最強以外ありえない   作:てんぞー

177 / 207
女帝は両刀

「始まるみたいだぞ」

 

 久遠の声に視線がスタジアムへと向けられる。僅かに暗くなると入口からダンジョンまでの道を暗い紫色の炎が列を成して照らす。人魂にも見える炎の揺らめきの中、闇の中から東吾と彼のモンスター達が現れる。過ぎ去る人魂たちは東吾たちが通り過ぎると、昇天するように消滅し消え去って行く。

 

『さあ、日本から選ばれたのは生と死の境界線を歩む男、叶東吾! 歪沢に続き日本の強さを見せつける事が出来るのか期待が高まりますね! 相沢さん、どう思いますか?』

 

『叶2位は世界で最も早く死神というモンスターを実用化する事に成功したマスターです。現在日本が独占している形になりますけど、死神を使ったコンボや処理能力の高さは世界でも有数の物だと思います。特に死神のストッパーとしての性能は世界最強です! これは期待できますよ!』

 

 声がする方を見るとアンナがスマホに日本の解説実況を映していた。どうやら日本のテレビ番組が見覚えのあるアイドルくんとプロの実況に試合の中継をさせていたらしい。

 

「この番組、うちがスポンサーなのよ」

 

「今回の放送権は我らで押さえているからな」

 

「というか日本国内の大型の試合の放送権は割と柊で押さえてるのよ」

 

 凄い事聞こえちゃったな。まあ、でもジジイが元世界トップで色々とモンスター協会に権力残してるって言うのならそれぐらい出来て当然なのか。

 

 ともあれ、東吾の登場だ。現状、一番付き合いが長くて頼りにしている友人……戦友だ。一緒にラスボスと対峙したりと迷惑かけてるなぁ、と思う部分はあるし、出来るなら勝ってほしい所だ。いや、あれだけ強化してるんだからデータ的には完全に相手を上回っている筈だ。

 

 勝てる。そう思って送り出した。

 

『対するは……来ましたねぇ……』

 

『えぇ、1回戦を見て先に出さざるを得ないと判断したのでしょう。ついに元世界1位、そして現世界2位―――マルコ氏の登場です』

 

 イタリア最強、現世界2位。元グランドマスターマルコ。

 

 その登場シーンに思わず呻いた。

 

「うわっ、趣味悪っ!」

 

 ダンジョンまでの道のり、入り口を世界各国の美女が横に並び、整列するように道を作っていた。それぞれの美をアピールするようにポーズを取り、その中央をイタリア代表の男がモンスター達を連れて歩く。

 

 だがそのモンスター達も美少女モンスター―――つまりハーレムパを作っていたのだ、この男は。

 

 だが美少女モンスターは(せいさく)の加護が強い。売り上げに対抗するにはやはり顔の良いユニットを実装するしかないのだ。顔面美少女はやっぱり良く売れる。その影響で美少女系モンスターは基本的に高性能に纏まっている。

 

 無論、全てがそうという訳じゃない。

 

 だがパーティーがハーレム化するのはある種の合理性が見られるのだ。

 

 と、そんなマルコを蹴り飛ばしてダンジョンへと向かう褐色姿の女が見えた。透けて見えそうな程薄い布に身を包んだ、異国風の衣装に覇気に満ちた様相。夜よりも黒い漆黒の髪色に赤い線が混じった己の美と強さを隠さない女の姿。

 

「アレがリアルに見る西の女帝かぁ……」

 

「マルコ最強のモンスターでありパーティーのエースにして相棒……の筈だが、アレは主を嫌っているのか」

 

「まあ、誰かの下につくタマじゃあないよね。アレもカルマ値がマイナスに到達してるタイプだし。美女ばかりなのはマルコ氏の趣味もあるけど女帝の趣味もあるかも」

 

「その心は」

 

「女帝は両刀」

 

 コメントに困る顔をアンナが浮かべ、興味深いものを見る目で王様が女帝を見た。美女に挟まれて歩く女帝が視線をスタジアム内に巡らせると此方へと向けて、そしてにやりと笑った。あー、やだやだ。狙われてるじゃん。これだからコレクター気質は嫌なんだ。絶対にエンカウントしないように気を付けなきゃ。

 

 育成する時も滅茶苦茶これを買え、これを寄越せ、これをしなきゃトレーニングしないとか言ってくるし。

 

 与えた所で気分次第でトレーニングサボるし。

 

 負けると一瞬で機嫌が急降下して好感度も下がるし。馬鹿みたいに育成し辛いキャラだったよなぁ。その代わりに連撃追撃系のモンスターとしてかなり強い部類に入ってたけど。ただ現状、把握しているデータから見るとそこまで恐ろしくはない。

 

「まあ、データだけ見るなら合体失敗してるしそこまで怖くないかな」

 

「ほう、合体失敗とな」

 

「ウチの番組よりも面白い話が出来そうね、アンタ」

 

 柊コンビが解説を促してくる。隠す必要もないデータの話なので素直にゲロるが。

 

「データ把握してる範囲だとダンジョンで習得できるタイプの固有は習得してるけど、合体時に習得できるタイプの固有スキルは習得出来てない……あー、そっか、前提の話しなきゃ解らないか」

 

 ずっと昔、七海にもした話だっけこれ。懐かしいな。

 

「モンスターがスキルを覚える手段は全部で3つあって、合体による継承、ダンジョンによる習得、そしてスキルカードでの習得になるんだ。これは基本だから解かるよね? このうち上位や固有やレア種に関しては専用スキルや固有スキルと呼ばれるものを習得する個体が存在する」

 

 これを習得する方法は2つしかない。

 

「スキルカードで固有スキルを覚える方法はない。出来るのは合体時のスキル合成か変異で作成する事か、ダンジョンで習得する事。そしてこれで覚えられる固有スキルの類は同じではない。だからダンジョンで固有スキルを習得した所で合体で習得する筈の奴を習得出来るって訳じゃないんだよね」

 

「成程、失敗とはそういう事か」

 

「取り返しがつかないんだよね、今の環境だと」

 

 基本的にモンスターは合体させると種族が変更されてしまう。特定のレシピでしか合体させる事の出来ないモンスターは、再合体を行った時点で消失してしまう。また作成するには1から作り直すか……それとも世代を一旦下げて、そっから再びレシピ再現するか。

 

 何にせよ、固有スキルを習得させる為に再合体を行おうとすれば元に戻すまで数年は余裕でかかるだろう。つまり最初に合体させた時点で固有スキルを習得出来ていない場合、合体失敗扱いになるのだ。前提となる知識が足りてないから仕方がないと言えばそうなのだが。

 

 それに比べればウチの東吾はハーデスとラファエラが理想の状態に調整されている。

 

 俺がズルをしたから!!

 

 本当は良くない事なんだけど、こればかりは対滅亡の女神相手に必要な事だったので許してほしい。世界が情報公開せずに環境を停滞させているのが悪い。

 

 ……ともあれ。

 

「戦力的には東吾のが上だ。安心して見れる試合になると思う」

 

「ほう、自信満々だな……なら日本の勝利に期待させて貰うとしようか」

 

 ダンジョンの中へと両チームが消え、ガジェットを使ってARビジョンで戦場を、目の前に投影する。これを使えばリアルタイム―――多少の時差と遅延が入るものの―――戦場を把握する事が出来る。しかも観客用にスローがかかっていて試合が把握しやすくなっている。

 

 良く考えて作るよなぁ、こういう技術。

 

 東吾の編成に大きな変化はない。対するマルコの編成は美少女モンスターオンリー……無類の女好きとの噂の元GMの構築、こうやってハーレムパを外から見ると絵面が本当に酷いな。女を前に出して男は後ろに下がってるってビジュアルがなんかもう最悪だよな。

 

 俺も将来女子率高めの構築になりそうだからなぁ……他人事じゃないかも……。

 

「試合が始まるな」

 

 久遠の言葉に思考から引き戻され、試合へと視線を向ける。会場にカウントダウンの声が英語で響き渡る。世界2位の試合、そして今最も勢いのある国、日本。その第2戦に高まる期待がカウントダウンの斉唱という形で響いて来る。

 

 それを静かに見守り―――戦いが始まった。

 

 フィールドは森林地帯。森が視界を遮り、小柄なモンスターが姿を隠しやすい有利なフィールド。状況的にイタリアの方が有利であろう空間にまず地形を変える様に図書館が出現する。地面からせりあがる本棚、カーペット、無限に連なる本の数々が出現し、それが一瞬で大地諸共砕かれる。

 

 そうして出現するのは巨大な運河と水上都市。どことなくヴェネチアを思い出させるような構造の都市が出現する。速度調整を行ったフィールドに対するフィールド返しでのカウンターだ。しっかりと対フィールド戦術を積み込んで来ている。

 

 速度調整を行って開幕でフィールドの後にフィールドを展開すれば、手番を消費せずにフィールド効果を無効化して上書きする事が出来る。現状、最も有効なフィールドに対するカウンター戦術だろう。

 

 だが。

 

「それは知ってる」

 

 運河の水上都市を破壊するように図書館が再展開される。

 

 2個目の《幻想図書館》だ。

 

「フィールドの上に同じフィールドは展開出来ないけど、破壊される事前提ならセットアップで2度展開できる。《幻想図書館》はターン開始処理で詠唱1スタックだからこのセットアップタイミングでのみ破壊されながら再展開する事で全体詠唱2スタックできる」

 

 《ダブルマジック》、もしくは《魔法全体化》に必要な詠唱のストック数は3だ。つまり開幕相手に図書館を破壊させる事で一気に詠唱加速する事が出来る。

 

 単純な加速力なら《無詠唱》から《暴走詠唱》を引っ張るのが最強だが、これは1モンスターのスキル枠が2枠占有されるという弱点がある。

 

 モンスターが保有できるスキル枠は8枠だけだ。この8枠の負担を他のモンスターの余剰枠で分散するのがフィールド2連展開式のやり方だ。これなら空中戦がメインのハーデスのスキル枠を圧迫せずに済む。

 

 つまりリーサルまで必要詠唱は後1スタック。次のターン全体化か連続付与からの合体魔法で対象を全体化させれば一気にリーサルまで持ち込める。

 

 日本のセットアップ戦術が綺麗に刺さった所でどう対応するか。

 

 マルコの動きはシンプルなものだった。

 

 図書館が主戦場となった。

 

 ターゲットを分散させるように広くモンスター達を展開しつつ、本棚の影に隠れるように一気に東吾側へと向かって切り込んで来た。唯一動いていないのは西の女帝だけで、それ以外の3人の美女たちが駆けだした。

 

 ローブを纏った魔法使いモンスターが杖を振るった。放つのは土属性の魔法、詠唱を消費しない魔法だから威力はそう高くはない。だがそれが図書館の中に土の壁を生み出し、戦場を分断する。それによってイージスとラファエラ、ハーデスとジャガーノートで戦場が分断される。

 

 通常のスキルの使い方ではない。もっと微細にコントロールされた、仕様とは異なる使い方、()()()()()()()()()使()()()だ。まず発想が出て来ない。そういう使い方を戦闘で指示出来ない。

 

 俺ではそういう指示が出て来ない。どうしても形に縛られてしまう。

 

 だから迷う事無くフィールドスキルが展開されている空間内で戦場を分断するというやり方は、クレバーな戦い方だった。

 

 何よりもヒーラーとタンクを隔離したのが上手い。イージスとラファエラは単体だとリーサル手段を持たないから、倒すのは後回しでも問題がないという判断なのだろう。実際、正しい。ラファエラは単体で相手を倒す手段がない。

 

 それが弱点でもある。

 

 先鋒―――蒼白の鎧姿の乙女、ヴァルキリーが走る。剣を片手に、盾を片手にした彼女は殴れるタンクというポジションにある。その視線がハーデスを捉え、盾を投げた。殺人的な加速を持った盾がハーデスへと向けられ、それを巨大な凶獣、4本腕の獣、ジャガーノートが射線に身を晒す事で庇った。

 

 直撃。

 

 盾がジャガーノートを直撃し、同時にラファエラを守るようにイージスが無機の肉体を広げた。全く同じタイミングでラファエラを魔法が襲い、2つの戦場で同時に攻撃が発生する。

 

 それに呼応するように西の女帝リ・ロウが舞った。

 

『妾の姿、その眼に刻むが良い』

 

 声が、映像越しに聞こえた気がした。

 

 衝撃が弾けるのと共に女帝が布を一枚脱ぐと、それを使って空気をはじいた。まるでしなる鞭の様な動きで放たれた動作は一瞬で音を置き去りにし、障害物をすり抜け、戦場の反対側にいるジャガーノートとイージスを同時に打撃した。

 

 空気が弾ける音が物理的に見えるほどの衝撃、その余波が仲間にさえも降りかかる。

 

 だがたぶん、それが日常なのだろう。味方からの被害を受けながらも美女の姿をしたモンスター達は前へと向かって踏み込み、東吾のモンスターと会敵する。追撃、連撃。戦場采配に特化したリ・ロウはその場にいるだけで味方への連携、追撃効果を与える。

 

 《女帝の采配》。連撃、追撃系スキルにおける最上級のスキルの一角だ。それが味方の動きに連動して発動する。物理法則を超越した異次元の動き。女帝から発する追撃に連動し、連携攻撃が発動する。

 

 ヴァルキリーの動きが条理を越えて加速する。

 

 マジックマスターの杖が魔道を描く。

 

 シャドウロードの暗刃が闇に紛れて消える。

 

 分断された戦場なんて関係ない。縦横無尽にルートを構築して戦場を支配する。すり抜ける様に土壁を抜けて斬撃がジャガーノートとイージスへと叩き込まれる。

 

 追撃。女帝から布の一撃が叩き込まれる。

 

 連撃。追撃。連撃。追撃。

 

 1人を起点に女帝の追撃が発生し、それを起点に連携攻撃が発生する。1ターンの間に10回を超える連撃と追撃がこれだけで発生する。それが全てジャガーノートとイージスへと叩き込まれるも、その姿は沈む事がない。

 

「耐えたっ!」

 

「切ったな!」

 

 ハーデスのスキルでHP0でも耐えられるようにしただけだ。だがこれでこのターン、相手のリソースを注ぎ込んだ攻撃を躱す事が出来た。

 

 ジャガーノートとイージスのHPが0になるも、気にすることなくジャガーノートがハーデスを掴み、イージス達の方へと投げて復帰させる。投げられたハーデスが空中で全体を俯瞰するようにデバフを放ち、行動を阻害する。

 

 ―――しようとした。

 

 ぱぁん。

 

 空中で発生する魔法の起点を見抜いた女帝の布が、再び布のようにしなって魔法の起点を破壊した。その光景を映像越しに嘘だろ、という声を零してみた。

 

「尊、今のは《パーフェクトキャンセラー》か?」

 

「いや、違う。今のはスキルじゃない。小手先の技術で魔法の発生を潰したんだ……出来るのはチート状態のスクナだけだと思ったんだけど……」

 

 平常で、何かアッパーが入っている訳でもない。特別なモンスターではあるが、チートしている訳ではない。それでも女帝はそれをなんて事のないようにやった。発生した魔法をリソースを消費せずに潰し、破壊する。

 

 そうする事で効果を避けた。これがゲームだったら台パンレベルの暴挙だが、これは決してゲームではない。リアルの戦闘だ。そして見ていて気付かされる。

 

 上位に行けば行くほど、スキルの使い方がただのスキルという枠組みから逸脱して行く事を。

 

 それを何よりも、映像越しに女帝が見せつけていた。

 

「じゃが太置いて合流した」

 

「アレは……見捨てたのか?」

 

「いや、ヴァルキリー抑えるのが役割なんだろう」

 

 直後、ジャガーノートがヴァルキリーを殴り飛ばし、更に戦場から引き剥がす。図書館の壁を突き抜けて更に奥へと巨大な姿と戦乙女が消える。その間にラファエラが全体ヒールでHPを戻し、0になっていたイージスのHPを戻し、更に再行動を付与する。

 

 《クリティカルガード》が入る。

 

 映像越しにマルコの表情がほう、と声を零しながらも困った様子に歪む。

 

 再行動の付与によってイージスがクリティカル耐性とダメージカットを獲得し、一気に耐久力を向上させる。まだリソース的には2ターン目のバースト力を残している相手に対する備えだ。

 

「クリは防御無視できるから強いし、OCが入れば殺人的な火力になってタンクすらふっ飛ばせる。それに対するメタが《クリティカルガード》だ。展開するとそのモンスターにクリティカル耐性ができる。これを出した以上、絶対にディスペルを使わなくてはならなくなる」

 

「初見だから効果は解る訳がないだろうが……何かをしてきたのは理解できるか」

 

「直感的に何か厄介な事をされた……って顔かしら?」

 

「かな」

 

 まだ見せた事のないスキルだから《クリティカルガード》の効果は解らないだろう。だがバフである以上、解除する必要がある。このレベルの試合で無駄なバフなんて物はないだろう。

 

 マジックマスターの行動がディスペルで決まるが―――ターン開始処理で図書館の効果が入る。

 

 ジャガーノートが回復範囲外で死亡している。ジャガーノートの巨体を押しのけながらヴァルキリーが復帰しようとするが、巨体故に押しのけるのに時間がかかっている。その間にもう1つの戦場での戦いが進行する。

 

「詠唱が3スタック来た。これでこっちが攻勢に出れる」

 

 相手がフィールドを破壊したからこそ2ターン目の攻撃に出れる。そうでなければ3ターン目に攻撃する事になっていただろう。

 

 戦場を越えてマスターの視線がぶつかり合う。短いモーションで指示が飛ぶ。

 

「マスタースキルを切ったな」

 

 一瞬で東吾のモンスター達が加速する。対するマルコ側も女帝に力が宿るのが見えた。流石に映像越しだとマスタースキルまでは判別がつかないが、東吾は様子からして《ワープスター》を切っただろう。

 

 となると相手は《デモリッション》辺りか? 女帝に付与して追撃でディスペルしようって所か。無駄がない。

 

 が、これでリーサルだ。

 

 《ワープスター》で先手を取る。最速で行動するのはハーデスだ。片手で腕を振るえば魔法が全体化し、《アポトーシス》が全ての敵へと向かって発動する。これによって回復が反転し―――ナイフがハーデスへと向かって振るわれる。

 

「インタラ……かーらーのインタラ」

 

「からのパフェキャン」

 

「からのインタラ」

 

「からの誘いでフィニッシュ」

 

 何時もの妨害合戦。だが死神という種族は固有スキルで打ち消しを保有できる為、他の種族と比べると積み込める打ち消しスキルが1枠多い。空中戦になれば日本のが有利だ。

 

 最後に誘いが女帝に飛んで行動を封じ込める。

 

 そして全体にかかる《アポトーシス》。状況は成った。

 

 翼を赤く燃え上がらせたラファエラがそれを大きく広げる。発動するのはフェニックスの羽を素材に習得したスキル。恐らく単純なスキルパワーで言えば世界最強のスキルだろう。広げられた翼から赤い羽根が放たれ、それが舞い上がってから……燃える雨となって降り注ぐ。

 

 逃げ場はない。

 

 降り注いだ炎の雨は一瞬で図書館を炎の海に沈め、やがてそれが柱となって部屋の全てを飲み込む様に噴き上げる。その熱量に図書館が悲鳴を上げ、破壊されながら全てを炎の中に沈め燃やす。

 

 《始原の炎》。

 

 それが東吾の選んだ選択だった。

 

 あらゆる生命の始まりを象徴する炎。それが全ての生命を平等に癒し、そして反転効果を受けたモンスターを燃やし尽くす。付与される蘇生不可によって蘇生すらできないまま死が確定する。

 

 一瞬でイタリアのモンスター達が殲滅される。

 

「これでリーサル―――」

 

「ではない! 生き残った!」

 

「マジで!?」

 

 次の瞬間、炎の海を割って女帝がラファエラに到達していた。その腕がラファエラの心臓を一瞬で貫く。アレを耐えるの!? マジで!? 誘いによる行動封印をどう抜けた!?

 

 あ、《シェイクオフ》か? いや、処理的に誘いに対抗できたっけアレ?

 

 或いは別の手段があるのかもしれない。そう考えているうちにラファエラを落とした女帝は死体をそのまま盾に使ってハーデスからの追撃に隠れ、ハーデスへと向かってラファエラの死体を引きずりながら接近する。

 

 反射的にハーデスが距離を空けようとして、ラファエラの姿がハーデスへと向かって投げられる。

 

 射線にラファエラが入り、攻撃のアクションが遅れる。その間に僅かに身をズラした女帝の拳がハーデスをラファエラの横から捉えた。

 

 衝撃―――ハーデスの姿が吹き飛ぶ。粉砕された図書館の燐光が舞う中ハーデスの姿が空へと打ち上げられる。女帝の視線は背後へ、イージスへと向けられない。タンクはこの状況では一番優先度が低い相手だ。相手する必要がない。

 

「このまま3タテする気だぞ!」

 

「え、可能なのそれ!?」

 

「解んない! 女帝の強さがスキルに依存しなさ過ぎて読みづらい! あの女、スキルだと動きが読まれるからスキル抜きでなるべく戦ってる!!」

 

 環境に対するメタではない。卓越したメタ知識を持つ俺に対するメタだこれは。なんてマスターとモンスターだ。自分の技、スキル、ステータスが知られているのなら読めない戦いを挑む事を選んだのだ。

 

 正気の沙汰じゃねぇ!

 

 だけど……カッコいい。

 

「攻撃役が落とされたぞ! 今の一撃だと冥府王も!」

 

「いや、始原を耐えられたのは予想外だったけど詰んでる!」

 

 吹き飛ばされたハーデスの姿がイージスと入れ替わった。空に浮かび上がったイージスの姿へと追撃しようとした女帝の動きが止まる。空中で吹き飛ぶイージスがダメージごとハーデスと入れ替わっている。HPだけ見るなら瀕死に近い形だろう。

 

 だが女帝が殴ったのはハーデスであってイージスではない。

 

 《デモリッション》によるディスペル効果はハーデスにのみ届いている。

 

「クリ耐性とダメカは残ったままだ! ダメージコンデンサーでハーデスと体力を入れ替えても殺しきれるほど火力は高くない!」

 

 女帝が舌打ちする。イージスから光が放たれる。《ペインインフリクト》でイージスが受けているダメージの割合が女帝に対してコピーされる。一気に瀕死ラインまで女帝の体力が落ちる。

 

 そして焦らず、揺るがず、落ち着いて。ハーデスが闇を呼び起こした。

 

 《暗黒樹海》降臨。

 

 大地を突き破って木々が伸び出す。世界が闇に包まれ、全てが閉ざされる。女帝の構築は連撃追撃特化で全体攻撃が薄めになっている筈だ。たとえ全体攻撃を持っていたとしても、イージスが残っている状態でハーデスまで殺しきるのは難しいだろう。

 

 着地した女帝が拳を握り、それから溜息を吐いた。

 

 合計4度目のフィールド発動、《暗黒樹海》の発動によってイタリア側は詰みに持ち込まれた。後は保険に残してある付与スキルを使って女帝にバステを付与、継続ダメージで倒すだけだ。それを悟ったイタリア代表が全く、という顔を浮かべた。

 

『時代が変わったか……俺の負けだな、こりゃ』

 

 ドローンのマイクがマルコの声を拾い、そのまま降参した。世界2位という圧倒的強者を下し叶東吾、ここに勝利を刻む。

 

 映像の中、大量の汗をかきながら拳を突き上げて勝利を飾った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。