医務室でたっぷり怒られてから事情の説明の為に控室に戻るも、そこに皆の姿はなかった。アレ? どこに行ったんだろ? そう思うと調整用のダンジョンゲートが開いているのが見えた。皆そっちにいるのかな?
そう思ってダンジョンの中に突っ込むと、そこには地獄が待ち受けていた。
「ぐあああああああ―――!!」
まず酒クズが柱から吊るされていた。
というかとてもじゃないけど女とは思えない叫び声が響いてるんだけど?
何もない、調整用のだだっ広い平原に柱が1本。そこから酒クズが簀巻きにされて吊るされている。その上で足元では炎が燃え盛っている。簡単に言えば令和のジャンヌ・ダルクごっこみたいなもんだった。
こんな汚いジャンヌ・ダルクいないけど。
「お、尊来たか。話は聞いているぞ」
「すまない、知らず知らず君に無理をさせていたみたいで……」
「いや、これに関しては俺が全面的に悪いので……これは?」
開口一番謝罪してくる大人コンビに魔女狩りされている酒クズを指差すとあぁ、と仮面マンが頷く。
「良い大人なんだからモラルの1つや2つちゃんと備えていないとならないだろう? でも未だに若い頃の感覚が抜けないままなのかデカい子供みたいな動きをするからね。反省を促す為に今拷問中なんだ」
「ほら、あそこを見ろ」
火炙りされている酒クズの少し先、酒クズのマネージャーがお花見用のピクニックシートを広げて、その上に色とりどりのお酒を並べている。高そうなお酒を片っ端から開けて見せつける様にそれをマネージャーが飲んでいた。
「あ、あ、あ、それ私が楽しみにしてた奴ぅ―――!!」
「ごくごくごく……うーん、酒の味はやっぱりよく解らないですね……」
「あっあっあっあっ」
酒の味が解らないとか言っているマネージャーがモンスターから酔い解消用の魔法を付与されながら片っ端から無感情に酒を飲み続けて、1本消えるごとに酒クズの悲鳴と慟哭が響いている。
「そうだ。対酒好き用の伝統的な拷問術、サケ・トーチャリングだ」
「サケ・トーチャリング」
そんなのあるんだ……日本の伝統ってすげぇな……。総理もなんか何時の間にか居座ってお酒飲んでるし……とか思ってると総理がやってきた。
「すまん、俺がふがいないばかりに子供を前線に立たせてしまった」
「すいません、総理に頭下げられると凄い居心地悪いので止めません? マジで」
「君のご両親には私から挨拶をしておく、だから……!」
「あの、ほんと、両親も対応に困るので……!」
国家元首に頭下げさせた牧場って何? 今回の件はサケクズの奴が悪いのは確かなんだけど、これ、根本的な問題は全く別の所にあるんだよね。
「俺、実はシンクロのやり方ちゃんと学んだことがなかったのが今回の原因なんじゃないかな、って」
大人組が魔女狩り続行しつつ顔を見合わせ、それからこっちへと視線を戻す。
「学んだことがない? アレだけ使えて?」
「うん。そもそも俺にシンクロの使い方を教えたのはジジイだし、そのジジイにしたって俺にシンクロのやり方を教えただけでそれ以上の事はしなかったしな。つまり安全とかなんとか何も教わっていません」
ピースピースすると盛大に頭を抱えられた。なんかシンクロ技術って本当は雑に学ぶもんじゃなくて、師となるマスターから少しずつ危険性とか扱い方を伝授してもらう秘技みたいな扱いらしいね。そういう過程を全てふっ飛ばして習得した俺、またもや基礎をすっとばす。
基礎の大切さは学んだ筈なのにねぇ。
これも全部ジジイって奴が悪いんだ。
真面目に考えると戦い方もシンクロも全部ジジイが10分で俺に叩き込んだ内容だから基礎が存在せず応用と奥義しかマスターしてないのは10割ジジイが悪いんじゃないかこれ? ジジイが糞適当な仕事で人に自殺技術だけ残して帰宅したのがそもそもの原因では?
まあ、顔も出さず声も出さないジジイに責任を押し付けるのは簡単だが、押し付けた所で責任を取ってくれるわけじゃないからな。
まあ、しばらくはドクターによってシンクロ使用禁止という状況だ。練習するにしろ、それはこの交流戦が終わって年末に入ってからだろう。今考慮する内容じゃない。その時が来たら東吾やら仮面マンに頼んでシンクロとマスタースキルに関する練習を頼めば良いだろう。
とりあえずは。
「ここからはただの観客になっちゃうけど……負けるわけがないって信じてるから」
心配はしない。ここまで出来る事は全部やった。間違いなく日本は今、データ的に最強の構築を揃えている。懸念があるとすれば先ほどのスクナのように無法ムーヴをするモンスターが出て来ないかどうかだけだ。アレが他にもいるならもう俺にはどうしようもない。
どうしようもないが―――個人的には、ああいう怪物は他にもいてくれたら良いなぁ、とは思う。
だってその方が、敵にした時が楽しいから。
スクナも結局は超えるべき敵の1つになる。その相手が強ければ強い程、攻略するのが楽しくなってくる。最強のパーティーで将来的にはSランクに殴り込むのだ。その時挑む相手がゲームの範疇に収まる雑魚ばかりだとつまらない。
俺の知る知識から、ゲームの画面から、システムの範疇から飛び出る様な敵であって欲しい。
それは俺のちょっとした我儘だ。
俺の言葉に東吾と仮面はああ、と頷いた。
「任せろ尊。必ずトロフィーを日本に持ち帰る」
「重大な秘密を聞かせてくれた信頼に必ず応えよう、尊くん。私達にはもはや勝利以外の選択は残されていないのだから」
うん、ちょっとした不安がサケ拷問受けてる人にあるけど、それ以外では何とかなるんじゃないかな。満足感に頷いてると総理がうーむ、と唸る。
「坊主、何かねぇのかい? 通したい要望とかなんとか。今回のワビって訳じゃねえが、坊主には頑張って貰ってるからな。何か願い事があるならおじちゃんの権力で叶えてみるぜ」
「どでかい爆弾が降って来た」
え、日本の総理大臣にお願いを通すチャンス!?
そ、それじゃあ。
懐から4枚のスキルカードを取り出す。
「《根の国》《図書館》《暗黒樹海》《パーフェクトキャンセラー》を駆間内で流通させて良いですか? 皆に配れば駆間の蟲毒がもっとランクアップして楽しく殺し合えると思うんです! あ、後根の国の利用制限をもう少し緩和して海外の人も使えるように……」
「後者はちょっとダンジョン省との殴り合いになるが、前者に関してはちょっと協会のお偉いさんに話を通してみるわ」
「やったぁ」
上手く行けば駆間の皆と最新環境でガチの殺し合いが出来るぞ! この手の対戦ゲームって1人だけ強くなっても意味がないからな。対戦相手も同じ環境で殺し合うからこそ意味がある。
だから俺だけ最新環境で戦っても楽しくないんだよなー。
実現したら皆の考える邪悪コンボを見れるかもしれねぇ!
《暗黒樹海》花火師とかワクワクすっぞ! 《図書館》握った七海もだいぶ楽しそうだよな! うーん、俺もバトルしたくなってきた。
もう日本に帰って手持ちでバトルしたくなってきた。
「それじゃあ、俺は関係者席から応援してくるよ」
「あぁ、いってらっしゃい」
「あとは任された。またアドバイスは聞きに行くかもしれないけど」
「それはそれ、それぐらいならいつでも頼ってよ。戦友だろ俺達」
東吾とハイタッチしてから控室を後にする。これでアメリカにおける自分の仕事は大体終わりかな? そんなやる気のない仕事だったが、意外と楽しかった。
とはいえ、自分で戦えるほうがやっぱ楽しいな、という感想に尽きる。
俺も早くSに上がって戦いたいものだ。その頃の俺は……どんな風になってるんだろうか?
控室を出てから通路を抜けて、関係者席へと向かう。そこには久遠と美代さんの姿がある。手を振りながら久遠の横の席に座る。
「これで漸くゆっくり出来るな」
「まあ、これまでもゆっくり出来てたけどね」
でもこれで久遠ともっと時間を取ることができる。一緒に席に並んで座り、巨大なラスベガススタジアムの中央へと視線を向ける。
既にダンジョンゲートが展開されており、次の試合の準備が始まっている。浮かび上がるドローンが次々とダンジョンの中へと消えてゆく。
巨大なスクリーンにダンジョン内の様子が映し出され、ARグラス対応中と表示される。
「ARVR対応?」
「そうよ。これを使えば好きなモードで試合観戦出来るのよ」
そう言って美代さんがサングラスみたいなガジェットを渡してくる。受け取ったものを装着するとARモードとVRモードの切り替え機能がある。
使ってみるとどうやらARで目の前にダンジョン内の様子を投影して見るか、VRモードでドローンの映像を直接見るか選べるらしい。
「おぉ、なにこれー」
「臨場感あるでしょう? ランクの高い試合はこうやって観戦する事ができるのよ。勿論スクリーンを眺めてるのもいいけど、こっちのが見逃しがないからね」
「へぇ! 面白! あっ、ありがとうございます」
「いえいえ」
こういう所で元地球との技術力の差を感じる。こっちの地球って異世界技術と科学の流入で技術ツリーが結構発展してるんだよね。主に新素材の登場による技術的ブレイクスルーっぽいけど。
何にせよ、前世よりは夢のある世界になったもんだ。
と、のほほんとしていると、聞いた声がやって来た。
「倒れたと聞いたから心配したが、どうやら問題なさそうだな」
「アレだけ暴れればそりゃ不具合の1つぐらいでるでしょ……やっほ尊」
「アンナに王様じゃん」
うむ、と王様が頷いた。
「我だぞ」
ぴかぴか光る家族への親愛みたいなもんをこの男から凄く強く感じる。良くもまあ、前は隠せ……隠せて……いや、別に隠せてなかったな。最初から好感度マックスだったわ。
というか。
「アンナと王様一緒に居ていいの?」
「そういう仕事だしね。別に誰も気にしないわよ」
そう言って王様を見ると、王様が土産物を久遠と美代さんに渡していた。
「普段から弟が世話になって……」
「いえいえ、此方こそ普段からお世話に……特に剛三さんには」
「その節は本当に申し訳……!」
王様でも謝罪するんだなぁ、ジジイ関連は。まあ……なんも擁護出来ない行いの化身だしな……。
それから久遠と王様が見つめ合う。
「……」
「……」
「なんで急に無言で握手してるの君ら」
視線でなにか解りあったらしい。声に出せや。あ、やっぱいい。言わなくてもだいたい解るから。口に出さないでくれ。
それよりもそろそろ試合だ。ガジェットを装着して視線を中央に戻す。動き出すと他の皆も椅子に落ち着いて座り、試合の始まりに備える。
俺抜きでの日本対イタリアが始まる。
日本次鋒―――叶東吾。
ここで勝てれば3戦目を飛ばして勝ち上がれるが果たして?