ダンジョンの中へと2人の姿がモンスター達と消えた。
東吾が連れているのはラファエラ、ハーデス、サリエル、イージス。大天使が相棒の東吾が新しく引き連れてきたのはまた天使と死神のハーフとも言える属性のモンスターだ。妨害能力を備えたライフコントロール用のモンスターだ。純粋な構築の強化になるだろう。
それに対してアーサーのパーティーはエグゼリア、オメガ、魔本の従僕、メルクリウス。恐ろしい事にアーサーの構築にはデバッファーが存在しない。従僕とメルクリウスが枠としてはサポートに類する。完全にこれまでの流れをぶった切ってアリスを抜いてきた構築だ。
現在の最新環境に置いてデバッファーはほぼ必須のパーツだと言えるだろう。《インタラプト》、《パーフェクトキャンセラー》がどれだけバリューを備えているのかどうかは説明する必要すらないだろう。デバッファーがいないという事は相手の攻撃を止める手段がないという事だ。
「これは……相当攻めて来たなぁ……」
「叶プロがですか?」
「いや、両方。東吾はジャガーノートを抜く事でサブプランを捨てて来たし、アーサーはデバフを捨てた。W死神という構築はキャラパワーそのものが強いからまんべんなくぶっ刺さるし、パフェキャンが1枚増えたという事実が何よりも強い」
だけどアーサーがその可能性を考慮してないとは思えないんだよね。妨害出来ないと反転からのヒールでワンパンされる可能性がデカい。なのにあえて妨害を抜いた構築で対戦しに来たんだ。普段の手札は割れている上でこの構築で来ているんだ。
「アーサーは何らかのメタ手段を用意してると見た」
「メタ手段ですか?」
実況の言葉にそう、と答える。
「東吾のリーサル手段は《アポトーシス》付与からの即死級ヒールなのはもう誰もが理解してるコンボだ。これを崩すにはクリアで除去、もしくはベールで防ぐ、ってのが考えられる」
「ですが叶プロはそこはモンスターの速度を調整して即座にコンボが成立するように対応するので解除は難しいのでは?」
「そう、だからインタラとかの打ち消しで無効化するのが楽なんだ。でもアーサーはそれを用意しなかった」
「成程、用意しなかったという事は対処方法に余程の自信がある、ということなのでしょう」
相当研究してきてるぞこれは……東吾、大丈夫か?
不安を覚えるのと同時に、チームメイトを信じるべきだと思い、不安を口にするのを止める。その代わりに視線をまっすぐARヴィジョンが表示する戦場へと向けた。
向かい合う東吾とアーサー。握手を交わす姿はどこか楽しそうだ。
……いいなぁ、俺もあそこに立ちたい。
サポーターとしてじゃなくて。主役として。栄光を争う1人の王として君臨したい。
何時になるのだろう? 俺があそこにマスターとして立てるようになるのは? 遠い未来か? はたまた近い未来か? 何にせよ、今の俺にはまだ早い話だ。
「両者、握手から別れて位置に付きました……注目の一戦、まもなく開始です」
「新戦術、新環境! 目が離せないですよ、これは!」
こうやって聞いていると、アイドルくんも実況さんもかなり仕事上手だよなぁ。アイドルくんはちゃんと勉強してきてるみたいだし。あんまりこういう実況とか聞いてなかったけど、ものの見方が変わるなあ……と思いながら、始まる戦闘を見た。
開幕。
オメガが真体へとシフトし、巨大な鋼の機構が空間を砕きながら出現する。それに合わせ《幻想図書館》が出現し、広大なダンジョンを図書館の姿へと上書きして行く―――それに追従する様なフィールドの変化はない。
「フィールドが《幻想図書館》に上書きされるが……それ以上の変化はない! 鴉羽さん、これは?」
「詠唱をコストにするタイプのモンスターは詠唱数が増えれば増えるだけバースト時間が近づく。図書館の再展開という手札は既に1回戦で見せているし、あれは比較的にコピーしやすい手だった。だから東吾は図書館の再展開によるスタック数増加を嫌がったんだな。後単純にソルグラントが範囲攻撃で樹海では止められないのもあるかな」
「あっ、そっか、樹海展開中はパフェキャン打てないですもんね! ソルグラント止める手段無くなっちゃいますよ!」
「《暗黒樹海》がイギリスに渡ってなくて良かったと思えますね……!」
渡ってたら終わりだよ。仮面マンをアーサーにぶつける以外の選択肢が無くなる。仮面の強さなら……まあ、勝率9割ぐらいじゃないかな……。あの仮面、樹海でスキル更新が入った結果ほぼ原作でのDLCアップデートされた状態に近くなったから。
今、堂々のTier1.2ぐらいの強さあるんだよね。
そしてTier1はそれ以下のランクを蹂躙するレベルの強さだ。別名クソゲー。
「さ! 図書館が展開された所で動きは……!?」
魔導士のマントを肩から羽織った黒いのっぺらぼうの様な影法師―――メルクリウスが腕を振るうと杖が2本舞い、支援魔法が発動する。速度に特化した調整で最速行動をとって来たのだろう。バフは―――全体対象だった。
「ん?」
エグゼリア対象じゃない? 今の何のバフだ? メルクリウスで全体対象……? 感覚的にこれ、MPリジェネ辺りか? 長期戦想定でMPリジェネを差し込んだのか。
「あの動きは……《無詠唱》からの《暴走詠唱》! 《インタラプト》が入るっ!」
「なんでここ、パフェキャンで《暴走詠唱》を止めなかったんだろう? タイミングも少しズレてないですか……?」
「パフェキャンはソルグラントに温存したいからね。《無詠唱》をインタラで咎めて本命に対してパフェキャン温存って所かな。判断としては妥当かな。ソルグラは打てば打つだけ痛くなるし」
従僕、ベール。オメガが庇う。ハーデスが《嘆きの大河》を発動させてオートディスペルを設置。死の翼を広げた天使が腕を振るうと死の臭いを乗せた風が吹き荒れ始める。《宵の風》は継続的に敵陣に最大HPを削り続けるAOEを設置するスキルだ。
リーサルには至らないが、相手にプレッシャーを与える事が出来る。
そして飛んでくるソルグラント。
「1グラント目!」
「今日も聖剣の輝きは陰らない! ダンジョン越しに感じられる程の熱量です!」
「インチキカリバーの名は伊達じゃないですよ!!」
ソルグラント、世間だとインチキ聖剣という評価がだいぶ面白い。無効化しても耐性割ってしまうから根本的に回避以外の対処法がなくてキレ散らかす人が多い。気持ちは解らなくもない。だけどこれはまだクソゲーの一部だぞ。
「イージスで受けたかあ」
開幕、ラファエラが張ったバリアでイージスが攻撃を受ける。ダメージはほぼないが、バリアが消耗し、耐性が低下する。イージスの耐久力を考えればまだまだセーフラインだろう。
東吾としてはさっさと《アポトーシス》を付与してリーサルまで進めたい所だろう。相手にデバッファーがいない以上、一度付与に成功すればほぼ確殺ラインに乗る。
だから全力でそれをアーサーは躱してくるだろう。
「パフェキャンを握っている間はアーサーも強く出る事は出来ない……とはいえ、どこかでディスペルを打つのに行動を割かないといけない。そこで一気に動くかなあ」
「成程、スローペースの試合になりそうですね」
実況の言う通り、試合のペースはこれまでと比べると遅く、ARの映像が通常状態まで減速を解除した。長期戦を挑むアーサーも、スローペースでも有利が取れる東吾もどちらもこのスピードには納得して合わせた形だろう。
2巡目。
図書館の効果で詠唱がスタックする。まだ3コスト消費の魔法には届かない。両者ともに動きが消極的で、ベールとデバフを撃ち合い、アーサーの防御を崩しながら……ソルグラント。元のイージスが炎半減だった筈だから、これで耐性が弱点になった。
それぞれのモンスターが行動を起こし3巡目―――3ターン目、図書館の効果によってスタックが溜まる。図書館に溢れる光がモンスター達の体に宿り、詠唱する力を与える。
「動くぞ」
真っ先に動いたのはハーデス。
《ダブルマジック》を使って《アポトーシス》が飛ぶ。《ディヴァインベール》による1回無効化能力を相殺してから付与し、そこから合体魔法で対象が全体化する。起点対象はエグゼリア、これによりエグゼリアに回復反転効果が付与―――されない。
それより早くメルクリウスが介入した。
「鴉羽牧場長! アレは!?」
「牧場長言うな。たぶん回復阻止だね。《クイックスペル》で行動に介入して呪いを付与してラファエラからの回復効果を無効化したかな、これは。呪いは回復効果の無効化だから反転が付与されても回復効果としてカウントされてるからダメージが発生しなくなるんだ」
「つまり叶プロの攻撃手段が潰された、って事ですか?」
「人形対策で呪いの解除手段は積んである筈だからそこは心配しなくて良い……けど」
「けど?」
えらい消極的だな、アーサーの動きが。なんというか、アーサーの動きがずっと受け身だ。受け身でありつつソルグラントでずっとプレッシャーを与え続けている。このままなら確かにイージスの体力を削れるだろうが、リーサルには続かない。
やっぱバッファーのみで構成してるのは編成事故じゃないかこれ? 出来て時間稼ぎ―――。
「あっ」
「あ?」
アーサーの狙いが解った。理解した瞬間、アーサーが《無限覚醒》を切って来た。反射的にそこに《パーフェクトキャンセラー》が差し込まれる。打ち消しバリューとしては正しい選択だが、そうじゃない。初手の《無詠唱》は釣りだ。アレは《インタラプト》を誘発させる為の罠だ。
「マズイ! 東吾!! 今すぐリソース全部ぶっこんでロス覚悟で潰しに行け!! 間に合わなくなるぞ!! そっちじゃねぇ!! メルクリウスとメイドちゃんを潰せ!!」
実況席のテーブルを叩いて声を張る。だが当然、ここからでは声が届かない。《無限覚醒》が起動するのに合わせてオメガも必殺のスキルを稼働させ、それを止める為に《パーフェクトキャンセラー》2枚目が投入され、それに連鎖するようにサリエルのデバフが発動する。
オメガの最大HPが削れ、タンクとは言えないレベルにまで体力が低下し始める。
だがそれで良い、この程度の被害はポイントにならない。それよりもソルグラントの連打で蓄積する総ダメージの方が被害がデカい。エグゼリアもオメガも動きを止められたが、ここで止められた所で負けるわけではない。
アーサーも一気にリーサルへと持ち込む手段を失ったが、これで良い。
「鴉羽さん! どういうことですか!? 解説をお願いします」
頭の中で計算する。
3ターン毎に詠唱が溜まって発生するバーストタイミングで東吾が出せる火力。現在残されたバーストリソース、そして妨害手段。アーサー側が備えている手札と、MPリソース。1ターン当たりの総ダメージ数、ラファエラの回復力、イージスの防御力……全部、計算する。
「イージスは確か《耐火壁》を積んで来てたよな? となると炎無効1回付与でソルグラントは耐えきれるけどアレはMP消費激しい……ペイントレードで削れるけど落とせるほどではない……いや、タイミングが良ければサリエルで割合ダメを入れてそのまま押し切れるか? 最初にインタラを切らされたのが痛いな……マスカンだけどアレは打っちゃ駄目な部類だったな……恐らく暴走もブラフで……」
「鴉羽さん! 解るように説明をお願いします!」
実況の言葉にはあ、と溜息を吐いてから頭を抱える。こりゃあ東吾負けたかも。
「TO」
「てぃーおー?」
首を傾げて聞き返すアイドルくんに教える。
「Time Over。時間切れ」
えーっと、それはつまり、と実況が続けた。
「リングスタープロは……判定勝ち狙い、という事ですか!?」
「そう」
滅茶苦茶良く考えた構築だ、これ。
「東吾の構築は回復を反転させた後に割合回復を与える事で相手の耐性を無視した即死級ダメージを与える構築になるね?」
「デスヒールとかヒールバーンとか言われる奴ですね」
「これって《アポトーシス》を付与する事前提で、付与しない限りは機能しないんだ」
逆に言えば《アポトーシス》を処理し続ければ火力は出なくなる。
「長期戦に入るとヒール能力とMP効率の良い東吾の構築が息を長く戦い続けられるのは確かだ。だからそれに対抗する為にMPリジェネを習得しているモンスターを構築に入れつつ、足の速さと魔法適性の高い者を採用して、全ての付与魔法に対してベールを貼り直し続ける事で対応し続ける。バーストタイミングは《クイックスペル》で行動介入して貼り直すか無効化して乗り越える」
「でもそれじゃあ倒せませんよ」
そう、消極的な動きでは勝てない。だがアーサーは常にソルグラントをエグゼリアにぶっぱさせ続けている。
「ラファエラが戻しているだけで現在のダメージレースは圧倒的にアーサーの方が多い。この構築は東吾は良くも悪くも即死級火力しか出せない。最大HPを削ったりしてるが結局の所出ているダメージは0だ、このままタイムアップまで戦うとアーサーの判定勝ちになる!」
この大舞台で、ソルグラントの圧力を餌に、アーサー・リングスターは最初から判定勝ちを目標に勝負を挑んだ。
童話ロックは間違いなくブラフだった。そこから東吾が自分対策に何をしてくるのかを考え、世界で最初に死神を実用化した男がもう1体ぐらいは秘密裏に育ててると判断して、メタる為にWサポーター編成でTOを挑んで来た。
「なんという……なんという度胸でしょうか! この、世界の舞台で、こんな戦い方を選ぶとは……!」
「馬鹿度胸……ほんと、馬鹿度胸としか言えない。いやぁ、これを真似する度胸はちょっと俺にはないかな」
インフレによって加速化が進むバトルの中で、一気に減速して戦う事を選んだアーサー。確かに、戦術としては何も間違っていない。
アーサーはこのスキルが強化される環境の中、野生でレベル100のモンスターが取得できる事に注目した。Sランク帯におけるバトルは凡そモンスターの相性と、今ではスキルの強さで決まっていた。だがそこにメタ構築をアーサーは積み込んで来た。
そう、野生で100レベルのモンスターが用意できるなら、1年を待たずとメタ構築が用意できる。
アーサーはこの世界に、メタゲームの可能性を呼び起こしていた。