最強以外ありえない   作:てんぞー

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リーサルだ

 思考クロックの加速。

 

 これにより数秒の猶予が数十秒まで加速する。

 

 魔王と英雄人形が腕に力を込めている―――発射まで数秒の時間を稼ぐ為、傀儡に抗っている。

 

 発想は自由であるべきだ。

 

 ゲームの内枠で発想を囚われるべきではない。もっと自由に……キャンバスの外に絵を描くべきである。そういう意味では酒クズ対老軍人の交流戦が最も参考になった。アレが最も足りていない考え方だというのが解った。

 

 一番の塩試合だったのは事実だ。だけど一番参考になった。ああいう考え方が足りない。

 

 だから思案し、巡らせ、見て、聞いて、感じて……そして見つけた。

 

 タイミング的に挟み込めるスキルは1個だけ。声に出すのも労力が必要だ。今、ここで発動させればギリギリ間に合う。だからターゲットを捉え、そして指示するように腕を前に出し、シンクロで視界と意志を繋げて指示を出す。

 

「リ・ロウ―――《デコイ》」

 

「良く言った。満点だ……!」

 

 下した指示に即座に女帝が反応し、実行する。この女は答えに気づいてたのだろうが、それを口にする事はなかった。試しているのか、或いは信頼しているのかは把握出来ないが、結論から言えばそうする事を期待していたのだろう。

 

 そして期待に応えた―――リ・ロウは素早く時間に割り込んで指示を実行した。

 

 ターゲットの差し替えは単体にこそ意味のあるスキルだ。《デコイ》でケア出来るのは単体攻撃。範囲を薙ぎ払う攻撃に意味はない。《掌握》の誘導用に採用された《デコイ》はパペッターが対策されている事を理解してからは使用する事がなかった。

 

 故に魔王と英雄の合体攻撃が向かう先、どこへと向かうのか。対象を差し替えた所で目の前の脅威に意味はないのではないか、と思考するだろう。

 

 だが気づく。

 

 この戦場にいるのは俺達だけではない。

 

「―――お待たせしました、民達の避難と誘導に時間を取りましたがこれで助けになれます……!」

 

 ぐるん、と魔王と英雄の視線がパペッターの背後に展開された騎士団へと向けられた。既に彼らは布陣を終えていた。布陣を終え、戦闘準備を整えるも、彼らは決して戦闘に参加しようとは思わなかった。

 

 システマチックに構築された戦術に急な人員を差し込むのは悪手だと理解しているからだ。戦いにはリズムやプランが存在する。特に集団戦ともなると特定のパターンを構築する事が多い。この時、異なる集団が混ざり合うと容易に反発する。

 

 だから騎士の一団は戦闘準備を整えても参戦する事は出来ずにいた。

 

 だが今、彼らは役割を与えられた。

 

 向けられた必殺の合体剣―――それが此方とは反対側へと振り下ろされた。

 

 《大破却:壊》! 究極の破壊が次元を砕く!

 王国騎士団に大ダメージ! 防御バフが破壊された!

 王国騎士団は攻撃に耐えた!

 

「―――有象無象を上手く利用したかっ! なら耐えてみよ!」

 

 時を超えて魔法が着弾する!

 汝世界を焼き尽くす怒りの世界! 《ムスペルヘイム》!

 全体にダメージ! 火傷が付与された!

 魂さえも凍てつく氷牢……罪を背負うが良い! 《ジュデッカ》!

 全体にダメージ! 凍傷が付与された!

 人は未知を歩み恐怖に辿り着かん! 宙の悲鳴を味わえ! 《宇宙嵐》!

 全体にダメージ! 麻痺が付与された!

 《邪神》が詠唱を握りつぶし魔法を発動させる!

 合体魔法のシステム解析……失敗!

 館長の組み上げたシステムが邪神を拒絶する!

 人を呪うも己を呪うも全ては世の定め……闇に溺れるが良い! 《カオスタイド》!

 全体にダメージ! 呪いが付与された!

 天より落とされる光……神の怒りを体現せよ! 《ラストクルセイド》!

 全体にダメージ! 忘却が付与された!

 「デバフ解除はお早めに」

 神官の《クリアオール》! バステが全て解除された!

 「はい、解除」

 付与術師の《ディスペル》! 強化効果を解除した!

 「ここからは我々も戦闘に参加します!」

 騎士団は追撃と防御の構えを取った!

 邪神は《掌握》の構えを取った!

 騎士団は領域外に下がった!

 神官は領域外に逃げた!

 付与術師は領域外に逃げた!

 

「人間……!」

 

 間違いなく勝てる流れだった。だがそれを崩された。パペッターの声の中にはそれに対する怒りが見える。無論、《掌握》に反応して応戦出来るレベルにはない彼らは《掌握》の構えを取られたら逃げる以外の選択肢がない。

 

 だが《掌握》がないタイミングであれば、介入できる。それが理解された。

 

 だったら《掌握》を使って彼らを追い出すか?

 

 否―――もはやそうしてるだけの余裕がない事を、パペッターは十分悟っていた。明確に自分が追い詰められている事を、目の前にいる矮小な人間こそが自分の天敵である事を理解していた。故にもう1度、かの邪悪は声に出して大気を震わせる。

 

「人間ッッ……!」

 

「鴉羽尊ってんだ。人間、じゃなくてそっちで覚えてくれ」

 

 首を掻っ切るようにジェスチャーを取り、攻撃を命じた。

 

 女帝は息を整え極限まで集中力を高めた! 《無我》

 クリティカルダメージ+100%!

 あんこAはドリルとなって不条理を貫く!

 Over Critical! 女帝が追撃する! Over Critical!

 あんこBはドリルとなって立ち塞がる敵を許さない!

 Over Critical! 女帝が追撃する! Over Critical!

 あんこCはちょっと遅れてドリルになった!

 Over Critical! 女帝が追撃する! Over Critical!

 パペッターの体力を削り切った!

 

 瞬間火力が叩き込まれパペッターの体力が吹き飛ぶ。段々とパペッター側の耐久力が増えているせいで必要な火力ラインが上がっている。ついでに女帝が手番消費のクリダメを積まないと火力が足りないレベルになってきた。

 

 ボス戦においてあらゆるフェーズをワンパンで突破するのが理想だ。今回は強化上限突破と歌唱による永続加算でバフをモリモリに盛る事で火力のラインを上げ続けている。だがこれですらギリギリの追いかけっこになっている。

 

 そして今、3発目のドリルと女帝の掌底がパペッターの巨体を粉砕した。それにより、最終フェーズに到達する。王国のシンボルたる王城よりも巨大な邪神が吹き飛び、城に衝突しながら全身から黒い液体を垂れ流している。

 

 血に触れた個所から大地が腐食し、二度と使えない土地へと変貌して行く。

 

 極まった呪いを液体として体の中に流す邪神は揺らぎながらもまだ朽ちない。

 

 それでもそれまで傀儡としていた全ての人形を解放した。

 

 体を構成するあらゆるマネキンの顔が割れ、そこから目が覗いて来る。赤黒い泥の涙を流す邪神の瞳は全て、俺へと向けられる。

 

「屈辱だ」

 

 邪神が呟く。

 

「人にここまで追い込まれるとは」

 

 全ての人形とのリンクが断ち切られる。解放された人形たちは全て動かなくなり、大地に倒れ伏す。長い年月酷使されてきた魔王や英雄の人形も、漸く長き傀儡の生の終焉に達する。繰り手がいなくなった人形の魂がその肉体から解放される。

 

 貴重な素材のロス。工房の破壊。そして自らを完全に理解し、対策してきた天敵の登場。状況は何もかも最悪だった。だが怒りに反し、邪神の言葉は静かだった。

 

「だが認めなくてはならない。私は今、追い込まれている……英雄でも、魔王でも、神でもなく……こんな……こんな凡庸な人が、我が死神だった事実に……」

 

 無数の腕を大きく広げると、それから糸を放ち―――全てを己の肉体に突き刺した。最高にして最上の人形、最高傑作。それはまさしくパペッター本人に他ならない。あらゆる人形を超える人形、操る本人こそが操られる人形であるという皮肉。

 

 そうして己を操らなくてはならないという屈辱が、怒りが、絶望が、パペッター最終フェーズの原動力になる。

 

「我が全てを以て貴様を滅ぼそう」

 

 パペッターは残された全ての命を解き放った!

 《自己改造・終》! パペッターが最後の改造を施す!

 全ステータスが2倍になった!

 物理耐性が無効に更新された!

 ダメージカット率が100%(永続)に更新された!

 物理接触時、対象に《掌握》を付与する!

 1度だけあらゆる致命傷に耐える!

 行動回数が増加した!

 毎ターン終了時デバフ・バステを解除する。

 《ゼロリセット》! ゼロの波動が放たれた!

 《スーパースター》の前では無駄ァ!

 

「私……ずっと踊って歌ってるけど……なんで打ち消せてるのか実は良く解かってないわ……!」

 

 放たれる《ゼロリセット》をスターのオーラで打ち消してるバンシーが踊りながらそんな事を言っている。原理が解らない? 大丈夫、俺も館長も理解してない。知りたかったらゲーム開発者の方に理屈は聞いてくれ。

 

 最終フェーズ突入。咆哮する邪神の波動が辺りの地形を消し飛ばし、空間をゆがめて行く。そのオーラだけで星が悲鳴を上げる。放たれる悪意と邪のオーラが生命を強制的に致命的なレベルにまでネガティブな感情を想起させる。

 

 耐性のない者はそのオーラに充てられるだけで死ぬ。

 

 ある者でさえ怒り、憎しみ、絶望、そういった負の感情が増幅させられ、まともな感情での相対を許さない。その存在感だけで星が削れて行く。とてもじゃないが人間の相手する様な怪物ではない。本気の邪神ともなれば惑星破壊クラスの力を発揮できるだろう。

 

 だからこそこいつらは本気を出す前に、一方的にハメて殺す必要があった。

 

 こんな風に相対するのは下の下だ。だが―――シェイナの為にやる必要があった。

 

 だからやる。

 

 良し。

 

「準備は良いな、パペッター」

 

「カラスバ……ミコトォ……!」

 

 親指で首を掻っ切る。

 

「ラストターンの処理を開始する」

 

 《次元城》の理が空間を歪ませる!

 パペッターは空間に干渉して理を無視した!

 パペッターの―――。

 《パーフェクトキャンセラー》! 女帝が動きを封じる!

 女帝は《後送り》パペッターの動きを後送りした!

 《全能者の憂鬱》がパペッターを貫く!

 パペッターは抵抗した!

 いいや、それは許さない。

 精神判定……勝利!

 パペッターの全ステータスが2段階下がった!

 

「ォ―――」

 

 憂鬱を押し通す為に一瞬だけパペッターとの精神判定による押し合いが発生する。干渉、どす黒い感情が流れ込んでくるのをかき分けて飲み干し、無我の精神性で受け流し……差し込んだ。際どいラインだったが、女帝とのコンボが決まった。

 

 これでパペッターの行動は後回しになる。防御も下限された。最大火力を通す為の準備は整った。もう俺がやる事はなくなった。

 

「リーサルだ」

 

 《スーパースター》のライブもいよいよフィナーレ!

 最後のバフを配布中! グッズも残りわずか! 今すぐストアへ!

 シェイナの《ウィークメイカー》!

 パペッターの物理耐性が弱点に更新された!

 あんこABCは《ウォールパス》を起動させた!

 次の攻撃にダメージカット貫通効果を獲得する!

 あんこCの《ゼリィポカリプス》! 命と引き換えに極限の破壊を巻き起こす!

 パペッターに絶大なダメージ! あんこCは死亡した!

 あんこBの《ゼリィポカリプス》! 命と引き換えに極限の破壊を巻き起こす!

 パペッターに絶大なダメージ! あんこBは死亡した!

 あんこAの《ゼリィポカリプス》! 命と引き換えに極限の破壊を巻き起こす!

 パペッターに絶大なダメージ! あんこAは死亡した!

 ラファエラの《リザレクション》! あんこは蘇った!

 リ・ロウの《ギフトパス》! 自分のバフをあんこに譲った!

 ラファエラは即時回復であんこを回復した! 再行動権付与!

 あんこは最後の戦いを挑んだ! 《ゼリィポカリプス》!

 命を限界まで輝かせて極限の破壊を巻き起こす!

 パペッターに絶大なダメージ! パペッターは食いしばった!

 

 あんこの分身達が限界まで輝きを見せると一直線にパペッターへと突撃し、衝突と同時に爆発した。ゼリィ専用自爆系超高火力スキル、それにダメージカットに対する貫通効果を乗せて叩き込んだ。自爆系はデメリットが存在する代わりに火力がイカレたレベルに達する。

 

 同時にこれは対裏ボス等では高頻度で採用されるスキルだ。特に終盤のフェーズを飛ばす時はバフを盛ってから叩き込めば、それだけで楽に戦闘を終わらせられる。

 

 だからあんこで4連射した。全てのバフを乗せ、温存したリソースをつぎ込み、全てを吐き出して叩き込んだ。

 

 それでもなお、パペッターは食いしばって耐えた。恥辱に耐えながら連撃を、必殺を、自分を完全に解析した攻撃の嵐に耐え抜いた。自爆故に《掌握》は対象を取れず不発に終わる。だが攻撃をしのぎ切ったのだ。

 

「勝っ―――」

 

 耐えきった。そう判断しようとして、真っすぐと睨んで来る女帝の姿を見た。

 

「おや、妾の事を忘れたのか? 妾はこれほどまでに貴様の事を忘れられずにいたのに」

 

 リ・ロウの追撃!

 女帝のティアラを投げつけた!

 パペッターに1ダメージ!

 パペッターは死亡した!

 

「お」

 

 飛んで来るティアラが見えた。

 

「おお」

 

 既に自分が限界を迎えている事実にパペッターは気づいた。

 

「おおお―――」

 

 後石ころ1つぶつかれば決壊する。それが解っていた。だから回復魔法を唱えたい。回復して傷を癒し、ここから逆転する。そう動きたいのに、動けずにいた。飛んで来る帝国の女帝として残された、最後の証がパペッターへと飛んできている。

 

 通常であればぶつけられた所で痛くも痒くもないだろう。

 

 だが今は無理だ。

 

 この接触でさえ致命傷になる。避けろ。避けさせてくれ。

 

 そう懇願する邪神の意志が無数の瞳に浮かんだ。

 

 だから言ってやった。

 

「リーサルだ」

 

 こつん、小さな衝撃、僅かな音が響いて―――パペッターの肉体は決壊した。

 

「おおおおぉぉぉぉぉぉ―――!」

 

 震えながら肉体が崩壊する。糸が、腕が、頭が、これまで時間をかけて何千何万という命を啜り上げた肉体が崩壊する。何かを口にしようとして、その口が何を告げる前に崩壊する。限界を迎えた邪神の肉体は冗談のように脆く崩れて行く。

 

 もはやその崩壊は止められず、悪あがきするだけの力もない。

 

 ただ濁った空に悲鳴だけを響かせて……一片の木片さえ残さず、全てが塵となって崩壊し、消滅する。

 

 そうして青空が戻り、ぼろぼろの城と城下町が残された。

 

「グッドゲームパぺ太。今度こそ二度と会わない事を祈ってるよ」

 

 溜息と共に勝利を称える鬨の声が空に轟く。

 

 亡びる筈だった王国の運命は今、明確に変わった。

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