最強以外ありえない   作:てんぞー

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東吾を辱める会

 試合が終わって一言。

 

「今の戦いマスター必要だった? 指示の届かない距離でやるなら不要だったろ、あの2人―――ってアイドルくんがぼやいてた」

 

「言ってません!! そんな事言ってません!! なんて恐ろしい事を言うんですか!?」

 

 アイドルくんが横からばしばしと肩を叩いてくる。今、多くの人間が思ってたであろう疑問を口にしてあげただけなのに……。だが今の戦い、ほとんどマスターからの指示なしでの試合になっていた。これをマスター同士の戦いと言えるのだろうか? という疑問はあるんじゃないだろうか。

 

「マスター達から離れた空中戦、実に見応えありましたね! ですが鴉羽さんの疑問はもっともな内容です。これではマスター不要の戦いだったのではないでしょうか? これはプロのシーンだとどういう扱いになるのでしょうか?」

 

「これは結構意見の割れる内容ですね」

 

 アーサーが腕を組みながら答える。

 

「まず第1に空中戦に移行した所ですが、あそこで日本側がアメリカ側を追わなければ空中から爆撃するだけの塩試合になっていたでしょう。恐らく試合形式としては私の試合の焼き直しになるでしょう。この場合、判定に入ってアメリカ有利ですね。つまり私の二番煎じですね!」

 

「言いやがったコイツ」

 

 私がプロシーンでタイムアウト勝ちしましたとピースサインを浮かべるアーサー。たぶん控室で東吾がぐぎぎぎってしてる。

 

「ツバキ・ワイザワはイギリスでも厄介なプレイヤーの1人として研究されている人です。理由は説明しなくても解るでしょうが、彼女の非常に高い読みの精度は脅威としか説明が出来ません。この攻略を行うのに最も有効な戦術は? という話をすると……取れる選択肢を平均化し、彼女に選択を選ばせ辛い状況にするのが有効だと言われています」

 

 俺が事前予習でやった事だな……。

 

「マスターの動きには基本的に手癖がある。困った場合の判断基準って奴だな。この局面ではこうする、この場合はこうする……っというセオリーが長年のバトルを通じて蓄積する訳だ。酒クズはまだSランカーとして若いからそこらへん薄めというかノウハウ蓄積されきってない感じあるよね」

 

「今回はそこを突かれた形ですよね」

 

 結構ハメ殺せたからね。だけどそれは知識差とルールありのターン制ありきの話だ。それ抜きで……となると俺にはまだ無理だろう。

 

「ミコト、貴方は今回どう評価しますか?」

 

 アーサーの問いにそれはどうもこうも、と言葉を置く。

 

「勝つ為に手段を選ばなかった……というのはそれだけ評価されている、って事だろう? あの動きは派手なだけじゃなくて何千何万も繰り返してマスター抜きでも対応出来るようにマスターの指示を染み込ませた動きでしょ」

 

「そうですね、私もそう評価しますーーーですが、同時にプロとしてああいう動きはみっともない、と思えませんか?」

 

 話は冒頭の俺が切り出したマスター不要では? という部分に戻る。

 

「今回の一戦を評価するにはスタンスの違いを認識する必要があります。つまりプロとして、エンターテイナーである事を優先するか、それとも立場としての勝利を優先するか。貴方はどちらを優先しますか?」

 

 アーサーの問いに全員が黙った。初手空戦移行は勝利の為に必要な事だとは理解できる。だが同時に競技として見るならマスター抜きでの試合になるから、みっともない、こういう事やっていいのか? という疑問が残るのは当然だ。

 

 空戦に逃げられるならそもそも飛べるモンスターのが有利じゃないか? じゃあ飛べないモンスターは? 無指示での戦闘は違反にならないのか?

 

 細かい所に疑問が生まれてくる。だがこの話は簡単に分類できる。

 

「勝つ事を重視するか否か」

 

「はい。結局、どれだけ格好良く戦えてもこの業界、負ければそれまでです。特に今日は国家交流戦なので勝敗の重みも違います。一敗が国の敗北へと繋がります。それを許容できますか?」

 

「お爺さんはそこら辺、迷わず国としての勝利を選んだ形だよね」

 

「ですね。それが最重要事項ですから。ですが、だからといって戦い方を選ばない事が肯定されるわけではありません」

 

 いいですか、とアーサーは続ける。

 

「私達はプロなんです。それもトッププロです。誰もが仰ぎ見る空に輝く星なんです。見上げるものは美しくあってほしい……そうでしょう?」

 

 目指すべき星が美しいものであって欲しい。憧れが素晴らしいものであってほしい。それは自分が頂点に立ち、そしてあらゆる規範になっていることを認知する事でもある。

 

 トッププロになった時、自分は人に追われ、憧れられる立場になるのだと。

 

「ちなみに私は普段見られることを意識した戦いをしてますが、こういう場では勝利を優先します」

 

「お前TO勝ちだったしな……」

 

 ずるっと、これまでうんうん唸りながら聞いてたアイドルくんがずっこけた。

 

「良い話だったのに台無しですよ!!」

 

「マスターなんてものは大体が負けず嫌いなんです。勝つ為には手段を選ばないこともあります……今回はそういう戦いでしたね」

 

「ありがとうございますリングスタープロ、お陰で先程の試合が良く解りました」

 

 スマホを取り出して先程の試合を調べてみるとSNSでも結構意見が割れている。戦い方が汚い、手段を選ばない所に軍人らしさを感じた、交流戦にこういう戦い方は相応しくない……そんなコメントが流れている。

 

 それでもアメリカは勝つことを選んだ。

 

 それが結論の全てだろう。

 

 俺個人の意見でこの戦いを語るなら……まあ、アリだとは思う。ターン制だった原作とは違い、リアルになった現在、戦い方に拘って勝ちを逃す方が馬鹿だと思う。

 

 最終目的が勝利なのだから、勝つための戦術を選んで何が悪い?

 

 結局の所、負けたら何も残らないのがリアルなのだから。俺も、そのうち花火師にリベンジしないとなぁ。

 

「ありがとうございました……それではいよいよ第2試合、叶東吾プロの登板となります! 初戦で敗北した日本にもうあとはありません! 果たして最終戦に繋げることができるか? それともアメリカに2連勝を許してしまうか!」

 

「戦績で見るなら一敗していますが、それでも全体を見て好調だって解りますよ! 世界2位に勝ってますからね」

 

 カメラに向かってアーサーと肩を組んでそんな東吾に勝った人です、とアピールすると後ろからやって来たアンナにハリセンで後頭部を叩かれ目の前のテーブルに倒された。

 

 直ぐに復帰する。

 

「東吾の解説なんてしてても面白くないからもっと別の話しようぜ!」

 

「牧場長! ここ! 実況解説! そういうチャンネルです! ほら! スポンサーがまたハリセン構えてますよ!」

 

 えー。東吾の話を今更しろだなんて言われてもなぁ……。

 

「じゃあアーサーに負けた後ガチへこみしてた話する?」

 

「詳しくお願いします」

 

「リングスタープロ?」

 

「これこれ、この写真」

 

 スマホでつい先日撮ったばかりの写真を見せる。カメラもアイドルくんも実況も寄ってきた。そうやって確認できるのは膝を抱えて丸くなってる東吾の横で頭をバケツに突っ込んでる酒クズ、窓の外から入室しようとしてくる総理、天井に突き刺さってる仮面マン、そして壁に張り付いてお前を殺すと文字に変形したゼリィたちの姿だ。

 

「これ」

 

「情報量が多すぎる!!!」

 

 アイドルくん、迫真のツッコミ。この手の弱ってる写真はどれだけ用意しても足りないぐらいだよなー。

 

「というか総理、窓の外から来てますけど、これ何階ですか……?」

 

「10から先をカウントする必要ある?」

 

「……」

 

 変な所から乗り込んできたおっさんのイメージ、定着。もっと変な写真いっぱいあるよー。見て見て、これひたすら俺にジャガ太とか呼ばれた結果自分は実はかわいい系なのでは? とか思い始めてかわいいアピールし始めるジャガーノートくん。かわいいでしょ?

 

「ミコト、他になにか弱みになりそうなものはありませんか?」

 

「リングスタープロ???」

 

「あるよー」

 

「鴉羽さん???」

 

 アンナがハリセンを構えて素振りし出したので東吾を辱める会終了。さっきから死ぬほどスマホに東吾から怒りのコールがかかっているが、そんな事よりも試合に集中しろよ、とメッセージだけ送ってスマホの電源を切っておく。

 

 はい、反論できないから俺の勝ち。

 

 試合終わったら詰められるかもしれないけどその時はその時だ。脱線しまくって怒られたしそろそろ本題へと戻ろう。日米対決、決勝戦第2回戦、社長vsこわもておじさんだ。

 

 ちなみに東吾、顔が怖い系なのを実はそこそこ気にしてたりする。接してるとそういうのはあんまり感じないんだけどねー。

 

「アメリカの2番手はアークス社長ですね。彼は金の力で大量のモンスターを育成してるので色んな状況に幅広く対応できる強みがありますよ。Sランクのモンスターを個人で20体近く揃えているのはかなりレアです」

 

 少なくね? って思えてしまうのは原作で考えるからだ。

 

 この世界、Sランカーでも戦闘用に育てているメインのモンスターは大体4体から6体ぐらいがラインなので、20体も育てているのはかなり凄い。普通なら土地も時間も足りない。だがその全て金で雇ったマンパワーで解決できる。

 

 それがアメリカ。ズルい。俺もサブメン育てたい。無論、そんな余裕はない。

 

「困った事に控えのモンスターが多いという事は何を出してくるのか予測できないという事でもあります。今回の出場経歴を見るとランプ、アグロ、ミッドレンジと構築を切り替えて来てますから特定するのは難しいでしょうが……」

 

「あ、多分コントロールで来るよ」

 

 アーサーの呟きに答えると視線が此方に向けられる。日本からプロフィールとか経歴とか、そういうのを分析の為に渡されてるんだよね。でもここら辺、他人を理解したり読んだりするのが一番得意なのはそう、かつて億千万という人の死のスープの中にいたこの鴉羽尊―――ではなく。

 

 我が恋人、夜月久遠の方である。

 

 資料を見て、本人の出た試合を見て一言。

 

『成程、目立ちたがり屋だな。決勝はこんとろぉる対決か』

 

 とか一瞬で見抜いてしまうんだもの。流石我が愛。実に素敵な心眼です。一体どこでそんな技能身に付けたんですか? まあ、久遠さんには尊くんを初手で見抜いてきたとかいう実績があるのでおっさん1人の性根をピーピングするぐらい訳ないっすよ。

 

 日本チームの子供って特殊技能備え過ぎでは?

 

「……つまりコントロール使いにコントロール勝負を挑もうとする、という事ですか?」

 

「うん。今、世界で一番強いコントロール使いだと思うし、東吾。遅延出来てバースト火力もあって削りも出来て即死ルートもある。変に拘らず、拗らせずに戦えるようになったら世界で1番強いコントロール使いになると思うよ」

 

 死神2体揃えてる時点でパワーが違うからよ。

 

 まあ、見てれば解る。

 

 試合開始まで残り数分。

 

 同じコントロール勝負で、あの男が負けるわけがないのだから。

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