「総員指示通り動きを。流れ弾は勝手に避けるから気にしないでくれ。処理を間違える方が危ないから」
「了解しました。尊くんの指示は信用してます」
「ふん、生意気だが……妾に指示を出すというのならその程度出来なくてはな!」
「マスター、この命、この魂……貴方に預けます。たとえ何百回死ぬ事になろうとも。貴方を信じています」
スーパースターは歌うのに忙しくて喋れないが、あんこと一緒にステップを踏んで此方を応援して従ってくれている―――良し、ここから可能な限り相手の行動をループ処理に組み込む。重要なのは相手を処理する側に回らせる事だ。
相手に盤面を押し付け、支配する。受けきって、そして超火力で殴り返す。RPGの基本だ。
「ターン処理を開始する」
《スーパースター》熱唱中!
ドームツアーだって本人に無断で現在進行系で計画中!
あんこ量産計画実行中! 日本を可愛いで覆いつくせ! 《分裂》した!
あんこBは悪い奴をやっつける! 《ユニゾンアタック:ミョルニル》!
勇者人形は皆を庇った!
勇者人形は壊れた!「このまま……やるんだ!」
女帝の追撃! Over Critical! 敵全体に大ダメージ!
女帝は出番を《バトンタッチ》させた!
シェイナの《セルフサクリファイス》! シェイナは死亡した!
ラファエラはシェイナを蘇生した!
シェイナを回復した!
再行動権をあんこに付与した!
悪い奴は許さない! 《ユニゾンアタック:ミョルニル》!
魔王人形は壊れた! 英雄人形は壊れた! 聖女人形は壊れた!
凶星の破砕率……30%
パペッターは壊れない!
《工房:修復》魔王人形は復活した! 英雄人形は復活した!
《連携指示》! 魔王と英雄の剣が交差する!
光と闇が混じり合い究極の斬撃が放たれる!
《大破却:壊》! 空間を粉砕する一撃が放たれる!
シェイナは死亡した!
あんこに大ダメージ! 防御バフが破壊された!
リ・ロウに大ダメージ! 防御バフが破壊された!
ラファエラに大ダメージ! 防御バフが破壊された!
クイーンバンシーに大ダメージ! 防御バフが破壊された!
「そして俺は安置にばびゅーん」
死が視覚的に見える人間なのでそのまま安置へとダイブして次元崩壊の攻撃を回避する。ちょっと腰痛めたかもしれないなぁ、と思いながら腰を摩りつつ前転で瓦礫を回避しつつ、空間に滞留する次元の崩壊痕を見る。
次元破壊とか隕石落下とか出て来ると攻撃の終盤感凄いよな……!
「お」
余計な事を考えてたら辺りにたくさん触手生えてきた。
パペッターの《ヴォイドテンタクル》!
形を持った虚無が無作為に襲い掛かる!
Hit! ラファエラにダメージ!
Hit! ラファエラにダメージ!
Hit! リ・ロウにダメージ!
Hit! クイーンバンシーにダメージ!
Hit! クイーンバンシーにダメージ!
Hit! クイーンバンシーにダメージ!
Hit! クイーンバンシーにダメージ!
あんこは背が低くて当たらなかった!
「こっちに飛びすぎじゃありません!?」
Total7Hit!
ラファエラによる瞬間回復が挟まる! 回復した!
時の果てより現在へ、流れゆく時の定めに全てが朽ちる。
パペッターの《タイムディゾルバー》!
全体に大ダメージ!
虚無の触手乱舞でスーパースターが触手と握手会を開催した後は時による強制風化による大規模物質破壊攻撃。防御バフを破壊した後の最上級魔法の連打は簡単な即死ルートだ。何よりもバフ破壊効果は種別で言えばディスペル系統で、リセット系統とは別。
これは通る。
《ディスペル》1個でバフはモリモリ剥がされるのキツイよ。
「ふぅ……耐えられるように計算してるけど肝が冷える」
パペッターのステータスは把握している。だから耐えられるように戦闘前に防御とヒール量を計算して調整してる。とはいえ、連続で攻撃が来るのを見ると肝が冷える。
じゃ、殺るか。
《スーパースター》ライブ継続中!
もはやその歌声は戦場全てに届き鼓舞する!
王国中がそのパフォーマンスにメロメロだ!
あんこは無法を許さないぞ!
皆とチカラを合わせてドリルとなり全てを貫く!
凶星破砕率……80%! 女帝の追撃!
怒りの槌が振り下ろされる!
凶星……破壊成功! パペッターにダメージ!
ついでに女帝も追撃する!
砕け散った破片がパペッターに降り注ぐ!
ダメージ! 女帝はこれも追撃対象と言い張った!
あんこCはドリルとなって穿つ!
パペッターに大ダメージ!
女帝の追撃がパペッターを打ち据える!
《リザレクション》! シェイナは蘇った!
ラファエラは減ったHPを戻した!
再行動付与! レッツゴーあんこちゃん! 出撃!
あんこいっきまーす! パペッターに大ダメージ!
パペッターの《ディレイスペル》!
《邪神》に詠唱は不要!
パペッターは魔法戦の構えを取った!
《ムスペルヘイム》を唱えた!
《ジュデッカ》を唱えた!
《宇宙嵐》を唱えた!
魔法着弾まで……後1ターン!
シェイナの《ウィークメイカー》!
パペッターの物理耐性が低下した!
屋根の上に飛び乗って安置を探そうとするが……駄目だ、全域が死の予兆で満ちている。落ちてくるスペースデブリを回避する為に屋根から屋根へと移動しつつ連続最上級魔法から逃れる方法を考えるが、ちょっと難しい。
最上級クラスのタンクがいれば耐えられる盤面だが、交流戦に強いタンクいなかったから……。PvE想定の最上級タンク、誰も作っていなくて泣いた。いるとワンチャン系の事故が防げるのに。
マズイなぁ。こっちの耐久ラインさっきの差し込みヒールでバレたか? 東京の時とは違ってクレバーじゃん……!
「伝わるぞ人間! 貴様の焦りが! 安心するが良い……人の身でここまで邪神に本気を出させたこと、称賛してやろう……その躯は新たな人形として我がコレクションに加えよう!」
今の動きの悪辣なところは、ここで体力を削り切ったらフェーズ移行による強化が入って、そのタイミングで着弾するということだ。面倒な設置技をしてくれる。
「悪いな、女が待ってるんだ。死ねない」
もう死ぬ事を良しとする事は久遠に誓って止めたんだ。だから……お前が死ね。
どうせ攻撃以外の選択肢はない。この構築だと足を止めて守りに入ったら終わりだ。ラファエラの差し込みで間に合うことを祈って死ぬ前に殺し切るしかない。
「行け」
迷いなく指示を出す。
ぴょんと跳ねたあんこ達が合体し、巨大なドリルへと変形する。ギガァ……なんて声が聞こえそうなオーラを放つあんこドリルがパペッターの姿を3度貫き、その際に女帝が追撃を差し込む。
都合、6度のダメージが耐性低下に伴いパペッターの膨大な体力を削り切る。常時展開されているダメージカットと耐性のせいで本来よりもだいぶ硬くなっている体力を削りきれば……いよいよ、邪神の本気が見れる。
「驚愕だ」
糸が弾けた!
王国に張り巡らされていた糸が切断された!
空間がカオスに侵食される!
次元の奥に潜んだ邪神の真体が露わになる!
邪神の狂気と邪気が空間を捻じ曲げていく……!
太陽を黒く染め上げる。
天より赤い泥の涙が降り注ぐ。
邪であれ、そう望まれそう振る舞う。
冒涜の神秘。
我が名を称えよ。
「斯様な脆弱な人間が……そう、人間だ……神の祝福もなく、概念体を率いた弱者が……ここまで力を発揮し、追い詰めている……感動すら覚える……」
罅割れる空。姿が異空間の向こうから落ちてくる。東京の頃の不完全なものからは程遠い、決戦のために組み上げられた戦闘用の肉体。
人ではなく神や大英雄と戦うことを想定した決戦機。それは下半身に大量の胴体を繋げ、悍ましいと表現したくなるほどの腕と頭を繋げた異形の神だった。
パペッター、フェーズ4突入。
《次元城》の扉が開かれた!
《ゼロリセット》! 全ては無に帰るべきである!
《スーパースター》! ライブが終わったらね!
《自己改造・破》! 自身に糸を突き刺した!
パペッターが宿敵に合わせて最適化される!
攻撃力がゼロになった!
ロストした攻撃力が魔力に加算される!
ダメージカット率90(永続)!
物理耐性/無効!
属性耐性/全耐性
行動回数が増えた!
《覚醒指令》!
人形達の破滅と引き換えに生前の力を発揮する!
《人形工房》が限界を超えて稼働する!
全ての人形が復活した!
「人間への敗北は認められない。貴様らを踏みつぶし、蹂躙してこその邪神……負ける事は許されない……ここで滅びろ、人間! 勝つのは私だ!!」
「数千年後の未来でも同じ格を保てたら少しは好感が持てた……いや、やっぱ無理か。どう足掻いても相容れないわ」
だからくいくい、と指を動かし誘った。
「ターン処理を開始しよう」
感情を排除。思考リソースを管理。考える時間確保の為に思考クロック加速化。
処理開始。
混沌の《次元城》! 時は逆巻いて流れ続ける!
だがライブは時間通り開催される!
《スーパースター》の登場だ! サイリウム持った?
シェイナの《ウィークメイカー》!
パペッターの物理耐性を弱点に変える!
パペッターのーーー。
女帝が行動に割り込んだ!
《マジックブレイク》を持っていると言い張った!
Hit! パペッターにダメージ!
魔法攻撃力が1段階下がった!
パペッターは低下耐性を取得した!
ギリギリ通った……!
リ・ロウ採用最大の理由はそのアドリブ力の高さだ。俺の計算ではパペッター相手の戦闘は終盤戦にもつれ込むに連れて不利になるというものだった。
それを覆せるのは数字に出来ない力。
即ち経験と年月から得られた、システムを逸脱したリ・ロウの才覚だ。お陰で魔法ダメージの低下が入れられた。ワンチャン耐える芽が出てきた。
「その希望を砕く! 人は! 蹂躙されてこそ人なのだ!」
パペッターの行動! 《連携指示》!
勇者と聖女の力が合わさり大いなる祝福が施される!
敵全体の全ステータスが+2された!
物理チャージが付与された! 魔法チャージが付与された!
杖と剣を掲げた勇者と聖女の連携技が発動し、パペッター陣営が一瞬で上限まで強化された。《パーフェクトキャンセラー》を今の《連携指示》に打つべきだった。だけど打てなかった。
《パーフェクトキャンセラー》とマスタースキル《全能者の憂鬱》は詰めの為に用意して、温存している。
まともに戦った場合、このパーティーでは最終フェーズの発狂モードに勝てない。だからこの対策にRPGに良くある方法を取る事を予定していた。
つまり瞬間最大火力の総攻撃によるフェーズスキップだ。
この次のフェーズが最終フェーズであり、パペッターが最後の力を振り絞って来る所だ。そしてそれをまともに受けきるだけの耐久力が此方にはない。そこだけは絶対にハイエンド性能のタンクが必要になって来るが、今の環境にこの基準を満たせるタンクモンスターがいない。
少なくとも交流戦で見かけなかった以上、存在しないのだ。
だから《パーフェクトキャンセラー》による行動キャンセルで動きを止め、《全能者の憂鬱》と《ウィークメイカー》で耐性と防御を下限まで落とし、それからあんこ、女帝による最大火力の攻撃を繰り出す事で1ターンで消し飛ばす事を想定していた。
―――が、この邪神、戦闘中に此方に適応して戦術をアップデートしてきている。
自慢の《掌握》も対策、対処が可能だと判断した瞬間からピタリと発動を止めて来た。行動消費の無駄だと判断したのだろう。此方が物理耐性を高めていると察した瞬間戦術が魔法メインに変化している。倒しきれないと理解したら今を犠牲に後で勝つ手を配置する事を選んでいる。
強い。
東京でこれが出来たのなら、東京どころか日本が終わってた。そしてその場合は……引きこもってた竜王辺りが出っ張って来て、日本を国土ごと消し飛ばして終わってたかもしれない。
最終フェーズの超火力フィニッシュは勝利の為に必要な手だ。《インタラプト》を使えば恐らく妨害耐性が生えて来るから消費出来ない。現に《マジックブレイク》で低下を付与したら耐性を生やされた。
現時点で既に《全能者の憂鬱》が通るかどうかは耐性で5分にまで持ち込まれている。
ここで消費したら最終フェーズが対応できなくなる。同じことはキャンセラーでも言える。疑似キャンセラーを糸に打つのはまだしも、直接叩きこめば適応されてしまう。
―――手が……スペックが足りない……!
クリア後レベルのフルパなら苦戦はするもイベント救援みたいなものがなくても勝てるレベルの相手なのに、押しきれないのはやはりスペック不足が見えている。ギリギリ勝てるラインの構築を選んだはずだが、過去のパペッターが想定よりも強い。
ゲームのAIでは表現しきれない古強者としての格が、終末期にはあった。
魔王と英雄が剣を交差させるのが見えた。《大破却:壊》が来るのが解る。これで防御バフを剥がされた後に後送りされた魔法が3回、その後自由行動で2回分の魔法が発動する。このターンでの合計行動数はほぼ7回の様な物だ。
ラファエラの差し込みヒールはターン当たりの使用回数が決まっている。
つまりこの対応力を超える火力にはヒール回数が追い付かない。
マスタースキルか、キャンセラーか。
高まる破壊のエネルギーを前に、どちらを切るのか選ばされる。どちらを選んでも最終フェーズで詰む。
この状況で選ぶべきは―――。