最強以外ありえない   作:てんぞー

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もうそろそろこのお祭りも終わりかぁ

 1年通して20試合。

 

 これはSランカーが行う平均試合数の数だ。

 

 ランクが上がれば上がる程試合数は減って行く。特に高ランクマスターのモンスター情報は秘匿されるべきもので、1試合当たりのコストも大きい。そうなってくると下位ランクみたいに毎日試合に出場する、ランクマを回すという事さえも出来ない。

 

 そもそもAからはランクマッチの形式も変わって来るので毎日ランクマを回し協会へと向かうという風にもならないのだが―――ともあれ、公式戦というものにおいて、Sランカーは他のランクよりも試合数が圧倒的に少なくなっている。

 

 それをカバーするように紅白戦や雇ったスパーリングパートナーを用意するのだが、それでも同格相手に対戦する回数は減る。これは構造と立場上仕方のない事だ。つまりS環境において対戦する機会そのものが貴重になって来る。

 

 中にはスパーリング専門のSランカーなんてものも存在するが、モンスターを用意するのに1年かかると考えると新鮮さが直ぐに薄れてしまい、意味がなくなる。異なるデータ、異なるモンスター、異なる環境で新鮮な勝負をし続けるのは実は難しい。

 

 20から30。

 

 これは原作において1時間で詰め込める対戦数の話だ。

 

 1時間に30試合こなし、数時間続けて遊べば1日で100回以上の試合を経験する事が出来る。いささかTier上位に選出は偏るものの、この手のPvPにおいて読みを鍛えるのは純粋な対戦回数と、その後の反省会だ。

 

 つまり原作環境はリアルよりも純粋な経験とデータの読み合いという点においてリアルを上回っているのだ。

 

 じゃあ未知のデータを出してくる相手に対して1日100試合以上みっちりと読みと対処法を予習させて、環境に近い動きを見せ続けて、なおかつその知識や紙面上の経験を実戦に適応する能力を持った人たちに仕込んだらどうなるの?

 

 こうなる。

 

「強い! 強いぞ! 強すぎる! 日本! 破竹の連勝! 2連勝! 圧倒的な力で中国に勝利するっ! まるで歯が立たない! 新しいスキルがなんのその、全てを躱して勝利を掴んだぁ―――!」

 

「今年の日本の勢いは本当に凄いですね! 新しい戦術で固めて来た中国を相手にまさかの2連勝です。イギリス戦は2勝1敗だっただけに中国戦もまた初見殺しで1敗するかと思いましたけど……蓋を開けてみれば圧倒しましたね!」

 

「おー、やるぅ」

 

 実況席で再び解説のバイトをやらされながら、密かに思う。

 

 やりすぎたかもしれん。

 

 100を超える予習を通して完璧に把握されたマストカウンター。様々なモンスターのデータ。詳細な速度調整範囲。スキルの習得幅。それら全てを把握する事によって相手がどのタイミングで、何を使ってきて、それが何に通じるのかというのが解って来る。

 

 つまりコンボの起点と始動、そして中間、それが見えて来るのだ。どこで止められるのが一番痛いのか、それが見えると見えないでは全く違う。

 

 たとえば《無詠唱》はインタラで止まるが、これをスルーして《暴走詠唱》をパフェキャンで止めれば1行動で2スキル消費させられるだろう。逆に《無詠唱》で止めた場合、相手が能動的な行動で《暴走詠唱》を使える為、詠唱10スタック止めるのに失敗する事になる。

 

 このようにコンボパーツの内容を理解するのと知らないのとでは、以降の動きが違ってくる。そしてそれらをすべて把握した場合、効率的に、最小限のコストで相手の動きを破壊する事が可能になる。その結果が日本の圧勝、そして2連勝だった。

 

「いやあ、柊永世GMを思い出させる強さを見せてくれましたね……」

 

「柊永世GMと言えば圧倒的な読みによるパーフェクトゲームメーカーでしたね。今回の日本の動きはそれに近いものを感じました。鴉羽さん、同じ柊出身の身としてはどう思いますか?」

 

「ジジイの事は正直映像でしかあんま知らないんだよね。ただ相手の動きを読む、読み切るってのは覚えるのに10回や20回じゃ全然足りない。何百回も繰り返して漸く身につくものだ。ネットでコピーしたデッキを使っても馴染まないだろう? それと一緒だ。何度も何度も繰り返して初めて馴染むんだ……ジジイの読みが異常なのはそういう努力があったのかもな」

 

 次元城を開いて邪神との契約で何らかの力を得たって線も十分あり得るんだけど―――まあ、少なくとも昔会ったジジイからはそういうものを一切感じなかった気がする。少なくともなんか異常な力を持っていれば俺も灯も気づく。世界の理から半歩踏み出してるようなもんだし、俺達。

 

 だがそれがない、という事はジジイの実力は、本当にただの努力なんだろう。

 

 無論、才能があるのは大前提だ。そして努力をする事も当然だ。この業界で上にいる人間で才能がないものは1人として存在しない。残酷な話だが才能が無ければ戦えない世界なのだ。

 

 才能がないのに上に上がって来れる、というのは嘘だ。上がって来た時点で才能があったという証明になる。

 

 そんな才能を持った人間で殺し合う様なこの環境でジジイはトップに立ったんだ。裏技か何かがあったにせよ、成し遂げたという事実に変わりはない。

 

「ジジイの事は嫌いだけど、そういう所だけは認めてる―――っと話が逸れたな。今回の日本代表は裏で凄い予習と復習してきたからな。その成果じゃないかなぁ?」

 

「成程、舞台裏では血の滲む様な努力が積み重ねられているんですね……! これで日本はついに交流戦の決勝へと進む権利を得ました。イタリア、イギリス、中国と強豪を下して来た日本の次なる相手はエジプトかアメリカですが……」

 

「まあ、十中八九アメリカかな。ワンチャンエジプトの初見殺しが刺さってアメリカが蒸発するのもちょっと見たいけど」

 

「となると決勝は日本対アメリカの対決になりそうですね……!」

 

 ―――と、いう訳で中国戦は完全に動きを把握した日本が中国代表を封殺する形で勝利した。

 

 《ドラゴンズバレー》入りとか《箱舟都市ノア》とか《深海》構築とかも途中で楽しくて挟んでしまったが、まあ未来に向けた予習にはなったよね!

 

「GMブライアン率いるアメリカ勢とマスター仮面率いる日本勢の対決……今年の日本は最強メンバーを揃えて来てますから、勝利は期待できそうですね!」

 

「それでは一旦、今注目のアメリカのマスター達を見て行きましょうか」

 

 はい、と実況が言うとアイドルくんがフリップを取り出した。カメラがフリップに向けられるのが解る。

 

「という訳でアメリカ代表の3人、まず1人目は80歳でも未だに現役マスター! 元空軍将校のアレックス・グッドマンさんですね!」

 

「80歳とか……戦闘の余波で心臓止まっちゃったりしない?」

 

「そういう危険性もあるからそろそろ引退してくれとは良く言われているらしいですね……」

 

 やっぱあるんだ……そういうの……。しかし80歳ともなると大が付くほどのベテランマスターになって来る。ここまで長く現役でいるマスターというのはちょっと想像がつかない領域だ。長くても俺達プレイヤーは無印が発売されてから最終DLCが販売されるまでの5年にランクマの殺し合いで1年2年ぐらい遊んでたのが経歴だし。

 

 続編出てないかなぁ。

 

「この爺さんは何時から現役だったの?」

 

「現役期間はもう60年超えるそうですよ」

 

「現在最高齢のマスターだと言われていますね。長年最前線を駆け抜けてきただけに戦績も他のマスター達と比べると何と言いますか……凄い深みを感じますね」

 

「激動の時代を生き抜いてきたマスター、ですね! 日本が彼にどう対抗するのか、期待ですね。続いてはマーヴィン・アークス社長! 世界的企業アークス・モンスター・グッズ、略してAMGの社長ですよ! 見てくださいあの髭、メッチャイケてるナイスミドルって感じですよね!」

 

 どどん、と続いて表示されたのはちょい悪系のダンディ中年だった。あー、確かに解るかも。カッコいい感じの歳の取り方してる。良いなぁ、俺もこういうカッコいい感じの歳の取りかたしたいな。

 

 それまで生きてるのか……? という疑問は残る。

 

「AMGと言えばアメリカでもっとも大きなモンスター関連の商業グループですね。トレーニング道具から基本的なウェアまで! モンスターに関するアイテムが欲しいならAMGのモールへ! ……というのはアメリカの基本らしいですね」

 

「使った事ないなぁ。ウチは大体柊製だな……」

 

「そりゃあそうでしょうね……」

 

 この手のグッズや機械、基本的に俺はアンナの仲介で購入したり、モンスター協会を通して公式のもんを使ってるのだが日本は大体柊ブランドで統一されているから他国の企業はあんまり見ないんだよね。

 

「マーヴィン社長が交流戦に出るのは今年が初めてらしいですけど、これまで交流戦のスポンサーとして何度も顔を出してきました。いよいよ交流戦にマスターとして本格参戦って所でしょうか」

 

 大企業の社長がマスター……というのも実にらしい背景だよなぁ。金がある、社会的地位もある、そしてバトルでも強い! 解りやすいアメリカンアイコンだろう。だが彼らを差し置いてそのトップを務めるのは現在世界最強の男。

 

「グランドマスター・ブライアン……世界最強の男が日本の前に立ちはだかる事になりますねぇ……」

 

「世界ランキング1位、2期覇者。3期目と共に永世称号は目前。一般家庭出身でまさしくアメリカンドリームを体現した男! 日本の勝利はまずこの男を倒さない限り存在しないと言われていますね!」

 

「もし、先に2連勝して3戦目……GMブライアンとの戦いを回避して勝利しても、日本が本当に勝利したとは誰も思えないでしょう」

 

「最強の看板かぁ」

 

 中国との激闘……っぽいものも終わり、ついに日本に残すは最後の戦いだけとなった。長かったラスベガスでの日々もいよいよ終わりが近い。これまで戦ってきたイギリスやイタリアとは違い、アメリカは新しいスキルや環境による奇策、奇襲を狙ってはいない。

 

 元から持っている力を限界まで練り上げて繰り出してくる、超正統派の戦い方をしてくる。

 

 そしてこれは、1番メタり辛い。特定のギミックを採用した構築なら中核を破壊すればそれで解決するし、何よりも中国は何が軸になるか解りやすかった。だが今のアメリカに、そういう解りやすい軸みたいなものはない。

 

「どうなるかなぁ」

 

 もうそろそろこのお祭りも終わりかぁ。

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