最強以外ありえない   作:てんぞー

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ま、なんとかなるでしょ!

 一晩明けてS交流戦の日がやって来る。戦いの前に高まる戦意と緊張感の中、日本チームの控室には何時も通りの空気が流れていた。

 

 そして久遠は自慢していた。

 

「そういう訳でこれからは婚約者や許嫁ではなく、相思相愛の恋人となった、訳だ」

 

「おぉ」

 

「やるねぇ」

 

「流石修三さんの娘さんだ」

 

「いっそ殺してくれよ」

 

 チームの面々に自慢げに語る久遠は誇らしげだし覇王の風格を纏っているし、それを聞いている面々は微笑ましそうにするしずっとこっちをそれで弄って来る。もう朝からというか昨日ホテルに戻ってから久遠のテンションが高くてダメ。俺は生き恥。死んでしまう。

 

 無言で回りから小突かれてるし、酒クズはずっとこっちと久遠を見ながら楽しそうに酒を飲んでるしで駄目だ。こいつら皆殺さないと……!

 

 そんな俺の地獄の様な状況はさておき。

 

 翌日が来るという事は各国にとって本番ともなる戦いが―――即ちSランク交流戦の時間がやって来る。数多くのアーティストを招いて開会式を行い、大統領のFuckによる開会宣言が行われ、各国選りすぐりの強者が送り込まれる事で開催される強者の祭典。

 

 グランドマスターを決める為の戦いの予行演習とも呼ばれるレベルにまで各国の強者を呼び込んだこの交流戦のメインステージが漸く始まるのだ。

 

 ルールはシンプルに3対3の戦いであり、先に2勝した国が勝ち抜けする。

 

 1日に行われる試合は最大で6戦、最低で4試合になる。つまり4か国分の試合が1日で行われるという事になる。

 

 基本的にモンスターバトルは短時間で決着しやすく、直ぐに試合が終わる。だがこのランクの試合になると経済への大きな影響もある為、なるべく長く試合の日程を取りたい。その他にもSランクの試合は攻撃による被害がデカい為、マスター達への被害も大きいという難点がある。

 

 そういう事から1日の試合数は制限されており、数日かけて決勝まで進めるという風になっている。

 

 これは試合に出たモンスターやマスター達を解析するチャンスでもある。

 

 そして栄えある第1戦に、日本はピックアップされていた。

 

 作為感じない? 

 

 まあ、試合の順番は抽選式になっている筈だがモンスターの力を使えばそんなもん干渉可能だ。順番の公平性なんてものは元から存在しない。

 

 それを上から殴り殺すのが本当の強者だ。

 

 そういう訳でこの手の抽選操作に日本は参加せずにいた。誰がかかって来ても常に全力で迎撃する。少なくとも日本は今回、優勝するだけのポテンシャルを備えている自信があった。それは既にAランクの試合でも発揮されており、証明されている。

 

 そしてどの国も、日本を警戒している。

 

 12月、図書館が世界に公開され、オーバークリティカルと合体魔法が世に出た。

 

 それから半年以上の時間が経過した。現在7月、世界はオーバークリティカルと合体魔法を使ったコンボとランプ構築の研究において実用段階に入ったと言える。この交流戦は世界に対して最新の環境でどうやって戦うのか、どう適応したのかを披露する場でもあるのだ。

 

 Sランク交流戦。

 

 第1戦。Aランク優勝国日本に対するは前グランドマスターを有する強豪国イタリアだった。1日という休息で心身ともに充実させた状態、もはやコンディションも準備も言い訳にならない状態となった俺達は控室で試合の始まりを待つばかりとなっていた。

 

「さて」

 

 ホワイトボードの前に集まって久遠の自慢話を聞いていた面々が仮面のその言葉に視線を仮面に向けた。自慢タイムを切り上げられた久遠はこっちにやってくると、遠慮なく腕を絡めて来る。この女、無敵か? 無敵です。無敵なのでこのまま作戦会議が始まります。

 

「さて、初戦の相手はイタリアに決定した。既にデータは渡っているし説明も必要ないだろうから改めてただの確認になる。今回も全試合、体力と精神力が持つ限りは尊くんにサポーターを頼みたいと思っている。問題ないね?」

 

 空いている手で中指を突き出す。アメリカ式の勿論ですよの挨拶だ。アメリカではこれとFuckさえ言えれば会話が通じる。恐ろしい事だよ。

 

「イタリアは強敵だ。しかも次の試合にはドイツかイギリス、勝ち残った方とぶつかる事になる。なるべくなら手札を温存したい所だろうが……そうとも言ってはいられないだろう。このレベルになると温存する事そのものが不可能に近い。だから毎試合、全力を出して戦って貰う」

 

 さて、と仮面が言葉を置いた。

 

「椿くん、先鋒を頼むよ」

 

「え、だるっ。私を大将にしてよ。そうすれば2人が2連勝して私の出番無くなるでしょ」

 

「無茶言うな」

 

 先鋒を任された酒クズは実にめんどくさそうな表情を浮かべると空っぽになった強い零の缶を握りつぶしてゴミ箱に投げ捨てた。仕方がないかぁ、と呟くととぼとぼ控室を出る準備を進める。この女がまともに戦う姿を見るのはそう言えば今回が初めてになるんだなぁ。

 

 本当に大丈夫かなぁ。

 

 試合中にアルコール摂取出来なくて手が震えたりしないかなぁ。

 

「尊くん」

 

 試合に出る為に控室を出ようとする酒クズを追って控室の外に出ようとすると、仮面に呼び止められた。振り返って仮面を見ると、神妙な表情で頷いた。

 

「心配なのは解るが、その必要はない。彼女は強い」

 

「まあ、それは解るんだけど」

 

 妙に、不安がぬぐえないキャラしてるんだよね……という話なのだ。普段の様子からは想像できないタイプなんだろうか? まあ、何にせよ戦闘中はふざける事はないだろう。ふざけないよな? そう信じて追いかけるしかない。

 

 歩みに迷いのない酒クズの背中を追いかけて通路に出る。

 

 

 

 ―――これは、尊が一切意識していない話になる。

 

 Sランカーの年齢は平均して40代から50代が多く、60代に入る古強者の多くはバトルに体が追い付かなくなってきたことを理由に引退している。その為、Sランカーの多くは40代の者が多い。そしてそれが理由で40代こそマスターとして最も脂の乗る時期だと言われている。

 

 マスターはモンスターと接しているうちに老化が抑制されやすく、実年齢より若く見える。ダンジョンの時差、魔力、モンスターとの接触……理由は幾つかあるも、マスターという職業の中でも高位のものは老化がある程度抑制され、肉体のピークを維持しやすい。

 

 その関係で40代に突入してもなお体力は衰えず、肉体は健康で、ピーク時の状態を維持しているものが多い。そして40代ともなれば40年近いマスターとしての研鑽と経験が蓄積されている。それは戦闘中の咄嗟の判断力や思考能力に直結する重要要素だ。

 

 Sランクマスターの多くは名門出身だ。

 

 その理由はモンスターを育てるコストが原因にある。

 

 モンスターを育てるのにはまず金がかかる。食費、場所代、トレーニング費用、生きて行く上でのコストは重く、競技用にスキルを揃えようとすれば更に出費が嵩む。その為、一般家庭にモンスターマスターという職業は手が出し辛く、遠い世界になりがちになる。

 

 本来の地球ではピアノを始めとした習い事がステータスとして認知されるように、限られたものだけがランクを上げられるマスターと、そして高い出費を求められるモンスター育成はこの世界における最大のステータスとして認知されている。

 

 モンスターを育てられる時点で凄く、更にランクを上げている人間はもっと凄い。

 

 Cは人口密度が多くとも、それでも都会に住まう人間からすれば選ばれた人間たちの領域に入る。

 

 駆間や逆田の様な魔境は別として、そう言うステータスとして認知されるが故、名家では幼い頃よりモンスターの育成を子供にさせ、マスターとしての研鑽を積ませる。

 

 だが、この研鑽や知識には大きな穴がある。

 

 低位や中位のランクならともかく、B以降の世界は育成やスキルに関するノウハウは秘匿される傾向が強くなる。その為、育成に関する明確な答えというものが見つからなくなり、ランクアップへの道が一気に遅くなる。

 

 これは強いモンスターを育てる事は難しいという話だけではなく、複合スキルや上位スキルの生成そのものが秘匿されていて、一般には全く話が出回らなくなっているという話でもある。名家はこういう情報を金で購入し、或いは口伝として継承する事で品質を保証する形式を取っている。

 

 それでもSランカーの平均年齢は40代が多い。CやBで10年足踏みするという話は世間では珍しくはない。

 

 故に、30代でSランカーに到達できる人間は一握りの天才だと言われている。

 

 たとえばマスター仮面。31歳という若さでSランクに到達した男は寒門出身だった。恵まれた環境で育たなかった男は最初に育てたゼリィに可能性を感じ、ひたすらその可能性を追求する事でSランクへと成り上がった奇才。

 

 たとえば叶東吾。ジャスト30歳でSランク戦線に参戦してきた天才。ヒールを反転させる事で相手に即死クラスのダメージを与えながら自身のHPを維持するという戦術を見出し、Sランクに飛び込んで来た異形の才能の持ち主。

 

 だが、この2人を下回る年齢でSランクへと飛び込んで来た怪物がいる。

 

 

 

「うっわぁ、人が多いなぁ。うるさっ」

 

「いい加減やる気出せよ酒クズ」

 

「私は酒代さえ稼げればそれで良いんだもん。高いお酒も良いし、安いお酒も良い。でもダンジョン産の超お高い酒は自分で突っ込むか、凄い高い金を出さない限り手元に潜り込んでこないのよねぇ」

 

「その為だけにマスターになったの」

 

「うん」

 

 本当に人生が酒を中心に回っている女だった。

 

 ラスベガススタジアムの中央、ダンジョンゲートを越えて戦闘エリアに到達する。A交流戦は平原が舞台だったが、今度のステージは山脈が舞台だった。雲を突き抜けてそびえる高い山が見え、辺りには川や谷まで存在している。

 

 酒クズ―――歪沢椿は日本の妖怪がモチーフとなったモンスター達を引き連れながら戦闘エリアに到着した。コイツの思考を読んでサポートするの嫌だなぁ、と思いながら対戦相手を見た。

 

「うーん、アグロじゃなくてミッドレンジに魔法コンボを組み込んで来た感じか。4ターン目辺りから動きそうかな。行けそう?」

 

 俺の問いに酒クズはうーん、と胸を持ち上げる様に腕を組みながら唸った。それなりの恵体の癖に一切のエロさを感じさせない残念な女だった。見てるシーンが飲んでるか吐いてるかのどっちかなのが原因だと思われる。

 

 

 

 歪沢椿、名家出身。

 

 現年齢は28歳。

 

 Sランク日本国内最年少での昇格記録保持者。

 

 彼女がSランクへと上がったその時、彼女の年齢は25にも満たなかった。

 

 

 

 相手を見渡し、うーんと唸りながら目を細め、それから首を傾げて空を見上げ、うん、と呟いて頷いた。

 

「ま、なんとかなるでしょ! 勝ってボーナス貰ったらソーマ買いましょ、ソーマ!」

 

 Sランク交流戦、第1戦が始まる。

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