クラスメイト達と別れを告げて、久遠と一緒に歩いてモンスター協会へと向かう。久々に歩く町はいつも以上に荒廃していて、ついに世紀末が訪れたんだなぁ、という異世界にやってきたような気分にさせてくれる。
だけど商店街を突き破ってパズスと呼ばれる巨大なレイドモンスターが出現した時、なんだ、何時も通りの駆間か……という安心感を抱いて歩く事が出来た。どれだけ荒廃しようが、街中にモンスターが出現してぶち殺す為に立ち上がるそこら辺の住民が存在する限り、ここは駆間なのだ。
別に人類最後の防衛線とかじゃないですよここ。ただの都市っすよ。
今日も元気に警察たちは屋根から屋根へと飛び移ったり、ビルの壁を走ってショートカットしている。もはやまともな道を歩いていては現場には間に合わない事を知る駆間警察の皆さんは積極的にショートカットや空路を経由して移動している。
地上を見れば車が1台も存在しないのが解る。
そう、廃車確定ゾーンだから車は外に出してはならないのだ。
偶に記者か観光客か、或いは遠征目的で駆間に車でやって来る自殺志願者がいる。だが彼らが駆間を去る時、何時も気にするのは保険会社が彼らの言い分を聞いてくれるかどうかという悩みばかりだ。
ウェルカム駆間。駆間は素敵な場所だよ。
住んでみれば些細な悩みは全部生存競争の果てに消え去るよ。
「あ、見て久遠、ダンジョンから人が出て来たよ」
「たぶん家が焼け落ちたからダンジョンを乗っ取って家の代わりにしているんだろうな」
考えてみれば館長もダンジョン住まいだしありっちゃありなのかもしれない。いや、そんな訳ないだろ。
「しかしこの乱痴気騒ぎは何時まで続くんだろう……」
「どうだろうな、チャンピオンシップで再熱する可能性もあるが……ハロウィンまでには落ち着くだろうな」
「その心は」
「ハロウィンまでに都市を修復してイベントを迎えたい」
じゃあ最悪ハロウィンまで続く事を覚悟すれば良いか。まあ、10月までならそう遠く無いし別にいっか。
久遠と歩いて何時もよりも少し荒廃している駆間市を楽しみつつ、何時も通りのモンスター協会に到着する。実は日本優勝の時に1度更地になったらしいが、最優先で土建屋が修復したらしい。その上でまた更地になってまた修復された。
破壊と再生の無限ループや。そろそろツッコミのストックが切れそう。
入り口を通り抜けながら予約してある講習の部屋がどこなのかを確認し、向かう。さてはて、講師として選ばれたのは東吾か? それとも仮面マンか? どっちもマスターズ・チャンピオンシップ前に調整と称して牧場にテント暮らししそうだよなぁ。
でも最近代表3人はテレビやら仕事で滅茶苦茶忙しいんだよね。スケジュールが取れなくて別の人が派遣されるというケースも十分にあり得る。久遠と誰が来るんだろうねー、とか話しながら講師の待っている部屋に到着する。
どうせ居るのは身内だ。
ここはどどーんとやってやろう!
「東吾か! 国木田か! だーれだっ!」
ばん、と勢いよく扉を開け放つと金髪の男が足を机の上に乗せて待っていた。
良く見るとグランドマスターだった。
「ん? Mr.カラスバ、来たか」
「タイムでお願いします」
勢い良く扉を閉めた。流石にちょっと覚悟が欲しかった。後ろにいる久遠に振り返り、肩を掴んだ。
「いや、確かに俺より技術的に上なのはグラマスぐらいだよ? だけどこのクソ忙しいであろう時期に連れてくるのはおかしいだろ……!」
「良いではないか別に。居るということはスケジュールに都合がついたという事だろう?」
「久遠さんそういうところホント物怖じしないよね!!」
東吾辺りかとだと思ったら思いっきり最強の男だったので普通にビビるよ。いや、仮面マンに負けて今は再調整に忙しいんじゃないの? というかこんな所に居ていいのかあんた?
とか葛藤していると扉が開いた。
「さ、中に入れ。ガールフレンドと一緒にな」
「……うす」
GMブライアンが扉を開けて催促してくるので素直に従って教室に入り、適当な席に座る。隣の席を取った久遠と合わせて部屋の先頭、ホワイトボード前に立った男を見た。
金髪、自信に満ちた表情、頂点の覇気。本物のブライアン・ジョーンズだ……。
「なんで居るんですか……!?」
「ゴウゾウとマルコはグランドマスターとしてのブランドイメージを損なう2人だったからな、国や協会はブランドイメージの回復を求めて俺にあれこれ意見してきたが……」
肩を揺らし、犬歯を剥き出しにして笑った。
「もう親の言うことを聞くような歳でも無い事を思い出したのさ。俺達グランドマスターが止めようのないアンタッチャブルだということを思い出してもらったのさ」
開き直っちゃった……!
まあ、でもゲームでもグランドマスターになった主人公は各国を好きに回れるようになるし、どこの国のどのダンジョンに突入しても誰も文句が言えないからね。
言っちゃえばグランドマスターは世界最強の抑止力なのだ。強くないと困るのだ。世界平和の為に。
だから特定の国や組織に帰属してない方が助かる……みたいな話なかったっけ?
「それに、アメリカに引きこもってるよりこっちに来たほうが強くなれそうだしな」
「まあ……」
牧場の存在を思い出す。まあ、強くなりたいならウチに来るのが一番なのはそう。問題は良く日本政府がそれを許したね、という話になるのだが。
「さて、授業の時間だスチューデント。この世界で最もシンクロ技術に長けた男による授業だ。100億ドル積んだところで受けられる物ではないからしっかりと聞いて行け」
「やる気満々じゃん……!」
「良いことではないか」
久遠さん、基本的に俺よりも肝が座ってますよね?
キュキュキュ……キュッキュッ。
内心の困惑を隠せずにいる間にもブライアンはホワイトボードに英語でシンクロのあれこれを書き込んでいく。よく見るとテーブルに資料が置いてある。
このおっさん、本格的に教材まで用意してきてかなりやる気だ……!
ホワイトボードのシンクロってなぁに? というのをレーザーポインターで示す。
「さて、俺達がシンクロと呼んでいる技術は現状、俺達人類が……マスターが唯一モンスターと同じスキルを使う手段と言われている」
うん、と頷く。
「元々図書館の館長がモンスターとダンジョンをシステムとして構築した時、来るべき災厄に対抗するために人類のレベルアップを目的としたんだ。だけどモンスターと戦っても人類はレベルアップせず、強くならなかった」
地球人類は異世界の人達と違って、そこら辺の成長力が凄い低かった。
「だけど人類はその代わりにモンスター達を使役し、育てる力に目覚めた。そしてその生活が続く中で新たな能力に目覚めた……これこそがマスタースキルで、館長が意図しなかったバグとでも呼ぶべき挙動らしいですね」
「俺より詳しい話が出てきたな」
そりゃあ図書館で常日頃からネタバレティータイムしてますから俺達……。
「マスタースキルが人類の進化によって起こされた変化なのは確かですよ」
「ほー、じゃあ専用化はその先にある変化で正しいのか」
「うん」
超偉業です。完成されたシステムのその先を作ったんだから本当にね。人類の可能性を見せて貰って俺も館長も涙が止まらないよ。やっぱり……人間は最高だな!
「講習に歴史の説明は必要だったんだが……これはパスしていいな。恐らくお前のほうが詳しいだろう」
そう言ってブライアンは一部の教材を片付けた。なんでちょっと寂しそうなんだよ。もしかして楽しみにしてた? ごめんね……。
「さて、次は現代におけるシンクロ技術の話だ」
キュッキュッ……キュッ!
ホワイトボードに書き込まれてゆく。
「競技シーンだけではなく、犯罪者への尋問等にもシンクロは活用されている。その扱いは異能、訓練によって発達する能力扱いで、スキル扱いではないのだが……理由は解るか?」
「む、その話は父から聞いたことがあるぞ。人権団体が死ぬほど煩いという話ではなかったか?」
「正解だ。スキル扱いにすると人間がモンスターと同じになってしまうからな。人権、区別、差別、様々な理由からスキルではなく異能、シンクロ技術という別枠扱いにされるようになった」
「はえー」
それは知らなかったな。というかそんなことを心配する人もいるんだな。ひたすらSNSで騒いで手当たり次第に噛み付いていそう……。
「そういう理由もありシンクロ技術は人類の進化の可能性だと言われている。実際、シンクロを習得するまで行った人の多くは他のものよりも高い生理耐性や耐久度、或いは超直感能力、思考クロックの加速等の技術の習得に成功している」
「人類は戦闘してもレベルアップ出来ないけど、別段完全に影響がない……って訳でもないんだよね。ゆっくり、少しずつだけど成長してる……グランドマスターが先へと進んだように、ですね」
「あぁ」
当たり前の話だが……ここらへんの基本知識とか、本来であればシンクロを学ぶ前に知るべき部分だった。でもここら辺、ジジイはほんと一切説明もなく必須やぞ! で教えてきたからな。
ほんとあのジジイ……!
世界で1番豪華な講師を迎えたシンクロ講習は歴史や現代のシンクロの扱いの話を交えながら進んで行く……。