「こういう試合がある度にバトルログ取り戻したいと思うわ。情報整理抜きでまるで試合が伝わらんでしょ、これ。理解できる人間には面白いけど、アマとか見る専にはまるで面白さ伝わらんくない?」
「ドクターストップ掛かってるのでしょう? 大人しくしていてくださいね」
3、2、1……はい! じゃーん!
「尊と!」
「アーサーの!」
「なーぜーなーにーバートールー」
「ついに番組が乗っ取られましたよ」
ちなみにスポンサーは猿ぐつわ噛ませて転がした。邪魔しそうだから。ずっと働いてたし良い休憩にもなるだろ。という訳でグッドナイトアンナ! お前はしばらくお休みだ!
番組のジャックが完了したところで試合中に書いていたフリップをででん! と表示する。試合中は脳の活性禁止でオートでログ作成が出来ないので、見たものをそのまま手書きで整理していたのだ。
ラファエラの《神速の舞》! 味方に速効が付与される!
ハーデスは《根の国》を呼び起こした!
《嘆きの大河》が呼び起こされる……。
等と、フリップで試合のログを作成して解りやすくする。解説にもログがあると死ぬほど解りやすいな。喋りつつ試合内容をカキカキする。
「コントロール使いの試合って水面下の駆け引きが多すぎて文字にしないとまず伝わらないよねー。陰険だよ陰険。性格が終わりすぎてる……もちっと待ってて、今ハイライト部分書き出してるから」
「牧場長、見ても良いですか? うおっ、細かくびっしり……」
「これ、見た目は緩いけど互いの牽制は死ぬほど飛んでたからね……はい、纏め終わり。どうせ映像残ってるんでしょ? 解析に回されるんだから俺が説明してもいいでしょ。もういいよー」
こほん、と実況が咳払いをする。
「それでは鴉羽さん、リングスタープロ。先程の試合は叶プロが見事に勝利を収めました。ですが非常に長く、もっとコンパクトに纏められなかったのか? と思う部分もありますが……どうなのでしょう?」
「無理ですね」
「無理」
「即答されちゃった……」
コントロールは大前提として相手のリソースを枯らす事から戦いが始まると考えて良い。相手がアグロならともかく、コントロール同士は場持ちが良い影響で試合が長期化し易い。
「さっきの試合はどっちがイニシアチブを握るのか? という戦いがずっと水面下で行われてた試合だったからだね」
「まず、コントロールというフォーマットは相手のリソースを枯らし、イニシアチブを握ったまま相手を倒すスタイルです。デバフの付与からリーサルを狙うという形式は間違いなくコントロールの領域です」
「コントロールの難しい所はベール等の免疫や《クリア》等の回復手段で対処出来ちゃうところだね。最悪、ヒーラーが1人存在すれば解決してしまう部分もあるって所だ」
だからコントロールの評価はどういうモンスターが揃ってるか、ではなくどういう動きを取るか……という部分に集約される。その意味では東吾は今回、満点に近い回答を出してきた。
「東吾が今回取ったのはマルチリーサルルート型の構築だ。複数のプランを同時に走らせつつ、どれでも勝てるように平行して圧力を与える事だ」
ジャガーノートの《4回攻撃》。
ラファエラの《始原の炎》。
死神コンビの《コラプション》。
死神コンビによる複合持続ダメージ。
サリエルによる《死神の鎌》。
「大凡、五ルートを東吾は平行して進めてた。これ全部に対処するにはヒール、クリア(バステ解除)、キュア(低下解除)とそれぞれ違う3手を必要とした訳だ」
「しかもこのスキルは全部累積、継続可能なスキルで1回止められたところで次のターンも引き続き使えますね。つまりトーゴの動きは止めようがないんです。止めても継続出来てしまうから」
「はあ、成程ー」
アイドルくんはそこで納得したように頷いてから動きを停止し、それから首を傾げた。
「いや……でもだったら未見のスキルを繰り出して奇襲性で倒したほうが楽じゃないですかここ? 叶プロって新しいモンスターとスキル抱えてますよね?」
お、良い質問だ。その答えはそう複雑でもない。
「今を見るか、先を見るか……かな」
「……?」
頭の上にはてなを浮かべて首を傾げてる。その様子を見てアーサーが補足する。
「手品の種はいずれ割れます。奇襲性を優先した戦術は長続きしません。それよりもトーゴは堅実な展開を構築することで今後ずっと続くスタンダードを構築しました。彼がこの試合で見せたコントロールとしての動きは今後ずっと残るでしょうね」
まあ、死ぬほど練習しましたからね。
シングルやダブルルートは止めやすいのだが、今回みたいな常に対処に複数のスキルを要求するルート構築を行っていると、対処のために手を取られて後手に回り、どんどんイニシアチブが握られてしまう。
今回の東吾の戦いはその典型だ。
相手に対処することを要求させる事で相手の攻め手を削り、こっちの余分な動きが取れる間を作るのだ。これがコントロールの真髄だ。
ハーデスは《コラプション》を放った!
サリエルの《腐食領域》! 武器が腐食される……。
スターダイバーは《ヒーリングユニット》を展開した!
「たとえばこの場面。定数デバフとダメージが発生してる。この対処は同時に出来ないから、対処に2人割くか、片方のみを対処するという選択を押し付けられてるね?」
「無論、数字で見るとそこまで大きくはありません。ですが対処に動くという事は攻められないということです。トーゴは再行動を付与する方法があるので、相手が攻撃行動を取らなければそれだけ行動数に差が出ます」
「つまりここでプラマイされた部分は容易にリカバリー可能なんだ」
なぁにぃ? もっと解りやすく戦況を知りたいだと? 仕方がねぇなぁ……カメラさん、もうちょっとこっちに寄せて寄せて。そうそう、フリップに集中する感じで。
ハーデス《アポトーシス》(反転付与)
サリエル《腐食領域》→《亡びの運命》(即死耐性ダウン)
じゃが太→通常攻撃ぺちぺち
ラファエラ→戦線維持&再行動付与
ついでにデフォルメ絵を付けちゃおう。どう? 可愛い? やったぁ。
「じゃ、これが基本だとしてアイドルくんはどう対処する?」
「そりゃあ《アポトーシス》の対処とデバフの解除ですよ!」
キュッキュッ、とフリップに書き込まれる。
《キュア》《クリア》《パラライザー》《ブラストカノン》。試合中に解説したスキルの名前が出てくる。この子、しっかり説明してた所を覚えてくるから会話する度に好感度上がって行くんだよね……。
「うんうん、除去を意識してて偉いね」
「でしょう!? 反転も耐性低下もリーサルに繋がるから絶対除去しなきゃいけないんですよ! その上で《ブラストカノン》をラファエラに叩き込む! ヒーラーです、まずはヒーラーから叩かないと駄目ですよ!」
「そうだね、考え方は正しいよ。でもこの場合じゃが太が自由になっちゃうよね? しかもバステが欠片もないからほぼ元気。じゃが太が残るからラファエラが落ちてもバステは吸収できる」
「……あっ」
気づいただろう。回復に手を割いてラファエラにターゲットを移すとジャガーノートが自由になるので蹂躙されてしまう。ジャガーノートとウェポンフォートレスのマッチアップはあの状況では膠着状態を作る為に必要な事だった。
「……ジャガーノートを自由にすると4回パンチで自由に暴れる上にバステでも機能停止しないんですよね? これ、ジャガーノート止める事強要されてません?」
「されてますね」
「圧力減らすと暴れるよ。同じことはウェポンくんにも言えるけど」
アイドルくん、腕を組んで考える。
「……え? ジャガーノートへの圧力を減らすと暴れられるのに付与されたデバフや反転に対処しないと反転ヒールや即死が飛んで来るし、合間合間に攻撃も挟み込んで削りに来るんですよね? これ滅茶苦茶判断難しくないですか……?」
「難しいねぇ」
「物凄く大変な盤面でしたよ」
ハーデス→《アポトーシス》
サリエル→《アポトーシス》
合体魔法発動→《アポトーシス:全体化》
ラファエラ→再行動付与→サリエル→《腐食領域》→《亡びの運命》
じゃが太→永遠にウェポンと殴り合う
この戦闘の流れに対して社長が選んだのは、高めたパッシブ耐性で耐える事を祈る事だった。元々反転警戒はしてたのでパッシブで免疫を積んできたので数回は耐える計算だっただろうし、その上で付与に対抗する耐性を高めていた。
「だから社長さんはあそこ、《クリア》という選択肢は排除して、全体への圧力を強める事を選んでたね」
「即死耐性の低下は累積型でしたし、恐らく1回や2回では殺せるラインにまで届かない……というのは《死神の鎌》が放たれたタイミングから考察できます。だから《キュア》を後回しにして、ある程度耐性低下が溜まって来たタイミングで除去する事を考えていたんだと思います」
「社長さん、あそこら辺の損切の判断が凄く上手かったよな」
「ですね。マルチルート型は間違いなく初見だったでしょう。なのにあそこまで試合をもつれこませる事に成功していました。対処できない部分は祈って切り捨てる、それを徹底して詰まない事を第一に動いてましたね……それでも少しずつ詰まされて行くのを感じてたみたいですが」
「こういっちゃアレだけど、東吾がマルチルート型のコントロール構築を実行出来たのは最新式のスキルパーツを入手したのと、死神という明確にコントロール向けの上位モンスターを用意出来た事にあるよ。逆に言えば数年後にはこれが世界のスタンダードになると思う」
「その心は?」
「どうせカードとか情報とかそのうち流出するでしょ」
あぁ……とかうん……みたいな声があっちこっちから聞こえる。まあ、運が良ければランダム抽選枠から図書館か根の国とか暗黒樹海のスキルカードが出現する可能性もあるし、そういう意味でも将来的には皆徐々にインフレして行くだろう。
「この試合は東吾が強かった。最初から最後まで冷静に、自分のスタイルを守れた。変に遊ばず、徹底して勝利する理想的なスタイルを見出した。その点に尽きるね」
「ライバルが増々強力になってしまいましたが―――まあ、今大会では私の勝ちですね」
アーサーが滅茶苦茶良い空気を吸ってる所、後ろから一気に迫った気配が俺の首に腕を回し、一瞬で息を奪った。視線だけ後ろへと向ければ、何時の間にか拘束から抜け出したアンナがその細腕からは信じられない程の腕力で俺の首にヘッドロックをかけていた。もしかして武芸嗜んでらっしゃる?
あの、息が出来ないんですが。
「尊ぉ……あっちでちょっとお話しましょうね……?」
ずる……ずる……。
定位置から引きずり出され、ゆっくりと扉の外へと向かって引きずられて行く。意識が徐々に遠のいて行く中、カメラへと向かって手を振る。
「さ、消えゆく鴉羽さんの代わりに事前に用意された鴉羽人形をこの場に置きまして……コマーシャルに入ります」
「CMが開けたらいよいよ最終戦!? チャンネルはそのまま!」
「ミコト……最初から除外を受ける予想で代理ぬい用意されてたんですね……」
さよなら皆……CM開けたらまた会おうね……。