最強以外ありえない   作:てんぞー

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シェイナの章

 急展開……という訳でもなく、1か月もあれば覚悟を決めるには十分な時間だった……という話なだけだ。正直アレをもう1度直視する覚悟があるという時点でだいぶ勇気あるな……という感想が出て来る。ただ、確認しなくてはならない。

 

「本気か?」

 

「はい」

 

 俺の質問に目を伏せてシェイナが答える。

 

「目を閉じれば未だに血に染まった王都の景色が思い出せます。むせかえる血の臭い……聞こえてくる笑い声……何時も通りの父の姿……全てが異常で、思い出すたびに震えが走ります。もう……思い出したくない。意識を得てからずっとそう思っていました」

 

 耐えがたい苦痛が人にはある。

 

 シェイナにとってはこれがそうであり、そしてどうしてそうであるのかを……白紙の物語を開けば、同じ読者が直ぐにでもそれを知る事になるだろう。そしてこれは同時に、どうして邪神という存在が一切許されないのかを示す物語でもある。

 

「マスター……叶う事なら二度と見たくはない景色でした。ですが……私が己である限り、この悪夢もまた永遠に付きまとうのだと理解しました。向き合わなくてはならない……事なのですね」

 

 ゲームでは、ただのイベントだったが、ここでは1人の人生の結末でもある。それをこうやって突きつける様になるのは……なんというか、趣味が悪いと言えるかもしれない。

 

「すまん」

 

「いえ……必要な事だと解りますし、私が逃げていたというのも事実です。こうして二度目の生をこのような形で与えられた事には意味があるのでしょう……なら私も、逃げてばかりではいられない」

 

 強がっている部分はあるように感じる。その証拠に昔を思い出すシェイナの手は少しだけ震えている様に見える。

 

「急かすつもりはないよ。本当に心の準備が出来たら―――」

 

「いえ、いいえ……そうやって後回しにしていたら一生それに甘えてしまいます。怖くても、怖いからこそ向き合わないとならないのです。もう十分時間は頂きました。これからの主の未来を守る為にも……私の果たすべき役割を果たさせてください」

 

 ヘヴィだ。

 

 気分が、思いが。

 

 図書館でちょっとほんわかしてきて戻ってきたらこれだからテンションの落差でそのまま風邪を引きそうだ。とはいえ、回避できる問題でもない。来年、6月に認定戦で勝利出来ればBランクになってモンスターの更新が入る。

 

 今のうちにシェイナの章を終わらせて次の準備に入りたくないか? って聞かれたらまあまあしたいです……って答える事になるが。それとこれはまた別の話だ。

 

「未来も大事だけど、お前も大事だからな」

 

「ならば猶更です。今、心が萎える前に。挑戦したいんです」

 

 ただ……その……とシェイナが言葉を続ける。

 

「出来るなら2人きりがよろしいと言いますか……!」

 

「は? 今2人きりって言いました?」

 

「うおっ」

 

「っ!?」

 

 無からフラメアが現れた。本当に無から現れたぞこの女。隠れてたのか? それとも次元超えて現れた? どっちにしろ今マジでビクッとしたぞ。

 

 シンクロを制限するようになってから感知能力落ちた……というか周りへの知覚を緩めたせいでこういうびっくりが普通に通るようになっちゃったんだよね……。

 

「フラメア」

 

「解りますよ、ヒロイン面したいですもんね。私もヒロインのターンが欲しいです。ですが2人きりというのは少しやり過ぎじゃありませんか? 義理を通すべき相手がいるのではありませんか?」

 

「そうですね……久遠様に許可を頂いてきますね」

 

「こいつ……!」

 

 フラメアとシェイナ、実はこの2人結構仲がいいよね。ウチのパーティーの貴重な人間女子枠だし色々と見てないところで交流があるのかも?

 

 まあ、心温まる2人絡みはともかく。

 

「心の内を見られたくないという気持ちは解る。解った、2人だけで物語を進めよう」

 

「ありがとうございます」

 

「そんなぁ……! 専用イベントとかズルいですよ……!」

 

 お前はシリーズ通したイベントみたいなもんやろ。そもそも最終世代までずっと最強のままなんだから選出率も高いんだから我慢してくれ。

 

 という訳で。

 

 シェイナと2人きりで白紙の物語を進めることにする。

 

 場所は邪魔が入らないように自分の部屋まで戻る事にした。そこで白紙の物語を取り出し、正面にシェイナを配置して、ベッドに腰掛けた。

 

「さて、久しぶりだし改めておさらい……というか説明するな」

 

「お願いします」

 

 発動前に簡単な説明。

 

 白紙の物語は過去改変装置の一種だ。これは無念とバッドエンドの塊であり、希望ある未来へと物語を導く効果を持つ一冊の本だ。

 

 物語を触媒としてバッドエンドを迎えた世界の誰かを呼び出し、その人物の悲劇を物語として投影する。そして投影された物語に小さな変化を与えることで、未来へと続く希望を残す事ができる。

 

 小さな過去改変を繰り返す事で大きな未来へと繋ぐ、それが白紙の物語の力だ。

 

「だけど……俺の想像を超えて今はこの本が力を持ってる」

 

「想像を超えて……ですか?」

 

「あぁ、本来であればパペッターの登場はこの物語の後で、やつが出てくる前に中小型の雑魚邪神が世界であちこち出現するはずだからね」

 

 所謂エンカウントエネミー強化である。段階的に雑魚が強化されるのが進むが、この中に雑魚型の邪神も存在する。パペッターとかの前にこいつらが世界各地で問題を起こしてるはずなのだ。

 

 なのだが……先にパペッター殺しちゃった。

 

 本来であれば死ぬべき者ではない者が死んでいる。つまりパペッターの討伐は不可能ではない事が希望として物語に記録されてしまっている。

 

 奴が生み出した悲劇は多い。奴が滅ぼした国や営みは本当に多い。奴の討伐が証明され、その因果が覆せるなら……大きな力に、希望に変わるだろう。

 

 だが忘れちゃならない。そもそもアイツ、死ぬことなく世界の終末乗り切って次元城に引き籠もってたの。

 

 簡単に殺せるなら苦労しねぇんだよ!!!!

 

「はあ……はあ……そういう事で、本来とは違う仕様というか……バグが発生している可能性もある。それだけ注意してね。始まったら俺は干渉出来ないし」

 

「解りました」

 

 グッと拳を握るシェイナは中々のやる気を見せている。これなら大丈夫かもしれない。

 

 シェイナの準備が整っているのを確認したらいよいよ白紙の物語を手に、イベントを進める。

 

 膝に本を置いて開く。物語を始めると同時に光が溢れ出し、周囲を飲み込み、景色を変えた。

 

「ーーーかつて、山に囲まれた美しい国が存在した」

 

 争いとは無縁、賢き王に統治され、民に愛され、そして平穏の中でゆっくりと時が流れてゆくそんな王国が存在した。

 

 シェイナはそんな国に生まれた3人兄妹の末っ子だった。一国の姫として生まれながらも政略の道具として見られることもなく、王や兄から己の道を選び進めると良い、そう言われていた。

 

 そんな家族の事をシェイナは愛していた。

 

 彼女は家族だけではなく国そのものも愛していた。

 

 城下に出て、己の足で歩き、通り行く人々と交流するのは何時しか彼女の日課となっていた。

 

 肉屋の前を通れば肉屋のおじさんが笑いながら声かけてくる。

 

「姫様! 今日は良い鹿肉が入りました! 後でお城に送ります!」

 

 通りを歩けば警備の兵士達が微笑みながら敬礼する。

 

「姫様、あまり父君を困らせないようにしてくださいよ? まったく……私達の見える範囲にいてくださいよー!」

 

 公園に向かえば子供達がシェイナの手を引っ張る。

 

「姫様やっと来た! 早く遊ぼうよ!」

 

 日常に変化なんてものはなく、それでも平和で穏やかな時間を彼女は愛していた。外の世は戦乱、終末も訪れておりいずれはこの地も災厄に見舞われるかもしれない。

 

 それでも民達と一緒に向き合い、立ち向かう。その先にきっと未来はあるから。誰もがそう信じていた。

 

『無論無論無論無論無論! 無論それは幻想! そんな事ありえません! あり得ない! こんな悲劇だらけの時代に一箇所だけハッピーな場所があるなんて不公平です! 皆平等に不幸になりませんか? ……あ、はい、これ吾輩の脚本です』

 

『アドリブ入れても?』

 

『どうぞどうぞ』

 

 絶望の糸が垂らされた。

 

 愉悦が始まる。

 

 朝、城下に出る。それはもはやシェイナにとっては日課だった。通りの肉屋が話しかけてくる。

 

「姫様! 良い肉が手に入りましたよ! 後で城に届けますね!」

 

 そう言って店主は妻を解体した。笑顔のまま妻を解体し、その肉をショーウィンドウに飾る。本日のセール品。

 

「おはようございます姫様、今日も平和そのものですね」

 

 兵士達は決められたルーティンを繰り返している。既に彼らの運命は決まり、逃れられない。

 

「姫様! 今日は玉蹴りしようぜ!」

 

「馬鹿!姫様のスカートじゃ無理だろ!」

 

 子供達は今日も楽しそうに駆け回る。明日のことなんて解らないように、この瞬間が彼らのすべてだった。

 

 翌日。

 

「姫様! 良いニクが手に入りましたよ! 後で届けますよ!」

 

 そう言って笑顔で肉屋の店主は息子を解体していた。売りきった妻のカネで買った新しい包丁で皆に見せつけるように解体した。

 

「本日異常なし! 正しく平和ですね! こんな毎日が続けば良いのに……」

 

 そう言って兵士は同僚を近くの酒場の壁に吊るした。頭に刺さった槍が既にそれが死んでいることを証明していた。だがそれが見えないのか理解出来ないのか、兵士はインテリアを飾るように同僚を飾った。

 

「なんか最近ハンナのやつこないな?」

 

「後で見舞いに行くか」

 

 子供達は今日も元気いっぱい! 遊ぶ事こそ彼らの本分。たとえ残された時間が少なくても彼らは最後まで子供であり続けるだろう。

 

 日常を歩いているシェイナが普段通りの反応しか出来なくなっているように。

 

「姫様! 見てください! 自慢の肉です!」

 

 肉屋は3日目には己の解体ショーを披露していた。自分の腕に笑顔でブッチャーナイフを振り下ろす。激痛は笑い声として処理される。ひたすら大笑いしながら死ぬまで自分を解体し、ショーウィンドウに並べる。

 

「異常なし!」

 

 その言葉と共に守るべき市民を殺した。トロフィーの様に殺した市民を壁に吊るした。大通りが流血で赤く染まり、血の川が流れる。大量虐殺による死臭が城下どころか国中から流れる。

 

「えい!」

 

「やあ!」

 

 蹴り転がすのはボールではなく、人であったもの。それが見舞いしに行った人物だという事実は語るべくもなく。

 

 何時も通りの様に平和な日常。

 

 日課の散歩を終わらせた従者や騎士達の死体で満ちる城内を抜けて、玉座までやってきた。そこでは玉座に座る王の姿があって、剣がその手に握られていた。

 

「しぇ、シェイナ、た、助け」

 

 そこまで言論の自由を許され、王は剣を胸に突き刺し、シェイナの前で自殺した。にこにこ、笑顔は何時も通り。誰もが大好きなお姫様。

 

 その心は絶望と怒りに震えていた。

 

 シェイナは正気だった。

 

 否、全ての民が正気だった。

 

 掌握は最高クラスの洗脳術だ。肉体の限界を超えて駆動させることなんて容易い。意識を自由自在に切り替え、新たな人格を生み出すことも出来る。

 

 だがパペッターが気に入っているのは意識を残すことだ。

 

 肉体も、反応も、全て操り、本当の意識はその裏からその全てを眺める事しか出来ない。

 

 ーーーただし、狂う事を許さない。

 

 全てを見て、全てを感じて、全てを実行してもなお、パペッターが狂うなと命じて糸を振るえば人形達は絶対に狂う事が出来ない。

 

 肉屋が妻と息子を解体する間も。

 

 兵士が民を殺して飾る時も。

 

 子供達が友人で玉遊びを始めた時も。

 

 誰1人として、狂うことを許されず、正気のまま肉体を操作する事が許されずにいた。

 

 そして今、シェイナの糸は切られた。

 

『ーーー! おぇっ、ぇぇっ』

 

 どれだけ吐いても食べてしまった肉屋の妻と息子はもう消化が終わっている。吐き出せない。それでも傍観以外何も出来なかった絶望感と気持ち悪さがシェイナに嘔吐させる。

 

『おぇっ、ど、どうして、どうして……!?』

 

 疑問。至極当然の言葉に邪神はこう答えるだろう。

 

『適当に選んだ』

 

『誰でも良かった』

 

『美しい素材ならそれで良いだろう』

 

『そんな感じ』

 

 邪神達の答えを知る事もないシェイナはしばらく吐き気と格闘するも、世界が彼女に休む時間を与えない。

 

『おはようシェイナ』

 

『お兄……様……? なんですか……それは……?』

 

 玉座の間の入り口に立つのは彼女の敬愛する兄だった。ゆくゆくは王座を継ぎ、父の後に国を治めるであろう器の人物は脊髄ごと引き抜かれた次兄の頭を握っていた。

 

『やだなぁ、ウィリアムだよ。そろそろ乗馬の時間だ、厩に行かないと』

 

 生きている限り、その存在が凌辱される。それを悟ったシェイナには泣き喚く時間などなかった。

 

 近くに飾られていたハルバードを手に。

 

 それを兄に振り下ろした。

 

 刃が頭に食い込み命を奪う瞬間、その表情は安らぐようだった。

 

 ハルバードを振り切ったシェイナが絶叫する―――だがもはや止めようがなかった。唯一正気の人物として。これ以上民の、国の、その尊厳が穢されないように。誰かがその命に終焉を与える必要があった。そして今、それが可能なのは1人。

 

 シェイナだけだった。

 

 シェイナは血と臓物の溢れる玉座の間で、呪われた王冠で戴冠した。

 

 最後の姫―――女王としてハルバードを振るい、全ての民を虐殺して行く。ただ果てしない悲嘆と絶望、それだけがシェイナを満たす。目につく全てを殺して回り、命を終わらせて行く。それだけが解放する手段だと信じて。

 

 そして殺して。

 

 殺して回って。

 

 殺し続けて。

 

 血の中で戴冠した少女だけが生き残った時―――彼女は、ハルバードの刃を己の首に添えた。

 

『あぁ……申し訳ありません……』

 

 鋭い刃は一撃で彼女の首を断ち切った。

 

 最後の命が失われ、静寂だけが残された。

 

 動く者は何もなく、亡びたという結末が残され―――ない。

 

『……?』

 

 あった。

 

 意識が残った。

 

 頭と胴が別れ、頭が転がっている。なのにシェイナは瞬きしていた。死んでいない。否、死んでいるのに動いている。その困惑が脳を支配する。そして彼女は見た。視界範囲にある死体の全てがまだ動いているという事実に。

 

『素晴らしい! 実に見応えのある狂乱でした! 絶望と悲嘆の中! 自分のみが尊厳を守れると信じて! 自国の民を1人1人処刑するなんて! あぁ! この流れ! その美しさ! 絶頂してしまう! すいません、パンツの替え取ってきますね』

 

 劇作家が血と臓物の海の中で笑い、人形師が血の海を割って最後の女王に迫った。

 

『掌握は、死んでも解けない』

 

『そもそも貴女に殺して回るだけの力も体力もないでしょうに。はい! 勿論! このステージを、舞台を貴女向けに調節しましたのでね? ちょっとね? こう……ブースト! ってさせて頂きました。いやぁ、気持ち良く悲劇に酔えたでしょ? 最高にヒロインしていたではないですか』

 

 げらげらげらげら。

 

 邪悪な笑い声が命のない通りに響く。最初から最後まで、人の尊厳なんてものはこの物語にはなかった。最初の糸が垂らされた時点でこの結末は決まっていた。覆す手段は存在しない。涙すら流す事が出来なくなったシェイナの首と体が糸によって繋げられる。

 

『素晴らしい怨念と絶望だ……これなら良い素体になりそうだ』

 

『おや、どうするので?』

 

『この国の大地と血肉の全てを圧縮し、この中に詰め込む……失敗しなければこれ以上なく素晴らしいネクロドールが作れそうな予感がする』

 

『おや、大作の気配ですか? それは景気が良いですねぇ!』

 

 げらげらげらげら。

 

 死ぬ事も狂う事さえも出来ないオーディエンスがひたすら絶望的な未来を聞かされる中。

 

 犠牲者たちは何も出来ず。

 

 この物語は……ただ、その後作成に失敗し、素材も何もかも無駄になったという記録だけを残して終わる。

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