最強以外ありえない   作:てんぞー

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国木田? 誰それ? 私はマスター仮面だよ

 ―――数日前。

 

「柊剛三氏はマスタースキルこそが人類が持つ進化の可能性だと言った事がある」

 

「ある程度は汎用化されてるけど、習得にリスクがあってモンスターには使えないマスタースキルという技術は唯一、人類のみが発現した新たな力だから……だっけ? ジジイがSランク帯におけるマスタースキルの制限を使用回数以外で禁じたって話はどっかで聞いた」

 

「そうだ。剛三氏は人類の可能性と強さを求めていた。或いは……本人が更なる敵に飢えていたのかもしれない。そして、GMブライアンはそういう意味では一つの新たな進化の先だろう」

 

 会議室の中で、最新の戦闘映像を前に鴉羽尊は机に突っ伏しながらその映像を見ていた。アメリカの試合を現場で確認し、映像で確認し、そして実際に戦闘を経験した事のあるモンスターの経験を耳にして、鴉羽尊はその技術をこう判断した。

 

「無理。俺には真似できない。精神構造が違う」

 

「尊くんでもそんな評価か……」

 

「うん、凄いと思うし偉いと思う」

 

 体を上げた尊は椅子を斜めに揺らしながら指先をぐるぐると回す。

 

「説明もしてるし、何度も見てるから解ると思うけど、俺のシンクロって根本的に意識を繋げるってよりは相手を受け入れる事にあるんだよね。自分という器の中身を繋がりで埋めるというか。本質的には無念無想の境地を構築する事で精神的な苦痛や負担を全部無効化してるのに近いんだわ」

 

「そうだね、子供が出来て良い様な事じゃないね」

 

 そこはスルーしてくれと尊は苦笑した。尊のシンクロは言ってしまえばあらゆる物事をあるがまま受け入れるという悟りから入る無敵の精神性だ。あらゆるものをそうであるとして受け入れるから何物にも影響を受けない。だからこそ異なる精神構造を持つ生物と繋がっても平気だった。

 

「でもこれは違う。これはモンスターとマスターが互いに歩み寄ってる。お互いをベストの形で受け入れ、繋がり、調和してる。美しい」

 

「君の口からそんなべた褒めの言葉が出て来るなんてなぁ」

 

「俺を何だと思ってるんだこの不審者」

 

 見れる物を全て確認して出した結論はこうだ、GMブライアンのシンクロは互いに手を握り合う、そんなシンクロだ。完全に統一された意志、信頼、信用、絆。

 

 それがブライアンに本来はありえないレベルの高いシンクロ能力と、限界を超えた力を発揮させる事を可能にした。彼が相棒のサンダーバードと見せるシンクロ能力は今の環境にあるシンクロ能力と比べるとワンランク上だと言える。

 

「マスタースキルを世界に1体しか存在しない、自分と同じ時間を過ごしてきた相棒専用のものを作る……しかも汎用性のある効果じゃなくて、そのモンスターにしか発揮させられないオンリーの能力。事実上の9枠目のスキル枠に専用スキルを積んでるようなもんだ」

 

「ブライアン氏の専用MSに関しては協会でも凄い議論になった。こんな強力な効果を個人が保有、バトルで利用するのは反則ではないか、ってね。だがこの話は剛三氏の一言で押し通った。結果、Sランクの今の体制がある」

 

「ジジイがねぇ……」

 

「あの人はブライアン氏の見せた可能性に感銘を受けてた。だが同時にこの技術の開発が難しく、汎用化するのも非常に難しい事も憂いていた」

 

 シンクロ技術そのものが危険に満ちた技術だ。それを更に発展させることはこれまで以上に廃人化のリスクを伴う行動であった。既にシンクロが使えるならそれ以上に発展させる必要はあるのか?

 

 ない、普通は。

 

 だがブライアンはその先に進んだ。

 

 この技術はその先にあった。

 

 だが、誰もその歩みについてこれなかった。いや、しなかった。新しいものを生み出すことよりも、出てきたものに対策する方が楽でパフォーマンスが出るからだ。

 

 だからブライアンは負けそうになった。

 

 少し前までは。

 

「だが新環境が追い風になった。噛み合ってしまったんだ」

 

「俺としてもインチキとしか言いようがないよ」

 

 はあ、と尊が溜息を吐いた。

 

「サンダーバードは決して強いモンスターじゃない。足の早い両刀アタッカーってポジションだ。だけど攻撃も魔力もやや中途半端、抜けて足が早いから大体上を取って殴れる」

 

 アグロ構築において上を取って殴ることは非常に重要だ。先を取って上から殴り、圧力のままに相手を潰す。アグロ構築の王道パターンだ。

 

 だけどサンダーバードはその圧力に欠けている。中途半端なステータス、両刀という性質はマイナスだ。

 

 当然だが物理と魔法、選ぶスタイルは片面のほうがバフを積みやすい。両面を選べばそれだけバフが分散し、火力が落ちる。

 

 だがOC環境と合体魔法に依る手数の増加によってこの問題は解決されてしまった。元の火力がそこまで高くないモンスターでも、今の環境であればリーサル級の火力が出せるようになっている。

 

 だから。

 

「インチキだろ」

 

 尊はそう評価した。

 

「常時3回行動だなんて」

 

 脅威のマスタースキル。

 

 王者のサンダーバードとグランドマスターにのみ許された最強の力。マスタースキルは止められない。だからこの変化は確定し、止められない。

 

 元の火力であれば高防御のモンスターを使って止めることもできた。だがOC環境で防御を貫通してくるから止めることができない。

 

 常時3回行動、クリティカルによる防御貫通、ソロで行われる3重合体魔法。

 

 誰もが認める。

 

 GMブライアン操るあのサンダーバードこそ、環境最強のモンスターだと。

 

「対策は、あるか?」

 

「なんで年下のガキにそれを聞くんだよ。パッと思いつくのはあるけど」

 

 ソレが出来るからだよ! とスタッフからのツッコミを尊は受け流しつつ、とんとんとテーブルを叩く。

 

「色々とシンクロで実験した事あるから解るんだけど、人間の思考速度と意思伝達能力には限界がある。これが所謂ターン1回行動の壁だね。《無限覚醒》は瞬間的なオーバークロックで思考と反応の限界を超えてる感じだね」

 

 これはマスターの反応できる限度とも言える。

 

 だがサンダーバードとブライアンの3回行動は永続効果だ。これは常人の反応ではない。

 

「たぶんだけど相性と協力、信頼と絆の力でシンクロにかかる負荷が極限まで減ってる。そのうえで思考クロックがサンダーバード依存になってるのかな。だからサンダーバードのスピードについていける。反応し続けられる。制限されない速度で動き続けられる」

 

 その対策は、と言葉が続く。

 

「国木田も短時間でいいから完全シンクロで同じ領域に入れば良い。複数行動は無理でも、攻撃に反応してスキルを滑り込ませるぐらいは出来るようになるはずだよ」

 

「無茶を言うな。あと国木田じゃない、マスター仮面だ」

 

 つまり尊が日常的に展開できる思考の無想状態に踏み込んでこい、という身も蓋もない対策だった。速度には並べないが、攻撃を認知し、対応する事はできるようになる。

 

 決勝戦までに悟りを開けと言われているようなものだ。無茶苦茶だ。

 

 だが。

 

 尊は笑った。

 

「折角ここまで来て負けたら癪だし、出せるもんは全部出そう。取り敢えず灯に連絡入れてくる。こういうのは俺よりもアイツのが得意だし。国木田はちょっと眠れない夜を過ごす覚悟だけしておいて」

 

「国木田? 誰それ? 私はマスター仮面だよ。それはそれとして望む所だ」

 

 

 

 ーーーありがとう、尊くん、灯くん! 一晩中人が辿る死の形を囁かれ続けた時は発狂するかと思ったけどお陰で反応は出来た……!

 

 尊は3回行動と表現した。それは物事をデータとしてみた場合の出来事だ。

 

 実際は雷光化による超加速状態への移行が正しい。本来であればマスターの思考が追いつかない為に本来のスペックを発揮出来ず、逆に弱体化と呼べる状態になっただろう。

 

 だがブライアンが構築する1つ上の領域、シンクロ状態はブライアンの思考速度を完全にサンダーバードと同期させ、完全なコントロールを可能とした。

 

 結論、3回行動が専用のマスタースキルとして成立する。

 

 他人が同じことをしようとして、表層的な部分を真似る事は出来るだろう。だが本質的な部分、完璧な指示と連携は不可能だ。それが可能だからこれは専用のマスタースキルと呼ばれ、今に至る。

 

 そして、それにマスター仮面は反応した。反応出来た。ギリギリ、同じ速度の世界に思考が追いついた。

 

「リーサルを逃したか……!」

 

 あんこ、かんてん、きなこ。

 

 3体のゼリィが弾け死んだ。その死体を見てブライアンは仕損じたと判断した。本来は真っ先に立て直す力を持つさくらもちを殺すつもりだった。

 

 だがギリギリの所で攻撃に反応出来たマスター仮面がきなこを差し込み、庇わせた。

 

 雷速に達する攻撃、そこにスキルを挟む余裕は一切なかった。だが反応は見事にさくらもちを守ることに成功した。

 

 それなら《分け与える》に繋がる。

 

「切り抜けた」

 

「いや、それは止める」

 

「それは読んでいる!」

 

 《分け与える》→《インタラプト》→《暗黒樹海》の連鎖が入る。《分け与える》で入る即時蘇生を《インタラプト》で阻害しようとし、それが《暗黒樹海》で躱される。処理的に既に蘇生が開始されている為、《分け与える》は失効しない。

 

 あんこ、かんてん、きなこがフィールドに戻って来る。さくらもちが既にだいぶ小さくなっているが、その大きさで凡その体力をマスター仮面が把握する。

 

「良し、大体想定した通りの流れになったな―――勝負は、ここからが本当のスタートだ」

 

 樹海の闇の中を赤い影が走る。鋼鉄の騎馬に騎乗した赤い残影、その両手を良く見ればそれは手ではなく銃になっており、背中からは機械翼が生えている。戦闘と闘争の権化、レッドライダーは近代における戦争の象徴へとその姿を適応させている。

 

 即ち銃と兵器。それが赤い騎手のモチーフとなっている。

 

 樹海の闇の中、弾丸が装填されると樹海を焼き払うように砲撃が放たれる。闇を明るく照らすほどの閃光の中、きなこが包み込む様に膨らみながらモンスター達を飲み込み、続いて無敵化を切る。レッドライダーの砲撃を無効化した瞬間、攻撃が止まる。

 

「これ以上の追撃は無駄か」

 

「このターンは流した……立て直すぞ」

 

 あんこが分裂する。《下剋上》のスイッチが入り、あんこが何時も通りの流れに入る。かんてんがバフの展開を始め、きなこが《クリティカルガード》自己付与によるクリティカル無効化状態に入る。

 

 《暗黒樹海》と《クリティカルガード》による単発火力の停止とクリティカル火力の停止。これによって樹海が破壊されない限り、ブライアンは魔法による戦闘に攻撃が限定されるようになる。

 

「やるな、Mr.マスク。初手でピンクバブルを落とすつもりだったが見事に被害をズラされた。恐らく受ける所から無敵でインターバルを作る事まで全部計算済みの流れだな―――さて」

 

 ブライアンが闇に紛れた相手を相棒の目を通して求め、それから次手を決めた。

 

「炙り出すか」

 

 サンダーバードが動く。樹海を駆け抜ける閃光が、その軌跡が空気を帯電させる。蓄積された雷光は一瞬でスパークし、空間を焼く。

 

 《エレキボム》、低威力、小範囲の初歩的な詠唱を必要としない魔法攻撃だ。これに《エレキボム》を更に重ねる事で合体魔法が発動し、《サンダーレイン》という中級レベルの魔法に至る。

 

 そして3回目、3回行動による恩恵で3度目の初級魔法が発動する。

 

 3度目の《エレキボム》。

 

 《サンダーレイン》が再び発動し、合体する。それが巨大なうねりとなって樹海そのものを飲み込み始める。

 

 《イオンストーム》。

 

 上級広範囲破壊魔法が全てを飲み込んだ。

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