最強以外ありえない   作:てんぞー

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お前んとこのPかDかは知らないけど殺しに来てねぇか?

「歪沢椿、日本の先鋒としての格を見せつける! 薄氷の勝利に見えましたが……解説の鴉羽さん、どうでしたか?」

 

「ありゃあ薄氷じゃなくて計算された犠牲と着地から計算された勝利だよ。じゃあちょっと今の試合を振り返りつつアリスを利用した童話ロックの弱点の話をしよっか」

 

 凄い勢いで視聴率上がってるってスタッフがカンペで伝えて来る。童話ロック解説入る瞬間視聴率上がるのなんだろう……他国の人たちもしかしてこのチャンネル見てるんか? まあ、喋った所で別に困らないしいっか。

 

「計算されていた……と言いますと?」

 

「まず第1にあの酒カス酒クズ酒ボケクソはふっつーに強いし賢い。酒飲んでてIQ溶かしてる部分あるけどそれ込みで凄い頭が良く回る。ここ数日裏でサポートに回って戦術の話とかしてたけど凄い勢いで飲み込むし、認めたくないけど天才の部類だったよ」

 

 新しいスキルの使い方とか、回し方とか、コンボとか、タイミングとかするする飲み込んでいった。というか既に知っている知識を現実に適応してる……って形の方が正しいかもしれない。俺に近い形だよアレ。人間としては嫌いだけど、存在としては近いかもな、あの女。能力も相性良いし。

 

 そこが更に嫌なんだけど。

 

「言っちゃあれだけど童話ロックは現時点だとパーツ不足で不完全なんだよね。例えば《ドレスコード》は《暗黒樹海》があればカバーできるし、アリス自体も庇う貫通攻撃をすり抜ける事が出来る。それ以外にもデバフや減速関連で足りてないパーツは多い。だから現時点で童話ロックを展開する時、大体の方向性は読めるんだよね」

 

 となると後はどうやって着地するか、というだけの話だ。

 

「今回、相手の敗因は間違いなくディスペル不足。後はデータ不足かな」

 

「そう言えばディスペル全く打って来ませんでしたよね? あんなにバフが重なる前に解除した方が良いと思うんですけど」

 

「これに関しては色々とあるけど、プロとアマでの考え方の違いがあるかなぁー」

 

 ざざっと説明すると、解除にもバリューというものがある。

 

 攻撃+2と攻撃+1では圧倒的に前者の方が解除した時の効果がデカい。つまり攻撃+1の段階でディスペルをかけるよりも、攻撃+2の段階でディスペルをかけるほうが《ディスペル》そのもののバリューがデカくなるという話だ。

 

 この場合、2回行動ではなく1回の行動で纏めて解除する事が出来るから1回分の行動が浮く事になる。つまり行動を浮かす為に纏めて溜まったバフを解除した方が効率が良いという考え方だ。その為、ディスペルを3ターン目辺りにかけた方が効率としては良い。

 

 その場合、スクナがロスするのは3ターン分のバフになるからだ。

 

「だけど此処で1ターン目に被ダメが2倍になったのが効いて来る。だってそうだろう? 解除せずに倒せるのなら態々解除する必要あるか?」

 

「……成程、歪沢プロはスクナが得たデバフを相手に提示する事で心理的に解除し辛い状況へと持ち込んだんですね。《無限覚醒》が通ればスクナを倒せましたし、その場合はディスペルが不要になる。そしてその後も蘇生不可になってゾンビ状態のスクナが残る」

 

「時間経過で倒れるなら放置でも問題ない……って判断ですね!」

 

「無論、これはこの1戦前にドイツ戦で完封勝利を収めた結果少しだけ浮かれている部分があったというのもある。大勝利をした経験から少しだけ慢心していたとでも言うのかな。必要以上に詰めなくても勝てる……そんな慢心があったんだと思うよ」

 

 それをあの酒クズは戦術に組み込んだ。

 

 彼女の予知能力は確定した未来を見るものではなく、数多くある可能性を覗き込むものだ。つまりそこから最も可能性のあるものをピックしなければ意味がない。そしてそれは決して楽な作業ではないらしい。だから面倒がって酒関連以外ではほぼ未来を見ないらしい。

 

「認めたくはないけどクレバーな戦い方だったよ。最初から《無限覚醒》から3タテする前提で動いてたし。後半はいかに相手に心理的なリードを与えて調子こかせるか……って所にあったと思う。サクヤ、黄龍の陥落も計画通りだっただろうし。総じて君は戦術のセットアップが上手なんだね! って試合だったね」

 

「成程……ギリギリのように見えて実際はずっと歪沢プロの掌で転がされている試合だった、と」

 

 うん。マジでお見事。童話ロック、現時点で割るのは結構大変なのに良くやったよ。それはそれとして試合終了してからげろげろして欲しくなかったけど。あの女、げろげろしながらフィールド離れてるよ……。

 

「じゃあここからは童話ロックの明確な弱点の話をするね」

 

「あ、気になってたんですそれ! アレ、対策なしだと滅茶苦茶ハメ性能高いじゃないですか! 弱点なんかあるんですか?」

 

 あるよぉ。え? 世界各国から今、凄いアクセスされてる? 流石柊のチャンネルは人気ですねー……。

 

「まずはアリスが《パーフェクトキャンセラー》を習得しないこと。上限が《インタラプト》で主動作を咎める能力を持たないデバッファーってこと」

 

「なるほど! 《無限覚醒》等の必殺スキルを止める能力がアリスにはないんですね!」

 

 アイドルくんの言葉にうむ、と頷いてはなまるを与える。そう、アリスの技幅はそこまで広くないのだ。《ドレスコード》、《ティーパーティー》、《ワンダーランド》、アリスの固有スキルが強いのもあって技幅は昔、ナーフ対象となったのだ。

 

 スキル封印あるのにパフェキャンまであったらチートも良い所だ。

 

「アリスは分類上はデバッファーになるけど、デバッファーとして絶対に握っておきたい《パーフェクトキャンセラー》が握れないという明確な弱点がある。これはつまり主動作をベースとして戦略を組み立てるとアリスでドレコの封印以外で咎める手段がないってこと」

 

「成程、今回スクナが止められなかったのはアリスにそれを咎める手段がなく、準備整うまでひたすら咎められない分類の行動しか取らなかったから……なんですね?」

 

 実況の言葉にはなまるっ!

 

「加えて言うなら嘘つき人形もタンク性能はあるけど半デバッファーって感じの適性で、さっきの戦闘みたいにデバフやバステの付与はできるけどパフェキャンは習得出来ないし、タンク系スキルも無敵やリレイズの類が習得出来ない様になってる」

 

「成程……強力なロック性能を持った反面、明確に劣ってる部分があるのですね」

 

「今回の日本の勝利はその特性を完全に把握したからの結果ですね!」

 

「最後に付け加えるなら《ドレスコード》のスキル封印は使い手とアリスの知識に依存するから、相手に対する理解やスキルの把握が薄いとざっとした感覚で封印対象が決められちゃう事かな。今回もスクナの新スキルを読み込んで封印出来るなら庇う貫通効果のあるものから止めてただろうし」

 

 ここはこの数日、図書館で実験済みの内容だった。

 

 対イギリスが決まってからアリスと人形対策に一度図書館へと向かい、現地でアリスを相手に対戦経験を積んできたのだ。その際にリアル化しての《ドレスコード》の性能検証も行った。

 

 シンクロしてるならマスターと共有された認知で感知か知っているスキルを封印できるが、していない場合はアリスの感覚が優先される。

 

 恐らくイギリスも事前に何が脅威になるか調べて、リストアップしつつ優先度を決めたはずだ。

 

 逆に言えば優先度の高いスキルを2個事前にスキル枠に入れておけば、そこにドレコを誘導できる。

 

 今回の勝利は単純な初見殺しじゃなく、ドレコやアリスの仕様を理解して利用してやった結果なのだ。

 

「詳細な解説、ありがとうございました。日本が先制したことによってイギリスには後が無くなりました。無敵と見えた童話ロックも破られ、イギリスの次なる一手に注目が集まります」

 

 ここで一旦CMが入る。給水タイムにお茶でちょっと喉を潤す。

 

 結構喋ったなー。案外こういう解説やるの楽しいかもしれない。バトルオタクなの隠さなくていいし。抑え込んてる解説欲を解放できて結構爽快だ。

 

「それにしても鴉羽さんが来てくれてほんと助かりましたよ! やること成すこと全部解らないからもうどうしようもなくて!」

 

「本当に困ってたんです……」

 

「いやぁ、どの国も初見殺しで勝つ気満々だからねぇ」

 

 ほんと、どうしてこうなったんだか。まあ、環境が魔境化するのは俺は大賛成だからむしろ歓迎なのだが。

 

「それにしてもアイドルくんほんと元気だね。最近の仕事とかどう?」

 

「仕事増えたって話しましたよね? あの牧場の経験のおかげで銃を握ることとモンスターと触れ合う事への抵抗がなくなったんです! それにこれを見てくださいよ」

 

「お」

 

 アイドルくんが1枚のカードを取り出した。

 

 なんど、マスターライセンスである。

 

 しかもEのものだ!

 

「やるじゃん」

 

「鴉羽さんの記録を参考に素早さ特化にしたらあっさり勝てましたよ! 今は時間がなくてD認定出来てないですけど、《アヴォイドマジック》を覚えさせてからやろうと思ってます」

 

「しかも構築コピーからのアレンジまで出来てるじゃん! 才能あるよ!」

 

 構築のコピーは強くなる上で絶対にやるべき事の1つだ。強い構築を真似て、そこから成長するのが1番やりやすい。しかもアレンジ入れて適応してくるのはかなり才能を感じる。

 

 いや、いいね。新しい仲間が増えるのは。

 

「今度番組の企画で新しいモンスターを探しに行くんですよ。根の国まで」

 

「お前んとこのPかDかは知らないけど殺しに来てねぇか?」

 

 いきなり挑戦するハードルおかしくねぇか? あ、CMが終わる? よし、雑談終了! 後で知り合いが遊びに行くって根の国に連絡入れておくか……。大丈夫? ちょっと死なないか見ておくだけでいいから。あ、グレートかーちゃんが見てくれる? そっかぁ。

 

 無言で連絡を取ってたスマホを切る。

 

 良し、見なかった事にしておこう!

 

「CM明けまーす! 次の試合もよろしくお願いしまーす!」

 

 スタッフの掛け声に撮影に慣れているメンバーが直ぐにスイッチを切り替える。流石プロってところだなぁ。未だに注目されることに違和感覚えるわ。

 

「それではいよいよ次の試合の発表です! 前試合では叶プロが出てきましたが……?」

 

「叶プロは安心感がありますからね、いい選出ですよ。ただ、個人的にはマスター仮面の出番も見たいです!」

 

「戦略的に考えると仮面マンはまだ手札を見せてないから、温存する為にも優先度は東吾のが高いんじゃないかな」

 

 と、言っている間に2人の姿が出てきた。

 

 日本サイドは叶東吾2位。今、凄まじい勢いで日本のランキングを駆け上がり、そして前の試合では世界2位を倒した最も勢いのある男だ。

 

「来ました! 叶東吾! 次鋒を任せられる男はこの人以外にいない! マルコ氏を下した日本の実力者! その実力を対イギリスにも発揮してほしいですね!」

 

「何と言っても世界2位を破りましたからね、歪沢プロは出てきて不安を覚えますが、叶プロにはそれがありません!」

 

「せやな……」

 

 酒飲んでる姿見るだけで不安覚えるもんな。成人しててあのキャラ続けてるのは一種の狂気だよ。しかも話題に出るだけで他のキャラを食い始めるから罪深いよ。今の話題の中心は東吾なんだから素直にそっちの話をさせてくれよ。なんでゲロ吐いてる酒クズの話してるんだよ。

 

「東吾とはプライベートの友人で普段から戦術や構築の話を良くしてるんだけど、凄い向上心があって常に新しい事に挑戦するバイタリティがあるよ。アレで妻子持ちの30代ってのがちょっと信じられないんだよね……」

 

「この業界、トップマスターは基本的にアンチエイジング進んでますからね……と、叶プロ、モンスターを引き連れていませんね? 何かのトラブルでしょうか?」

 

「ギリギリまで構築隠してるんじゃないんでしょうか? ……あ、対戦相手が出てきましたよ!」

 

 恐らく東吾も俺も、同じ予感をしていただろう。この場、この状況でイギリスが誰を出してくるのか。だからこそ東吾はギリギリのギリまでモンスターの登場を遅らせている。そしてそれは恐らく対戦相手も同じ。

 

 この状況、イギリスは後がない。そこで出すのは必ず勝てると確信できる強者だ。

 

「叶プロを相手するのはイギリスきっての超新星! 現在欧州ランキングを塗り替え続けている若き天才! 現在Sランク最年少プロ記録を持つ英国の大英雄! アーサー・リングスタープロです!」

 

 スタジアムの反対側からアーサーが入場してくる。その登場にまあ、そうだろうな……という言葉が出て来るし、同時にこの2人で対戦するんだなぁ、という驚きがある。

 

「叶プロとリングスタープロはプライベートでは友人同士であり、共に図書館の発見と攻略を行ったマスターだと言われていますが?」

 

「事実だよ。俺もこの友人サークルの1人だし。暇なときはチャットしながら構築とか環境とか戦術の話をメッチャしてる。だからアーサーも東吾もお互いの手札を良く把握しているし、基本的な戦闘の流れも把握している。お互いに不明なのはこの交流戦に備えて用意した新しい手札だけだね」

 

「成程、互いに手の内が割れた状態での戦いになりますか」

 

「鴉羽さんはどっちが有利だと思います?」

 

 スタジアム中央、ダンジョンゲートを挟み込む様にアーサーと東吾が挨拶してる。これから対戦だというのに2人の間には和やかな空気が流れている。何というか、変に気負わず、自然体でいるのが解るのだ。この2人の友人関係って実は謎だよね。

 

 どこで知り合ったんだろ? 国籍違うし。

 

「うーん……構築が見えるまでちょっと読み切れないかなぁ、これは。死神ってモンスターは他のデバッファーと比べて積み込める打ち消しスキルの数が多いから、アリスに対して空中戦を行うと基本的に有利に動けるんだよね。つまり童話ロックは東吾に対しては効き辛いんだ」

 

 死神入りの環境で死神を相手にロックや空中戦を仕掛ける場合、どうしても打ち消しのリソース差で死神側が有利になってしまう。つまりアリス入りのロック構築は東吾相手には不利を背負う事になるだろう。

 

「アーサーは馬鹿じゃないしこれを理解していると思う。東吾に対して有利に進めたいならアリス抜きにするんじゃないかな? 嘘つき人形に回復阻止を付与したとしても《暗黒樹海》みたいなカバー手段がなければディスペルで剥がされて終わりだからねぇ、強力なデバッファーと高い回復能力を持つモンスターがいる東吾に童話ロックは成立し辛いよ」

 

 ただねぇ、と付け加える。

 

「ソルグラントって性能がインチキの塊だからなぁ」

 

「広範囲を薙ぎ払いながら相手の耐性を破壊するって良く考えなくてもインチキの塊ですよねー」

 

「覚醒通した時点でほぼリーサルじゃないかな、これ? ハーデスで0耐えしても割れた耐性が戻る訳じゃないから次普通に喰らったらその時点でワイプ確定だし、1回受けるだけでも通常耐性は弱点化する訳だからかなり痛いよ。俺なら覚醒抜きで2回使わせるかな。やっぱ覚醒は詰めに残したい」

 

「成程……読めない戦いになりそうですがここは1回戦を華麗に勝利した叶プロを信じたいところですね! では時間となりましていよいよ両代表、モンスターが出現しますが……これは……!?」

 

 東吾とアーサーのモンスターが入場してくる。

 

 だが東吾からは見慣れないモンスターが何時ものメンバーに混じり、アーサーサイドにもアリスや嘘つき人形の姿が見えない。興奮した様子でアイドルくんがテーブルを叩いた。

 

「鴉羽さん! アレは……アレは!?」

 

「やってくれたな2人とも」

 

 東吾の構築に追加された新しいモンスターは濃い死の匂いを纏った黄泉のモンスター―――即ち、新たな死神モンスターを編成していた。それに対し、アーサーがアリスや人形の代わりに編成しているのは従者姿のモンスターだ。編成しているモンスターから大体の構築は読める。

 

 アーサーのそれは恐らく―――。

 

「W死神構築vs超英雄構築! ここでそう来るか」

 

 圧倒的な妨害力でイニシアチブを握り続ける構築コンセプトと、最強の個人を生み出すランプ構築。世界がまだ見た事のない最新環境の衝突。

 

 ここに戦友同士の激突が始まる。




 前話スクナの酒バフ挙動の修正
 ディスペル不可→ディスペル可能に
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