最強以外ありえない   作:てんぞー

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このサイコパス野郎……!

「勝ったぁ」

 

「接戦だったな……」

 

 はあ、と溜息を吐きながら椅子に深く座り込む。

 

 本当に接戦だった。マスターとしての技術に関しては完全にマルコ氏が上回っていた。戦場の動き、追い込み、誘導、全てが最高クラスのマスターだった。それを東吾はスキルの強さを押し出す事で対応していた。あの動きに対応するのは俺には無理だ。

 

 これまで同じようなマスターや環境との戦闘経験を積んだ東吾だからこそ出来た動きだ。ああいうのを見るとやっぱアイツ強ぇなあ、ってのを感じる。

 

「今の戦い、東吾がハーデスを空中戦用に切って保険を積ませてなかったら詰んでたなぁ」

 

「あぁ、地味にジャガーノートが死ぬ時に自分を重石にして合流を止める動きが良かった。アレで相手の1手を潰す事に成功してる。事実上1:1トレードで互いのタンクの排除に成功してたな」

 

「最悪、《シェイクオフ》か何かで抜けられた可能性もあったけど、じゃが太君がイイ感じに邪魔になったおかげで排除出来たね。あの後女帝が無事だった理由が何も解らないけど」

 

「アレは確かに見ていてちょっと意味が解らなかったな……映像をもう1度確認するか」

 

「せやな」

 

 王様と頭を突き合わせてガジェットのリプレイ機能で先ほどの映像を再確認する。というか映像の再生機能なんてあったんだなぁ、と思いつつカメラを切り替えて戦闘を振り返る。シーンは誘いで動けず、《アポトーシス》付与からの始原でリーサルへと持ち込むと思った場面だ。

 

 アレの抜け方マジでどうやったんだ?

 

 素早くリプレイ確認してると驚愕の映像が出てきた。

 

「あ、こいつ自殺してる!」

 

「死んで解除しつつローコストの蘇生効果で蘇ったのか……」

 

 誘いが刺さる瞬間に自分の胸を叩いて心臓を破壊してる……。その後誘いの効果を受けて行動不能、時間差で死亡しつつ《アポトーシス》を乗り越えるように蘇生、回復は反転抜きのヒールを期待したのかこれ。

 

 うわぁ、賢い。滅茶苦茶賢い。動きになんの無駄もないし、心臓潰してから即座に死ななかったのも凄い。あの短時間でこのアドリブを捩じ込んでリーサル対応するのもヤバい。

 

 レベルが高い試合だった。いや、本当に。技量で上回るマルコをスキルの強みを押し出すことでギリギリ東吾が勝った形だ。心臓に悪いけど、見ていて楽しい試合でもあった。

 

 いやぁ、これはハマるのもしょうがないわ。

 

 面白いもん。

 

「しかし、なんて判断力と神経してるんだ。ここ、間違いなくマスターが後押しをしてる。始原には蘇生阻害効果もあった。もしセルフリザレクションが少しでも遅かったら、蘇生不可で何もできず死んでたぞ……」

 

「その判断力込みでSという事だろう。良い試合だった」

 

「うん、良い試合だった」

 

 王様と一緒にうんうん頷く。お互いにマスターを本気でやってるだけあって、こういうマスターの判断とか選択とか、そういう話をするのが楽しい。

 

 何時のまにかスマホの連絡先に王様が追加されてたのにはビビったが、話は合うんだよね……。

 

「何にせよ日本の勝利だ! 東吾にお祝いのメッセ……と、東吾からだ」

 

「どうしたんだ?」

 

 ダンジョンを出て、控室へと向かったはずの東吾からのメッセを確認する。

 

「メディアが詰めかけて来てて地獄だからこっちに来るな、だって。お祝いのメッセだけこっちから送っておくか……」

 

 日本2位で世界2位を倒したんだからそりゃあ大騒ぎにもなるか。事実上世界ランキングの大幅な更新になるだろうし。いや、でも交流戦では世界ランキングの更新はなかったんだっけ? 細かいルールの方を覚えてないなあ……あんまり関係のない所だし。

 

 何にせよ、めでたい所だ。今日本がフィーバー状態になっているだろう。

 

「ミコト、見ろ、ナナミから写真が送られてきたぞ」

 

「え、なになに」

 

 久遠がスマホを見せてくれる。そこには炎上するモンスター協会と全裸で頭が燃える支部長と、協会前のダンジョンゲートに向かって必死に腰を振っている警察の姿が映し出されていた。短い映像ながらこの世の狂気の全てが詰まっているような気もする。

 

「皆元気だなぁ」

 

「向こうでも交流戦を楽しめているようで良かった」

 

「いや、良くないわよ。狂ってるの? なんで燃えてるの? 警察は何をしてるの? ナニをしてるの? なんで支部長は全裸で炎上してるの? なにこれ? ナニ、これ?」

 

「日常だよ」

 

 そう言えばアンナは駆間の都市部には近づいた事がなかったんだっけ? じゃあ一生駆間市には入らない方が良いよ。人間、誰しも関わらない方が幸せで居られる場所がある。そして駆間に近寄って幸せになれる人間は破綻者だけだ。俺はお勧めしない。

 

 俺が破綻者って今ディスった?

 

 うーん、世界2位のバリューが滅茶苦茶でかいだけに日本は今どこもお祭り騒ぎだしSNSも掲示板も死んでる。これ以上は情報収集のしようがないかもしれない。ちょくちょく送られてくる駆間の世紀末映像を楽しみつつ、アナウンスが入る。

 

『次の試合はドイツ対イギリスによるヨーロッパ対決! インターバルを挟んでからの試合になります!』

 

「時間的に昼食をはさんでも良さそうだな」

 

「どっか食べに行くのもアレだし、何か出前でも取る? 大体なんでも手に入るわよ」

 

 財布を取り出したアンナがごく自然に奢る構えを見せるが、美代さんがそこにカットして大人で払うという話をアンナがいえいえ、美代さんがいえいえと争っている。アンナ、他人に奢る趣味でもあるのかな……?

 

「2人は何か食べたいものはあるのか?」

 

「もつ煮込み」

 

「もんじゃ焼き」

 

「ひっぱたくわよボケ2人」

 

「我はお好み焼き」

 

「アンタら日本に帰れ」

 

 もうサブウェイで良いわよね、とか言って俺達を見捨てないアンナのそういう所が好き。しかもちゃんと好みに合わせて頼んでくれる。高級品でもないし普通のファストフードだが、そういうのを楽しめる感性もある。

 

 感性の話をするなら王様も割と庶民に通じている……というか。

 

「アンナと王様って仲良いよね」

 

「兄だからな」

 

「言っておくけど、アレ、血の繋がりのある従妹とかだったら勝手に兄面してるだけの変人だから」

 

 アンナがばっさりと切り捨てるが、それすら王様は楽しんでいる様に見える。なんというか……本当に家族の事が好きな人なんだなぁ、というのがこの男からは伝わって来る。しかも今回はまるで隠す気がないし。

 

 どうせだ、この際聞いておくか。

 

「アンナ」

 

「何よ」

 

「どうして王様に敵対してる訳?」

 

 俺の疑問にアンナはあー、と声を零すと王様もあー、と声を零した。なんか妙な空気が流れ始める。え、なにこれ。もしかして聞いちゃいけない類の話だったのこれ? だって明らかに君ら仲が良いじゃん。敵対しているようには明らかに見えないし。

 

 そもそも王様、性格的に敵対みたいな事を考えるタイプには見えないし……。

 

 言い澱むアンナにまあ、と王様が続ける。

 

「まあ、いいか」

 

「アンタがいいか、って言える立場じゃないでしょ」

 

「尊ならみだりに吹聴する事もあるまい。我は弟の善性を信じている」

 

 ふふ、と笑う王様の様子になんか嫌な予感がしてきた。そっと両耳を塞ぐべきではないかと思案し始めたときにネタバレされた。

 

「いや、まあ、我はちょっと柊家を滅ぼそうと思ってな」

 

「ちょっとで済ませていい範囲越えてるぞ!!!」

 

「滅ぼしていいものなのか……」

 

 久遠さんへ、疑問がちょっとズレてると思います。普通はダメです。

 

 年上の従兄から飛び出した言葉に引いていると王様がいいか、と言葉を置いた。

 

「まず柊家は祖父剛三が一代で築いた城塞だ。だが祖父は失敗した。奴は継承者をまともに選ぶことをせず、争わせることを選んだ」

 

 その結果どうなった?

 

「柊の血は腐った……否、腐らせた。真の玉を生み出す土台として消費する為に己の子を腐らせたのだ。真の輝きあるものは決して清流から生まれはしない」

 

「お祖父様の信仰みたいなものね、ここは」

 

「ジジイ自身が逆境から生まれ育ったからな。自分もそうであるように、本物は抑圧と腐血からしか生まれないと思ってるのかもなぁ」

 

 その真実を俺たちが知る手段はないが。それでも。

 

「我々世代は少なくとも成功した。我のように万能の才を持って生まれたり、持たぬ才を補う為に努力を諦めぬ才や……それこそ、祖父が真に求めた闘争に適応した才能の持ち主が現れた」

 

 が、と続く。

 

「そういう才能の持ち主が正しいとは限らない。弟よ、貴様のように正しく己と向き合い前に進もうという人間は果たしてどれぐらいいると思う? 恵まれた生まれと環境に甘えないものが果たしてどれだけいる?」

 

「言っておくけど、アンタがこれまで見てきたのは上澄みだからね。大半の奴らは堕落してるし、自動的に親の遺産を継ぐんだから頑張る必要もないと思ってるわ」

 

「貴様の前に現れたのは将来の事やその先のイメージを持ち、何かをしようという意欲ある者たちだ。残念ながら多くがそうではない。そして祖父は子供が、孫が多い。非常に多い。とても多い」

 

「そんなに?」

 

「そんなに」

 

「そしてその多くは特に何もせずとも恵まれた人生を送れるだろう。それが悪いこととは言わない。だがその一人がマスターになりたい……そう言ったらどうなる?」

 

 柊家はモンスター協会の役員の座を保有している。人事や昇格、選出に口を挟める立場にある。

 

「そうだな、例えば高ランクの試合に出たい場合抽選が発生する。ランダムに見えるが裏では操作が行われていたりする。そういうのに介入する力が柊にはある」

 

 夢を見ることは誰かの夢を超えて行くということ。だがそのステージにすら立たせて貰えない場合もある。

 

「柊家の多くは腐り、私欲の為に他者を踏み躙ることに躊躇はしないだろう……だがそれも所詮は他人に借りた褌だ。柊剛三に与えられた玩具で上も下もずっと遊ばされているのだ」

 

 故に、と王様は続ける。

 

「柊を滅ぼす。全てを滅ぼし、その影響力を消し去り、その財を抹消する。そしてゼロから再び立ち上がる。それで残るものがあれば、それこそ本物の柊だろう」

 

 己の野望を語り終え、ドヤ顔で王様はこっちを見た。

 

「どうだ尊! 一緒に柊を滅ぼさないか!」

 

「いや……遠慮します……」

 

 ドン引きだった。

 

 静かにちょっと距離を空けて逃げる。そしてアンナを見る。

 

「俺は全面的にお前の味方だよ」

 

「ありがとう、理解が早くて助かるわ」

 

 アンナも俺も、聞いてるだけの久遠も、聞かないふりをしている美代さんも、恐らく同じことを考えているだろう。

 

 こいつに柊を継がせてはならないということに……!

 

 あっ。

 

「ねえねえ、王様」

 

「何かな」

 

「この話、派閥の人にしてる……?」

 

 俺の疑問に王様はにこり、と微笑んで答えた。

 

「勿論教えていないぞ」

 

「このサイコパス野郎……!」

 

 間違いない! 柊だ! コイツも柊の人間だ! 間違いねぇ! 何が王様に振り込んでおけば安パイだよ! 大地雷だよ馬鹿野郎!!

 

 鴉羽尊は!!

 

 柊アンナを支持し続ける事をここに誓います!!!




 前話で女帝の名が既出だったのでそれに合わせて修正しました。
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