最強以外ありえない   作:てんぞー

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日米交流対決、第1試合

 歪沢椿が予知能力に目覚めたのは5歳の頃だった。

 

 庭でモンスターと遊んでた時、転んでしまった椿は頭をぶつけてしまった。3日ほど寝込んだ彼女が目を覚ましたとき、彼女の目の前には浮かび上がる氷の結晶があった。

 

 それに触れた椿はある人生を経験した。

 

 それは1人の女の人生だった。

 

 特に大きな目標もなく育った女性はお見合いで優しい男性と出会い、結婚し、子供が出来て、幸せな家庭を築いた。平凡な人生だったが、満たされる人生だった。

 

 それはほとんど、映画館で上映される映画を見る感覚に近く、その終わりは世界の終焉と共に来た。

 

 30年近い時間が一瞬で脳内に押し込まれ悲鳴を上げそうになるも、その経験で椿の精神は僅かながら成熟した。見た全てが残される訳では無いが、幼い少女を成長させるには十分だった。

 

 それが予知能力であり、制御なく発動したそれが彼女に邯鄲の夢の様な体験を与えたことを理解したのはもっと後になってからだった。

 

 未来を夢見る少女は直ぐにそれに没頭した。

 

 パティシエになる夢。花屋の夢。主婦の夢。社長の夢。テロリストの夢。マスターの夢。それは椿の持つ可能性の夢だった。なりたい自分になれるだけの力があるのだと彼女は徐々に理解しつつあった。

 

 だがどう人生を送っても必ず彼女は死ぬ。

 

 30前後、それが椿に与えられた寿命だった。

 

 彼女が死ぬのか、或いは世界が滅びるのか。彼女は常にその未来を見せ続けられた。

 

 異なる未来はないのか? 生き残る未来はないのか? 彼女は能力に目覚めてから3年間、ノンストップで未来を見続けた。

 

 それはまっさらな大地に少しずつ雪が積もってゆくようで……彼女が1つずつ世界を経験するたびに、急速に彼女を大人にしていった。

 

 やがて椿は理解した。

 

 世界が救われても、彼女は絶対に死ぬという事実を。椿の未来には死を乗り越える未来がなかった。30という短い時間が彼女の全てになった。

 

 それを理解した瞬間、彼女の人生はそれまでの時間をどう使うか、というものに変化した。

 

『絶望しないかって? それって時間の無駄じゃない? 今を生きてそれが全部終わったらまあ……絶望する時間もあるかもしれない。でも結局、私は運命を変える力も、誰かの運命に干渉する力も持ってるわけでもないし……だったらせめて、最も楽しい人生を送って後悔無く死ぬ方が建設的じゃない?』

 

 10にも満たず、椿は笑える人生を選んだ。

 

『自己救済でしょ? 結局の所、自分救えるのは自分だけ……何時も最後の選択をするのは自分自身なのよ。それを他人に譲ってはダメ。私はね、なりたい自分を選んだわ』

 

 歪沢椿はなりたい自分を選んだ。

 

 そして今。

 

 選んだ未来の中にいた。

 

 たとえ自分の人生が選んだ通りじゃなくても、彼女はその全てが楽しめる……そんな人生を送りたいと思った。

 

 

 

 空に迷うことなく飛び上がったモンスターたちの高度は一瞬で上空500メートルを越えて、更に上昇する。それはマスターが認知できる範囲を飛び越え、指示が届かない領域に到達する。

 

 空中戦ーーー打ち消し合いではなく、物理的な空中戦が好まれない理由はここにある。マスターの指示が届かなくなるため、戦いがモンスターの判断に任せたものになってしまう。

 

 どれだけ未来が見えようが、指示が届かないのであれば意味はない。

 

 これはアメリカが選んだ予知封じの戦略だった。

 

「ここまでは読めてた」

 

 予知能力無しでも相手は地上戦を回避して空中戦に移行するのは読めていた。フィールドを戦術的に攻略するならフィールドで上書きするか破壊効果を使うのが正しいだろう―――だがそれは手番を取る。つまりアクションを要求する行いだ。

 

 それを回避するならそもそもフィールドの効果外で戦闘を行えば良い。これは対フィールド戦術の一環として考えていた内容の1つでもある。スキルを使わないスタイルが得意なアメリカからすれば取るべき戦術の1つだろう。

 

 問題は―――相手が元空軍出身で、空での戦術に長けている事実だろう。

 

 機竜レイジングファイア、妖精コズミックフェアリー、神鳥シムルグ、戦闘機型無機生命体ブラッドスピード。

 

 アレックスの誇る今の空軍だ。それが指令の声もなく空へと飛びあがり、一瞬で音速を超えた。それに対して空戦を挑むのはステージ的に不利を被る事になるが、それに応じる以外の選択肢が椿にはなかった。

 

 そもそもからして、この出だしは速度で負けている椿では止める事の出来ない動きだった。

 

 だから出だしに黄龍が空そのものを落とすように大気の壁を生み出して、空間に蓋を生み出そうとする。だがそれを読んでいたとばかりに直列に並んだ空戦隊が大気の壁を突破して黄龍の頭上へと消える。目指す先は声が届かない高度。即応できない距離。

 

「その手は何百回も見てるからなぁ、お嬢さん」

 

「んにゃろ」

 

 大抵酩酊している状態で戦闘する歪沢椿という女が酩酊を捨てて向き合わないといけないベテランマスター。それが相手だった。まるで警戒する事は何もないと言わんばかりに相手のマスターは悠々とフィールドを横切りながら椿へと近づき、横に並ぶと煙草を取り出す。

 

「健康に悪いわよ」

 

「工業用アルコール飲んでる奴に言われたくはねぇなぁ」

 

 それはそう。マイクの拾った音声に会場の意見が一致した。

 

 そうして2人が地上で肩を並べて空を見上げる中―――全てのモンスター達が雲の上へと到達した。

 

 同時に試合映像を届けるドローンたちも雲上に到達する。飛行能力を持たないスクナが黄龍を足場にする事で戦闘領域を確保し、その周囲を4つの姿が高速で飛び交う。スキルで生み出される速度ではなく、肉体を駆使した速度による高速戦。

 

 黄龍の視界の裏を取るようにバラバラに4つの姿が散開し、加速する。それを追わずにクラマオウとコノハサクヤヒメが守備に入り、膝を曲げてスクナが全体を観察する。指で一つずつの動きを追うように確認し、それを予知と合わせて動きをルートを特定して行く。

 

「これで20個ぐらいルートが潰れたな。おーい、デカトカゲ。頑張れそうか?」

 

 黄龍が返答しようと声を響かせた瞬間、周囲から弾幕が形成される。その瞬間地上から一瞬だけシンクロが接続され、コンマ以下の時間に椿から情報がアップデートされる。それを受けてスクナが一瞬で加速し、飛び出す。

 

 放たれる弾幕の雨、《パーフェクトキャンセラー》が放たれる。

 

 生み出された風によって弾幕がその方向を失い、無力化される。崩れる攻撃の合間を縫って本命の閃光が放たれる。クラマオウへと向けられたそれを黄龍が身をよじって受ける。

 

 が、それで全体のバランスが崩れる。戦場そのものとなっている黄龍の巨体の上を走るスクナの位置が変わる。コノハサクヤヒメの魔法が乱れる。相手の姿が死角に消える。高速で飛び交う影が攻撃を設置する。

 

 そこから飛び出すスクナを狙い撃つように。

 

「それは見えてたぜ」

 

 が、読み合いにおいては分は椿にある。

 

 設置される攻撃そのものを把握していた椿、それがシンクロを通してスクナに伝えられ、飛び出した所でリンボーダンスを踊るようにミサイルを回避した―――その片手には酒が握られており、ミサイルが過ぎ去り、過ぎ去った場所を通り抜けるブラッドスピードを背に一杯キメた。

 

「読みは私の方が得意みたいねお爺ちゃん」

 

「ははは、俺に同じことを言ってきた若造はたくさんいたなぁ」

 

 多くの人々がスキルを優先して戦闘を行う―――何故ならスキルによる戦闘はその効果が保証されている。これにオリジナリティのある動きを加算すると、スキルそのものが崩れる可能性が存在する。だから動きとスキルを組み合わせる、というのは相当高度な技術が要求される。

 

 その為には立ち止まったり、或いは大きく動かない事も要求される。勿論、これには殴られるリスクが大きく存在する。だがそのリスクを受け入れてもスキルの性能を発揮できる方が強く、そしてはるかに戦いやすい。

 

 だがアレックスの様なベテランはその手の壁を容易に飛び越えて行く。戦場を分割するように四方へとモンスターが散る。個別に撃破しやすいように見え、その動きは時折交差するように航路を描く。だが法則性があるのであれば、読める。

 

 ぴん、と目の前に浮かぶ小さな可能性を指ではじいて除外する。

 

 椿の目には常に無数の可能性が映っている。

 

 発生しやすいものは大きく、可能性の低いものは小さく見える。そうやって発生し辛い可能性を指で弾いて排除し、残されるのは全て均等な可能性だ。自分の前に広げられた、無数に均等に並んだあり得る可能性に椿は横の老人を見た。

 

 その視線を受けてアレックス元准将は笑った。

 

「3人だ」

 

「は?」

 

「未来が見えるって言って俺に負けた奴の数だよ」

 

 スクナが酒を飲む。

 

 その瞬間を狙い隕石がスクナめがけて落ちて来る。空っぽにしたワインボトルを投げ捨てながらスクナが溜息を零す。

 

「はあ、飲んでる暇さえねぇな」

 

 黄龍が庇い、傷つく肉体をサクヤヒメが癒す―――事が出来ない。黄龍の傷を埋めようとした瞬間、横から突っ込んで来た機竜がサクヤヒメを掴んで黄龍の横から攫って行く。そのまま加速する姿が女神を戦場から除外する。

 

 暴風の壁がそれを阻もうとし、クラマオウが動いた瞬間に《ディスペル》がスクナへと飛ぶ。

 

「そらよっ!」

 

 足元、足の指で黄龍の鱗を剥がすと、それをそのまま足で持ち上げて盾にする。

 

「うおーん……」

 

 ちょっと痛そうな黄龍の声を無視してリセット効果が躱される。直後、スクナの背に戦闘機の翼が叩きつけられた。

 

「ぐおっ」

 

「動きが早いっ! 指示が……来ないぞ……!」

 

 断続的にシンクロを通して送られていた椿の指示が段々と途絶え始めていた。その理由はシンプルにシンクロが有効な範囲を戦場が脱していたからだ。そうなれば後はモンスターのスペックとスキルでの殴り合いになる。

 

 この場合、より上位のスキルを保有する椿の方が有利に動く。

 

 筈である。

 

「……うぐぐぐ」

 

「お前の様な人間は何時も確率と可能性を比べて、重い方に比率を取る。んん? そうだろ? 何をしても確率がデカい方にコインを乗せる」

 

 地上、ドローンの映像を確認しながら集中力を高め、ピークに乗せた瞬間に意識を雲上へと繋げて情報のアップデートを行い……途切れる。見てる情報、確認している可能性、リアルタイムで追う事は椿の得意な事であり、それに即応するだけの能力がモンスター達にある。

 

 だが逆に言えば。

 

「お前も、モンスターもそういうのに慣れ過ぎたな」

 

 椿の持つ予知とその指示で動く事に慣れ過ぎた。故に指示が途切れている間、動きが鈍くなる。これ自体、多くのマスターとモンスターが抱える弱点であり、同時に館長が組んだシステムの根幹でもある。

 

 モンスターは、フルスペックで戦うにはマスターの助けが必要である。それは存在として打ち込まれた楔である。そうしなければモンスターが容易く反逆し、力で劣る人類が負けるだけだからだ。

 

 だがアレックスとそのモンスター達は長い時を共に過ごしている。館長が撃ち込んだ根幹のコードを。経験によってある程度克服している。故にシンクロが届かない雲上の戦いであろうと、その動きに乱れはなく、訓練された軍人のように洗練された動きが発揮される。

 

 そしてそれを察したスクナが指示されない、計画されてない動きを取る。

 

 それが椿にも見えた。

 

「あ、やば」

 

「勝ったな」

 

 黄龍の上を飛び出したスクナが飛び交うシムルグに飛び移った。片手で酒を呷りつつ拳を作り、それを振り上げながらシムルグに振り下ろそうとする場、その羽毛の間から小さな姿が現れた。

 

「こんにちわ鬼さん」

 

 シムルグの羽毛の中に、隠れるようにコズミックフェアリーが紛れ込んでいた。ゼロ距離からの《ディスペル》が放たれる。避けようとスクナが飛び降り、空中に投げ出される。黄龍へと向かって落下する姿が横から射撃され、落下の軌道が逸れる。

 

「この……馬鹿ッ!」

 

 クラマオウが風を操ってスクナを拾い上げようとするが、それをシムルグが阻害した。同時に戦場の端に女神を捨てて来た機竜が戻って来た。ヒールを受ける事も出来ずに断続的に攻撃を受け続けていた黄龍はもはや沈む寸前になっていた。

 

 その戦場の様子をスクナは落下しながら腕を組み、見上げた。

 

「このまま負けるのも癪……だなっ!」

 

 落ちるスクナへと向けて機竜が追撃に迫るその瞬間、スクナが《暗黒樹海》を展開させる。空間にフィールド効果が発動し、樹海が生み出され、それに機竜とスクナが飲み込まれながら落ちて行く。フィールド効果に飲み込まれて脱出できなくなったモンスターが除外されるように落下して行く。

 

 残されたのはシムルグ、コズミックフェアリー、そしてブラッドスピード。

 

 3体のモンスターを前に、クラマオウと死にかけ黄龍が残された。遠くから戦線復帰の為に飛翔する女神の姿も見えて来るが、それが間に合わない事をクラマオウは察していた。スクナが復帰すれば可能性はあるかもしれないが―――地上に落ちたスクナを回収する手段はもうない。

 

「俺の勝ちだなぁ、嬢ちゃん」

 

「ぐぬぬぬ、この可能性を広げるだけ広げて手段を絞らせずに次々と新しいパターンに切り替えて来る形、みこっちゃんで見たのに……!」

 

 ずどん、と少し離れた位置に樹海が着地した。完全に闇に包まれた領域の中でスクナとレイジングファイアに搭載されたランタゲスキルが火を噴き合う。そこにはもはやアレックスの指示も椿の指示もない。

 

「初手で頭を抑えられれば……いや、もっと早い段階でルートを特定出来てれば……うーん……」

 

「悩むのは良いが、先にやるべき事があるんじゃねぇか? んーん?」

 

「この糞ジジイ……!」

 

 見えて来る可能性に逆転の目がないのを察し、溜息を吐いてから胸の谷間に手を突っ込んで、白旗を取り出した。

 

「はい、負け! 負けでーす! 私の負けでーす! クッソぉ……全勝ボーナスがぁ……!」

 

 完全に詰まされたことを理解し、白旗を振ってギブアップを告げる。

 

 日米交流対決、第1試合―――日本、敗北。

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