基本的な知識の話をして、これまで知る事のなかったシンクロ技術の背景関連を学習する。本来であれば技術そのものを学ぶ前に叩き込まなくてはならないパートを遅れて学習する。それを理解したらいよいよ重要な部分の話になって来る。
即ち、シンクロの習得と継承。
「Mr.カラスバ、君はゴウゾウからシンクロを学んだと言ったな。学んだ、とは具体的にどうなんだ?」
「どう、と言われても―――」
あの時はどうだったっけ? かなり昔の事だしだいぶ記憶が怪しいな……。確かジジイがモンスターを連れて家に来て……それを相手にシンクロしたから、それをそのままコピーしてやったんだっけ? だから俺のシンクロって基本的にジジイと同じやり方なんだよね。
それを説明すると成程、とブライアンが声を零す。では、と言葉が続けられる。
「今の君のやり方はゴウゾウと同じなんだな?」
「そうだよ?」
「つまり君と同じくゴウゾウは
「そだよ」
だからジジイをコピーしたって話してるじゃん。それをブライアンに告げるとブライアンは悩む様に腕を組み、それから考え込む。ジジイのシンクロ技術を真似してやってるという話を聞いてからブライアンが悩む様な様子を見せているが、何故かちょっと解らない。もしかして何かおかしいのかもしれない。
いや、もしかしなくてもおかしいのかもしれない。考えてみれば俺の指示、シンクロ技術は全てジジイからコピーして構築したものだ。基準が世界最強のグランドマスターたる男のものなんだ、根本的に技術ツリーが違うのかもしれない。
「Mr.カラスバ、前に戦ったMr.マスクはこの状態だったな?」
「アレは俺と灯―――えーと、妹ですね。妹と一緒に仮面マンの頭に死の摂理を叩き込んで生存本能を刺激して無理矢理に脳を覚醒させるって乱暴なやり方なんで。ただ使ってない脳味噌の部分を100%活用出来たり、覚醒状態に入れるからスペック自体は凄く上がるんで」
《全能者の憂鬱》を仮面マンが習得出来たのも覚醒状態に入ったのが理由だ。ただし脳のドーピングにも等しい行為なので試合が終わって数日程仮面マンはアホ状態に突入して普通の生活にさえ苦労するハメになった。
とはいえ、1度でも覚醒状態を経験した以上、次からは自分の力で低度の覚醒状態に入れるかもしれない。こういうのに必要なのは経験だし。仮面マンもこの先更に伸びる事だろう。
うーん、人類、もっと強くなってくれ。
今の戦闘力じゃロストエデンどころか根の国で深淵の大母すら倒せないぞ。
「先に、普通のシンクロの仕方を話そう」
「よろしくお願いします」
メモとペンを取り出す。出来る生徒なのでしっかりと必要なメモは記録しておくのだ。
「まずシンクロとは一方通行のものではない。双方の合意があり、初めて成立するものだ。人間、そしてモンスターは思考や脳構造が違う生物だ。それに意識を委ね、干渉するというのは脳のバグを引き起こすものだ。だから普通は出来ない」
だからこそシンクロするのは危険だと言われている。人間はスペック的にモンスターに劣る。生物として見るのであればモンスターの方が人間よりも上位の存在なのだ。そのモンスターが人間に従うのは館長がセーフティとしてそういう風にシステムを組んだからだ。
それでもモンスターの方が生物として上位で、普通意識の接続なんて行えば人間の意識が一方的に焼き殺されるのは当然の結果でしかない。
「だからこの技術で重要なのはモンスターへの理解、そしてモンスターそのものから理解される事だ。これは当然表面的なステータスや能力の話ではない。性格、癖、趣味、人格、趣向……そういう心や思考回路の話だ。相手をどれだけ理解してるか、それに同意できるか、それに合わせられるか」
ホワイトボードに水面が描かれ、そこに船の絵が浮かべられる。
「モンスター達の形に俺達人間が合わせる。モンスターという大海を泳ぐ魚になるんだ。モンスター達の意識や構造は荒れ狂う海の様なもので、俺達人間はそこに浮かぼうとする小舟でしかない。シンクロの肝は俺達がモンスターの意識に同調し、スキルとして干渉する事にある」
根本的に人間はモンスターの下位存在だ。だからモンスターが合わせるのではなく、人間が合わせる。そして合わせた後で人間が持つ干渉力……ダンジョンの出現とモンスターの登場で得た異能力、それがマスタースキルという干渉になる。
つまり、シンクロの根本部分は人間がモンスターに合わせる事にある。自分の波長や意識をモンスター相手にチューニングする事で外付けブースターのように活躍する。それがマスタースキルの正体なのだろう。
「話を聞いているとゴーゾーやミコトのやり方は異端のように聞こえるが」
「異端どころか人間のやり方ではない」
「にんげんのやりかたじゃない」
ちょっと落ち込んだら久遠にぽんぽんと背中を叩かれた。そうだよね、ジジイが悪いんだよね。全部ジジイが悪いんだ。おのれ柊剛三! またしてもお前が悪い!
「そもそも無念無想に人間がそう簡単に至れる訳がないだろう」
「それは……まあ……そうなんですが……」
何も否定できない。
「それに、己を無にするとはどうするんだ? どうやって指示を出したり、思考するんだ? 考えた時点で破綻しないか、それは?」
「うーん、どう説明するかなぁ」
腕を組んで表現を少しだけ考えてみる。他人に無念無想の領域に入ったまま動くのをどうやるのか、説明するのは感覚的な話なのでちょっと難しい。
「そう……ですね、人形みたいな状態に近いです」
「人形?」
「はい。自分の体を人形にするんです。自分自身を空の器にして……意識を肉体から追い出すんです。そして外付けした意志で空になった肉体を操縦する……肉体が持つ感情や動きは全て意志と切り離されたものなので、何をどう動かしても決して本心ではなく、設定されたもの。そういう風に肉体を動かすんです」
空の器になるからあらゆる意志を、意識を肉体に収められる、繋げられる。どのような干渉があっても虚無のまま受け流せる、干渉される。
「モンスターの意志が荒ぶる海で、人の意志が小舟だというのなら、船を無くせばいいんです。そうすれば転覆する事も、砕ける事もなくなるんですから」
「それをゴウゾウから学んだのか……」
それが俺の学んだシンクロのやり方だったのだが、ブライアンの話を聞いている感じ、正規の手段ではなかったようだ。いや、焦点はそこじゃないのか。
「今まで欠片も興味がないから考えて来なかったけど―――ジジイをベースに今の俺のシンクロ技術があるんだから、少なくともジジイは同じ事が出来る筈なんだよな……」
ジジイ、やっぱ世界最強の看板には偽りがなかった。掘り下げれば超人エピソードが出て来る辺り、本当に凄い人だった事が伝わって来る。本当に、どうしてああなってしまったのか……それだけが嘆かわしい所だ。
それさえ無ければ純粋に尊敬できる人物で終わってたのに。
「……まあ、表舞台から消えた人間の事を考えるのはここまでにしよう。今日はシンクロ能力の肝を教える為に来た。その代わりで良いから空いた時間にモンスターやバトルの話をしないか? この前歌唱構築がまだ未完成という面白い話をしてたな」
「あ、その事ですか? 全然良いですよ。グランドマスターには正直今よりもっと強くなって貰いたいですし、強くなって貰わないとこの先現れる強敵に勝てなさそうですし」
「ほーう」
ロストエデンにいる堕天使とか大天使とか単純に強いのもそうだが、現状根の国の大ボスはまだ未討伐だし、図書館も“口”の討伐報告はアレ以来ない。つまりまだそこまで行けるレベルに人類が到達してないという事だ。
困る。
何が困るってコレ、俺が死んだら詰みなのだ。最悪の場合、俺が死ぬ事も十分あり得る。死にに行くのとは別に、何らかのガバで死ぬ事は十分あり得るのだから。
例えば急にボケカス神が難易度上げまぁーーーす!
とかした場合俺達は潔く死ぬしかないのだ。もう十分に難易度高いんですよ?
或いはゴーストライターが唐突に取材しに来ましたー! でも死ぬし。
パラレルミラーが尊くん! 君のバッドエンドIFを作成しに来たよ! 食らえ! 久遠が死んだ世界線の俺! とか召喚されたら間違いなく世界滅ぶだろうし。
インスペクターくんがこっちに注視し始めたら攻略手段が手元にはないのでこの世からじゃあの……するしかないだろう。
今、この世界は数多く存在する超越者共が今はまだその時ではない……という舐めプをしているから成立している凪の時代なのだ。少なくとも俺以外にも現役で数人、奴らに対抗できる戦力は絶対に必要なのだ。
東吾やマスター仮面もそういう意味じゃ将来性に凄い期待している。
国戦力とか、バランスとか、そういう事言っている場合ではないのだ。
お前ら、早く強くなれ! という話なのだ。
戦力のラインを越えられるならロストエデンにも直行したいのだが……今のグランドマスターではルシフェリアの試練を突破出来ずに死ぬだけだろう。日本勢には申し訳ないけどグランドマスターは今、一番期待できる戦力なのでこっそり強化しておきたい。
……まあ、タイミング的に今こっそり強化パッチを当てた所で実行する事は出来ないだろうが。
育成にしろ、再育成にしろ、それを達成するには1年以上の時間が必要となる。マスターズ・チャンピオンシップが目前に控えている今、再育成している余裕がグランドマスターにはないだろう。ここで優勝して、グラマス3期目に突入すれば晴れて永世GM入りだ。
もうスコアを気にする必要はなくなるから多少は育成する余裕も出て来るだろう……その時に期待だな。
「さて、まずは俺のやり方を覚えて貰う前に世間一般の普通のやり方を覚えて貰う……準備は良いな?」
「よろしくおねがいしまっす」
ぺこり、とグランドマスターの指導に頭を下げる。教卓の下から取り出した普通のゼリィを教卓の上に乗せて、普通のシンクロ習得の為に教授を受ける。
改めて今、世界で一番豪華な授業受けてるんだなぁ……。