最強以外ありえない   作:てんぞー

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国際問題にならないかなぁ

 ゲームとは基本的にインフレすると高速化する。

 

 とあるTCGの話をするなら、新しいカードを刷る時にそれは前のシリーズより魅力的だったり強くなければ、新しいカードをユーザーは手にする事がない。だから新しいモンスター、カード、DLCで投入される環境とは前より強くないとならない。

 

 その結果、環境は高速化する。先行でのロック盤面等が構築され、それを封じる為の誘発などが増えて来る。インフレとはゲームスピードの高速化でもある。より強いパーツが出て来る事でよりゲーム展開が早くなる。

 

 アーサーはその思想に真向から反逆した戦略を選んだ。バースト火力で一瞬で100%ダメージを叩き出せる東吾の構築に対し、徹底したメタと遅延を利用したタイムアウト勝利。

 

 東吾の守りを突破しようとすればそれは非常に難しい話になる。タンク、最高クラスのヒーラー、そして超高性能な妨害。これらを突破して勝利するのは相当難しい。だからアーサーは逆に考えたのだろう。これらを突破する必要はない。

 

 戦線の維持だけを考えて相手の妨害札を浪費させ、突破力を削ったらそのまま点数を稼ぎつつ遅延工作を行う。そのままタイムアウト。

 

「―――決着! 決着です! 第2試合、誰がこうなると予測しましたか! アーサー・リングスターの計略通りかっ! 圧倒的なスローペースの試合、10分という時間を一切手を抜かずに戦いきりました! 果たして鴉羽さんの解説通りリングスタープロの勝利で決まるか!?」

 

「10分……タイムアップに設定された時間ですね。ここまで試合が長引くのは本当に珍しいです。見た事がないですよ、プロでここまで時間のかかる試合なんて」

 

「高火力のアグロが好まれている環境だからなぁ。パフェキャンやインタラの妨害にせよ、戦闘中に使えるのは1回ずつ……1試合で1陣営が打てる妨害はバランスを考えれば3回から4回ぐらいが限度だ。打ち消しは相手の行動を阻害するけど、勝利貢献には続かないから積めば積むだけ火力が落ちる……」

 

 そこが打ち消しの難しい話だ。《パーフェクトキャンセラー》は相手のリーサルを防ぐが、別に勝利に貢献する訳ではないのだ。敗北を回避する為の手段なのだ。

 

「さあ、これより判定に入ります。どちらが勝つのかというのを審判団による判定に入ります」

 

「公平性を保つ為に完全中立であるモンスター協会から派遣された5人の審判による判定になります。基本的にこの判定はどれだけ戦闘中に積極的だったか、最終的に優位だったのは誰か、等をベースに判定されているらしいですよ!」

 

「今の試合内容を見る限りアーサーの勝利で間違いないと思うんだけど……」

 

 話している間にあっさりと5分が経過する。判定がまだ出ない。ダンジョンから大量の汗をかいたアーサーと東吾が出てきて、戦闘後の感想戦に入っている。それを眺めながら判定が出るまで、こっちもトークで場を繋げる。

 

「鴉羽さん、今回は叶プロが負けとの見方ですが、今回の敗因は何でしょうか?」

 

「これは東吾と何百回もした話なんだけど、今の環境はモンスターを1つの戦術に染めるスタイルが大流行してて、これはメタった場合あっさりと負けてしまうシステムでもあるんだよね。だから普段はジャガーノートを構築に入れてサブウェポンを搭載してるんだけど……」

 

「今回の叶プロのパーティーにはいませんでしたね」

 

 実況の言葉にそうなんだよ、と答える。

 

「恐らくW死神というフォーマットを採用する事で多少強引にでもリーサルを通す自信はあったんだろうね。実際、アーサーが火力を出す事を意識した動きをしてれば防御を突破して反転化を付与する隙はあったと思うよ。でもアーサーはそうせずにタイムアウト目的で防御を固め続けた」

 

「倒せないレベルの火力を維持して、ひたすら被害を減らす事だけを意識した結果、強引に突破する旨味が消えて、叶プロの攻勢を削いだ、という事ですね」

 

「うん、そうだね」

 

 だから原作においてワンウェポン型の構築は非常に危険だと判断され、サブウェポン搭載型の構築が必須枠だった。リーサルパターンが2種類か3種類はないと最終環境におけるインフレスキルの防御を抜いてリーサルが取れなかったりするので、俺が遊んでた環境ではこういう構築は出来るだけ避けてた。

 

「とはいえ、東吾を責める事は出来ないかな。今回のW死神という構築はパワーだけなら凄い強いし、最初の《無詠唱》で《インタラプト》を消費しなければ勝機はまだあった……アレは打ち消しを消費させる為のブラフだったからしゃーないと言えばしゃーないんだけど。俺もアレは読めなかったし」

 

「イギリスは図書館産のランプやコントロール構築で来る! 誰もがそう思ってたし、そういう風に想定していた。ですがその想定を外し、思考の隙を突いてきた。これは完全にリングスタープロの読み勝ちでしたね……と、判定が出たみたいです」

 

 判定が出た。

 

 3対2でアーサーの勝利。思ってたよりも判定が渋い。

 

「判定……渋くないですか? いや、日本勢としては叶プロが評価されてるのメッチャ嬉しいんですけど! それはそれとして牧場長の解説聞いてるとリングスタープロの読み勝ちって感じがするんですけど」

 

「牧場長言うな」

 

「恐らくですが、積極的な戦闘姿勢を見せなかった事が問題ではないのでしょうか? 主義の問題ですが、タイムアウトによる勝利を最初から狙うのは完全勝利から逃げた……と判断されかねないと思います」

 

「相手を全滅させて勝つのが気持ち良いのは確かだけど、それだけがバトルじゃないと思うよ。最初から逃げ切る事を意識したタイムアウト戦術も立派な戦い方の1つだと思う。実際、3対2でアーサーが勝利してるんだから認められるやり方だとは思う……あ、低ランクの人たちはこれ、絶対に真似しないでね。継続的なリソース回復、徹底した体力管理、そして常に更新し続ける被害計算で頭おかしくなるから」

 

「やはり高等技能なんですね……」

 

 そりゃあね。計算機のない世界で被害を計算しつつダメージを抑えて全員生存させた状態で判定に持ち込むのは相当難しい部類だよ。今回はアーサーに拍手を送らないと駄目だな。

 

 アーサーと東吾が握手を交わし中央を去って行く。出現していた戦闘用ダンジョンが消滅し、新しいダンジョンが再出現する。これで日本対イギリスは1勝1敗のイーブンな状況へと持ち込まれてしまった。

 

 開始当初は日本のパワープレイで全て蹂躙出来るかな? と思ったが意外と接戦が続く。

 

 これで日本に後がなくなった……が、それも問題はない。

 

「しかし日本も後がなくなりました……いよいよ総大将による決戦になります。1回戦ではついぞ出番のなかったマスター仮面、いよいよ出陣ですね」

 

「マスター仮面はさん付けするとさんはいらないとか言い出す辺りとても個性的ですよね……言っている意味は解るんですけど」

 

 ずっとベンチを温めるだけの仕事になると思ってたんだけどなぁ。普通に仮面の出番がやって来る事に驚いてる。たぶんアーサー以外のマスターが相手だったら普通に東吾が勝ってただけに、日本のこの状況はアーサーが生み出したものだ。

 

 とはいえ、勝ちだ。

 

「大将戦にもつれ込んだ時点で日本の勝ちだよ。これは絶対だ」

 

「……凄い自信ですね、その根拠を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

 フィールドの整備と双方の入場の為の僅かなブレイクタイムをトークで繋げる。

 

 根拠―――マスター仮面が絶対に勝つという根拠。

 

 まあ、実はこれはそう難しい話じゃないんだよね。

 

「2人はTierという言葉に聞き覚えがあるかな」

 

 俺の言葉に真っ先に反応したのがアイドルくんで、手を上げてはい! と答えた。

 

「アレですよね! ソシャゲの強さランキングの奴!」

 

「まあ、そんな感じだね」

 

 強さをTierで表現、説明するのは結構楽だ。Tier表上位に乗せるだけであぁ、コイツはイカレた性能してるんだな……というのが滅茶苦茶伝わって来るからだ。

 

「という訳で東吾と酒クズの話をするとあの2人は大体Tier3から4ぐらいかなぁ」

 

「……滅茶苦茶低くないですか?」

 

 低いよ。暗黒樹海でパーツ補充したけど、根本的に強いモンスターというものを用意していないのが悪い。専用スキルを習得していないモンスターも多いし。その影響で全体的な戦闘力が低下している。だからTier評価も低くなってしまう。

 

 今回暗黒樹海でスキル強化しなかったらもうちょい評価低かったんじゃないかな?

 

 その上で仮面の話をする。

 

「で、この2人に対して仮面マンの評価は間違いなくTier1。最強。ぶっ飛んでる。今人類で一番強いモンスター揃えてるんじゃないかな、ってレベルで強い」

 

「ひょ、評価が凄いですね。それほどまでにマスター仮面は強いのですか?」

 

「強いよ。正直大将戦に入った時点で日本の勝ちだって言えるレベルだと思ってるよ」

 

 良いかい、これは覚えておくべき話だ。

 

 このゲームはクソゲーだ。上位帯のモンスターであればあるほどぶっ壊れた専用スキルや専用の汎用スキルが用意されている。そして俺達はまだ、それらのクソスキルを目の当たりにしていない。

 

「Tier1や0の強さってのはね、それ以下のランクを蹂躙できるぐらいの強さなんだ。最低でTier2ぐらいの強さを備えない限りはまともに戦いにはならないよ。まあ、ワンチャン相性やメタで封殺というパターンもあるけど……それを抜きにしても今、仮面マンに勝てる人はちょっといないんじゃないかな」

 

「そんなに」

 

「そんなに」

 

 それだけ仮面の強さはずば抜けている。だからこの時点で日本の勝利を俺は確信している。問題があるとすれば、イタリア戦で見せたスキルの枠にとらわれない強さを見せた女帝の動き……ああいう事を相手がやってくるのなら、俺が知ってるTier表の強さは最終的にはあんまり参考にならないという事だ。

 

 スキル抜きでパフェキャンしてくるのはもう無法なんだわ! そういう強さは読めないんだわ!

 

「成程、興味深い話を聞けましたね……と、どうやら両代表の準備が整ったようです! いよいよイギリス対日本、注目の最終戦が始まります!」

 

 歓声と共にBGMがなり出し、3試合目を盛り上げる様に演出される。そして入場し始める両国の大将。日本側から派手に登場するのは仮面を被った不審者、マスター仮面だ。引き連れるゼリィ達も気合十分と跳ねまわっている。

 

 それに対抗するのは―――。

 

「―――イギリス王室の血! 現役のプリンセス! 英国の至宝! 我らが仮面の英雄に挑むのはプリンセス・エリザベスだぁ―――!!」

 

 王族だった。

 

 モンスター引き連れながら入場してくる金髪のお姫様を見ながら思う。

 

 アレ今からぼっこぼこになるけど国際問題にならないかなぁ……。

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