「おはよ鴉羽!」
「おーはー」
夏休みが明けて学校に戻って来た。アメリカに渡ってたせいか随分とこの校舎を見るのも久しぶりに見える。校門で挨拶してくる相手に挨拶を返しつつ、見慣れない校舎を見上げる。
「久遠」
「あぁ」
「なんか3階から上消えてない?」
「日本が優勝した影響で吹っ飛んだらしい」
「ここも被害を逃れられなかったか……」
日本が交流戦で優勝したインパクトはすさまじく、SNSが吹き飛び、掲示板のサーバーがダウンし、どこを見ても同じ内容ばかりで見る必要はないってレベルで騒がれていた。特に駆間と逆田は暴動っぷりが酷く、放火や家屋の破壊があっちこっちで横行していた。
我が駆間中学もその被害からは逃れられなかったらしく、3階の天井から上が消し飛んで、今もモンスター達によって修復作業中だった。駆間市の土建屋が年中通してずっと大忙し。駆間でもかなり儲かる仕事だが、同時に休む日が存在しないレベルでブラック現場らしい。
まあ、なにはともあれ2年生の俺達が使うのは2階の教室だ。こっちも校舎の左側にデカい剣が突き刺さってるがウチの教室はセーフみたいだ。
「鴉羽! アメリカ良かったぞ!」
「やるじゃん鴉羽!」
「みこっちゃーん! 派手にやったねぇ!」
最後の一人だけ中指を突き立てて、挨拶しつつ教室へと向かう。ちょくちょく修復作業中のモンスター達―――たとえ過労死しても蘇生アイテムで即座に業務に戻れる―――を通りすがりに眺めながら教室に入れば、クラスメイトたちの姿がそこにあった。
「お、みこっちゃん」
「交流戦の映像みたぞー」
「サポーターとか滅茶苦茶活躍したじゃん!」
「夜月さんもお父さんがA世界一おめでとう! 凄いね!」
「これで駆間の名も増々世界に広がるな」
ハイタッチを決めながら席に着く。
久遠も俺の膝の上に座る。
なんかおかしくない? なんで誰も違和感を抱いてないの? 少しは誰か突っ込んでよ。所で膝の上の感触が凄く柔らかくてヤバいんですが。
「久遠?」
「ん?あぁ、すまない」
そう言って首に腕を回してきた。違う、そうじゃない。突っ込みたいのに皆まるで当然のような顔をして席の周りに集まってきた。おかしいの俺だけなの? それとも駆間ではこれが普通なの?
そういや駆間って死亡率は高いから恋愛は推奨されてるし悔いなく生きるように言われてるな……。
「久しぶりー……って言いたいけどちょくちょく協会で見たな」
「ランクマは外せないしな」
「そういやみこっちゃん、勝率落ちてるけど大丈夫か?」
「医者にシンクロ禁止されてるから戦闘前に動き全部読み切って事前に入力で戦闘済ませてるからねー。流石にリアルタイム読みに比べると精度落ちるよ」
「それでも勝率7割8割キープしてるのはバケモンよな」
C帯はモンスター少なくて読みやすいからね。Sの複数の役割があって、尚且つ複合効果スキルが乱立する環境と比べると全然動きが素直で読みやすいんだよね。
それでも一部の連中は事前読みの゛置き゛を突破してくるんだけど。
主に七海とかの読み力高いタイプの話なんだけどね。後は花火師とかアドリブ力高くて爆発力あるタイプ。連中は流石に指示を置くだけじゃあ勝てない。
ただこれやってるとこれまでかなりシンクロに甘えた指揮してたんだなぁ……ってのを痛感する。改善点だしこれからはシンクロに頼る比率減らして地力上げることに集中しようと思っている。
「それはそれとして鴉羽! お前ズルいぞ!」
「叶プロに酒カスプロとか、国木田と一緒だったなんて……!」
アイツ……一般層にも国木田とか呼ばれてる……。
「コネがあるからね、コネコネ」
折角だし、自慢しちゃうかー!
学校で自慢するために持ってきたものを鞄から取り出す。もぞもそと鞄から取り出すのは1枚の色紙だ。多くのサインが書かれてあるもので、それを机の上に乗せる。
「じゃーん」
「!?」
「せ、聖遺物……?!」
取り出したのは皆のサインが書かれた色紙だ。皆というのはアフターで集まったマスター全員の事だ。つまり国木田とか東吾だけじゃなくて、グランドマスターとか、出オチ軍人とか、不死鳥のナンパ師とか皆の事だ。
ついでに総理とか大統領のサインまで入ってる。この世で1つしかないぜ!
「うおぉぉ……やばっ……!」
「なんてもんを用意したんだこいつ……」
「いいだろいいだろ。俺もちょっと自慢したかった」
特にGMはブランド維持の為にあまりサインを書かないらしいので結構レアらしい。ブライアンはジジイとナンパ師が破壊したグランドマスターのブランドイメージを復活させるためにあーだこーだ言われてて大変らしいね。
「みこっちゃんはチャンピオンシップはどうするん?」
「また呼ばれてるの?」
「いんや、そっちは呼ばれなかった。交流戦はズルしたみたいなもんだから今度は自分の力だけでやりたいって言ってた」
「はー」
今年は日本からグランドマスターは出るのかねぇ? 正直交流戦のラストもかなりギリギリの試合だったし、初見殺しが出し尽くした後は3回行動出来るグランドマスターが有利なんだと思うんだよなぁ。
そんな感じで、多少学校は崩壊してるが、日常そのものは何時も通り進む。
流石に授業が始まると久遠も名残惜しそうに元の席に戻って行く。相変わらず先生は戦場帰りみたいな雰囲気してるし、駆間中学は全く変わっていなかった。
変わった、といえば俺だろう。
シンクロ能力が医者によって封じられている影響もあり、周りの意志や意見が全く解らない。
生活していて解った。
剛三にシンクロを教えられて以来俺は恐らくずっと、他人の識別や認識、そして理解の為にずっと無意識的にシンクロ能力を使っていたのだろう。
俺に欠如している人間性。
それが持つ人間性由来の共感能力。
その共感能力をどうやらシンクロで埋めてたらしい。今はそれなりに人間性を獲得したので良いが、改めて久遠に会う前の俺って酷かったんだなぁ、とは思わなくもない。
今はそれがなくても生活がどうにかなってる感じ、少しずつ改善されてるんだなぁ……と感じる。
壁に穴が空いてる影響もありエアコンが使えず熱を感じる夏の学校。
夏休み明け、崩壊明けと言っても駆間にとっては特別なことではない。
あっさりと何時も通りの授業が進み、気づけば放課後。横の席のクラスメイトが声を張ってくる。
「折角だしこのあと皆でボウリング行かね? 最近ボムボウリングが開いて楽しそうなんだよな」
ボムボウリング! それはボールの代わりに爆弾型のモンスターをピンに投げる狂気のゲーム!! 盤外戦術として罵倒をボムにぶつけることで投げる前に選手諸共爆破させる事がありなゲーム!!
無論! 囁く範囲にいればお前も巻き込まれる! 正しく狂気! ちなみにボム野球もあって爆破範囲によってはキャッチャー、審判、バッター、ピッチャーを一度に爆殺して4アウト取れるというゲームだ。
思いついたの誰だよ。イカレてんのか? 俺もやってみたい。
「ごめん、今日は協会で講習受けなきゃいけないから」
「鴉羽が?」
「イエス」
お前が教わるような事ってなんかあるか? って言われるので素直に答える。
「シンクロ講習。特別講師が来て正しいシンクロの知識と方法を教えてもらうんだよ。今までずっとジジイのやり方をコピーしてただけだしな」
「みこっちゃんの爺さんって柊剛三だろ? 俺、あの人が他人になにか教えたり弟子を取った話を聞いたことがないんだけど」
「まあ、気まぐれだろ」
完全に殺しに来てる流れだったし。そうでもなければ幼かった俺にシンクロを教えようとする訳がないだろ。
ともあれ、そういうこともあり俺はシンクロの講習に出なくてはならなかった。
「鴉羽くん、講習って先生が見つかったの? 普通シンクロとかマスタースキルって師弟で教えたり継承するもんでしょう?」
クラスの女子の質問にうむ、と頷いた。普通はそうなのだが、俺の場合はちょっと違う。
「俺は元々自前でマスタースキル使えるし、そうじゃなくてもジジイのやり方で覚えてるし、今回俺がシンクロ禁止期間が設定されたのは交流戦で起きた事故みたいなもんだしな」
つまり過失はボケ酒クズにあって、ついでに保護責任のあった日本チーム全体にもあって。この件で修三さんは結構困ってしまって凄い父と母に謝ってた。
それでも原因そのものはジジイにあるから最終的なヘイトはジジイに向けられたが。この件で発覚してなきゃ将来どっかでぽっくり逝ってたとなるとマジで笑えないからね。
「そんな訳で日本リーグの方から講師が用意された、って話。まあ、十中八九東吾か仮面マン辺りなんだろうけど……」
特に東吾に関しては表向きの名義として師匠として登録してるので師弟間の技術継承という線で一緒に活動したり教え合ったりするのは問題ないんだよね。
という訳で折角の殺人ボウリングだが、今回は参加見送りである。非常に興味があるのだが、残念ながらシンクロ能力の回復と改善は急務なのだ。
なのでまた次回誘ってほしい。
無論、これはゲーム終了後にクラスメイトが1人でも生き残ればの話である。
今日の放課後で何人”転校”しちゃうのかなっ!