館長とパンイチマンは置いてきた。俺がついていけないからな。
館長、あれで技術屋気質なところあるし、原作再現プロジェクトはまあ……なんとかなりそうだ。問題はあの2人がなんか変な技術を開発しないかだが、そこはもう祈るしかない。
俺も後で原作データ提供しまくろっ!
約束されたアンナの胃の破壊予告を出しつつ図書館を後にする。
アメリカに戻ってくればインタビューや何やらの処理も終わり、東吾達もホテルに戻って対アメリカ戦の準備に入る。珍しく真面目にやろうとする酒クズを見れば、次が激戦になるのは見えている。
とはいえ、非スキル的行動が多めになるアメリカ戦において俺が用意出来ることなんてほぼない。
だから東吾達が必死に予習と復習を詰め込んでいる間、特にやることがない俺は館長の所に顔を出したり、夜月一家とぶらぶらしたりして漸くゆっくりとした時間を過ごせた。
だがその時間も過ぎれば……いよいよこの交流戦のグランドフィナーレがやってくる。
「ーーーさあ、いよいよやって参りました! 世界交流戦inアメリカも決勝戦! これでいよいよ世界最強の国が決まる! 勝利の栄光を掴むのは日本か、アメリカか? ついに始まります!」
「今回も実況、解説、そして賑やかしは引き続きこのトリオで続行しまーす!」
「ついでに暇そうにしてたアーサーを第2の解説に引っ張ってきたよ」
「皆さんこんにちわ、英国代表のアーサー・リングスターです」
アイドルくんと実況がこれ本物? という顔で見てる。安心してください、本物です。
「ミコトとはプライベートな友人ですし、折角面白いと評判の解説に出られるなら……と来ました。実は道中でエレーナとリュウを見て暇なら一緒にどうですか? と誘ったのですが断られてしまいました」
「負けて出番がもうないのにね」
「……と、言うわけで英国代表のリングスタープロです!」
「国際問題を起こしそうなコンビを加えて本日は決勝戦の様子を伝えていきまーす!」
いえー、とカメラの前、4人で手をパチパチと叩く。暇そうにしてたし誘ったら一発オーケーだったんだよね。連れてきた時はアンナが凄い顔をしてたが、王様は流石だな……みたいな顔をしてた。
後方兄貴ヅラぁ!!!
アーサーが追加された事で実況席はちょっと手狭に感じるようになったが、アーサーの存在感で視聴者数は滅茶苦茶上がっているらしく、ディレクターが全身から喜びのオーラを放っているのが見える。それだけ今、このチャンネルが注目されているという事だろう。
「それにしてもリングスタープロは日本語がお上手ですね」
「トーゴもミコトも日本人ですからね、話を合わせるならこっちが日本語覚えてしまう方が早かったので。普段は3人で良く育成や戦術の研究をしてるんです」
「国の壁を越えた友情ですね! それにしても基本的には同じ国の子弟や研究会でこういう模索を行うという話を聞いていたのですが……リングスタープロは国という壁を飛び越えてバトルの研究を行うのはなんというか……珍しいですね?」
アイドル君の言葉にそうですね、とアーサーが言葉を置いた。
「各国のトップ層は自国のマスターよりも……他国のマスターと接する時間の方が長いから……かもしれないですね。上に行けば上に行くほど国の括りではなく個人の括りになるので、対戦相手も見た事のある顔が増えてしまうんですよね」
「成程! 対戦回数が多いから自然と交流も出来るという事ですね!」
確かに対戦重ねているうちに仲良くなるのは事実だが、俺とどうして仲良くなったのか、というのを今の答えで華麗に回避してる辺り、インタビュー慣れしてるのを感じる。軽くトークで場が温まり出すと
「さて、1回目の対戦表が出たかな? 初戦は酒クズ対おじいちゃんか……試合中に急性アルコール中毒か心臓発作か、どっちが先に起きるのか賭けない?」
「不謹慎ッッ!!」
「まあ、年齢と飲酒量的に十分あり得るラインがなんとも言えませんが、ツバキとアレックスさんですか。うーん、読めない試合ですね。特にツバキは訳の解からない事をするくせに最終的にそれが最善だった……みたいな無茶苦茶な手筋を取りますからね」
冷静に考えるとアイツ日本で3番目に強いという事実は未だに認めたくないよな……。強いのは強いんだけど、強さに合わせたかっこよさを欲しいよな。
「あの酒クズ負けてくれないかなぁ」
「恨みの籠った呟きですね……」
まあ……シンクロ封じられたので……。数か月は本気でバトルできないのも確定しているし。恨みがないと言えば嘘になるんだよなぁ。
なにはともあれ、対戦表が発表されたトップバッターは酒クズ。相手はお爺ちゃん。ジジイvsアル中という酷い絵面が決定した。誰が出て来るのか、というのが決まると必然的に話の内容は勝利の予想へと移る。
「鴉羽さん、チームの一員としてどう見ますか?」
実況の質問にうーん、と腕を組みながら首を捻る。
「根の国、図書館、暗黒樹海……今、日本には最前線スキル環境3セットが全部揃ってる。使い方も、必要パーツもほぼ揃えてある。それだけ見るなら間違いなくキャラパワーは酒クズのが上回ってる。本人が予知とかインチキ染みた事が出来るのもある。普通の相手だったら最適解選んだ完封するだろうな」
ちなみに仮面マンと東吾は相手を他の選択肢がない状況に追い込む……というやり方で酒クズを攻略したらしい。クレバーだね。どれだけ未来が見えていても覆す手段がない風に手筋を打てば勝てるという話だ。
ただそれも旧バージョンでの話だ。今の酒クズには最新のスキルセットがある。これを抱えた状態で詰みへと持ち込むのは相当難しいだろう。俺でさえ構築見てメタ張る前提だしな。その上でどっちが勝つの? って話をする。
「わかんない……」
「わかんない」
「読めない。酒クズ本人がお爺ちゃんとは一番戦いたくないって言ってたからね。たぶんまともな戦いにならないんだと思う」
「まあ、そうですね……アレックスさんは現役マスターの中でも最高齢です。戦闘経験も豊富で、本人が昔戦争に出た経験もあります。今、私達はダンジョンの存在する世界で生存競争を強いられていますが……彼はダンジョンだけではなく、戦争への従軍経験も持っています。他のマスターにはなく、彼にだけ存在する貴重な経験です」
「スキルのパワーだけを比べればそりゃあ勝つのは酒クズだろうね。だけどバトルってのはそれだけじゃないだろう? 長年生きたモンスターは今の概念体―――あぁ、つまり体に馴染むらしいね。そうなってくるとスキルの性能を120%発揮できるようになるだけじゃなくて、肉体のポテンシャルを……え? 細かい話は止めろ? 喋る度に映像が乱れてる? じゃあ黙るか……」
お口ばってん。
「でもこれ館長から聞いた話だよ!!!」
アイドルくんがばってんマークのマスクを取り出してそれを俺に渡して来た。無言で俺はそのマスクを着けて1回休みの状態に入った。くそぉ、アンナめぇ、こんな面白いアイテム用意しやがって……! こんなの用意されたら従うしかねぇだろ……!
「ミコトが黙ったので代わりに話をしますが、長年マスターと時を過ごしてきたモンスター―――この場合合体前の年数はカウントしませんが―――合体されたモンスターはどんどん今の姿と動き、スキルに適応してくるんです」
「ですが、それって普通の事ではありませんか? 人間が武道を窘めば少しずつ技に適応し、肉体は鍛えられます。鍛えれば鍛えるほど成長するのは当然の事ではありません?」
違うのだ! と、口には出来ないのでアーサーが代わりに話を進めてくれる。
「これは少しわかりづらい話ですが、モンスターの成長は成長ではなく
「長年生きて来たモンスターはそれだけ強い! って事ですね?」
「そうとも言います」
そもそも俺達が使役してるモンスターはオリジナルではなく、概念としてのコピー体だ。だから同じモンスターが合体で作れるし、戦わせる事が出来るし、死んだ所で本体への影響は何もない。逆に言えばこれは本来の肉体ではないから、当然本来の体のように動かせないのも当然の事実だ。
スキルでさえシステム的に再現された技術なので、本来の実力で扱うスキルよりも癖がなく、そして平均化されている。その代わりに、誰が使っても100%性能を発揮できるようになっている。
だが長年モンスターは合体せずに生き続ける事で、その概念としての肉体が持つ枷を突破する事が出来るようになる。
それが本当の意味での成長と、適応、そして最適化だ。
そしてアレックス・グッドマンのモンスターはそういう経験を積み重ねてきた古強者だ。
バトルにおける読みとはデータの睨み合いだ。
あのモンスターは起点作成能力として取れる範囲がデータによって定められている。つまり出て来た瞬間何ができるか、という行動の範囲が絞れる。だけどその範囲を飛び出した瞬間、可能性は無数に現れ、増え続ける。何をしてくるか、というのが読めなくなる。
つまりデータセットを通して未来を限定できる酒クズに対して、最も効果的な存在になる。
「ここまで無敗、先鋒として活躍して日本に貢献してきた歪沢椿プロ、果たしてこの1戦を制し日本を勢いに乗せる事が出来るのか……注目の一戦です」
スタジアムの中央に出て来た酒クズとアレックスがダンジョンゲートの向こう側へと消え、映像が切り替わる。元空軍と言われているだけあってアレックスはどれも空戦適性を持つモンスターで自分の構築を染めている。
……単純なデータだけを見るならまず間違いなく酒クズが有利だと俺は判断するだろう。
だが覇気に溢れた老人の姿はこれから負けそうにも見えず、逆に酒クズは困り顔で頭を掻くと腕を組み、それから目を瞑ってから表情を真面目なものに変えた。
カウントダウン。
戦闘開始の合図が始まる。
ラスベガスで始まった交流戦、その決勝戦を始める為の戦い。その始まりに会場のテンションが上がり続ける。叫びだす罵声と歓声の中、ゆっくりと減り続けるカウント。
それが0になるのと同時に、2チームは動き出した。
―――空へと。
それを見てマスクを剥ぎ取って叫んだ。
「空中戦だあああ―――!!」
アレックス対酒クズ、地上を塗り替えるフィールド効果から逃れる様に空へ。セオリーも、スキルが満足に発動するかどうかさえも解らない未知の領域へと飛び上がり、決勝戦第1試合が始まる。