交流戦は終わりを迎えた。
交流会も最終的には他の奴に情報渡したくねぇ! の気持ちが強すぎた結果誰も用意したメモを手にすることなく会場は焼け落ちてしまった。
夜のラスベガス。
燃え盛るホテルの一角。
飛び交う報道ヘリ。
各国のトップは全力で醜態を黙り、これをテロのせいにした。
テロリスト! 許せねぇ!
でも……皆で燃え盛るホテルを眺めながらパーティーを続行してたのはなんか花火を見てるようでちょっとエモいかもしれない。
そういう訳で交流会も無事に終わり、年1のイベントは無事に終了した。それぞれの課題や成果を国へと持ち帰り、9月10月のグランドマスター決定戦であるマスターズチャンピオンシップへと向けての準備に入る。
交流戦はあくまでも国家間の交流を目的とした対戦だ。世界ランキングに影響は与えるも、本番はこのあとにやってくるグランドマスター決定戦たるチャンピオンシップの方だ。
それぞれが得た成果や課題をベースに調整や見送り等が行われるだろう。今年に限っては日本勢もグランドマスター取得が現実的なラインになる。
アメリカも、日本の研究を進めて足場を盤石にしたいところだろう。
とはいえ。
それは俺には関係がない! シンクロ禁止期間があるし、そもそも忙しい時期に入るのでそっちまで付き合ってる余裕がない。タスクも色々とあって、やることは山積みだ。
日本勢にはがんばえー、とエールを送る以外は何もできない。
ということで平和な日常が戻ってきた。
牧場に帰れば飛びかかってきたチビでまた骨折し、シェイナのストーキングに悩まされ、またバチバチと睨み合う久遠とフラメアを眺める日々が戻ってくる。
交流戦から帰還して早速翌日から牧場勤めが再開する。交流戦の間、楽をしてた分は働かないとならない。この牧場で一番モンスターの体調やコンディションを把握、調整出来てるのは俺なのだから。
早朝、家を出て何時も通りモンスター達の世話をするが、そこにちょっとした不便さを感じる。
理由はもちろん一つしかない。
シンクロ禁止だ。
「ぎゃう!」
「がうぅー」
「ぎゃぎゃ!」
「はいはい、遊びたいのね。もう少し待ってな」
例えばこのミニドラ達のスキンシップ。シンクロが禁止されているから言っていることは解らないが、なんとなくと察せる程度には信頼関係はある。
それでもシンクロ通じて意思疎通出来ない弊害か、寂しさを感じる小さいドラゴン達のスキンシップや甘噛みが増える。無論、人類には大ダメージ攻撃なので帰って3日目にはもう骨折してた。
甘噛みで出血、タックルで骨折なんて基本だ。子供型のモンスターはここら辺、力加減を全く理解してない。放っておくと俺までララになってしまう。
シンクロが使えない時期こそ改めてミニドラ共に将来に向けて教育をしなくてはならない。他のモンスター達も比較的に寂しさを感じるのかスキンシップが増え、俺の生傷が絶えない。
なお、交流戦から戻って発覚する問題はこれだけではない。
暗黒エリア完成。
暗黒樹海との直通ゲートが設置され、それに伴い暗黒化エリアが我が牧場に設置された。元々土地が有り余ってるバカデカイ牧場の使ってなかったエリアについに樹海が出来た。
山の方まで続く樹海は完全に闇によって包まれて中が見えなくなっている。今のところ、この闇に適合するモンスターはいない為、完全に樹海が腐ってる……と思いきや、樹海が設置された事で我が牧場には大きな変化が現れた。
なんか、ダンジョンとレイドの難易度上がっちゃった。
これまでは90レベルが上限だった。しかも出現率は大体1割か2割程度。その出現率が大体2割から3割に上昇し、レア枠に100レベランダムダンジョンが追加されるようになった。
世界の前にウチの庭がレベルアップだ! やったね! とでも言うと思ったか馬鹿め!!!
当然困った。100レベはSランクの世界だ。俺でさえ突っ込んでどうこうなる世界ではなく、攻略にはA数人からS一人を要求する程度の難易度だ。
こうなるとウチの牧場が本当に世界屈指の危険地帯に認定されてしまう。これも館長の意志なんだろうか? 館長……!
「いや……なんでそんな事になってるの……? 知らない……」
しかし、この問題は意外にも簡単に解決することになった。
レイド廃人から去年こっそりSランクに昇格したアホがいたのだ。普段からレイドに引きこもるアホばかりだが、ウチの庭で廃人化してる連中は意外にも上澄みが多い。その為ちょくちょくレイドを抜けてはライセンス失効前に大会で暴れ、期限ギリギリまでレイドに引きこもるアホの生活を繰り返してる。
その中で、ついにライセンス更新感覚でS認定に突っ込んで勝つバカが出てきた。
ついにレイド廃人からSが生まれてしまった。
まだ育成途中とはいえ、Sがいるならチェックは通過するのでバカたちの宴にSレイドとダンジョンが追加される。レイド廃人でもなれる! Sランクになれる! なれてしまう!
この成功体験が割りと良くなかった。
帰国から一週間後、鴉羽ファームはAランカー不足になっていた。
普段レイドしばいてた奴らはどうしたのか?
そう。
放流されてしまったのだ。
ついに起きてしまったレイド廃人スタンピード!
これまで鴉羽ファームの庭で延々とレイドボスを殺しまくって無限に経験値を短いスパンで積み上げていたバトルモンスター共だったが、Sレイドや100ダンジョン挑戦の為についに封印が解かれてしまった。
これまでほぼステルスしていた頭のおかしい技術のみを磨き、毎日死線を越えて鍛えられてた変態共がランクマと大会に出没!
Sレイドやりてぇよ!
100ダンジョン行きてぇよ!
じゃあ、大会荒らすか……。
レイド廃人の1人がなれるなら他でも行ける! ヤバイ奴の成功体験が隠しておきたかった駆間のリーサルウェポン共を解き放ってしまった。
時代は大ランクマ時代! 鴉羽ファームにSレイドを置いてきた。欲しいか? 欲しければくれてやる! ただし引率のSランカー必須な!
面倒だからと放置されていたランク上げ、サボっていた狂人層が大量に流入により環境、特にAは一瞬で地獄と化した。
無論、レイドと対戦環境は違う。レイドで可能だった戦術もランクマや大会では使用できない。だがそもそもこの連中、常日頃から鴉羽ファームで俺に付き合って構築見たり聞いたり試したりする連中なのだ。
ちょっと調整したり軽く裏口から図書館や根の国に突入したら直ぐに適応しやがった。
帰国から1ヶ月が経過する。
Aランクは戦国世紀末モードに突入していた。
当然、Aランクは上澄みの世界だ。有名プレイヤーや強いプレイヤーが多く存在する。そこに突如大量の修羅が参入してくる。当然、Aランカーなんてものは修羅の世界に生きる生き物が大半なので大歓迎される。
そんなわけでテレビをつけるとあら不思議。
「お兄ちゃん、なんかテレビでレとしか喋らない人が大会で暴れ回ってるんだけど」
「不思議なことになんかAのトップ層がだいぶぐちゃぐちゃになってるね」
テレビを点けて見るAランクの試合にはウチの庭で人間性と社会を捨てた生物が映っていた。Aランクの低レート層は駆逐され、環境に放流されてしまったブラックバス共は瞬く間にSランクに近いAランカーを相手に張り切って殺し合いを楽しんでいた。
大会スケジュールも流石人間性捨ててるな、というレベルで大会が終わった1時間後には別の大会に出場するとかいう弾丸スケジュールを組んで出場している為、凄い勢いでレートが上昇している。
無論、これは合法な手段だ。だが普通は無理だ。社会人には生活があり、社会性があり、バトルだけが生活ではない。だけどこいつらはレイドする為にそういうものを全て捨てている。栄養補給さえすれば人の庭に住み込んで永遠にバトルしてるような狂人共だ。
当然のように毎日、日本中を飛び回って大会を荒らしまわっていた。
中には国内じゃ足りないから海外の大会を荒らしに行った奴まで出て来る始末。
鴉羽ファームの環境にも、夜間の怪異にも、怪現象にも一切負ける事なくレイドしかして来なかった化け物たちが自由になってしまった。
しかも何が最悪って駆間のブラックバス共の放流を見て、逆田のブラックバス共も一斉放流されてしまった。
もうランクマは滅茶苦茶だよ。
これまで優勝候補とされてきたマスターが、Sランク昇格間近と目論まれていたマスターが急に勝率を下げたりし、そこそこ少なかったAの競技人口が今までどこに隠れていたの? というレベルで肥大化した。
俺と灯はそんな地獄になってしまったAランク環境をテレビ越しに見ていた。
「うーん、この世の地獄」
「反省してね、お兄ちゃん」
「俺、今回は何も悪くないよ」
セコム扱いしてちょっと庭で廃人育ててただけだって。9割ぐらい勝手に育ったんだよアレは。
しかし、こうやって一気にトンチキ濃度が上昇するのを見ていると実家に帰って来たんだなぁ、という感じが凄い強い。やはりアメリカではこの地獄の様なトンチキの濃度は味わえない。
ただいま、日本。ただいま、駆間。ごめんね、Aランク……。
シンクロが使えない尊くんはもう1か月ぐらいお休みです。