「あ、自己紹介がまだでしたね。ついでに見分けやすいように……」
そう言うとスタッフは服を脱いでからズボンも脱ぎ捨ててパンツ一枚になった。
「これで見分けやすいですね!」
「良いのか? 本当にそれで良いのか??? 顔が見えない人は他の特徴で覚えちゃうからそれ以外で認知できなくなるけど本当にそれでいいのか????」
「原田洋介です、改めてよろしくお願いします鴉羽くん」
これで良いらしい。パンイチマンで記憶することにした。ちなみにパンイチマンはくまさん柄のボクサーだった。
「私、柊グループの技術開発部からの出向で、分類的には清十郎様の部下なんです。実は前々からなんとか民間とプロの間の認識の差を埋められないか苦慮してて……それで今回、鴉羽くんの作ったゲームとシステム、そして知恵を借りれないかと思ったんです」
うわぁぁ、パンイチマン姿で凄いまともなことを喋ってる!!! 脳がバグる! 脳がバグる!
「えーと……認識の差、って?」
「試合を見るとき、プロなら一瞬で《インタラプト》か《パーフェクトキャンセラー》が飛んだのを理解します。ですが一般層はその違いが解りません。根本的なスキルの知識やコンボ、動きが全く解らないんです」
まあ、知識の差やろな。メインストーリーをクリアするだけの層にサメは殴るだけじゃなくて起点作成の石設置型もあるよ! とかいう話をしても首を傾げて殴る方が早くね? という反応が返ってくるのと一緒だ。
一般層は調べたりしない。
「日々新しいスキルが発見され、コンボが開発され、そして新種のモンスターが見つかります。観客側はこの変化に常に置いていかれています。興行として見るとユーザーが置いていかれるのは非常に良くありません」
「成程なぁ、そういう視点は初めて聞くなぁ」
「柊ではこういう興行としての側面にも配慮してますからね。だから常々プレイヤーとユーザー、そして視聴者。この三者の溝を埋める方法を探してました」
パンイチマンはボクサーの紐を引っ張るとぱちん! とさせた。
今の仕草何? なんでパンツぱちんさせた?? なんで? 会話中にやる必要あった?
「それで目を付けたのが鴉羽くんのバトルログです。マスターの皆から凄い好評なログ機能が鴉羽くんが認知した情報を脳内処理して自動出力されていると聞いて驚きました。あ、この話はアンナ様から聞きました。偶にゴミみたいな表現流し込まれるの止めて欲しいって」
「無理」
「じゃあ……どうしようもありませんね!」
どうして嬉しそうなの? ゴミみたいな情報好きなの? カスみたいな嘘のASMR買ってるタイプの人?
「仕事中に聞いてます!」
そっかぁ、心読まないでね。
ともあれ。
「鴉羽くんのシステムとでも言うべきものを技術化して、これが誰でも使えるものになれば……あらゆる人間がバトルで発生してる内容を理解出来るようになります」
それは一種の理想だ。だが理想というものは往々にして叶え辛いものだ。だから問題を口にする。
「これ……システム化できるの……?」
自分の頭を指先でとんとん、と叩く。それを見てパンイチマンは腕を組みながらこう答えた。
「難しいでしょう。ですが、やる意義のあるプロジェクトだと思っています。そしてゲーム化はこのプロジェクトの前段階……みたいなものです」
ぱちんぱちんー! パンツをぱちん! 真面目な話をしてる時に馬鹿みたいなノイズ混ぜるの止めてくれません?
「まずフィールドで何をしたか、というのが判別できるプログラムを作らないといけませんが……これを判別するシステムは相当難しいです。前提となるデータが足りません。なのでゲームを通してデータを蓄積させます」
「あー、なんとなく解って来た。ゲームでの動きを通してこのコンボはこう、とかこの動きはこう、というデータを記録して学習させるんだ」
「はい、これ専用のAIとエンジンを作成するんです。ですが世の中のスキルやモンスターは非公開のものが多く、学習させることは大変なのです」
だけどここにはデータぶっこ抜きマンである俺がいる。低レベル帯から最前線まで、ほぼ全てのモンスターとスキル等のデータを記憶している。俺が一緒ならこの世界で一番自由なゲームを……いや、原作を再現できる。
そして原作で収集したデータを読ませる事で、リアルタイムの戦闘に反応できるAIを作成する。
「なるほどなー」
「鴉羽くんなら樹海や図書館、根の国も出せますよね? 他の似たようなゲームと比べ、これは圧倒的なアドですよ。なにせ、本来なら触れられないデータに触れて遊べるんですからね」
「言いたいことは理解した。楽しそうだし、俺は全然構わないけど……こういう開発ってどうするの?」
パンイチマンはその言葉にそうてすね、と答える。
「まずはスポンサーの確保でしょうか? 後はチームの結成の為に人員確保、スタジオの用意……やることは色々とありますが、細かいことは気にしなくても大丈夫ですよ。鴉羽くんの仕事はデータの纒めぐらいなので」
ほえー。もう既に色々と考えてたんだな。俺に話を持ってくる時点で既にある程度固めてるし、アンナか清十郎にスポンサーの話も通してるのかも。
アンナなら黒字になるなら良し! とか通しそうだな。
王様なら弟が参加するのであれば良し! とか言いそう。ちなみに従弟を兄や弟と呼ぶのは欧米文化だそうです。文化的にあっち育ちぽいよね、アンナも清十郎も。
「理解した。完成すればシミュレーターとしても使えそうだし、楽しみだ」
「はい、実際にプロジェクトを動かすのは帰国してからですし、本格稼働するのも来年以降……動かせる物が出るのは数年後、ARデバイスとしてリアルタイムの情報ログが出せるウェアを出せるのはもっと先になるでしょうが、今から着手するのに価値のあるプロジェクトになると思います」
そこまで見据えてるなら俺に言えることは何もな……いや、待てよ、そこまで時間がかかるなら世界が残ってるか怪しいぞ? 5年以内にラスボス戦に発展してもおかしくないし。
それにシンクロ禁止中の今、こんな状態がこの先も続かない保証はないし、代替となるシステムを用意しておくのは意義がある。
そこまで考えた所で少しだけ頭を回し、それからよし、と呟く。
「パンイチマン、これって俺から1人推薦しても良い? 話を通すのは今からなんだけど」
「チームの結成はまだなので全然大丈夫ですよ」
「じゃあ今からアポ入れるね」
スマホを取り出してピポパポ……連絡を入れたら爆速で返事が来たので要約して内容を伝える。
「……うん、興味を持ったみたい。じゃ、行こうか」
「?」
パンイチマンがどこに? みたいな顔をするので近くに浮かぶゲートを指差す。
「図書館」
10分後。
パンイチマンはパンイチ姿で図書館内にいた。
図書館内に……というか館長室にいた。
「ヘイ、館長!」
「やあ、尊くん」
出会い頭にハイタッチを決める。テーブルの上には作業中の本の姿があった……良く見ればそれがボドゲ形式で作成してた原作のバージョンアップキットなのが解る。
続き……作ってたんだ……。
「あ、紙媒体で作るのは純粋な趣味だから気にしなくていいよ。単純に紙の感触が好きなだけだから。それでデジタル版を作るんだってね?」
「うん。遊べるのも良いし、シミュレーターにもなるから色々と予習と練習もできるし、最終的な着地点を考えると戦闘補助にもなるしで無駄にならないかな、って」
「そうだね。完成させたとして、最終的には人類で活用できる戦闘補助デバイスが出来上がるはずだね? 間違いなく人類の戦力向上にもなるから私としても断る理由はないかな」
あと単純に面白そうだし、と付け加える館長にパンイチマンが恐縮ですと体を震わせてる。いや、体が震えるなら服を着ろよ。
「でも、懸念はあるかな」
「懸念、ですか?」
「うん」
館長の言葉にパンイチマンが食いついた。腕を組みながらそうだね、と言葉を置く館長は部屋の奥を見る。そこにはコードに繋げられたオメガの姿があった。
「オメガくううぅぅぅぅぅん!?」
「あ、大丈夫だよ。演算用に子機を1個借りてるだけだから。彼1人で地球上のあらゆるスパコンよりも性能が出るからね」
それはズルくね……?
パンイチマン共々、出てきそうな言葉を飲み込んだ。というかアーサー、こういう事してるから従者を連れ出すのに成功したんだな……。
「ぶっちゃけた話、今のAI事業で尊くんの脳内ログレベルの働きをさせるのは難しいだろうね」
「それは……確かにそうです。ですが、学習含めてこの分野を開発する意味もあるんです」
「予想だけど10年先を見据えている感じだね? それでは恐らく彼女との決戦までに間に合わない……尊くんも、そう思うでしょ?」
館長の言葉に俺は腰に手を当て、天井を見上げる。
「そうですね……たぶん、アレが待てるのは5年……6年ぐらいかな。俺が成人するまで大人しくする、みたいなのは無理かな」
だから俺も、5、6年以内にSランクに上がらないとならない。毎年ランク上げていけば……まあ、なんとかなるか……? 高校、高校卒業辺りが目標かな。
「うん、大体見立て通りかな。システムを完成させるならそれまでが良い」
「無理です。技術的に。資金の方は……まあ、上が投入してくれるでしょうが……」
館長がだから、と言葉を区切った。
「AIなんて使わず、魔術的にこの問題を解決しないかい?」
館長が悪い顔をした。
「現代科学と魔術を融合させて新しいシステムを構築するんだ……そうだね……電子の精霊とかを生み出して代わりに制御に組み込むのとかどうかな! あちらの世界では生まれなかったけど、此方の世界なら電子への信仰から生まれると思うんだよね!」
「魔術と科学の融合……! まだまだ未知の分野で各国では研究してても一切進んでいないとされている内容ですね! 精霊……信仰が薄れた現代で元素や概念ではなく科学によって生み出されたそれに宿るのですか? いえ、そう言うなら根拠があるのですね!?」
「ふふ、これに関しては私の専売特許だからね」
あ、これ合わせちゃいけない組み合わせだったかも。盛り上がり始めるパンイチマンと館長を眺めながらそっとスマホを取り出して、アンナに連絡を入れる。
『もしもし尊? 何か用? あ、いや、待ちなさい、アンタからの連絡でろくな事があるわけ無いわ。黙ってて、お願い。黙ってて』
「ごめん」
『何をした? ねぇ? 尊?? この連絡必要あった?? 私を不安にする為だけに連絡してない? 何をしたの? ねぇ!? このタイミングでの連絡って例のプロジェクトの話よね? 待って今のアンタの現在地―――』
うん。じゃあ切るね。
スマホを切ってから電源も切る。館長とパンイチマンの組み合わせを見て俺は頷く。
「原作再現プロジェクト始動!」
わぁい!