「お祭りはもう終わりかぁ……だって! センチメンタルになっちゃって可愛いわね!」
「その、内心をテロップとして投影するのは止めてあげるべきかと……!」
メイドの必死の懇願を女神は無視した。寧ろテレビで見てる以上、かなり配慮してるのでは? という妙な上から目線の心境でさえあった。基本的にこの女神は精神的に無敵だった。
クーラーでキンキンに冷えた部屋。
美味しいドリンク。
手作りグッズ。
そして映像の時空保存。
ラスボスは推しのテレビ出演を最大限楽しんでいた。ラスボスの姿か? これが? そんなメイドの疑問は死によって答えられた。直ぐに蘇生した。
「しかし……そうねぇ、これが終わったらしばらく尊が表に出て活躍してる姿が見れないとなると寂しさを感じるわね……そうだ、適当に事件を起こしましょう! 北極を溶かすのとかどうかしら!」
「止めてください、お母さま。計画が全部ぱぁになりますから、お願いですから……!」
「もう、ちょっとした冗談よ。解らない娘ねぇ」
冗談に聞こえなきゃ冗談にならないんだよなぁ、という嘆きは女神に一切届かない。余計な情報ばかり拾うくせにこの手の声は一切拾わない辺り、女神の性格が終わってるのは周知の事実だった。
「それに目的ならもう果たしたわ。この後の決勝戦で日本が勝とうが負けようがもはや関係のないことよーーー私にも、教団にとっても」
万物を魅了する女が足を組み換え、テレビから視線を逸らすことなく自らの終わりに魅入られるようにたった1人の人間を見つめ続けていた。
その所作の1つ1つが人の脳を焼いて美という基準を狂わせるものがある。だがその全てはたった1人の人間へと向けられている。
「ふふ……尊も大変ね、物語の主人公なんて報われない労力ばかり払って、肝心なめでたしにたどり着くと1ページでそれ以降を締めくくられるんだから、この世で最も報われないロールだわ」
だからこそ報われて欲しい、愛されて欲しい、もっともっと魅力が伝わって欲しい。貴方はこの星で最も魅力的な私の凶星。人の形をした終焉である事をもっと自覚して欲しい。
いや、それを私が伝えるのは解釈違いだ。
「そうね、成長はもっと主人公とヒロインの交流を通して……あぁ、でも来年はもうイベントが埋まってるわね! となると再来年……? 高校に上がった尊も……うんうん、成長して凛々しさが増すわね! 今のまだ幼さが残る感じも良いけど此方の顔のが馴染み深いわ!」
こいつキモいな。
その言葉をなるべく頭に浮かべないようにした事を察せられてメイドは死んだ。
「ま、何にせよ目的は果たしたわ。私も、教団もね」
くすり、と人の心を解さぬ嘲笑が漏れる。
「個性的な人間をいっぱい観察できたお陰で新しい子が作れたわ……やはりモデルがある方が圧倒的に楽ね、こういうのは」
女神の言葉に反応するようにホテルの部屋に幾つかの影が現れる。女神に従い、人類の試練として立ちふさがる為に生み出された女神の子達。
全ては愛しの人をもっと上の領域へと押し上げるために。自らを殺せる領域へと育て上げる為に。モデルとなる人間を選定した時点で作成は一瞬で終わる。女神の今回の人間観察の大部分はその時点で終わり、あとは推し活アフタータイムに入っていた。
「それに教団の方も目的を達成して楽しそうね?」
「はい、やるべき事を終えて後は無事に閉会式を迎えるだけです」
「そう。良かったわ……今回は尊がいるからかしら、教団も歯向かう気満々で従ってくるものだからついつい楽しみにしてしまうわね」
まあ、教団のやる事はどうせ全部無駄だけど。
「尊、気づいてるかしら、貴方が今回接触した人間の中にユダが混じっているのを?」
ふふ、と微笑み、番組が終わる。
「この先も退屈しなさそうね」
テレビの電源が消えるのと同時に、部屋から人の姿が消える。
まるで最初から、そこには誰もいなかったかのように。
「出番がなかった……」
大人がいじけてる。
中国相手にほぼ完封勝利、結果としてみれば満点の回答だっただろう。問題があるとすればこれからの外交どうすんだろうなぁ、というぐらいだ。次の試合まで感情最悪なんじゃないかこれ?
交流戦って一種の外交らしいし。
ま、どうでもいっか!
そのことに頭を悩ませるのは総理の問題で、俺の問題ではない。それよりもこのいじけてる仮面中年をどうするかだ。試合とインタビューが終了し、盛り上がる報道陣……に1人、仮面マンだけ混ざれなかった。
だって戦ってないから。
ホテルに戻った仮面は対アメリカ戦の為に会議室に居たが……出番がなかったことにいじけて部屋の隅で膝を抱えて丸まっていた。
「元気だせよ国木田仮面」
「国木田じゃない、マスター仮面だ。私だって死ぬほど予習してコンボ対応完璧にしたのに……」
「そうだね」
対バニラ仙獣環境なら勝率9割まで上げてきたからなこの仮面マン。使ってるゼリィ統一がそもそもパワー高いというのもあるけど、やっぱ、無印ラスボスだけあって滅茶苦茶有能だわ。
凄い勢いで学習されてしまった。
「まあ、対アメリカは出番あるかもだし……それに対アメリカだと俺、ほとんど助けにならないしな」
ーーー対アメリカの研究は当然ながら進んでいる。
或いは、世界で一番進んでいるメタかもしれない。
これは当然の話だが、トップメタは研究するのがPvPにおける大前提だ。
ポ○モンならまずガブ○アスを研究しないと話にならない。コイツのメタを構築に入れてるのか入れてないのかで勝率は大きく変わる。入れてない場合それだけで詰む。
それと同じ話だ。
アグロデッキという環境はアメリカトップ、GMが生み出した環境だ。あまりに早く、あまりにも強すぎて他の誰もがその強さを真似できない。だが、追いすがらなければ置いて行かれる。
だから皆アグロを研究し、環境もアグロ寄せになった。
それでもなお、トップは変わらない。
何よりも新環境になった上で勝率を落としていない。それが強さの証明になっている。映像記録を見れば解る。単純にメタするとかしないとか、そういう領域の話じゃない。
反応できるかどうか。それがGM戦の分水領になる。
「国木田に頑張ってもらわないと」
「国木田じゃない。マスター仮面だ……やれやれ、年下の少年に励まされるとは。私もまだまだ、か」
部屋の隅で膝を抱えて丸まってた仮面が漸く復活した。
「良し、改めてアメリカ戦の準備をするか……こればかりは何時も通りになりそうだな。では私は特訓に出てくる」
「いてらしゃー」
手伝えることがないので仮面が出ていくのを見送る。
何せ、アメリカは非スキル型とでも言うべきスタイルを採用しているからだ。そう、イタリア戦でマルコが見せた女帝の動き、ああいうのがメインになってるのだ。
ゲーム環境での動きがメインになってる俺はスキルの性能をフルに引き出し、コンボや連鎖を構築するのが得意だ。その代わりにモンスターの個性そのものを引き出して戦うのが難しい。
たとえば前、タッグ大会でフラメアが相手より早く詠唱し、魔法を構築出来るという能力を見せた。ああいうデータ化されてない能力は言われない限り気づけないし、戦闘でどう活かせばいいのか解らない。
俺はRPGとして見てるが、連中はこれをアクションRPGとして見てるのだ。
そりゃあ動きや結果が変わってくるよな。
まあ、これが不得意なのは別に俺1人じゃなく、多くのマスターがそうらしい。
というのもスキルの性能を発揮させるだけでもかなりの重労働だ。適切なスキルの運用でさえ出来ない人が多いのだから。それができるようになって初めて、次のステップに進めるようになるのだが……問題がある。
ランクが上がれば上がるほど、スキルのプールは増えて行く。つまり適応しなければならないスキル、環境がランク別で違ってくるのだ。
前のランクでスキルに動きや考えを最適化したところで、次のランクに行けば新しいモンスターやスキルが待っている。
本当の意味でマスターとモンスターが最適化され、スキル外の動きが出来るようになるには10年以上の時間が必要となるらしい。
これはつまりモンスターが今の劣化した体に慣れる為の時間でもある。今の人生に馴染めていない俺がそれに適応できるか? いや、無理だろ。
何にせよ、後は代表達の健闘を祈るだけ。スキルも予習ツールも出したのだからあとは任せた。
俺は帰って久遠とイチャイチャでもするか……と考えてるとスタッフの1人がやってきた。
「鴉羽くん、今良いですか?」
「どぞ」
では、と言葉を置いてからストレートに突っ込んできた。
「鴉羽くん、あのゲームをデジタル化してみませんか?」
「あのゲーム……って俺と司書で一晩で作ったやつか」
「はい。デジタルアプリ化させたら遊びやすくなるでしょうし、配信してそれで収益も出せます。データを増やしたりする必要もありますが、誰もが予習と復習が出来るツールとして優秀だと思うんてすけど……どうでしょうか?」
「俺は構わないけど……競合するアプリってないの?」
俺が用意した原作再現ゲームは単純にこの世界で未発見だったり、未公開のデータを盛り込んでるから特別なだけで、似たようなゲームは死ぬほど存在すると思うんだけど。
俺のその疑問にスタッフが頷いて答えた。
「勿論あります。ですがどれも低ランクのモンスターばかりです。B以降は秘匿性が高くなってきて、Sでは所有者に許可を貰わないと詳細なデータが見つかりません」
だけど、と言葉を置かれた。
「鴉羽くんならそこら辺無用ですからね! 各国の重要データどれだけ詰め込んでもしらを切れますよ!」
「今凄いことを言ってない? いや、別に良いけど」
……俺も、将来の面子の完成させたデータが作りたかったし。色々とスキル付け替える機能とか追加してシミュレーションしたかったのも事実だ。
ソロモードとかあればスキルの組み合わせチェックとか死ぬほど捗るんだろうなぁ……いや、欲しいわ。これに関してはオールオッケーでゴーサインを出す。
それを受けてスタッフは解りましたと答えてから、話を続ける。
「ではここからが本題です」
「本題?」
今のが本題ではなかった事実に驚きつつ、スタッフを見上げるように視線を合わせると、人差し指を持ち上げてポーズを取りながら提案してきた。
「ーーー鴉羽くん、バトルログシステムをデジタルアプリ化するのに挑戦してみませんか?」