最強以外ありえない   作:てんぞー

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スクナ、飲んだ、飲む、飲み続ける!

 インフレ特急。

 

 それは漫画でもアニメでもゲームでも存在する究極の乗り物。誰かが新環境や新スキルを習得した時、それがスタンダードになってしまう現象。突出した誰かに環境を合わせようとした結果、突出した存在をベースに平均化してしまう引き上げてしまう現象。

 

 インフレ特急。一度乗車すると乗車できなかった奴は環境に置いて行かれる地獄の列車。

 

 だが不思議とこのインフレ特急がホームに入るとシンクロニシティが発生する。まるでそれに乗車した1人目に追従しようと他にも乗り込む者が現れた。地獄の前半ブロックには日本、イギリス、中国とフィールド展開している三雄が現れた。

 

 なら後半ブロックはこの手のダークホースがなかったのか? アメリカは自分を隔離して安全に決勝まで向かえるのか? その話をするとなると更に翌日の結果が必要になって来る。

 

 後半ブロック開始初日、エジプト対ブラジル。エジプト2-0で勝利。

 

 ここもフィールドを使った新しい戦術が投入された―――DLC:ワールドツアーで出現する筈だったフィールドとスキルをセットで活用する事で圧勝する事になった。《熱砂の大地》は全体と行動時にAOEを発生させ続けるフィールド効果。これにAOE無効化を組み合わせる事でアグロ型の行動回数を抑制するパーミッション軸の勝利であった。

 

 続いてサウジアラビア対メキシコ。サウジアラビアの勝利。

 

 どこから入手したのかは不明だが、サウジは《根の国》と《図書館》を戦闘で活用した。結果は2-0で勝利だが、日本とイギリスから流出していない筈のスキルが流出した事実にそれぞれの国が誰が流出させたのかを疑うハメになる。

 

 恐らくは金を使ってどこからか横流しされたんだろうという判断はされたが犯人追及は後日へと流される。

 

 更に翌日にはアメリカの試合もあったが圧倒的強さを持つ王者の前に相手はほぼ関係なく、勝利だけが積み重ねられる。後半ブロックはアメリカがサウジとエジプトを攻略できるかどうか、その一点だけが注目されるようになっていた。

 

 現在の王者が果たして新環境に対抗できるか否か。

 

 後半ブロックに関してはその一点に注目されていた。

 

 そして最新の環境を走る日本とイギリス。

 

 数日の研究と会議を重ね続けた所でいよいよその日がやって来た。全世界が注目する一戦。今、一番インフレの中にある日本とイギリスの対決が始まる。

 

 

 

「―――はい、という訳でついに始まります日本対イギリス! いよいよやってきましたね! という訳で今回もにぎやかし、頑張っていきます相澤リキです!」

 

「実況の古谷です。本日は解説役としてAランク交流戦でサポーターを務め、Sランク初戦でもサポーターを務めた鴉羽尊さんを招いています。どうぞ、よろしくお願いします」

 

 そして俺は解説のバイトを始めた。

 

「ドクターストップ叩きつけられて本戦での仕事がキャンセルされた尊だよ。文句は全て酒カスが受け付ける……という訳で暇ならこの先の試合、初見と訳わからん殺しが多すぎの実況殺しだから働いてきなさいよ! ってアンナに言われたから臨時で解説に入るよー」

 

「いやぁ、助かります。実際日本もイギリスも初めて見るスキルが多すぎて……」

 

「解説に困りましたもんね! チームに参加してた鴉羽さんなら頼りになりますよ! そしてお久しぶりです!」

 

「アイドルくんお久しぶり。いい仕事貰ったじゃん」

 

「お久しぶりです! あの牧場での仕事以来、モンスター関連の仕事増えたんですよ! 海外でのソロの仕事も増えるようになって……」

 

「危険なやつ?」

 

「危険なやつです」

 

 まあ……せやろな……。

 

 そんな訳で、イギリス戦は実況席で解説することになっていた。アンナの握ってるチャンネルだから人事は自由だし、アンナからお小遣いも出る。

 

 試合を見てて何も理解できないのは流石に可哀想なので俺もこんな風に仕方なく仕事を引き受けた次第だった。

 

 折角の面白いバトルが理解できないのは勿体ないしね。

 

「……はい、という訳で、こちらのゲストを迎え本日は日本対イギリスを見ていきます。どちらもこれまでにない新しいスキルを活用した新戦術を披露していますが……相澤さん、どう思いますか?」

 

「日本は個人としては強いマスターはいましたが、世界ランキングではそこそこ程度でした。ですが新しいスキルや戦術によって一気に戦力のアップデートが行われていた世界レベルで戦えるようになった……気がします! 実は細かいスキルの効果や内容が解らないから具体的にどれぐらい? というのが説明し辛いのですが……鴉羽さん、解説良いですか?」

 

 もちもちとサムズアップを浮かべる。

 

「前戦でイギリスが活用した童話ロックはアリスの《ドレスコード》を使ってコアスキルを封じ、嘘つき人形への対処札を封じることで対抗出来なくする極悪なロックだ。これの恐ろしい事は事前に対処法を知らない完全初見だと完封されることなんだが……」

 

「先日のドイツ戦ですね。欧州最強が出番がないと泣きそうになってましたね……」

 

「アレはちょっと可哀想でしたね……」

 

「だけど本当に怖いのは童話ロックが見えたことでそれに対応する札を握らなきゃいけないこと、ドレコで打ち消しやマスカンを封じられると消費するか空中戦を強要されること」

 

「見えた時点で消耗と心理戦が要求されるんですね」

 

「出る出ないは別として、握らない限り即座に詰みになる。勿論相手は相手が構築を更新したのを狙って童話抜きで勝負に出てもいい。このゲームの本質は1モンスター8枠のスキルをどう構築するかのゲームだからね」

 

 そういう意味では今のイギリスは1つ上のステージで戦いを始めた。つまり専用対策必須のモンスターを裏に入れたワンランク上の心理戦だ。これを読みきれるかどうかが勝負の分かれ目だろう。

 

「解説、ありがとうございます。それでは両選手入場の時間となりました。日本、一番手は歪沢椿プロです」

 

「酒カスとして有名な歪沢プロですね! 一回戦は圧倒的暴力で勝負を制しましたけど?」

 

「アレはバグ技みたいなもんだから期待しちゃ駄目。アレのせいでドクターストップ貰ったからね、俺」

 

「となると正攻法での攻略でしょうか? 歪沢プロの読みの精度は異常の一言に付きます。彼女がイギリスの采配を読みきれるかどうかに期待です!」

 

 スタジアム中央に酒カスが出てくる。歪沢とか言われると偶に誰? ってなるんだよな……。

 

 連れてくるモンスターは前回と一緒、特別な対策を施してるようには見えない。前回はチート状態だったが果たして今回は?

 

 対するイギリスはアリス、人形、人形2体目にアタッカーという変則構築で来た。

 

「アリスよりも人形が多いのは前回のスクナの暴れぶりを見て、耐性で止められるキャラクターが欲しかった……というところかな? どれだけ暴れても反転抜けないんじゃ意味ないし」

 

「勝てそうですかこれ?」

 

「勝てると思うよー」

 

 あっさりとアイドルくんの質問に答えるとえっ、という声が返ってきた。前回はハプニングがあって見せることはできなかったけど、スクナを始めとしたモンスターは大幅に強化されている。

 

 理不尽なのは童話ロックだけじゃない。

 

 それを教えるときだ。

 

「戦闘用ダンジョンに進みました……この緊張感、世界が注目してます」

 

「歪沢プロ、お酒飲んでますけど……」

 

「飲んでないと手が震えるよアイツ」

 

「病院ッッッ!!!」

 

 医者は窓を開けて月に向かって匙を投げたそうです。

 

 という訳で、両者共に戦闘用意。酒を飲みながら戦闘開始を待つ酒クズに対抗してか相手も唐突にティータイムを開始。戦場の前で放火前ティータイムが始まる。

 

 日本対イギリス。

 

 紅茶対強い零。

 

 見たくもない勝負が本番前に始まりつつある。始まるな。普通に戦ってくれ。せめて酒じゃなくて緑茶にしてくれ。ツッコミが追いつかない。

 

「カウント開始されました……30秒前」

 

「うぅ、緊張しますね……鴉羽さんは緊張しませんか?」

 

「いいや? だって勝つだろ、アイツ」

 

 勝利を疑わない。絶対に勝つだろうと確信している。それぐらい、皆強くなっている。特に仮面マンのインフレ具合が一番ヤバい。前回は出番がなくて可哀想だったけど。

 

 大将戦にもつれ込んだ場合、日本は絶対に勝つだろう。

 

「5秒前! さあ、試合が今……開始されました!」

 

 ARヴィジョンに表示される試合の様子。開幕アリスからの《ドレスコード》が飛んで行く。クラマオウからインタラが飛び、続いて打ち消しのインタラ……は来ない。

 

「打ち消さない? 受けました?」

 

「いいや、今のは《ロジックジャマー》だな。妨害を引き出してからドレコを通させたな」

 

 ドレコは解りやすいマスカンなだけに絶対に妨害が飛んでくる。それに対応してロジジャマで妨害耐性をつけるのは賢い戦い方だ。これでイニシアチブを握れるからだ。

 

「何を封じられたか解りますか?」

 

「それは後で解る」

 

「おぉっと! 来たぞ来たぞ! 大地を突き破って黒い樹海が世界を覆う! 噂の《暗黒樹海》登場だ!」

 

 《暗黒樹海》が発動し、お互いに任意対象の指定が不可能になり、《幻想図書館》が場を上書きする。全ての存在に詠唱が配られ、再び樹海が出現する事で開幕のフィールド合戦は樹海の降臨で決着する。だがこのままだとイギリス側が攻撃に移れないだろう。

 

 行動開始した時点で再び図書館が出現し、樹海を割ってフィールドが上書きされる。その間に黄龍がその巨体を使って味方を守りに入り、コノハナサクヤヒメがバリアを展開してHP上限を疑似的に伸ばす。クラマオウがスクナを対象に妨害耐性を付与する。

 

 スクナが酒の入った壺を取り出した。

 

「スクナ、ここでお馴染みのスキルを発動させる! さあ、駆けつけ一杯!」

 

「《神便鬼毒酒》。攻撃力+100%、被ダメ+100%」

 

「何度聞いてもイカレた性能してますね」

 

 ハイリスクハイリターン。それが鬼神ランプという構築だ。馬鹿みたいなバフを得る代わりに馬鹿みたいなデバフを背負う。一気に死ぬ確率が高くなる代わりに相手を消し飛ばすだけの火力を得る。これは単純な構築ではない。

 

 相手の動きを、構築を理解して完璧にマスカンを把握して打ち消し、的確にスクナを守らないといけない。今のスクナは被ダメが2倍の状態になっている。濡れティッシュ並みの耐久力になったスクナは簡単な攻撃が致命傷になりうる。

 

 だから他のモンスター達は全力でスクナを介護しなくてはならない。

 

「スクナに攻撃が降りかかる! が、それを黄龍が請け負う! 動きが精細を欠いている様に見えますがどうでしょうか?」

 

「《ドレスコード》を止められなかったのが痛いのかもしれませんけど……鴉羽さんがずっと余裕の表情見せてるのが気になる所です」

 

「答えを言ったら面白くないだろう? まあ、ヒントを出すならスクナが飲む酒は1種類だけじゃない、って事だ」

 

「成程、期待させる事を言ってくれますね!」

 

 黄龍が集中攻撃を受ける。防御を固める巨龍に降りかかる大量のデバフ。アリス→人形→人形という順番で魔法が連鎖する結果、合体魔法が連続で発動し、合体魔法と合体魔法の合体まで連鎖する。デバフ型の合体魔法は対象の全体化や効果の重症化がメインだ。

 

 一気に層の深くなったデバフが黄龍を襲う。

 

 凍傷。病気。火傷。感電。様々な属性とデバフ効果のあるバステが付与され、黄龍の表情がちょっと痛そうにしている。それでも簡単に沈まないのは《龍鱗》と呼ばれる常時ダメージカットの発生するスキルでダメージを抑えているからだ。

 

 これは弱点ダメージで貫通できるという明確な弱点が存在するが、この手のデバフ漬けには滅法強い。ただ全体庇うを常に使っているので黄龍のHPは凄い勢いで抉れている。バリアタイプのコノハナサクヤヒメでは黄龍の回復は難しいだろう。

 

 そしてその陰に隠れているスクナが悠々と2杯目に手を出した。

 

「お次は《八塩折の酒》。根の国に出現するレベル150のボスモンスター、ヤマタノオロチを討伐した際に手に入る素材を材料に作ったスキルだ。これを飲む事でなんと攻撃が常にオーバークリティカルする様になり、物理魔法耐性が弱点に変化する」

 

「え、つっよ……いんですか……? え、いや、デメリットに釣り合ってなくない……? 確かに強いですけどこれって通常のバフでどうにかなる範囲ですよね?」

 

「まあ、もうちょい見てて。もうそろそろ酔いが回って来る所だから―――っと」

 

 攻撃が黄龍を飛び越して来た。スクナの耐久力が脆弱になったのを感知し、《無限覚醒》が切られた。一瞬で加速する姿をクラマオウが《パーフェクトキャンセラー》を使って戒めようとして、人形から《インタラプト》が飛ぶ。

 

 コノハナサクヤヒメから更に《インタラプト》が飛んだ。

 

 カウンターでアリスからも《インタラプト》が飛ぶ。高レベル戦の風物詩、打ち消し合戦が入った。最後に黄龍から飛んだインタラが人形からのインタラで相殺されたのを見てうん、と俺は頷いた。

 

「勝ったな」

 

「今ので!?」

 

 《無限覚醒》が通った。庇う貫通効果の攻撃がスクナへと叩き込まれ、1撃目でスクナのバリアが消し飛び、2撃目でスクナのHPが消し飛んだ。残った行動回数でコノハナサクヤヒメを消し飛ばし、《無限覚醒》が終了する。

 

 連続行動による圧倒的火力のブーストを前にパーティーが半壊したように見えて―――スクナが立っていた。

 

「スクナ沈んで……いない! 立った! 立ちました! 倒されたはずなのに立っています! 鴉羽さん、これは!?」

 

「《強者の矜持》。死亡時発動。最大HPを0に固定し、3ターン後に死亡するまで不死身状態になる」

 

「最大値0って事は蘇生不可ですよね!? つまり事実上のタイムリミット……あ、これを止めさせない為に相手のインタラ消費させたのか!」

 

 そうそう、主動作じゃないからインタラ残ってるとこれ止められちゃうんだよね。でもこれが通ったって事は後は詰めるだけだ。

 

 黄龍が沈み始める影でスクナが3杯目に手を出す。

 

「神の血の色をしていると言われるワイン、《神の雫》。最大HPを1に固定し、常に庇う効果を付与する。代わりに自身に庇う貫通効果を付与する」

 

「さっきのスキルでデメリットを踏み倒してるんですね!」

 

 童話ロック構築には明確な弱点と対策が存在する。そしてそれはキーパーツであるアリスの耐久力が低い事だ。黄龍がデバフ漬けになって沈み、最後までクラマオウをほぼ無傷で守り通す―――そう、黄龍が本当に守りたいのはスクナではなくクラマオウだ。

 

 そしてそのクラマオウも自分の命を捧げ、神速を付与する風をスクナに与えた。

 

 凄まじい質量の風がスクナに与えられ、その速度を限界を超えて強化し、追加行動を付与する。

 

 与えられた追加行動でスクナが4杯目に手を出す。

 

「《黄金の蜂蜜酒》。MP消費率が10倍になる。その代わりにクリティカルダメージ+200%。このタイミングで飲まないと消費MPの関係で最後まで持たないんだよね」

 

「スクナ、飲んだ、飲む、飲み続ける! そして最後の一滴を飲み干して―――前に飛び出す! すり抜ける! 守りも何のその! 一瞬で後衛にまで到達したぁ!」

 

 通常攻撃をアリスに叩き込む。

 

 オーバークリティカル。

 

 ただのパンチが即死パンチに変化する。アリスが消し飛び、《ドレスコード》が解除される。これによってスクナの封印されていたスキルが解禁される。

 

 不死身が途切れて死亡するラストターン。人形は特殊耐性持ち。相手のアタッカーは攻撃を放棄し、生存の為に防御に入る。このターンを耐えればスクナは自壊する。故にここは耐えの一手が正しい。

 

 普通ならね。

 

「最後の3枠はまずは《無限覚醒》」

 

 スクナの行動回数が一気に増える。時間に、空間に干渉するように一気に加速し、常軌を逸脱した速度でスクナが動く。追加で発動するスキルは攻撃用のスキル。

 

「《鬼神撃》―――はい、即死」

 

 即死パンチでまず防御したアタッカーが消し飛ぶ。残された行動回数で最後のスキルをスクナが発動する。

 

「最後のスキルは《癒しの手》、即時発動スキルでターン中の自分の物理攻撃を回復効果に変化するもの」

 

「メタスキルだぁ―――!」

 

 アイドルくんの叫び声にせやで、と答える。

 

 童話ロックはその……なんだ、アリスがナーフされた事件もあったしね? 巻き添えでナーフとかメタスキル実装とかもあったんですよね。インディーズゲームだから作者がパッチしやすいのもあったし。そういう訳でピンポイントでメタるスキルってあるんですよ、これ。

 

 まあ、これにスキル1枠割くのってだいぶ苦痛だとは思うけど……。

 

「スクナがぁ! 拳がぁ! 人形を捉えてぇ! 殴って癒す! 殴って癒してぇ! 両方とも倒す! 倒した! 倒しました! 歪沢椿、ここに勝利を刻む! 1戦目、日本の勝利です!」

 

 人形を消し飛ばして拳を掲げるスクナ。

 

 タイムリミットを迎えてその肉体がはじけ飛んで肉片になった。モンスターが全滅したフィールドの中、日本の1勝目が決まった。

 

 ワンチャン、再び仮面マンの出番が来ない可能性が出て来た。

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