最強以外ありえない   作:てんぞー

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シェイナの章、完結

「はあー……疲れた」

 

 流石に高難易度のボス戦は体も脳味噌も疲れる。指示を出している間もずっと余波を回避する事意識しなきゃいけないし。周りに気を配らないといけないし。ダメージ計算しなきゃいけないしで処理する情報が多すぎる。

 

 だけど……まあ……なんとかなった。何とかなって本当に良かった。このカロリー消費量で最終フェーズまでやってやり直しよー、ってなったらちょっと立ち直れないと思う。いや、無理でしょ2回目とか。

 

 今回は結構運が上ブレしたし……。

 

「ふぅー」

 

 瓦礫に腰を下ろす。パペッターが死亡した事で青空が戻っている。辺りは破壊の痕跡が凄いものの、この時代ではよく見る光景だ。既に復興作業が始まっている。

 

 何とか倒せたパペッターだが、懸念点は幾つかある。

 

 アレは本当に本体だったのか? もしかして保険にスペアボディを用意してないか? ギリギリで逃げられてないか? ……とか。

 

 だけど今ばかりはそういう事を考えるのは止めよう。純粋に疲れたし、この達成感を味わいたい。じゃあな、パペッター。ギミックボスにはない強さを味わえたぜ。

 

「お疲れ様です、尊くん」

 

「お疲れ様、もう喉ががらがらよぉー……」

 

「うむ、大義であった」

 

「ん? おー、お疲れ様」

 

 空を見上げながらぼーっとしているとラファエラ達がやって来た。ぴょんこぴょんこ跳ねるあんこはぴょん、と跳ねると俺の頭の上に着地してきたぷるぷると自信げに体を震わせている。

 

 どうやら勝利の雄叫びを上げているつもりらしい。可愛いね。あんこ見てると仮面マンの女子とちびっ子人気が高いのはなんとなく解るよね。

 

「皆もお疲れ様ー、いきなりの招集で激戦になったけど最後まで指示に従って戦ってくれてありがとう。死やHPまでリソース管理で消費するやり方って反感を買いやすいって言うしちょっと覚悟してたんだけど」

 

「パペッターの命の前では些事ですよ」

 

「うんうん、パペッターの命の前では些事よね」

 

「奴の首が取れるのなら命等安いものだ」

 

 ヘイト稼ぎ過ぎじゃねえかアイツ? 皆の気持ちも解るけど。改変前のあの景色を世界のあっちこっちで作ってるんだからまあ……殺さなきゃってなるよね。

 

「というか女帝様はええんか? 最後に投げてたの自分の国の王権でしょ?」

 

 既に滅びた帝国が良い国だったとは腐っても言えないが、それでもリ・ロウはその国土と成長の為に心血を注いだ。彼女が持つティアラはモンスターとして持ち出せる唯一の証の筈だが。

 

 俺の言葉にリ・ロウは良い、と応える。

 

「良い夢であった。妾の国は弱肉強食を尊び、滅んだ。故に、此度は良き夢を見られた。後悔がないと言えば嘘になるが……それでもケジメは付けられた。妾はこれで満足よ」

 

 女帝がそう言うのなら俺にこれ以上言う事はなにもない。

 

 ぷるぷる揺れるあんこを頭の上から膝の上へ移し、視線を正面に向ける。

 

 少し先には騎士団や民達に囲まれるシェイナの姿があった。

 

 何度も悪夢に見ただろう、国の滅びを。呪っただろう、あの邪悪を。苦しんだろうに、あの結末に。それでも今、過去はIFに突入した。ここは俺も知らない結末だ。

 

 とはいえ、生きている間の人生というのは大体そんなもんだ。この件を励みに頑張って欲しい。マジで。未来はこの先にも大量のボスを残してる。

 

 ではここで構築ネタバラシ。

 

 まずはクイーンバンシー。歌唱でバフを撒くだけの生き物。終わり。これ以上言うことはなにもない。追記するなら歌唱バフは枠を取りやすくて過剰になるからPvPだと手札がバレやすく、ディスペ一枚で剥がされやすい。

 

 《ディストーション》くん、永遠に大人気です。対戦で単体攻撃+ディスペ効果を持つこの魔法が絶対に消えない理由でもある。

 

 ラファエラ。シェイナを殺して蘇生して再行動であんこを射出するレールガン。残りのスキル枠は即時ヒールモリモリで大ダメをカバーするようになっていた。

 

 即時ヒールは再利用出来てもターン当たりの回数が決まってるので、それを超える連撃が来ると死ぬから緻密な計算を要求される。今回は突破されかけた。アレは肝が冷えました。

 

 あんこ。戦略兵器。ゼリィの姿をした戦神。ボスNPC専用モンスターは伊達じゃない。どうしてプレイアブルが許されなかったかの答え。そりゃあ許されるわけ無いだろ。無印からいたんだぞこいつ。馬鹿だろ。何食ったらこんなの出来るんだよ。

 

 女帝。恐らく一番複雑かつゲームの仕様とリアルの仕様を混ぜ込んで作られたハイブリッドモンスター。俺は正直お前の事を理解しきれてない。やっぱ疑似キャンセラーはおかしいよ。

 

 中継ぎ+追撃+サポートというなんか気持ちの悪いマルチロールを妾は天才だし? で実現してしまう天才。保有してるスキルはシナジー薄めだけど必要なものはスキル外から引っ張ってくるとか自己申告してくるから搭載する必要はなし。

 

 お前……気持ち悪いよ……。

 

 途中で《掌握》を無効化してるのもそうだが、ちょくちょく持ってないスキルを引っ張ってきては活躍してた。こいつがいなきゃ全体的に火力足りなくてキツかった。ちなみに仕様上追加ダメージの固定ダメージ枠はカットの対象外である。

 

 つまり最後の投げティアラって1の固定ダメ攻撃……ってこと!? やっぱお前の事良く解らないや……。

 

 解らないから考えるの止めよう。普通に疲れた。ちょっと家に帰って元気補充したいなぁ、とか思ってるとシェイナがこっちに走ってきた。元気いっぱいな姿に片手を上げて労おうとすると。

 

「マスター!」

 

「おぉっと」

 

 そのまま此方に飛び込んできた。着ている鎧はボロボロ、その下のドレスもボロボロ、この中で一番死んで生き返って酷使された張本人だったが、シェイナにはこれまでにない気力に満ちていた。

 

「マスター! マスター! マスター!」

 

「はいはい、聞こえてるよ」

 

 嬉しそうに、楽しそうに、漸く迎えた夜明けを喜ぶようにシェイナは抱きつくと胸に顔を押し付けて、精一杯の声を絞り出す。

 

「こうあれば良かったのに、こうなってたらどんなに素晴らしい事だったのか……そう思ってたことが今、ここにあるんです……! マスター、マスター……マスター……!」

 

 よしよし、と背中を撫でて苦笑する。

 

「普段は物静かだけど……本当はもっと賑やかな娘だったんだね」

 

 見た悪夢が濃すぎて。背負った絶望が重すぎて。心は沈んでいた。失うのが怖くて、関わるのが怖くて、でも今度こそ守りたくて。

 

 それで選んだのがあのストーカーみたいな態度で。それを乗り越えて今、シェイナの物語はゴールに辿り着いた。

 

 これはありえないIFだ。

 

 本来の白紙の物語にこんな力はないし、そもそもパペッターと戦うだけの力もこの時期にはない。それでも成し遂げた。運命を明確に捻じ曲げた。

 

 そしてその祝福された未来の中にシェイナは辿り着いた。

 

 おめでとう。心からの祝福を。

 

 あらゆる物語はハッピーエンドで終わるべきだから。

 

 これは誰かに教えてもらった事ではなく、鴉羽尊が心の底からそう思っている事である。

 

 だからシェイナの背を優しく撫でて、それから頭を撫でた。

 

「良く頑張ったね」

 

「はい……はい、私……ずっと、辛かった……目を閉じれば悲鳴も笑い声も、殺した感触も全部蘇って来るんです。忘れられた日なんてなかった! ずっと私の一部としてそこにあったんです……!」

 

 泣きながら笑い、これまで溜め込んだものを吐き出すように。シェイナの言葉は堰を切ったように溢れ出していた。だけどそれ以上に涙が出てきて、それが嗚咽に変わって言葉がなくなる。

 

 だから俺も余計なことを言わずにただ優しく抱きしめて背中を撫でて、その苦痛を癒やし、労う。

 

 もうシェイナがこの事で苦しむことはないだろう。

 

「マスター……未だに自分の見ている景色が信じられません……これは本当なのでしょうか? 私達がこの時代から帰ったらその瞬間に全て消えてしまわないのでしょうか?」

 

「どうだろう、確かな事はちょっと言えないかな」

 

 今回の戦闘、何とか勝つことは出来たとはいえ、毎度これを要求されると正直キツイ。特にインスペクターだけは止めて欲しい。戦闘難易度のカス度ナンバーワンは間違いなくネガコスモスなのだが、単純なギミックボスとしてインスペクターもカスofカスだ。二度と相手したくないランキングに入って来る。

 

 ……そんな事を要求してきた白紙の物語だが、明らかにパワーアップしているのが解る。これが一体どこに向かうのかは解らない。

 

 だけど。

 

「白紙の物語によって起こされる改変は()()()()()()()という風に履行される。過去を改変したように見えて、最初からその歴史を歩んでいるように思える。そういう風に動いている……筈……なんだけど」

 

「ですけれど……?」

 

「今回に限っては俺の理解と力を超えている。ここから出た瞬間歴史が塗り替えられる可能性だってある。だから気休めになる事は何も言えない。けど信じて良いんじゃないかな。少なくともあそこにいる人たちは偽物に見えないでしょ」

 

 顔を上げたシェイナが振り返ると、そこには守り抜いた王国の民達の姿と、ぼろぼろになってもまだ立つ騎士や冒険者たちの姿があった。

 

 崩壊した城下町の復興に既に入る姿は偽物には見えない程エネルギッシュで、生きている。それを見てシェイナはもう一度、声を出して泣き出し始める。

 

 それに合わせ、白紙の物語がゆっくりと光りを放ち始める。時間だ。そろそろ自分たちの時代に戻らなくてはならない。

 

 ゆっくりと俺達の姿が時代から弾き出されて行く中で、足を、作業を止めた人たちは背筋を伸ばし、敬礼を取り、最上の礼を尽くした。

 

「―――名も知らぬ英雄よ、貴方の助力と勇気に最大の敬意を。ありがとう……!」

 

 これにてシェイナの章、完結。

 

 ……アーティの章は少し雑だったし、これで許してもらえるかな?

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