「よ、鴉羽! 昨日の試合見てたぜ! また連勝記録伸ばしたってな? 応援してるぜ」
「おう、ありがとう……あー、えーと……」
「後藤だ、ミコト」
「後藤!」
「ああ! クラスで会おう!」
顔と名前の一致しないクラスメイトが横を抜けて先に教室へと駆けて行く。その顔を見て一瞬知らない奴だと思ってしまった。中学校に入って、新しいクラスメイトの顔は1か月たった所でまだ覚えられない。七海みたいに特徴的な奴なら直ぐに覚えられるんだけどな、名前だけは中々入ってこない。
「鴉羽くーん、応援してるよー!」
「昨日の試合カッコ良かったよ」
「おう、ありがとう」
校門から校内に入ろうとするだけで凄い声を掛けられた。最近Dランクマッチに出ては毎日荒らしまわっている影響なのかもしれない。そう思いながら校内に入れば、ちょっとした視線を向けられる。一緒に登校しているクラスメイト達程ではないが、軽く注目される程度。
それでも教室に入ればお、という声がする。
「鴉羽じゃーん。昨日も景気よく勝てたんだろ~? ちょっとは奢ってくれたりはしなーい?」
「無駄遣いはダメだぞミコト。こういう奴に1度でも奢れば味を占めてまた、と言ってくるからな。野良熊と野良モンスターには餌を与えるな、とは良く言うだろう?」
「おぉぅ、相変わらず尻に敷かれてるんだな」
「別に―――」
「うむ、ミコトが道を踏み外さないように私が見張っている。だから貴様らは安心して絡め。問題があったらこうだ、こう」
ぶんぶん久遠がチョップ繰り出せば、校舎の外でミストドラゴンが同じように翼でチョップして暴風を巻き起こしている。久遠の中では死刑に値する行為らしい。俺はまだ命が惜しいのでグレずにこのまま善路線の成長をして行こうと思う。
ダル絡みを突破して席に着くと、周りのクラスメイト達が集まって来る。
「おはよう鴉羽。昨日の試合も凄かったな。
「物理型で挑んできてる時点で8割詰んでるんだよね、今。勝ちたければ開幕エデ……マーメイドの歌を妨害して即座に潰す必要があるよ。その次は必中スキル使ってナイトメアね。こっちはこっちで放置してると勝手にバフ積んで火力叩き込んでくるけど」
「聞けば聞く程クソゲーだよな。そもそも魔法型って扱いが難しいだろ」
「ゴブリン系とか結構お勧めだぞ。Dランクで組めるゴブリンデュオは双方種族バフと連携行動で倍ぐらい行動できるから、上手く行けばウチの歌狼コンビを即座に沈める事も可能だよ。スキルの構築次第だけど」
「ゴブリン使った種族コンボかあ……そういやあんまり見ないな……」
「まあ、見た目がそこまで……って感じだからな。結局皆カッコいいとか可愛い系とかに流れるし。俺だって出来るなら鎧騎士見たいなモンスターだけで固めたいしな! やっぱ硬くて火力出るのが大正義だろ!」
「詰みです」
「そこでクソゲー持ち出すの止めてくれない?」
笑いが広がる。意外だが、この話題の中心に座っているのは俺で、俺を中心にモンスターに詳しいマスターや準マスターたちが楽しく話し合っている。前の様に久遠がコミュニティに俺を引っ張り込むんじゃなくて、周りから勝手に集まってくるというのが驚きだ。
俺にここまでの社交性と人望があっただなんて。横を見ると、女子グループに混じって久遠がおしゃべりしている。あっちはあっちでホームルーム前に盛り上がっている様に見える。
「それにしても鴉羽は昨日の試合で41連勝中だっけ? 最近どこでもヤバイDランカーが現れたって話題になってるぞ」
「マジで? そこまで派手にやってるつもりはないんだけど」
「いや、派手にやってるだろ」
クラスメイトの1人が呆れながら続ける。
「少なくとも10連勝ぐらいまでは基礎が出来てればまあ……運が良ければいける、調子が良ければ20連勝ってラインだぜ? でも20連勝からは明確に勝ちを狙って割り込んでくる奴が増えて来る。連勝阻止ボーナスがあるからな」
連勝が重なればそれだけレートに対する点数が増える。だが同時に連勝を重ねているマスターを倒す事で、倒した側も大きくレートが上がる。だから一部のマスターはあえて連戦せず、勝って調子に乗っているマスターを狩りに行くハンタースタイルの奴もいる。
まあ、つまり俺はそれを全員迎撃してる。今の所は。
なにせ、そこまで殺しに来てると感じてるような構築を見てないからだ。
ゲーム時代ではナーフやルールによって規制されたワンキルやバグやハメ技が飛んでこないから温いなあ、とは思う反面あのゲーム環境がリアルになるのは結構いやだなぁ……という感じはある。ワンキルやハメロックを握って辻斬りするマスターが横行するの絵面として最悪すぎる。
それに未だに明確なメタを組んできてる奴が出て来ていない。
無論、育成の手間という最大の問題がある。Dランク帯はアマチュアや趣味の範疇で収まるレベルの段階だ。そこでガチガチのメタ構築を持ち込んで戦おうとする奴の方が稀だ。というかいたら怖い。
「このまま50連勝……行けるんじゃね!?」
「50連したら祝いに焼肉行かないか? 鴉羽のおごりで」
「何で俺が祝われる側なのに奢らなきゃいけないんだ……?」
「あー、でも」
1人がスマホを片手に呟く。
「50連は難しいかもな」
「え、何々?」
スマホを机の上に置いて、そこに表示されている掲示板を確認する。モンスター協会の公式掲示板の一つで回避特化に対するメタ構築の話がされていた。それを見ていよいよ来たかー、という気持ちになった。前々から予想はしてたが意外と早くやって来た。
出来る事ならDランク卒業用のレートが確保できるまではメタ解析して欲しくなかったが、こうなってしまっては近いうちにこっちを殺す為だけのパーティーが作られるだろう。
「この《粘着糸》ってスキル、素早さ0にするのヤバくないか? うわ、鴉羽がすごい嫌そうな顔をしてる……!」
「《粘着糸》はぶっちゃけ低ランク帯どころか高ランク帯でも使いどころが皆無なんだよね。素早さを爆上げした回避ビルド素早さ代替攻撃だなんてドマイナーな奇襲戦術使ってないとほんと刺さらないクソスキルなんだよねえ」
「だからランクが低くて覚えやすい訳ね。駆間の人間は大体スレみてるし名指しで対策されてるからこれ絶対に出回るよなぁ……あ、《粘着糸》の値上がり始まった。高騰する前にポチっとくか」
「人の心がないのかお前?」
はあ、と溜息を吐いて机に倒れ込む。回避ビルド最大にして最悪のメタスキルがついに把握されてしまった。《ヴェール》の様なデバフ1回無効のスキルを使えば躱す手段はあるとはいえ、1度でも喰らえば《クイック》による積みも効果が完全に消失してしまう。
力や防御、魔力を0にするのはシステム的に理不尽すぎるから出来ない。
だけど素早さなら0にしても被害は大したことはない。普通なら。普通じゃない場合? そういうビルドしてる奴が悪い。
連勝すればするほど注目が集まる。だからこれは必然の流れだ。チビでは絶対に勝てないようになる時が来る。そしてそれがこのタイミングだった。出来る事ならもうちょい後なら嬉しかったのだが……そう贅沢は言えない。
41連勝は稼がせて貰った、ここからはメタに対するケアだけではだめだ。
メタを意識した構築に切り替える時間だ。
つまり、2PT目の投入を必要とする。
「ほほう、流石の鴉羽先生もお困りかな?」
「いや、目を付けられるのは前々から解ってた事だし、回避ビルド自体俺が数か月前に出した時に注目を浴びたからな。アレから少し熱意が冷えたから今日まで通せたけど、対策されるのは見えてた事だしそこまでショックって訳でもないんだけど……」
「けど……?」
本当に問題なのは2PT目を用意する事だ。
始祖、或いは素体確保の為にはやっぱり隠しダンジョンに向かったりもうちょっと合体をガチャガチャする必要が出て来る。特に面倒なのがドラゴン系の血統で、1世代にドラゴンは存在しない。ドラゴンという種が登場するのはCランクの第4世代からだ。
その上で“神龍”の作成条件は
どんだけのドラゴン素材要求するつもりなんだよ!!!
ゲームでは許されたけどリアルじゃ許されない数だぞこれ!!!
まあ、もう既に100近い素材用モンスターを牧場に集めて地獄を見始めてるからいっかぁ……。
なおこの素材用100匹は数日後、全消化予定である。
「2PT目を用意するのが手間だなぁ、って」
「2PT目が用意できるんだ……」
「鴉羽ファーム! 鴉羽ファームをよろしくお願いしまーす!」
「くっそぉ、土地持ってて良いなあ! ウチは庭が広いぐらいだから10匹ぐらいが限度なんだよなぁ」
「ウチもウチも」
都会で同じことを言ったらビンタされそうな話をしていると先生がホームルームにやって来た。朝の馬鹿話タイムもいよいよ終わり。皆が席に着く間、1度だけ久遠に視線を向ければ久遠も此方を見てた。
なんだかなぁ、と口だけ動かして呟きながら窓の外を見る。
校庭の隅で送迎用のモンスター達と日向ぼっこするミストドラゴンを眺め、決める。
「四国、行くか」
今度の休みは隠しダンジョンへ行こう。