とんでもない話が出てきてしまった。
ちなみに柊グループは色んなところに食い込んでる。
ジジイが色んな所に出資して回収した金で成長したらしいが、今思えば未来が解るから必ず成功するギャンブルだったんだな。その金で企業を発足、今では大企業となって生活に食い込んでいる。
まあ……柊家が吹っ飛んだら日本経済どころか世界経済がヤバいんちゃうか?
改めてこの男を勝たせてはいけないな、というのを心で理解する。その上でちょっとお話。
「王様」
「言うな。貴様の言いたいことは解る。扉に関しては我も閉ざそう」
「ありがと」
負ける気はこれっぽちもないのだが、それでも最悪を想定した保険に王様にこの件を通しておく。謂わなくても読んで理解してくれるから話が楽だ。
ほんと負ける気は欠片もないのだが。それでも最悪を想定して事前に話を通しておけるのは個人としては仲良く出来てる事のメリットだ。
取り敢えずオーダーしたサブウェイが来たので皆でそこでむしゃむしゃする。
日本チームはまだインタビューやらなにやらで忙しそうだ。その間に次の試合の始まる時間となった。
イギリス対ドイツの試合だ。勝ち残ったほうが日本と対決することになる。
「図書館登場以降ヨーロッパはランプ派が増えたけどドイツは昔から電撃作戦が大好きだしね。イギリスは図書館持ってる強みを活かしてランプやコントロールに移行気味らしいけどドイツとの相性はどうなんだろ」
「新ダンジョンからのスキルを握っているという事はそれだけスキルパワーが上だという事だ。基礎能力はイギリスの方が上だろうな。それを一番よく理解しているのは貴様だろう」
まあ、それはそうなんですが……。
柊家の話抜きなら王様とは滅茶苦茶話が合うのになぁ。レボリューションだ!! とかさえしなければな……単純に考えて柊家を崩壊させた後の被害が凄すぎるからやらない方が良いと思うんだけど。
それともアレか。
絶対に滅ぼさないともっとデカい被害が出るのを見越してるのか?
何にせよ、それ以上の事を語らないのなら俺も聞きはしない。結局、戦う事になるのだから、俺が勝って黙らせればよい。それまでにSに上がらないと良いなぁ……それされるとちょっと困る……。
それはさておき、イギリス対ドイツがいよいよ始まる。
電撃戦―――アグロ軸なのは昔からそうらしいドイツは環境と戦術がマッチングした結果強くなったタイプだ。今のグローバルスタンダードに対して新しい環境を手にしたイギリスがどれだけやれるのか、というのを見る試合になりそうだ。
なにせ、ランプ型はアグロに弱い。コントロールならともかく、本領発揮が終盤戦に入るランプ型の構築はいかに序盤と中盤の被害を減らすかが鍵になる。
何よりもゲームとして最初の数ターンにバーストして火力を出すのが最も強い戦術だと言われているのもある。このゲームは強力なスキルが1戦闘に1度等の制限があり、回復手段も非常に限られている事実がある。
死神でさえ打ち消しは特化型にして1試合4回から5回ぐらいが限度だろう。これだけやれれば馬鹿強いとは思うが、1ターンの間に起こす行動は1パーティー4モンスター、合計8行動分ある。1ターンに1個打ち消しを使う事になっても稼げるのは4ターンから5ターン程度だ。
そう、ゲームモデルとして長期戦は不利にデザインされているのだ。
だからランクマを回す時も大体の場合で試合は1試合4~5ターンぐらいで決着するし、早ければ3ターン目には終わる。1ターン目、2ターン目で試合が決着しないのは《明日に死す》みたいな強力なスキルで問答無用で1ターン耐え抜く事が出来るからだ。
こういう強力な防御系スキルが複数存在していればそれだけで1ターンは稼げてしまう。
その為、アグロ型による1~2ターン決着という形は比較的に珍しく、大体はパフェキャンやインタラが途切れる4ターン目ぐらいの決着になる。そしてここら辺のレンジはバフを積んで殴るミッドレンジ構築や、リソース削りが得意なコントロール型が強い。
それでもランプ型が死滅しないのは終盤の爆発力が魅力的なのと、エンドコンテンツのボスは基本的に長期戦前提のライフが設定されていて、ランプ型以外では勝負にならないからという事情がある。バーストしてライフを0にした所でライフストックから次のゲージに突入だ。
ワンパン対策はされ切っている、という話だ。
つまり今のイギリスは比較的に対人向けではないと言えるだろう。その中で、ドイツ相手にどんな戦術を繰り出すのかが気になる。
スタジアム中央に入場するドイツの代表が引き連れるのは機械化されたモンスターだ。無機生命体とも呼ばれる命を宿したロボットたちだ。
精神的なバステに対して耐性が高く、従順、トレーニングをサボったり失敗させ辛く育てやすいモンスターだ。軍隊で運用するのは基本的に量産しやすい無機生命型のモンスターが多い、とどっかで勉強した覚えがある。火力も高く、制圧力に優れたドイツ製のモンスター……まあ、言ってしまえば比較的に普通のモンスターだ。
ここはまだ良い。
「イギリスは何で来るか……」
「日本の次に注目されてるからね」
現状、図書館の恩恵を一番受け取っているのはイギリスだ。新環境の最前線だと言っても良い。そのイギリスがなにを出してくるのか、注目が集まる。
そして誰もが注目する中―――イギリス代表の姿が現れた。
先鋒。
アリスと嘘つき人形を連れてくる。
「や、やった! やりやがった! やりやがったイギリスの野郎! マジでやりやがった!」
目の前の柵を拳でどんと叩きながら刺激されるトラウマに吐き気を覚える。だけど同時にこの世界交流戦という場で血も涙もないマジレス童話ロックを持ち出すイギリスのブリカスっぷりに感服する。そうだよね、この構築雑に強いもんね。最新環境でも対策なしだと完封してくるもんね、これ。
うおー、と俺一人だけ死ぬほど吠えて盛り上がっていると、回りから視線が突き刺さる。解説して欲しいって表情を皆が浮かべてるので、簡単に説明する。
《ドレスコード》で戦術コアか構築メタとなるスキルを封じます。
嘘つき人形でタンクします。
《ドレスコード》でメタとなっているスキルが封じられているので嘘つき人形が突破出来ません。
Fin。お手軽カスのロック完成である。
「このコンビネーションの凄い所は他者回復手段か反転手段がない限り出た時点で詰みなんだ。そして見てる限りドイツの構築に回復できそうなモンスターはいなかった。1タンク3アタ編成のアグロ寄せ構築だね。詰みです」
「えぇ……」
童話ロックは選出時点で対策がないと負けます。クソゲーです。最新環境でも殴り合えるクソゲーです。
そう言えば図書館探索中にこのクソコンボ喰らってたな俺ら……。あの時は東吾がいたから回復して乗り切れたけど、ドイツは構築的にそういうキャラクターはいないだろう。アリスの《ドレスコード》を打ち消される事だけが懸念点だが、そこは空中戦多め想定で詰み込めば良い。
「イギリス2連勝で終わりかなこれ」
「流石にそれはないでしょ。ドイツだって馬鹿じゃないわ。何らかの対抗手段を備えてる筈よ」
アンナが流石に世界ランクの試合だからこのまま終わる訳がないと言う。実際、僅か数日で童話ロックに対する対抗手段は死ぬほど編み出された。環境のメタ必須枠に一瞬で入り込んだからだ。控えでも良いからメタを入れていない場合一瞬でゲームセットになるのだから当然の備えだ。
だが今はまだ、それが発覚していない時期なのだ。
だから当然のように始まったイギリス対ドイツ第1戦、アグロを気持ち良くキメようとしたドイツは攻撃を全部カスの人形に吸い込まれ、対抗手段をアリスに封じられて無事に死亡した。全体攻撃も人形の範囲守護によって吸い込まれて無意味と化した。
南無。
そして第2試合、Wアリス人形+デバッファー1枠という童話コントロール軸の構築を出して来た。ドイツも緊急で戦闘速度を落としてまで他者回復できるヒーラーを入れて空中戦の備えをした。だがWアリスという脅威の地獄を前に無事昇天する。
《ドレスコード》はナーフによって片方しか機能しないのだが、《ドレスコード》を片方潰してももう片方が生き残るというのがまずクソゲーなのだ。アリスの速度調整を行って時間差でセットアップ中に《ドレスコード》を発動させれば、インタラとかを片方で受けてからもう片方でロックを構築できるのだ。
トリプルまで行くと実用性はないが、Wアリスならデバッファーにインタラパフェキャン積んでほぼ確実に《ドレスコード》を通せるのだ。これでヒーラーのコアスキルを封じるか、最初の《ドレスコード》で相手のパフェキャンを指定出来れば相手に無理矢理パフェキャンを使わせる事を強要できる。
使わなきゃアリス生きてる限り封印だからね。
最初の《ドレスコード》でインタラとパフェキャン指定して無理矢理消費させるという手もあるのだ。
そして消費し終わって《ドレスコード》を止められたら、速度差で2つ目の《ドレスコード》で必要スキルを封じる。
これがカスのTier1の貫禄である。事前情報があっても対処手段が限られ過ぎて糞が死んでくれ! スクリーン叩き割るぞクソボケ! 死んでくれ! 俺は幼女スレイヤーになる! 人形? お前は暖炉の薪だよ!! 数々の暴言とパワーワードを生み出した最悪のロック、パーミッション、コントロール構築の基盤だ。
ここからパーミッションにもコントロールにも繋げられるからほんとカスなんだよね、アリス人形のコンビ。
食らって気持ちの良い所が何1つない。
『わ……ぁ……わぁ……』
「ドイツ代表が何も出来ずに負けて泣いてるな……」
イギリス対ドイツ、大将戦のドイツ最強とイギリス最強の出番が出て来る事もなく、2連続童話ロックによって完封で試合が終了する。ひたすらドイツの機構軍隊が砲撃射撃爆撃するのを人形が吸い込んでリソースが枯れるのを待ちつつデバフで殺すという地味で人の心を一切感じない試合運びだった。
その光景にトラウマを刺激されつつも、俺が涙を流した。
「これだ……このクソゲー感こそが俺の求めてたバトルだよ……!」
「ミコト、貴様疲れてるんだ。ほら、膝を貸すから横になれ」
懐かしさに涙を流しつつ、これと戦わなきゃならない日本に同情する。
これ、どうやって攻略するんだろうな……俺は戦いたくないです……。