最強以外ありえない   作:てんぞー

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Dランク戦線開幕

 熱狂。

 

 熱狂の真っただ中にいる。

 

『奴が帰って来た! 数か月前、衝撃のE認定戦とD認定戦をたったの3ターンで踏破した姿を! 俺達は決して忘れてはいない! 待っていた! Dランク用のモンスターを用意して帰って来るのを!!』

 

「へぇ、お前が噂のルーキーか? でもランクマに出た事もないんだろ? まだDで戦った事もないくせに調子乗ってるな……」

 

 熱狂。

 

 見ている人も、参加している奴も、熱狂の中にいる。心地よい熱が四方八方から送られてくる。感情の津波が押し寄せてスタジアムを満たしている。認定戦とは違う。Dランクのランクマッチともなればそれは立派な興行用の試合になる。人が娯楽として見られるレベルの戦いになるのだ。

 

『Dランク初戦から週末大会に乗り込んできたこのイカレたチャレンジャーは鴉羽尊! つい最近稼働し始めた鴉羽ファーム所属! 連れているモンスターは見覚えがあるかないか? どちらにしろその強さは直ぐに解る! 対するは―――』

 

 熱狂。

 

 俺の吐く息にも熱が籠っている。こうやって勝負の場に立つと自分が、心の底からこの戦う事を愛しているのが解ってしまう。或いはこれが俺の芯で、最も本物に近い部分なのかもしれない。だからこそこのことに関しては手を抜けない、妥協はしたくない。

 

『さあ! どうなるか! Dランク恒例週末大会は! 今回は気になるルーキーのエントリーによって荒れそうだぞぉ!? それでは試合―――』

 

 右目を手で覆う。視界が同期する。意識が繋がる。溢れる闘志を理性の鎖で縛り、手綱を握る。

 

「チビ、エデ、コマンドは入力済みだ。行け」

 

『―――開始ぃ!!』

 

 鳴り響くゴング、戦闘開始の合図とともに動き出すモンスター達。

 

 フィールドの反対側から飛ばされる指示が聞こえてくる。フィールドを疾走するモンスターは2体だ、小柄な熊のモンスターが2匹。力が高く、素早く、並べて殴るだけで勝てるという雑な強さを持つモンスター達だ。

 

 それに対応する我が子は不動のまま待ち受ける。

 

「~♪」

 

 誰よりも何よりも早く反応するのはエデ―――マーメイド型のモンスターだ。その足元は移動に合わせて動く水面に下半身を沈めており、上半身を晒す青髪の人魚は高らかに熱狂さえも打ち消すように歌声を響かせる。

 

 歌唱スキル、《平和の歌》。

 

『おぉっと、これは《平和の歌》か!? フィールドに存在する全てのモンスターの攻撃力が下げられるッッ!』

 

「無駄だ! そんなんじゃ止められねぇよ!」

 

 真っすぐ、真っ先にエデを、支援役を潰す為に2匹の子熊が疾走する。多少火力がそがれた所で集中攻撃を受ければ瀕死寸前まで追い込まれるだろう―――が、その現実は成らない。

 

「ぐるるるぅぉぉぉ―――ん!!」

 

 咆哮。

 

 天井へと向かってチビが吠える。その姿は夜の様な漆黒の色に額から角を生やし、狼からもっと大柄で魔獣と呼べるような姿へとEランクの頃から変わっている。咆哮が轟き、心を揺さぶる様な衝撃に子熊たちの敵視(ヘイト)が一瞬でチビへと向けられた。

 

「あ、お前ら! そっちじゃない! 先に支援役を!!」

 

 マスターの指示を無視して攻撃がチビへと向けられる。それを余裕をもってチビが躱す。2連続の攻撃が空振り、ターン中のダメージが発生しない。それに合わせて歌唱の追加効果によって敵味方全体が回復する。

 

 歌唱スキルは複合効果を発揮するスキルだ。ただし低ランク帯では敵味方対象を取れず、なおかつ1度発動すれば数ターンの間は歌唱以外の行動がとれなくなる。デメリットは大きく、使いどころは難しい。無論、高ランク帯で極めるレベルに入れば話は違う。

 

 それでも攻撃の低下、全体のヒールは使いどころが難しい。

 

 普通の構築であれば。

 

「詰みです」

 

「は?」

 

「詰みです」

 

「……は?」

 

「リトルベアにナイトメア(チビ)の《挑発》を突破する手段がなければ詰みです。これから敵視が切れそうな度に《挑発》で敵視を取り直してナイトメアで回避します。マーメイド(エデ)はずっと燃費の良い《平和の歌》で事故ケアしつつ隙間に《クイック》で火力増強して《アクセルクロー》でフィニッシュします」

 

 そう、力ステータスを参照する戦い方なら泥沼の戦いになっただろう。

 

 だけど素早さ+のパッシブを回避+のパッシブに転化させてもDランクにまで上げたチビの素早さはかなり大きい。違うステータスでダメージ判定を行えばデバフは踏み倒せる。これが最もスマートで安定した、環境に対して8割9割取れる戦い方だ。

 

「物理必中あるならどうぞ、《平和の歌》でケアしてるから大したダメソにはなりませんが。初手で歌を止めなかったのが敗因ですね」

 

「は? う、嘘だろ? こ、こんなにもあっさり……?」

 

「なさそうなんで詰みですね。GG、対戦ありがとうございました」

 

 絶叫が響く中、そのまま残りの試合を全タテして優勝した。

 

 

 

 

 

「―――み、尊くん強すぎ……!」

 

「おっすおっす、最強のDランクマスター尊様だぞ。崇めろ、称えろ雑魚共が」

 

 中学に上がって生活が変わった―――という事は特になく、中学に上がったタイミングでDランクへのモンスターの更新が完了した。休憩エリアでは今日も対戦疲れしたマスターやモンスター達がバトルの疲れを癒している姿が見られる。

 

 今回の週末大会参加は新しいパーティーの実践運用を試す為と、レートを上げる為のものだった。物理アグロが多い環境ではやはり歌唱による全体攻撃力ダウンが凄く良く刺さる。Dランク帯で全体を対象としたデバフが使えるのは歌唱スキルぐらいだろうが、それも許されるのは歌唱が敵味方と対象を取らない効果だからだ。

 

 だからこそデバフ内容を踏み倒す事が出来る素早さで判定して殴るというムーヴが凄い刺さる。

 

 笑いが止まらない。ゲーム環境だったら爆速でメタられてるか、構築パクったミラーマッチに突入してる所だろう。だがリアル環境においては育成はコストと時間がかかる。だからこそ簡単にメタの用意はできないし、直ぐに対応する事も難しい。

 

 そういうメタを用意して殴る、という動きが許されるのは潤沢なリソースを持つAランク以上のマスターに限られる。

 

 だから構築する時点である程度環境やメタに対するケアする方法を考えておくことが好ましい。

 

「はあ、尊くんがどんどん遠い世界の住人になって行くよ……いや、元からだった。じゃあ気にしなくて良いや」

 

「それで良いのか七海……?」

 

 中学3年生となった七海も相変わらずという様子でひぃんひぃん鳴いてた。但し横に居るのはもうケットシーではなく、ケットシーを元に合体させたDランクの新しいモンスターだった。

 

「ケケケ、ななちゃんはそういう所が良いんだよ……」

 

 ケットシーの可愛らしい姿から一転、浮かび上がる古いランプ型のモンスターへとその姿は変貌している。うっすらと半透明な幽霊の様な影がランプを覆っており、それがランプを浮かべているのだと解る。

 

 愛らしさはなくなった結果、デバフ付与に特化して害悪度は増した。

 

 俺は確信している。七海は才能がある。見た目よりも性能を選んでるから。

 

「しかし今日は大会だけではなくランクマの方でも負けなしか、やるな尊」

 

「この2匹がしっかりと環境に刺さってるおかげだな」

 

 足元に座り込んでいるだいぶ大きくなったチビと、そのチビに背中を預けて寝転んでいるエデへと視線を向ける。ナイトメアとマーメイド、ロールは回避タンクとサポーターといった所か。チビが本格的に火力を担当できるようになるのはスキル枠に余裕が出来るBからだ。

 

 それまではひたすら回避力と素早さを擦って行くしかない。

 

 いや、寧ろちゃんとした火力枠を確保する方が大事かもしれない。

 

 近いうちに行かなきゃなあ……大英図書館(イギリス)

 

「チビちゃんで攻撃を回避して、その間にエデちゃんで盤面を整える……確か4~5ラウンド目に火力を出す構築をミッドレンジって呼ぶんだっけ?」

 

「そうだな、序盤のアグロ構築の猛攻を躱して、中盤息切れし始める所を一気に殴り込む形になるな。今の環境、物理型が多いからこのやり方がすごい良く刺さる」

 

「前にミコトが言ってたな、バトルに対して100点の答えはないが80点から90点を出す事は出来る、と」

 

 久遠の言葉に頷く。

 

「勝負の世界に絶対はないよ。勝つ、と思って詰めの段階に入った所を1回のクリティカルで計算が崩壊するのは割とあるからね。大事なのはそういう状況に対してケアが出来るかどうか。どこまで何を想定しているか、という話だな」

 

「今の環境は物理が多くてアグロ型多いから物理回避に特化したモンスターを用意している……って事なのかな?」

 

 実際は物理回避を活かすしかない、という言葉の方が正しい。チビそのものは全体から見るとそんな強くない。実際はもっと強いモンスターはごまんといるし、そっち使った方が勝ちやすいだろうとは思う。

 

 ただ俺が取れる手札というものは多くない。その最大の理由は金だ。

 

 大英図書館に隠されたダンジョン、幻想図書館では世界の真実が記されている。また最強の魔女を生み出す為の供物と、そして始祖となりうる魔女たちがモンスターとして徘徊している。

 

 ヒマラヤの人類未踏地に隠されたドラゴンズバレーでは異界に属するありとあらゆるドラゴンが存在し、神なる龍の誕生を永劫に待ちわびている。

 

 アマゾンの奥地に封じられている暗黒樹海は混沌とし、絶望と痛みで満ちている。だがその最奥の中には不死の炎を燃やし続ける神聖なる鳥が今もずっと、相応しき者の到来を待ち続けている。

 

 大海の底には夢と希望を乗せた箱舟が沈んでいる。船の姿をした巨大なダンジョンを守るのは海王を名乗るモンスター。その守りを突破した者のみが次代の王を育てる権利を得る。

 

 時の狭間、忘れられた時間の中には今も次元城が新たな客人を待ち続けている。狂った時を歩み続ける城の中では狂わされた時間を生きる妙なモンスター達が同じ時を繰り返している。

 

 ―――どれもDLCで解禁される裏ダン、隠しダンジョンだ。

 

 どのダンジョンも新しい血統を始める為の1世代モンスターが配置されており、DLC追加というだけあって今環境にいるどんなモンスターよりも強いのは確かだ。しかもこいつらでしか作れないモンスターなんてのも当然いるのが困った話だ。

 

 “神龍”と“超越”がそうだ。

 

 つまり尊くんはそのうちイギリス旅行したり、ヒマラヤに挑んだりしなきゃいけない。

 

 馬鹿じゃないの? 開発なんでそんなところにダンジョン置いた? DLCで行けるようになる時は主人公がグランドマスターになってるから問題ない? はい……。

 

「尊くーん? なんか目が淀んでるよー?」

 

「偶にあるから気にするな。またどうせ他人には解らんバトルの事を考えているんだろう」

 

「あ、ごめんごめん」

 

 最強に至る為のパーツを考えてたらちょっと現実逃避してた。話はなんだっけ。あぁ、そうだ。

 

「つまり環境に対して強い選択肢を選んでいればまず勝てるって話なんだよね、これ。無論プレイングや単純なパワーの話もあってそう簡単な話にはならない。でも魔法で来るなら魔法防御を上げる。物理で来るなら物理を防ぐ方法を用意する。それを意識するだけでもだいぶ環境ってのは戦いやすくなる」

 

 特にこの世界において環境は強弱ではなくグランドマスターなどのインフルエンサーの好みや流行で決まりやすい部分がある。全てが全てそういう風に流されるわけではないが、今回の大会は全員トップ層の真似をして回避特化を突破出来ない連中だった。

 

 戦う相手が全員こういうのであれば凄い楽なのだが、現実はそうもいかない。

 

 目の前の七海は明らかにコントロールとバーンを意識した構築へとモンスターを合体させている。彼女も最近、Dランクへと上がっている。どういう意識の変化があったかは解らないが、意図は明白だ。

 

 彼女は俺とやる気だ。今ではないだろうが……そのうち、ぶつかる事もあるだろう。

 

「環境に対して強い、という事はそれ以外に強いという訳じゃないからね。こっちが環境を意識してメタを組む様に、それを意識したメタってのも当然出て来る」

 

「それが落とす20点から10点の内容か」

 

「うん。これは絶対だよ。気合ではどうしようもない。才能でもどうしようもない。100点の回答は存在しないからどれだけ理想的な編成を用意できても、負ける時は負ける」

 

 だからこそどこを狙って構築するかが大事なのだ。

 

「高い勝率で勝ち上がるつもりなら俺みたいに80点の構築を使えば良い、って事」

 

「成程ねー。勉強になるなあ」

 

 周りで休憩していた人たちも納得したのかうんうんと頷きながらメモを取っている。勉強熱心な人たちが多くて俺は嬉しいよ。これで明確に俺を意識してメタを組む人が出てくるようであれば俺の勝率は下がるが―――その方が断然面白い。

 

 戦いに勝ち続けるゲームは、退屈だ。

 

 適度な敗北があるからこそ勝利には価値が生まれる。

 

 だから俺の喉笛に刃を突きつける様なプレイが出来るマスターが現れて欲しい。

 

 そう願いながらチビとエデを連れてのDランク戦線が開幕した。

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