戻って来たぜ! 我が家によぉ!
早速始まるぜ! 質問攻めが! 来いよ! 覚悟はしてるぜ! 今夜はオールナイトか? 引っ付いてるシェイナは何かって? フラメアが裏切者って顔をしてる? イーリュがボコられたパペッターを羨ましそうに見てた? 何でも良い! かかって来い、今ちょっとハイ入ってるぞ!
とかいう気分で戻って来たのに。
「……」
「……」
「……」
大人3人は腕を組んだまま黙り込んでた。何かもっとレシピの話とか、戦闘内容とかに関して話を聞かされるかと思ってたのに、なんか黙って考え込む様な表情をしているのでちょっと……というかかなり意外だった。普段だったら凄い勢いで突っ込んでくる筈だが。
「どうした? 調子悪い?」
「いや、そういう訳ではない」
「素晴らしい勝負だった。お前の一手一手を確認したがアレ以上のものを考えられなかった。素晴らしいタクティクスに構築、知識……そしてガッツだ。リーサルに持ち込む流れ含めて全部計算済みだったのも純粋な驚きの塊だった」
「……」
だが浮かない表情をしている。何かが純粋に結果を楽しむ事を阻害している。引っ付いて来るフラメアを押し出してチビの口の中に突っ込みながらどうしたんだろうと首を傾げていると、マスター仮面が話の核心に入った。
「グランドマスター、貴方はアレに勝てるか?」
「無論、全力で勝とう―――と言いたいところだが、現実としてアレが脅威としてステイツに現れた場合、恐らく俺は勝てないだろうし、負けた後で《掌握》されてそのままアメリカを滅ぼす事になるだろうな」
「君もそう思うか。私も何をどう考えても確実に負けるイメージしかなかった。今手持ちのモンスターで最善策を選んだとしても勝てない。根本的なパワーが足りていないのが解る」
まあ、あんこは今回勝つ為に調整を施しましたからねぇ。白紙の物語から出て来た影響で借りて来たモンスターは全員元のステータスに戻ってしまった。ちょっと残念だなぁ、と思う反面完全なバランスブレイカーばかりだったのでしゃーないという気持ちもある。
インフレというのは個人ではなく環境全体で行うから意味があるのだ。個人のインフレはただのクソゲーだ。だけどそうか、国防的観点から先ほどの戦いを見てたのかこの人たち。
世界のトップランカーは同時に国防の要だ。とんでもない邪悪に対して打つ手がない、負けるという事実を認めた場合……それは国家としての敗北としても意味をする。パペッターなんて核兵器ぶち込んだ所で土地が枯れるだけで大したダメージないだろうしな。
この手の化け物にはモンスターをぶつけるしかない。
だけどマスター仮面やグランドマスターで勝てないと認めたら……それはアメリカや日本という国そのものが邪神に敗北するという意味でもある。
だから見つけた直後最速で殺す必要があったんですよね!
ね! 東京を黄泉に落とす程度で勝てるなら安いもんでしょ? アノ時の俺の判断は絶対に間違ってないって迷いなく言える―――あ、そうだ、過去改変した結果アレどうなったんだろう? パペッターが生き残ったままの歴史なのか? それとも死亡前提で歴史が進んでるのか?
コレ次第で白紙の物語がパラレルを生む形で改変してるのか否か解って来る。
「なんでぇ、大人の世界に入りやがって。ちょっと疎外感」
「すまないな」
「お前は凄い事をしたよ。それは本当だ」
「あぁ、最高のバトルだった」
そう言って代わる代わる頭を撫でられた。ふん、ちょろい大人共め、俺が少し可愛い顔をすれば構ってくれるとは雑魚が。……まあ、冗談はここまでにしておくか。
「だから言ったろ。今の人類弱すぎるって」
「お前の視点は上位存在すぎるんだよ!! もう少し人類の視点で語れ! ……まあ、尊の言いたいことは理解してるし、同意する。人類はもっと強くならないとならない。俺達はーーー」
東吾はそこで言葉を区切り、それから悔しそうに続けた。
「奴らの慈悲で存続してる」
この3人の中で唯一、東吾だけが世界の破滅を見た。あの絶望的な力を持つ全能の神に。彼女が指をスナップすれば、その瞬間この宇宙は滅ぶ。それだけのスケールを持つ生物だ。
「国益も大事だが……俺は前々から各国が協力して危機に対処する為のチームや機関を設立すべきだと思ってた。無論、世界全体のインフレもな」
「国連と平和維持部隊がそれを許すとは思えないがな」
「まあ……そうだな」
男達はそれでしばし黙り込む間、上機嫌で引っ付くシェイナとフラメア相手に俺は格闘し続ける。引っ付き虫が2倍になったよ! チビ! 助けてチビ! こんな姿久遠に見られたくない! チビ……チビ? なんでジリジリ近寄ってくるんですか? これそういうゲームじゃありませんよ?
「……やる事が出来たな。すまない、今日は帰らせてもらう」
「俺も大統領に掛け合って来るか。これがまだ世界の裏側に何体もいて糸を引いてるなら対策が必要だ」
そう言うとマスター仮面とグランドマスターはモンスターを連れて帰って行った。これからバトルの話出来るのかなぁ、と思ってたら帰って行くもんだから拍子抜けしちゃった。チビに押し潰されながら見上げると東吾も帰り支度していた。
「どうやら世界のヤバさを2人が実感出来るようになったみたいだな、今後は一層忙しくなりそうだ」
「とはいえ、強くなるには再合体と育成が必要だから何年もかかるよ」
「ロストエデンだったか? に育成期間を短縮する施設があるんだろ?」
「アレはロストエデン最奥にいるラスボスを倒す前提だし、半ギミックボス化してるとはいえ難易度的にはパペ太フェーズ3から4ぐらいの難易度はあるよ」
「……今の人類で勝てるかどうか怪しいな」
「数の暴力に頼ってもいいけど……ルー様がそんな勝ち方でこちらを認めるとは思えないし、素直にくんふーを上げて殴る事を覚えた方がいいよ」
しかし女体化してないルシファー探す方が難しい時代になりましたね……!
「それは時間がかかりそうだ」
はお、と溜息を吐いた東吾にラファエラが寄り添う。
「それじゃ、俺も帰るよ。何時までも居るとまたお前の母親に睨まれそうだからな」
「母さんにジジイと同じ枠に入れられてる節があるからな……」
「とてもつらい」
母さん、そもそもモンスターマスター自体にあんまいい感情ないからな。この間だって絶対に久遠を裏切ったり捨てたり逃げたりしちゃ駄目だよって念押しされてるし。
ジジイはこの件に関して今でも謝る必要があると思う。母さんのトラウマになってんぞオイ。
「ま、暫くは大人しくしてろ。大義とか……人類全体の事とか忘れて、普通の子供らしく過ごせ。こういう面倒なのは俺達大人が向き合うべき所だ……じゃあな」
そう言って東吾も帰って行った。このままバトル話する気満々だっただけにみんな帰ってしまってちょっと寂しいな。後今チビの重みで骨が折れたのはパペッター戦よりもデカい負傷だぞ。回復魔法で治る範囲だけどな。
牧場に転がる潰れたカエルみたいに死んでるララを見てアレがこれから俺の辿る未来かー、なんて思ったりして暫く下敷きになるのを楽しんでから良し、と顔を上げる。
女帝がまだいた。
「アレ、帰らないの」
「ここは過ごしやすいように良く環境が整備されておる……図書館にも通じてる。妾は気に入った。しばらくは此方で過ごさせて貰おう」
流石にそれはどうかと思います……!
せめてマルコ氏の許可は取ろうよ! ねぇ! 流石にそれは良くないんじゃないかなぁ!? 別居中の夫婦みたいなアクション良くないと思いますよ!!
「ふむ……妾に相応しい住まいが必要だな。建てるか」
安全第一のヘルメットを取り出すと図書館の方へと女帝は消えて行った。暫くすると暇な従僕共を連れて、そこそこ離れて景観の良さそうな所で工事を開始し始めた。
もはやフリーダムの化身。俺には止められなかったよ。
設計、指揮女帝。費用マルコ持ち。その無法さプライスレス。
こういう人だから終末期に世界征服とかし始めたんだなぁ、と妙に納得してしまった。
にょろにょろとチビの下から這い出て辻ヒールを受ける。駆間全域には辻ヒール協会の人間が新鮮な犠牲者を求めて徘徊しており、死と暴力が濃いエリアを感知するとそこに居座って傷付いた人間をヒールし始めるのだ。
勿論、不法侵入なので通報する。
不審者のお陰で傷が治ったので早速物語で変化したところを確認する。と言っても、結局やるのはニュースの確認だけだ。
パペッターが過去で死んでる扱いになるのなら、あの大会の出来事が大きく変わることになる。あの時の出来事の変化、それを探せば簡単に解る。
「よっこいしょ。東京黄泉、東京黄泉っと……」
チビをごろん、とさせてそのお腹をクッション代わりに背中を預けてスマホを弄る。あぁ! 激戦のせいで画面にヒビが入ってる!!
買い替えかなぁ……と思いつつ検索する。
が、出ない。ない。あの日、東京が黄泉に落ちた出来事が無くなってる。
あの日の乱痴気騒ぎがなかった事になってる。電話をかける。
「もしもし、アンナ?」
『はいはい、私よ。私に連絡するなんて珍しいじゃない。今直ぐ切りたいんだけど』
「お前の婚約者って脳内でお前を凌辱するイメージを浮かべる純愛派ロリコン王子だけど覚えてる?」
『殺すぞ』
電話を切られた。そっかぁ、純愛ロリコン宣言は消えてなかったんだね!
過去改変しても消えねぇロリコン宣言ってなんだよ。人類史に刻まれたカレーうどんのシミかよ。こえーよ! なんでパペッターに抗って歴史変わってもここだけ変わらねぇんだよ! どういう仕組みになってんだよ! 教えてくれよ神様!!
『知りたい?』
「すいません、今のは俺が悪かったから反応しないで」
もう二度と冗談でも神頼み出来ないなこれ……。
そう思いながら改変された未来が確定し、自分の国が救われた事実に感極まったシェイナが飛びつくのをフラメアが悪質タックルで阻止した。
この勢いこそが鴉羽ファームの日常だよな……そう思いながら現実逃避する為に寝る事にした。