3分が経過する。
ハイスピードで進むゲームにしては進行が遅い。
その理由はコントロール対決は決定打に欠ける為、相手のリソースを枯らす事から戦闘が始まるからだ。リーサルへと続くクライマックスはまず相手の《パーフェクトキャンセラー》を切らせる事から始まる。
その為、コントロールは玄人向けとされており、絵としてあまり盛り上がらない。その為客の受けも悪く、あまり人気が出ない。
モンスターバトルは興行だ。
軍属出身のマスターは勝利のみを目指す為、戦術が効率に特化し始める。その結果地味な絵になったり、或いは見ていて面白くない展開に発展しやすくなる。そしてそういう地味で面白みのないマスターは大会に出し辛くなり、インビテーションが届き辛くなる。
だがアグロやミッドレンジ、ランプの様な解りやすい派手さを持つ構築やモンスターは、見ている者を楽しませる為に人気が出やすい。そしてそういうマスター程より多くの機会が与えられる。アグロ環境が出来上がったのには単純にグランドマスターが強いからという理由だけではなく、そういう事情も混ざっている。
なら東吾対マーヴィンの試合は地味なのか? 面白みのない試合になっているのか?
否。
0に突っ込んでから100%まで回復し、不死身の如く何度でも蘇って鋼の要塞へと挑む凶獣。そして流れ弾を回避しながら戦略的な行動に入る小型のモンスター達。コントロールというカテゴリーでありながら、その戦場は長続きしながらずっと派手に破壊をまき散らしていた。
アタッカーにタンクをやらせるという暴挙に観客は細かい事が理解できなくとも沸き立ち、そして元々東吾を分析していた各国のマスター達は東吾が展開している戦術を外側から見て分析し、舌を巻いていた。
同時に、現場で指揮を執るマーヴィンもまた、自分が追い込まれつつあるのを自覚していた。
「リソースが途切れないな……!」
リソースが途切れない。というより、正しく言えばリソースが間に合っている。
本来東吾の構築で火力を担うのはラファエラだ。だがそのラファエラがリーサルの為の火力を出すのではなく、ヒールとリソースの供給に集中している、本来の役割に戻ったと言えば正しいかもしれないが、問題があるとすれば
ジャガーノートは決して硬いモンスターではない。
耐久想定のモンスターと違ってそこまで耐えられる能力値をしていない。必然、集中攻撃を受ければそのまま死亡する。だがラファエラには戻したHPの割合で発動できる再行動付与のスキルが存在する。これが耐久型のモンスターであればHPが保たれているから発動までの時間がかかるだろう。
だがジャガーノートは簡単に殺せる。
つまりヒールが稼ぎやすい。
その分、再行動が増やせる。
決定的な火力が出し辛いコントロールとの対戦においてデバフやバステへのケアが可能なら蘇生はそこまで手間ではない。つまりジャガーノートの死そのものをリソースとして割り切る事が出来る。その上でジャガーノートは決して無視できない火力を持っている。
放置すればデバッファーが殴り殺される。同じ理由でウェポンフォートレスを東吾は無視する事が出来ない。
必然的にジャガーノート対ウェポンフォートレスのマッチアップが行われる。
だがラファエラによって再行動が付与される為、一定のタイミングで行動回数が+1される。
この瞬間、東吾の手数が完全にマーヴィンを上回る。拮抗する中で生まれる浮いた行動は自由に使える。たとえばデバフを付与して削りに行く。或いは固定ダメージを与える。もしくは攻撃魔法を飛ばす。
根の国が展開されている以上、ライフに対するデッドラインが設定されている。本来の耐久ラインはこの状態では機能しない。つまり高く体力を維持しなければならなくなる。
この状態ではラファエラが圧倒的に強くなる。
「そら、行くぞ」
追加行動1。ハーデスによる反転付与。対処しない場合即座にリーサルに繋がる為、間髪を入れず解除しなければならない。《クリア》によって除去に手番が割かれる。
追加行動2でサリエルが動く。デバフと連動して付与されていた即死耐性低下は尊とは違い、見たところで初見で理解することはできない。
マーヴィンがそれに気付くのは追加行動でサリエルが《死神の鎌》を放った直後だ。モンスターの一体がサリエルによって即死させられ、再起動し始めるのを見てそれまでデバフに混じって耐性低下が入っていたことを理解する。
それまでは放置されていた弱体化を放置出来なくなる。行動に頻繁な《キュア》による低下除去が入る。これを放置すれば一瞬でリーサルを取られると理解できるからだ。
追加行動3でハーデスとサリエルによる《コラプション》が入る。受けているバステの数に比例して特攻火力が伸びる攻撃魔法。低コストで使いやすく、合体魔法にも活用できる。回避する為に頻繁な《クリア》が求められる。
追加行動4はジャガーノートの追加行動だった。4回攻撃が可能だったジャガーノートの攻撃回数が8回にまで増え、ウェポンフォートレスがデッドラインを切る。
リレイズ系統のスキルによる即時戦線復帰を行うも、火力次第では戦線が崩壊するのが見える。
反転、即死、特攻、持続ダメージ、そして純粋火力。
1つ1つの突破力はそこまで高くはなかった。1つに絞るならそこまで効果を見せないだろう。だが複合的に、マルチルートとして展開する事でマーヴィンは常にどれから攻略されるか解らない、という恐怖と戦い続ける事になる。
それぞれのルートがリーサルに足る力を持っている。それが成し遂げられるのは新しい環境の、新しいスキル故にだろう。
だが、逆に言えば新スキルと環境さえあれば……。
「このレベルに戦術は達せるのか……!」
手詰まりになって行くのを自覚しつつ、マーヴィンは感嘆の声を零した。同時に同じ様な声やリアクションを多くのマスター達が零していた。
「中核にあるのはラファエラの突出したヒール力だ。だが彼女に集中すればジャガーノートに食い破られる。あの天使を潰さないとならない」
「馬鹿! よく見ろ! どっちもまだマスタースキルもキャンセラーも切っていない! 今攻撃に回ったら出だしを潰されるに決まってるだろう!」
「何故トーゴは奇襲しなかった? これほどのリソースがあるなら電撃戦をかけた方が楽だったろう」
「ジャパニーズのラジオを聞いてないのか? 相手の手の内を見ない内に仕掛けるのはリスクがデカい。ならスローペースにした上で出来る事を見せる。確実にペースに乗せつつ次回以降の試合の布石にしてるんだ」
「成程、試合を見てる人間への牽制か……」
試合の流れをコントロールされた時点でコントロール勝負は東吾の勝ちだ。そして時間と共に自身の細い勝率が減って行く事をマーヴィンは理解していた。
これ以上この戦いを続ければ負ける。
故にその瞬間、攻勢に反転した。
「そろそろ動くと思ってたぞ」
空気の微細な変化を戦士の直感として東吾が一瞬で読み取る。
バステの付与を放棄し、攻撃に移行する―――この時点でマーヴィンの勝機はラファエラを落とせるか否か、という点に集約されるのは誰が見ても明らかだった。
《フルファイア》からの火力砲撃が一瞬でラファエラへと向けられる。ウェポンフォートレスのヘイトもジャガーノートを無視し、ラファエラへと向けられる。タンクではないラファエラに攻撃を耐えきるだけの耐久力はない。
つまりここからはどれだけ妨害を通せるか、という勝負に入る。
「まず1手」
《パーフェクトキャンセラー》が飛ぶ。《インタラプト》に撃墜されて無効化され、攻撃がラファエラに通る。バリアが割られ、素のHPに戻る。そこに2撃目が着弾する―――耐える。最適化されたラファエラのステータスによって耐久力が元より増強されている。
故に1発だけなら耐えきる。
3発目、サリエルから《パーフェクトキャンセラー》が飛ぶ。すかさず2個目の《インタラプト》が飛び、それに反応してハーデスからも《インタラプト》が飛ぶ。更に3度目の《インタラプト》がマーヴィン側からも飛んで、全ての《インタラプト》の消費が終わる。
止められなかった砲撃がラファエラに着弾し、HPをふっ飛ばし―――蘇生した。
「それぐらいは来るだろうな、決めろ……!」
最後、ウェポンフォートレスからの収束砲撃がラファエラへと向けられる。ハーデスには後1発、《冥神の誘い》が残されている。それ対策に《ロジックジャマー》も残してある。妨害を抜ければ落として、そこからは残ったリソースで―――そこまで素早く思考を回した所で、マーヴィンが声を零した。
「Fuck、焦り過ぎた!」
「勝ちを焦ったなマーヴィン。まあ、仕方のない状況だったけど」
ラファエラへと向けられた収束砲撃はその軌道を捻じ曲げられ、ジャガーノートへと向けられた。その急な軌道変化の原因は地上にいる。
サリエルが静かに黒いオーラを乗せた指をジャガーノートへと向けていた。
「あっちむいてほい」
《デコイ》。初歩的な誘導用スキル。味方を対象としたデバフである為、ベールや耐性に引っ掛からず攻撃の矛先をコントロールできる。
「残念だなぁ、社長。そこで焦らず全体攻撃を選んでればまだ目はあったかもな。だけど責めないぞ。初見だらけの状況でここまで食い下がって来たからな」
動き終わった。
マーヴィンの率いる全てのモンスターが動き終わった。動き終わるのを待っていた。
バトルはターン制ではないが、生物である以上動きに対して制限があるし、動きに対するディレイを入れる事も出来る。東吾はこのターン、マーヴィンたちがリソースを吐き切って動き終わるのを待っていた。
カウンターを入れられず、そして後手からのリカバリーが出来なくなる瞬間を。
「リーサルだ」
ハーデスとサリエルが《アポトーシス》を付与する。全体に回復反転が付与され、炎の翼へと己の翼を変化させたラファエラが全ての存在を癒し、燃やし尽くす。炎が世界を染め上げて再生させる。
視界を埋め尽くすも、人を一切傷つける事のない聖なる炎が消え去った後には燃え尽きた機械が残された。
2戦目、叶東吾対マーヴィン・アークス。
世界に対して新たなスキルによる環境の変化を見せつけ、東吾の勝利。