがあって、それでいて才能に溢れていた。貧乏なんて気にならない程の努力家だった。奴とは来る日も来る日も何時間も合体、スキル、パーティー構築で話し合ったものだ」
はあ、という溜息が出る。
「奴もついに逝った、残念だ。気づけば友人と呼べる者もだいぶ減った」
「……」
振り返るように、懐かしむ様に、悲しむ様に、そんな声をしていた。初めてだ、そんな風にジジイの死を嘆く事が出来る人間を見る事は。或いは、家族である俺達よりも深く、あのジジイの事を理解しているのだろう、この博士は。
「面白い話をしよう」
Qちゃんが話を続ける。
「この世界では様々な所で検証が続けられている。何をどうすれば強いモンスターが生まれるのか、どうすれば優秀なスキルが生まれて来るのか、一体なぜこのモンスターは生まれて来たのか……今もどこかの国の実験室で大量のモンスターが合体を繰り返されているんだろうねぇ」
だけど、と言葉を続ける。
「そういう研究では絶対に求められたモンスターを生み出す事が出来ないというデータが出来上がっている。まるでモンスターを生み出すシステムそのものがそうやって生み出される事を拒否しているかのようにね?」
「逆に熱意を持ち、覚悟を携え、信念で道を切り開く者に対してはその存在を認めるかのように自らの存在を許す……」
「そもそも我々が使っているこの技術は一体どこから来た? どうやって生み出された? 何故私達はこの高度な技術を駆使してモンスターの合体なんて発想に至った? 明らかにモンスター関連の技術だけ異様に発達していないか?」
いや、そもそもこれは―――とQちゃんが言葉を続けようとして、俺はそっと自分の右目を片手で覆った。続きを待っている久遠はまだか、と少しだけ身を乗り出していたが、Qちゃんがそこで話題を打ち切った。
「いやあ、失敬失敬! ついつい興が乗って関係のない話をしてしまったねぇ! まあ、合体出来ないモンスターの話なんて素人には関係がないさ! そこのリトルハンサムは何を生み出したいのかよく理解しているみたいだしねっ!」
「む……そうか、父がしないモンスターに関する話だから少し興味あったのだが……」
「興味があるなら勉強してね! モンスター協会の合体部は何時でも新人歓迎しているからね! 歓迎しているからね!! しているからね!!!!!」
「もしかして人材不足?」
博士が良い笑顔を浮かべてブラック企業の決まり文句を口にしようとしているのでそろそろお暇するか、と決める。退屈そうにしていた子たちを軽く叩いて立ち上がらせると、軽く博士たちに頭を下げる。
「お世話になりました……またちょくちょく予約入れてくると思います」
今回はこの3匹だけになったが、まだ第2世代だ。レベル20にしてトレーニングを完了させたら、今度は第3世代へと移行させる為にもう1度合体させなくてはならない。その前に合体用の素材の作成も必要だし、並行して集めて育てられる素材を用意するのも大事だ。
久遠がいて厳選作業が多少楽になるとはいえ、それでも用意するモンスターの数は膨大だ。
ウチの牧場も父が脱サラして本格稼働させ始めたので、直に賑やかになって来るだろう。
「まあ、だろうな。君の事はこれからも凄い良く見かける事になりそうだ……凄い……既知感がある……うっ、深夜の来訪、ノックする扉、箱買いされてきたエナドリ……ま、待て剛三、エナドリはもう入らない……!」
なんか勝手にトラウマを再発してしまったので、そそくさと合体フロアから去ってしまう。来る時よりは数が減ったが、エレベーター内の密集度は上がっててちょっと暑かった。それでも建物の外に出てしまえば冬の新鮮な空気が体の熱を奪って行く。
外で待機していたミストドラゴンが姿の変わったチビ達を見て、頷いている。子供たちの旅立ちを見た親の様な顔だ。
「ジジイの過去、か」
「そう言えば気にした事はなかったな……ゴーゾーはゴーゾーという感じで納得していた」
「良くも悪くも態度と功績が全て、みたいな人だったからな。たぶん……光も影も大きすぎて、その裏に隠した物を誰も見てないんだ」
無論、それは俺達を含めての話。
この駆間市がかつてジジイが修行の為にやって来た地だというのなら……この地に俺を呼び寄せた意味は何なのだろうか? 感傷か? 期待か? 或いはもっと別の思惑があるのか? 原作に出て来る敵の事を考えればあれこれと邪推できてしまう。
だがどれも確証には至らない、想像だけの話だ。
「……もっとジジイの事を知るべきなのかもな」
「成程」
そう言って久遠が前に出て、振り返った。
「私が貴様と出会ってからもう既に4か月がたった。毎日顔を合わせていればもう、ずっと昔から一緒に居たような気さえしている。だがこの4か月という時間は余りにも短い……なのに私達はもう小学校を卒業する所まで見えてる」
「どうした急に。確かにそうだけど」
もう1月だ。3月になれば卒業式を迎えて、春の4月からは目出度く中学生だ。小学生だと男女の差なんてあんまり気にするほどの事ではないが、中学にもなれば立派に思春期に入って、男とか女とか意識し始めるころだ。
そうなれば俺達の関係もまた、変わるかもしれない。
「いや、思っただけだ。この短い時間で私達は色々とお互いを知る機会があって、様々な事を伝え合った。だがゴーゾーの知らない事があるように、まだまだ知らない事がたくさんあるのだろうと」
そうだろう。俺達は出会ってまだ4か月しか経ってない。人生を生きた人間からすれば4か月なんて時間、一瞬で過ぎ去る程の短さだ。だが小学生からすればそれは……数えきれないほど長い月日の様にも感じる。
だから、と久遠は続けた。
「デートをしよう、ミコト。私と貴様をもっと知る為にも」
デートをしよう、彼女はそう誘ってきた。