RICKさん曰く。
『Baby……デートは記念日だけにやるもんじゃないぜ……Girl達にとってデートはSpecialな事でもないのさ。それが特別になるのはBoy、君の努力次第……仲良くなりたいのならもっと積極的にDateしなきゃ駄目だぜ……?』
らしい。
だから久遠とのデートには毎週時間を取って出かけている。まあ、これに関しては何時も一緒に行動してるからその延長線上の行いみたいな感じになってしまったが。それでも久遠とのデートは続けている。だからお互い、2人だけで外に出て遊ぶというのは別に不慣れな事じゃない。
服もあんまし興味がなかったところは灯に補強して貰った。流石女の子、我が妹ながらコーデやらファッションには色々と口うるさい。俺自身は無難によく見るタイプのコーデを試せば問題ないんじゃないか? という意見が出て来るが、灯からすれば話が違うらしい。
あーでもない、こーでもないと表通りが爆撃される中で服屋に籠って見繕った記憶はまだ新しい。そうやって選び抜かれたデート着に着替えた俺は……まあまあ見れる姿になったんじゃないか? と言えるサマになる。少なくともスーツ姿よりはマシだと思う。
そして久遠もデートの時は結構着替えて来る。普段は動きやすさ重視で結構ハーフパンツとか好む癖に、デートの時はスカートとか履いて来るし。今回はちょっと上品なのを意識してワイドパンツにブラウス姿で普段とはまた違った印象を作って来る。
お互い、着替え終わったら護衛代わりの裏ボス狐を連れてホテルを出る。
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってくるぞ」
「気を付けてね」
「あいたたた……気を付けるんだよ」
二日酔いで苦しむ修三さんと美代さんに見守られつつ、ホテルを出る。
―――そしてホテルを出る2人を近くのビルの屋上から監視する男たちの姿があった。
「此方Tチーム、目標がホテルを出たのを確認した」
『此方チーム仮面、此方でも足取りを追う』
『チーム酒、約40秒後にアメリカが負けてむしゃくしゃした一般市民と騒動が起きる事を予知したわ』
「糞! 今日は治安が悪いなぁ!」
双眼鏡を予知された方へと向ければ、屈強なアメリカ人が数人、機嫌が悪そうに道を歩いている。アメリカが負けた影響であっちこっちで機嫌の悪い一般市民がFuckFuck言いながら歩いている。あんなものが歩いていたら折角のデートなのに雰囲気が台無しだ。
「尊は久遠ちゃんと真剣な話をしたそうにしていた―――つまり、告白だ」
『ふ、他国が必死に解析進めてデスマーチの最中、若者の恋愛を出歯亀するのは気分が良いなぁ!』
さて、どうあの厄介者を排除するか……そう考えているうちに1人が唐突に倒れた。よく見れば何かが当たった結果全身が痺れて動けなくなっているらしい。その反応に見覚えが東吾にはあった。
「電磁スタン弾……!」
『よう、俺だぜ』
「総理!」
総理、出歯亀集団に参戦。暇なのかこのおっさん? 否、忙しい。忙しい中出歯亀しに来たのだ! もっと他にやる事あるだろう! ある! あるけどこっちを優先した! その方が面白いから! スナイパーライフルを肩に担いだ総理は次弾を装填し、次々とアメリカ人を狙撃し、スタンさせる。
『若者の恋路を邪魔しちゃぁ……駄目だぜ?』
『総理が他国で狙撃してる方が駄目だと思うのですが』
『なぁに、フィリップの奴もFuckFuckいいながら若者の恋路の為なら許してくれるさ』
日本もアメリカも終わっている。だがそれを気にする者はどこにもいなかった。何故ならこれが彼らにとってのスタンダードだからだ。そう、モンスターの出現する世界では基本的に暴力に対する抵抗感や忌避感が薄いのだ。だからこれぐらいならノリで通してしまうのだ!
『ち、まあた絡んで来そうなのが出て来たな』
ジョックを中心としたグループがデート中の東洋人に目を向けた。何時からラスベガスの治安はこんなに悪くなった? と言わんばかりに尊と久遠の背後に考え無しの青年たちの魔の手が伸びる。
まず1人目が音もなく背後に現れたシェイナのチョークスリーパーによって沈黙した。
2人目は足元に開いた影に飲み込まれて姿を消した。
3人目は踏み出した先が暗黒樹海へのゲートだった。
そして誰も残らなかった。こうして久遠と尊のデートタイムは守られた。基本的にLuck値が底を突いている尊にとって歩いていればハプニングタイプのイベントに遭遇するのはそう珍しい事ではない。故に、普段からモンスター達は慣れていた。
影から守る事に。
モンスター達が陰ながら護衛している姿を見て、東吾はふ、とほほ笑む。
「今日は何人ラスベガスから行方不明者が出るかなっ……!」
昨日は328人でした。
「……なんか騒がしくないか?」
「そうか? 人が多いからそう感じるだけだろう。それよりもミコト! 見ろ! エッフェル塔だ! ラスベガスにまであるとはな! フランスによる侵掠に違いない!」
キャッキャッと騒ぐ久遠が指差し見上げるのは半分サイズのエッフェル塔だ。ラスベガスには所謂リトル〇〇みたいな場所があっちこっちにある。
富に任せて作った各国の再現エリアみたいなものだ。それが観光名所にもなっている。無論、登ることも出来るらしい。早速チケットを購入してエッフェル塔を登る。
なるべく自費で賄いたいところだが、流石にラスベガスは物価が高い。チケット1枚日本円相当で5000円近く持っていかれる。それなりに貯蓄してるし、大会での賞金もある。
今回の遠征も仕事扱いなのでお給料出てるし、勝利したらボーナスが出るとも言われてる。でも数字がヤバすぎてお金に触れるのが怖いので親に通帳ごと全部預けた。
まだ子供だしね。
「ほお、そこそこ高いな」
「本来の奴と比べると低いから全て見渡せるという訳じゃないけどね」
「そこは少し残念だな……お、ここからだと噴水が良く見えるな」
「噴水ではショーもやっているみたいだよ。夜だとライトアップもされてるとか」
「流石ラスベガスだな。ここが駆間ならもう破壊されてるところだろう」
治安が悪すぎる俺たちの故郷。冷静に考えてなんであんな所で暮らせてるんだ。
ここからはラスベガスストリップという大通りが良く見える。ラスベガスの中心とも言えるこの大通りには様々な店やホテルが並んでいる。それを眺めて歩いてるだけでも楽しい時間が過ごせるだろう。
なにせ初めての海外だ、何を見ても楽しいだろう。
「郊外にいけばチョコレート工場もあって、見学出来るって。飛び込みオーケーらしいよ。特別な手段で契約されたバレンタインモンスター達が働いてるチョコレート工場、世界でも有数のブランドチョコレートだって」
「私も女子の端くれだ、すいーつには気を配る必要があるかもしれん……!」
「あぁ、でもこっからだとザ・ベネチアンに行くのも面白いかも。ベネチアを再現したホテルで、運河まで作ってゴンドラを楽しむことが出来るんだ」
「ご、ゴンドラ……!」
強そうな言葉の響きに惹かれるらしい。ベネチアンのゴンドラ遊覧はデートスポットとしても有名らしいからそっちに行くのもアリかもしれない。
「チョコだけ見るなら街から出なくても結構お店あるから、工場に拘る必要はないよ。どうする?」
悩む表情を久遠が浮かべる。これまで行くところに不自由した彼女だ、行きたいところなんていくらでもあるだろう。工場見学、ゴンドラ遊覧。どちらも未知の世界だ。
楽しめるのは間違いない。
少し悩む表情を浮かべてから久遠が手を取る。
「久遠?」
「考えたんだが……これからは幾らでも外に出ることが出来るのだ、一度で全部楽しもうとせずに何度かに分けて楽しめばいいと思った……付き合ってくれるのだろう?」
「勿論」
エッフェル塔を出る。結局、パンフレットを見てあーだこーだと考えたりもしたが、予定されていたプランは全て白紙になった。その時その時の気分で楽しもうという事になり、宛もなく歩く事にした。
少なくともラスベガスという街は飽きが来ない街だ。何をするにしても見るにしてもたくさんのものがある。それを探しているだけでも十分に楽しめるだろう。
「それにしても」
「どうした?」
「いや、平和だなぁ、て」
エッフェル塔を降りてから辺りを見渡す。爆破も、殺人鬼も、暴れモンスターも、通りすがりの変態も、逃げ出してきた拉致被害者もない。本当に何もないレベルで平和だった。
普段なら何かしらのエンカウントを起こしてるところなんだけど。
久遠もその意見に賛成なのか、頷きながら懐からガスマスクを取り出す。
「普段の癖でガスマスクを持ち歩いてるのに荷物になってしまったな」
「久遠も? 俺も念のために持ってきてたんだよね」
俺も懐からガスマスクを取り出し、2人でガスマスクを無駄に持ち歩いている事実にふふ、と笑ってから歩き出す。
漸く漕ぎ着けた2人きりのデートなのだ。
今日こそ、今日こそは話さなくてはならない。
そして確かめるんだ。
自分の気持ちを。