Dランクでのランクマは毎日3勝すれば大体3000円になる。
日給3000円と考えるとかなり安いが、学生からするとそれなりの額だ。なにせ、10連勝すれば1万円だ。そして週末大会にもしっかりと賞金が出てくる。規模によって賞金はまちまちだが、優勝で大体5万ぐらいになる。
つまり40連勝もすれば4万円。週末大会に数回出場しているから10万は稼いでると考えて良い。この10万は子供には大金なのか? って話をすると実はそうでもない。モンスターは育成、維持、遠征だけでも凄い金がかかる。ペットを育てるのとはまるで違うコストがかかる。
第一、スキルカード1枚に数万かかる世の中だ。小さなアイテムの値段がまるで違う。
ゲーム内では数千円で取引されていた物が十数万とかにまでインフレしている。
だから四国への遠征は事前準備の費用だけでこれまでの稼ぎが全部吹っ飛んだ。
荒地でも問題なく走れる厚底のブーツ、破れにくく丈夫なズボンとジャケット、目を保護する為のゴーグル、安全に触れつつ手の動きを阻害しない手袋……この手の装備品を揃えるだけでもそれなりの金を使う。それこそモンスターからとれる素材を使っているところもある為、値段は結構する。
本当ならこれ以外にも遠征費用などの細かい出費もあった筈なのだ。ダンジョン内で安全に休む為のキャンプキット、モンスター避け、保存食―――その手の知識はそもそもダンジョンの構造を完全に把握している自分だから何も問題がない。
遠征にかかる移動費もミストドラゴンで解決できる。これで諸々の経費はカットが出来る。
そして最後に最大の難関、ダンジョン内のトラップに関する問題。
これも、モンスター博士を犠牲に捧げる事で解決した。
用意した100匹のモンスターをひたすら事故るように祈って合体し続けた。正確には血統内をある程度整えた純血統を構築し、それで合体事故を起こす事。そうする事で特殊なモンスターラッキーラビットが生まれる。
戦闘力が極めて低い代わりに、高い置物性能を持つモンスターだ。
つまり探索スキルを大量に習得できる、高難易度ダンジョン探索必須のモンスターと言える存在だ。固定ダンジョン内に出現する罠は位置がランダムで、入る度に変化する。その為この手のトラップサーチ用のモンスターがいなければ、漢探知で切り抜ける必要が出て来るのだ。
これまでのランダムダンジョン? ミストブレスが全てを滅ぼした。ミストブレスだ、ミストブレスは全てを解決する。入口から全力のブレスで奥にいるボスをぶっ殺す。無法とはまさにこのことだ。
そういう訳で財布の重みとモンスター博士を生贄に、準備は整った。
ミストドラゴンの背を借りて、あまりスピードを出さないように注意して1時間。それでも僅か1時間という時間で四国まで飛んで行った。
そこに黄泉平坂というダンジョンは存在する。
「ここがあのモンスターのハウスね」
「アレ絶対法定速度ぶっちぎってたっすよマスター。途中で白バイの兄ちゃんたち凄い形相でしたって!!」
ミストドラゴンの背から頭に星模様を持つ白いウサギのモンスター、ラッキーラビットと共に飛び降りて着地する。ミストドラゴンから降りてくるのは俺とラッキーラビットのララの1人と1匹だけだ。ここには久遠の姿はないし、他のモンスターもいない。レベル差がありすぎてどうせワンパンで死ぬからだ。
無論、ワンパンで死ぬのは俺も変わらない。ララもワンパンで死ぬ。だから死ぬときは先にララを盾にしてからだ。
四国に根付く黄泉平坂というダンジョンは死霊系、アンデッド系モンスターの聖地とも呼べる場所だ。1歩入り込めばその瞬間から出現するモンスターは生に属さないものばかり。その手のモンスターを集めたいのであれば、絶好の固定ダンジョンとなっている。
―――固定ダンジョン。
それは不定期に出現するランダムダンジョンとは違い、その地に固定され、消える事のないダンジョンの事だ。既に手垢だらけになるほど攻略されていても、まだ人は新たな出会いと発見を求めてこの呪われた地にやって来る。
湧き出すアンデッド。
生を呪う死者たち。
咲き乱れる彼岸花の海。
朽ちた鳥居、設定された聖域―――そして大量の行商人や屋台。
「いらっしゃいらっしゃい! 黄泉饅頭だよ! 食べれば一瞬であの世行き! 楽に逝けると評判の饅頭だよー!」
「ゴーストランタンレンタル中! これがあれば特殊な暗闇エリアの中でもちゃんと見られるよ!」
「ガイドー! ガイドはいらんかねー! 3層までのガイドを受けるよー!」
雰囲気を吹き飛ばす勢いで観光地化されていた。少し離れた所を見るとホテルまである。火照る・ザ・あの世ってなんだよ。ここで泊れば明日には亡者の仲間入り!? は中々攻めたキャッチコピーだと思う。オーナー狂ってるんか?
「マスター! マスター! なんか雰囲気が中々ぶち壊しなんですけど!」
「固定ダンジョンって地域に固定されているダンジョンだから、消せないんだよね。それに資源は有用だし、モンスターも偶に飛び出て来る。じゃあ周辺に人を置くよね? 快適にするよね? 人が集まるよね? そうすると自然とまあ……」
入り口を見るとゴーストが数体うろうろと出てきた瞬間に待機していたマスターたちによって囲まれて一瞬で
「現在1層西でレイド発生中! 臨時パーティーの参加者いるか?」
「ノ! ノ! ノ!」
「ネトゲじゃねえんだからノで反応する訳ねえだろ!! ……で、何が出来るんだ? レイド用のモンスター持ってる? バフかデバフは?」
そこそこ難易度の高いダンジョンなので、当然やって来るマスターたちも修羅だったりそうじゃなかったりするのが入り混じってる。何人かのマスターが此方を見てぼそりと鴉羽……と呟いている辺り、ルーキーをマークしている奴までいるらしい。
こわー。
「なんか案外ボクらだけで行ける気がしてきましたねぇ!」
「ははっ」
「……なんで今笑ったんすか?」
「ぐるるるぅ……」
ミストドラゴンの心配そうな唸り声に振り返る。ミストドラゴンは相変わらず本当についてこなくていいのか、という表情を浮かべて心配そうにしている。その首を撫でた。
「大丈夫大丈夫。それよりもミストさんは久遠の傍にいてくれ。アイツは駆間周辺から出られないからな」
久遠は体質の事情もある。それが原因で安全を確保できる駆間周辺以外へと移動する事が出来ない。だから今回はミストドラゴンが送迎の為だけに来ている形になる。ここで待たせるわけにもいかないから一旦帰らせる必要もあるし。
「ほら、大丈夫だって」
「ぐるぅ……」
まだ不満げながらもミストドラゴンは大人なので大人しく下がり、翼を広げると駆間へと帰って行く。それをララと眺め、見送ってから黄泉平坂へと向き直った。その入り口には鳥居が立っており、その中心に紫色の空間の亀裂がある。
それを通り抜ければ直ぐにでも辿り着く。
という訳で歩き出す。ララは相変わらずびくびくしている様子で付いてくる。必要なスキルを覚えさせるために来る前にダンジョンマラソンしてきたというのに、まだ不安らしい。まあ、戦闘力0コンビだけで隠しダンジョンに突っ込むと言えば誰だって不安になるのはそうか。
じゃあ行くか。そう思ってダンジョンに入ろうとした所で手が道を遮った。
「ちょっと待ち、そこの坊主。この先は人が多いつっても危険なダンジョンだ。見るからに第2世代ぐらいの強さだろうソイツ? 流石に戦力不足だぜ。突っ込む前に戦力を整えた方がいいぜ……それとも目当てのモンスターのスカウトか?」
横を向けば、斧を担いだ戦士のモンスターを連れたマスターが立っていた。赤い肌に頭に生えた角……ブラッドオーガウォーリアー、Bランクの重戦士型モンスターだ。かなり高い火力を持つ上に、防御力を無視出来る攻撃を持つ為、タンク殺しの異名を持つ強力なモンスターだ。
善意で止めてくれてるマスターに無言でサムズアップを向けて、そのままダンジョンへと向かう。俺のアクションにへ、と声を漏らすと驚いたのか俺を止めそこなう。
「いや、グッ、じゃなくてちょっと待て本当に危ないんだぞその先―――」
言葉が終わるのを待つまでもなく、そのままダンジョンに突っ込む。入りたくなさそうにしているララの両耳を掴んで、引きずり込むのも忘れない。
一瞬の酩酊感。それが終わる頃には薄暗い世界にたどり着いた。
「良し、来たな」
「忠告ガン無視っすね……」
「ここを一番理解しているのは俺だしぃ?」
出て来るモンスターからそのデータまで、その全てが頭の中に叩き込んである。ダンジョン外のあの人数からすると一般階層のドロップアイテムは既に回収されていてもうないだろう。となると隠しダンジョンパートの未回収アイテムをどんどん拾って行くしかない。
「これがリアル化した黄泉平坂かぁ……なんというか、ダンジョンの空気が肌に合うなぁ。故郷に戻って来たみたいな気分だ」
「それは単純にマスターの精神状態がおかしいっすよ」
黄泉平坂というダンジョンはまず入った所から広大な洞窟の様な見た目をしている。通路へと繋がるように鳥居が立ち、各所には彼岸花が咲いている。どこか物悲しく、朽ちた、薄暗い様子を見せるダンジョンだが―――暇なマスターたちの手によって照明とかが追加されていて、歩きやすくなっている。
よく見ると足元も軽く整えられている。俺の故郷を魔改造しやがって。
振り返っても追いかけてくる気配はない。忠告はしたけど入るのなら自己責任という所か。まあ、確かにそれが判断としては正しい。寧ろ忠告するだけ偉いと思う。だがこれで煩わしいものはない。モンスターを避けて進むだけだ。
「マスター、こっからどうするんすか?」
「まずは5層を目指す。そこが最初の目的地。道中で死霊系モンスターを何体か勧誘して引っかけて行く。ギミック解除の為にここで入手できるモンスターが使えるんだよね。1層だったら他のマスターに虐められてるし大人しいのばかりだと思う」
「力関係が逆転してるっすね……!」
人間怖いなぁ、とララが呟いていると、早速通路の奥の方から何かがやって来る。もうか、と思いながら説得勧誘の為に拳を構えると半透明な肉体を持つ人型のモンスターが出現してきた。ゴースト、もっともランクが低い死霊・アンデッド系モンスターの1つだ。
「ま、マスター! 来ましたよ! モンスターです! ヤバいっすよ!!」
「雑魚、お前も実はモンスターだって事実を理解してるか? はよ前に出て肉盾になれ。その間に勧誘するから。その為に回復アイテム多めに持ってきてるからな」
「じ、人権! 人権を主張するっす! 雑魚モンスターにも人権を! あ、モンスターだから人じゃないっすね。じゃあないや」
コントを楽しんでいる間にゴーストたちがやって来た。一直線までこっちにやってくるとゴーストたちは両手を合わせた。すわ、魔法攻撃か!? そう思った時にはゴーストたちは光に包まれ始めた。
「おぉ……光よ……」
「そうか……これが死の先……生の答えか……」
「ありがとう、ありがとう―――」
そのまま光の中へ、感謝しながら成仏していった。
「なんで?」
集まったゴーストたちがなんか勝手に成仏して消えたんですけど。