女帝が処理されるとその流れに乗って次の人がこっちに来ようとしてくる。いや、よく見るとイタリア代表の人だ。確か……そう、元GMのマルコ氏だ。女帝の件で謝りに来たのかなぁ。とか思ってるとこっちをスルーして久遠とヴィの方へと真っすぐ向かい、一瞬で手を握った。
「なんと、こんな所に素敵なレディたちがいただなんて……! こんな所にいるなんて勿体ない、どうだい、そこで一緒に少し喋らないかい?」
完全に俺を視界に捉えていない。まるで存在していないかのように久遠とヴィしか見てない。久遠もヴィもコイツマジか、みたいな表情をしているのに一切気にすることなく口説き始めてる。女帝もコイツも何なんだよ。似たもの主従じゃねぇか。
迷いのないイタリア代表の動きに戦慄していると、マルコのモンスターの1人、ヴァルキリーがやって来た。その手にはスタンガンが握られており、それを俺に手渡してくる。
「改造品です。どうぞ」
どうぞ。
どうぞ???
手元の改造スタンガンと横にいる人の婚約者口説いてる馬鹿を見る。それからもう一度手元のスタンガンを確認し、スイッチオンにしてから代表の右乳首らへんに押し付ける。一瞬ですさまじい量の電流が代表に流れ込み、全身をスパークさせる。
「うっ、うおっ、おっおっ、おぉぉ―――い、いっいっ、いっしょしょ、しょに、お話ぃ―――!」
「凄い! この状況でまだ口説こうとしてる!」
「ミコト! これが世界レベル……という事なのか!?」
「ウケる」
ヴァルキリーから2本目のスタンガンの提供があったので追加でもう片方の乳首めがけてスタンガンを押し付けると流石に言語機能を失う。まあ、この世界の人類少し頑丈っぽいし多少なら耐えるやろ……の精神でスタンガンをオンオフ繰り返してちょっと遊ぶ。
「お、おっおっおしゃおっおしゃべおっおっお喋りぃ―――っ!」
「凄い! ここまでやってもまだ俺を見ないし口説こうとする事に執念を燃やしてる!」
「ここまで来ると畏敬の念が生えて来るな」
「キモいだけでしょ」
「それではそろそろ回収しますね」
「あ、はい」
十分感電したのを確認してから背後に回り込むと、一瞬で首をグキっとやって意識を落とし、主を引きずってパーティー会場へと去って行く。ハーレム系のマスターって女性関係の管理大変そうだなぁ……と、引きずられた先に待っている女性モンスターの集まりを見て思う。
「ああはなりたくないな」
「そうだな。……そうだな?」
久遠がじぃ、とこっちを見てる。いや、ウチの牧場見なよ。俺なんて人型モンスターほぼいないぞ。久遠が心配するようなことにはならないさ。
俺だって馬鹿じゃないんだ、安易に好きとか愛してるとか、そういう言葉は使わないよ。その言葉の重みはとてつもないんだし。だから俺は大丈夫だよ。
「貴様がミコト・カラスバか!」
久遠から向けられる視線に弁明していると次のゲストがやってきた。苛烈な雰囲気を漂わせながら近づいてきたのは欧州の女軍人だった。
「私はーー」
「ビフレスト見つけた? 特定の天気のときのみ発生するダンジョン内現象、ビフレストを渡れば北欧系100レベダンジョンが見つかるよ」
「失礼した! 急用が出来た!」
苛烈な雰囲気の軍人さんはそのままUターンして去って行った。キレイすぎるターンに思わず感嘆の声が零れてしまった。
「出番が飛ばされてしまった人、会話ターンまで飛ばされちゃったね」
「飛ばしたのアンタじゃね?」
はい。欲しい物提供したら喋らずに済むかな……って。本当に消えるとは思わなかった。まあ、消えちゃったものは仕方が無いよね。そう思ってると次の人が来た。
「ニーハーーー」
「実はイースターになるかなぁ、と思って高位モンスターの合体レシピ小分けにしてこの会場内に隠したんだよね」
「シェァッ!!」
話しかけたと思ったら残像と共に姿が消えた。RPGに出て来る残像退場するボスみたいな動きだったな……。
辺りを見渡すと皆興味なさげなフリをしてテーブルに置かれたカップを持ち上げたりし始めてる。皆さん、さり気なく会話の合間に探す動作挟み込むの上手っすね。
交流会がいきなり非公式イベントを開催し参加者が急に夢中になりだすと、此方への意識が薄れて漸く視線を集めずに済むようになる。
漸く息苦しさから解放されたな!
通りすがりのウェイター? いや、こういう場所だとコンシェルジュなのか? にノンアルの飲み物を人数分貰う。
向けられる視線が減って風通しが良くなった。
「漸く背中が伸ばせるな!」
「兄貴のマブって話だったからどんなカタブツかと思ったけど、滅茶苦茶面白い系なんだね、アンタ」
「うむ、ミコトはユーモアに溢れているのだ。一緒に居るだけで毎日が楽しいぞ」
「いや、それはただの惚気」
人前で腕組むのは恥ずかしさが先立つから止めて欲しいのだが、にこにこの久遠を見てると止めてとは言えない。そう、男の立場とは非常に弱く、繊細なものなのだ。見かけたら優しくして欲しい。
それはさておき、急に会場がトレジャーハント会場に変化してしまったので、俺達は漸くゆっくりと話し合う事が出来るようになった。
アーサーの妹さんのヴィ、マスター業には何でも欠片も興味がないらしい。
「家で兄貴が忙しそうにしてるのを見てるとねー。プライベートとか生活を切り詰めてまでやることかなー? とは思うよ」
「ほー、そういう意見もあるんだ」
「というか2世3世じゃない身内って大体私と同じ意見じゃない? 一家の中で2人もマスターやってるところは相当珍しいと思うよ」
「そうなんだ、駆間だと皆マスターだからなぁ」
「マスターじゃない、は死を意味するからな」
「例外の話止めない? 地球、そこまで荒んでないから」
ほんとぉ? イギリスに行ったらラスボス出てきたし、東京に出たら裏ボス出たし。やっぱどこも世紀末じゃん。安全地帯なんてないよ。自己防衛出来ないやつは死ぬしかないんだ……!
「ヴィ! マスターになろう! 己の身を守れないのは危険だぞ!」
「やっぱ自分で戦えないと不安だよ! マスターになった方がいいって!」
「視点がおかしいんだよアンタ達。視点が」
ヴィは解ってないよー。
「この先世界が世紀末モードに入るのは既に見えてるんだよ。後5年したら地球が残ってるかどうか怪しいんだから、自分のことを最低限守る力は欲しいよ」
既に海王と竜王との戦いが予約済みだし。ラスボスに関しては星どころか世界が残るのか? ってレベルの話だし。そこは紳士協定というか空気読んで地球へのダメージ回避してくれると信じたい。
でもワンチャン、テンション上げすぎて前菜に地球崩壊!! とかやりかねない。
どいうもこいつも気軽に惑星破壊級攻撃積んで来やがって!! パフェキャン通りますか……?
「あった! 内容はーーー」
「ふっ!」
「あ、貴様!!!!」
会場にこっそり仕込んでおいたレシピが発見されたが、見つかった直後に横から飛んできた火遁の術によって焼却される。今火遁の術が飛んでなかった? 飛んでいて良いのかそれ? 飛び回っているものはしょうがないか……。
配置したレシピ1が焼却された事で無事乱闘に発展。拳が出る。上級階級の社交界とはいったい何だったのか。どさくさに紛れてレシピ2が発見されるも、機械化されたサイボーグ軍人の目からビームによって焼却された。へぇ、最近の軍人って機械化されてるんだ。考えるのもうやめよっかな。
乱闘エリア、拡大!
「あ、大丈夫だよ。トップ層って基本的に顔見知りが多いから、これもじゃれ合いの範囲だよ。ここにいる連中って何度も対戦経験のあるやつばっかだし―――」
笑ってヴィがそう言った直後、ぱりんと割れる音がした。音の方を見ればガラスを割って誰かが外へと投げ出されていた。これもきっと酒が入った末の乱痴気騒ぎなんだろうなぁ。俺達は将来、酒を飲まないようにしよう……と心に硬く誓った。
死人が出なければもう良いんじゃね? そんな気持ちでいるとぬ、と影が目の前に刺した。
見上げる先には、アメリカ最強の男の姿があった。間近で見れば凄まじい威圧感を放っているのが解る。2期目が限界、どうせ直ぐに変わるとか色々と評価されていたが……こうやって直に見る彼の実力は本物だ。グランドマスターの名に恥じない実力者だ。
「グランドマスター」
「Mr.カラスバ。日本のタクティクスは君が纏めたものだと聞いた。今回の戦いは本当に……楽しかった。君のおかげでこれからも飽きない、強敵との戦いが待っていると思うと感謝してもしきれない」
そう言ってグランドマスターは笑みを浮かべ、手を差し出して来た。
「ありがとう、Mr.カラスバ。まだこのゲームには先が、更なる深淵が存在する事を示してくれて。まだまだ強くなる、もっと強くなるライバルがいるという事を教えてくれて」
「……此方こそ、未知の領域を見せて頂きました。世界が自分の知っているだけのものではない……人の持つ可能性と、辿れる進化を見せて貰いました。心の底から、貴方に敬意をグランドマスター」
グランドマスターと握手を結ぶ。この人はこの世界のバトルが、決して俺の知っている範囲だけでは終わらないという事を示してくれた。専用マスタースキル、俺が考えも出来ない、そんな領域に踏み込んだ第一人者だ。だから心の底から尊敬する。
ところで。
「グランドマスター……歌唱込み構築ですよね? サンダーバードくんの火力後2倍……いや、3倍伸ばす方法あるって言ったらどうします? 歌唱構築周りで使ってる人全くいないんだけど自分、歌唱込みでやっていくつもりでぇ……」
「話を聞こう」
「おい! 待て! 争っている場合じゃない!」
「止めろ止めろ!! 余計な事を言い出す前にアイツを止めろ!!」
「世界最強に強化パッチ入れようとするなボケ!!!」
ひっくり返るテーブル。宙を舞うシャンパン。転ぶコンシェルジュ。前のめりに倒れそうなマスター。割れるガラスの音。
一大イベントを終えた後の乱痴気騒ぎ。或いはそこに、国境なんて括りはなく、ただただ熱狂のままに暴れる馬鹿だけが揃っていたのかもしれない。
こうして、世界を巻き込んだ交流戦は閉幕を迎えた。