ゼリィを使ってブライアンが普通のシンクロのやり方を教えてくれたのでそれをそっくりそのままコピーする。基本的に普段のやり方と比べればとても簡単なので苦労する事もない。当然1発で成功する。
「成功したか……話には聞いていたがとんでもない適応力だな。これならもう頭のオーバーヒートで苦しむ事はないだろう。更に万全を取るなら精神的なリミッターをかけて、一定以上の負荷を脳に掛けないようにする事を意識した方が良い」
「リミッター……」
精神にリミッターをかける、というのはかなり難しい話だ、一度壊してしまった壁はもう元に戻らない。だから危険なラインを認知し、その手前で止まるように意識しなければならない。だがそれ自体が難しい話だ……或いは壁を壊す事よりも。
「グランドマスターもリミッターを設けてるんですか?」
「あぁ、俺とサンディ……サンダーバードのシンクロは特殊だからな。意図的に色んな部分でリミッターによる制限を設けて必要以上に負荷をかけないように調整してる。フルオープンでシンクロするだけが技術じゃない、という事だ」
今までの自分のやり方は完全に相手を受け入れて自分の容量いっぱいに満たし、同調するやり方だった。確かにそれだと自分の容量いっぱいまで埋めちゃうから脳の限界にタッチしやすいのか。やっぱ知識不足って怖いなぁ。
「しかしこのパートだけでも覚えるのに本来なら数年はかかるんだがな……良くもまぁ、一瞬で覚えられるもんだ」
「そうなんですか?」
「花火師の奴とか山籠もりした結果1年もせずに習得してきた気がするが」
アイツなんか山の中で仙人に出会ってロジジャマ教えて貰ったとか言ってたよな……? やっぱ習得ルートとして異端なんだろうな、アレ。
「別段褒める事でもないが、やはり精神のタガが外れている奴程習得は早い。結局のところ、シンクロを習得する上で最も壁となるものは己とは違う意志に触れる事への恐怖だ。イカレてる奴程そういう恐怖を乗り越え、そしてあっさりと限界を迎える」
「限界を迎える?」
「シンクロの本質は相互理解だ―――一方的に受け入れ、乗り越える事だけでは奥義の最奥には辿り着けない。受け入れるだけでは相手を理解する事には至らない。相互理解というのは相手も此方に合わせる必要がある」
「その極みみたいなもんがグランドマスターのアレですか」
「そうだ」
グランドマスター式のシンクロとマスタースキル、目撃したからどういう原理かは理解している。だがアレをまねるのは俺には難しいだろう。通常のシンクロならともかく、モンスターと双方向から手を伸ばし合い、シンクロを構築するやり方は……俺には難しい。
モンスターの方が俺を理解出来ないだろう、という意味で、だ。相互理解は相手に自分を理解させようとするから発生するのだ。俺の様な怪物を、モンスター側でさえ理解するのは難しいだろう。一先ずこれを成果として収めておく。
この先の発展に関してはまだ先の話だ。
或いは俺が真っ当な人になれたら、そのチャンスもあるかもしれない。だけどその前にやらなくてはならない事が多くある。
「これで無事に戦えるようになったな、ミコト」
「ほんとにね。ここ最近ランクマの勝率落としちゃってるし、そろそろ巻き返さないといけないって思ってたんだよね」
来年の6月にB認定戦を受けるつもりで今は予定を組んでいる為、それまでに出場ラインを越えなくてはならない。流石にCからBへの昇格は壁が厚いのか、今の俺でもまだまだポイントが足りない。交流戦の貢献でかなり稼がせて貰ったが、それでもまだ足りない。
こうなってくると手当たり次第に大会に片っ端から出て荒らしまわる以外選択肢がないかもしれない。
最近レイド組がやってる事だし……俺が便乗しても別に問題ないよね!
「さて、今回の講習は一旦これで切り上げるか。本題が終わった所で前回話せなかった構築の話を―――」
ウッキウッキの様子でブライアンが教卓を越えて此方へと近寄って来ようとすると、勢い良く教室の扉が開いた。
ばん! という音と共に扉を開けて現れたのはマスター仮面の姿だった。
「アレ、国木田じゃん」
「国木田じゃないぞ、マスター仮面だ。いや、今はそれ処じゃない! GMブライアン! 何をして―――逃げるなッッ!」
「ふっ、どうやら今回はここまでの様だな……アディオスッ!」
教室の窓から外へと飛び出したブライアンはそのまま空に待機させていたサンダーバードに自分を回収させて、音速で逃亡した。その姿を窓までマスター仮面が追うも、もう追いつけない距離にいるのを悟ったらち、と舌打ちを零してから追うのを諦める。
「グランドマスターめ……!」
「なんかあったの?」
振り返って来た。
「尊くん! 久遠くん! あの男は別に頼んだ講師ではない」
「えっ」
「なんと」
「こっちに政府経由で仕事をねじ込んで動きを鈍らせたら勝手に国境を越えて来ただけの仕事泥棒だ!」
マスター仮面がスマホを取り出すとなんかアメリカ政府に連絡し、そのままシュタッ、と片手を上げて挨拶してダッシュで教室を去って行く。あの動きを見てる限りあのグランドマスター、マジで無断で俺の講師に飛び込んで来たんだなぁ……というのが伝わって来る。
構築の話をする前に帰っちゃってちょっと残念。
次回は牧場に直接来てほしい。お茶でも出すから。
ブライアンもマスター仮面も去った所で平和が教室に戻って来る。もうちょっと講義が続くと思っていたのだが……まあ、変に時間が余ってしまった。今からモンスター達を呼んでバトルするのにもちょっと微妙な時間だし。
「帰るか?」
「そうだな、帰ろう」
鞄を片手に席から立ち上がると久遠がとととと、と横に並び、手を握って来る。未だに恥ずかしさを覚える俺と違って、こうやって振舞う事に久遠は躊躇しないどころか周りに見せつける様な態度さえ取って来る。
意外というかそうでもないというか……久遠は割と独占欲が強いタイプらしい。正式に付き合うようになってからは余計に距離が短くなったような気もする。
「あ、尊くーん、久遠ちゃーん」
「あ、七海」
教室を出てロビーまで出てくると、ロビー周辺の売店に集まる何時メンの姿に七海の姿があった。こういう姿を見るのが慣れているのか、七海はこういう所で揶揄ってくる様な事はしない。逆に花火師は割と悔しそうにしている。
「鴉羽ァ……お前より強い俺が、何故ェ……!」
「キャラが濃いからじゃないかなぁ」
「……」
率直に答えると花火師が無言になって腕を組み、悩む様に俯いた。それから数秒かけて天井を見上げると、視線を戻してくる。
「……そんなにかァ?」
「逆になんでキャラが濃くないと思ったの?」
「自覚しろよイロモノ」
「一般人は無理でしょ」
「そうかァ……」
この花火、今日はちょっと湿気ってるな。
「なんかあったのか?」
「いや、俺もそろそろ高校が見えてるからよォ……こう、周りが少しずつ浮ついてるというか……夏休み上がりって変化とかあるよなァ? 何時の間にかカップルが出来てたり。夏は俺も山に籠って仙人探し回ったり修行してるのによォ、帰ってきたら日焼けしてるカップルの姿見ると方向性これで本当に良いのか? って悩む所があってよォ……」
「思ってたよりも割とガチ目のお悩み相談来たな」
「なんだなんだ、花火師お前恋の悩みか? 思春期だねぇ!」
「恋の相談ってよりは方向性の悩みだろ。イメチェンとかは諦めろよ、駆間中の人間は駆間高でもエンカウントするんだからな。ここから出て行かない限りイメチェンなんて昔のイメージ引っ張り出されて終わりだよ」
「高校デビューで性転換した奴は流石言う事が違うな」
「だろ?」
わっはっはっはと笑う男子の事を皆が二度見してからそういうのもあるんだ……みたいな空気が流れる。まあ、でも確かに進級までもう半年もない事を考えると中学3年生は高校生活の事を考え始める時期かもしれない。
俺も来年からは中3なんだなぁ、と思うと良くもまあ、こんな長生き出来たなぁ、と思える。
あ、そうだ。
「総理が協会のトップと殴り合って話を通したから、来月辺りから《根の国》《幻想図書館》《暗黒樹海》の流通を駆間の協会公式ストアか協会加盟店での取り扱い開始するから。完全に最新環境って訳じゃないけど、フィールドは環境に合わせられる筈だよ」
「ありがてぇ!」
「助かる!」
「それを待ってたんだよ!」
「やったぁ! 樹海コントロールしたかったんだぁ」
後ついでに言えばペドロが弟子を育ててるので、そのうち出来上がった弟子を駆間のモンスター協会支部に置こうと思っている。こっそり配置すれば国にもバレないだろ……支部長? ジジイの権力で黙らせればええねん。
これで駆間環境は完全に最新環境にアップグレードされる……!
デフレ環境でバトルしてるとデフレ環境に慣れて良くないんだよね。本来の戦い方が錆び付くとか、動きを忘れてしまうとか……久しぶりに遊んだ高難易度ゲームが全くできなくなっているのと同じ理屈なんだよね。
じゃあどう改善するんだ、という話をすると結局自分で環境を塗り替えるしかないんだよね。
まずは駆間だ……駆間の環境を最新までアップデートする。
そして次は日本国内でも環境を……いや、知識をアップデートする。
その方法は勿論―――ゲームでだ!